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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第15章 人のいない駅‬
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7 レアル村・・・リカルド

 これまで:休暇でネドル島へ観光に出かけたアリスとリカルド+シロル。ネドル島の長、ケドルの謝辞を受けるアリスを見て、引け目を隠せず卑屈にいじけるリカルドにミットの檄が飛ぶ。気を取り直したリカルドにシロルの弟子たちは立派に歓待料理を出してくれた。

 今日の俺は最低だった。何が最低ってアリスを泣かせちまったから。

 ミットさんにガツンと言われて、少しだけ覚悟ができた気がする。この人の隣に立つんなら。俺には何ができるんだと。ミットさんが言う通り、今足りないのは人だ。今作っている大きな街に人って4人しかいない。


 そこまで考えた時、俺はミットさんに頼んだんだ。

「歩くと何日もかかるから、生まれた村まで送ってくれ」


 その時は鼻でフンと笑われたんだ。

 その後トラクでシロルさんにミットさんが何か話していた。



 翌朝になってミットさんに

「この銀のボタンを耳に付けな」と言われた。


 一通り使い方を教えてくれた後、

「行くんならさっさと準備をしな」

「野良着のままでいいよ」

「バカをお言いでないよ。あんたがそんな貧相な格好で村へ帰って、誰が付いて来ると思うんだいー?」

「そうよ。行くんならお土産のひとつも持ってかなくっちゃ」

 アリスまでそんなことを言い出した。

 家族を何人か連れ帰ってそれから。くらいに考えていたんだけどなあ。


「やると決めたのはあんただけど、やる以上はガルツ商会の仕事なんだよ。ここの街長は今の所、まんまガルツ商会の支店長なんだ。わかったら昨日の服でパリッとしておいで。手土産は用意しとくよー」


 仕方なく昨日の服を着てアリスがやってくれたように髪を梳かして戻って見ると、荷車1台分の色とりどりのカップや櫛、灯りが載っていた。俺が持たされている極上のナイフも見える。


「どうだいー?よだれが出そーだろー。足りなきゃいくらでも作るよ」

「はい、リカルドさま。おまかせ下さい」


 アリスの心配そうな目を見てしまった俺は、この時本当に覚悟を決めた。

 ミットさんがニヤッとしたかと思うと、俺は荷車の持ち手を握って空中にいた。俺が耕し、世話をした畑が眼下に小さく見えた。


「で、どっちだいー?」

 声の方を見るとミットさんが浮いている。俺は南を指した。

「あっちの方です。山5つくらいだと思う」


 言った途端に景色が変わる。俺は慌てて山の間を見回した。あれか?見覚えのある屋根。

「もう少し向こうへ」


 またパッと変わる風景。あった!

「あれが俺の家です」

「ふうん。痩せた畑だねー、こっからでもわかるよー。で、どこに降りるんだい?これはあんまり人に見せたくないんだ」

 これと言うのはミットさんの転移のことだ。北の出口に人影がないのを確認して、俺はその少し奥に下ろしてもらった。


「一人で大丈夫かいー?」

「ああ。ありがとう。夕方に迎えを頼むよ」

「あいよー」

 そう言ってミットさんは消えた。


 俺は自分の覚悟を確かめ、荷車を引いて村へ入って行った。この村を出て2月が経っていた。深い青のキッチリとして見えるジャケット姿の俺は、村のみんなの目を引いた。銀色に鈍く光る荷車も全く見たことのないものだ。

 何人もの村人が遠巻きに見ていたけれど、そこの家の3男坊、リカルドだと気づく者は俺の家に着くまで一人もいなかった。


「今戻ったぞー。親父ー。母さん」


 後ろの方で何人か、覗き込んでた奴らが(ざわ)めくのが分かった。

「あいつなのか?リカルド?」


 家の中でもバタバタと駆ける音、バンッと扉が開き親父が飛び出してきた。

「お前。リカルドか?おお!」「リカルド、よく戻ってくれたわ。さあ、中へ入って」

「にいちゃん?なんか違う人みたい?」

「リカルド。こいつは納屋に入れておくぞ」


 周りに集まっている村人を見て、一つ上の兄貴が荷車を納屋へ引いて行った。


 引きずられるように居間へ連れて行かれ椅子に座るとサタナ姉さんが後ろから抱きついて泣き出した。

「うう、リカルド……」

「こら、サタナ、落ち着け。まず話を聞かないと。リカルド。その格好はどうした?」


「ああ、これはこの交渉のためにガルツ商会が作ってくれたものだ」

 本当はアリスが夕食会用に作ったものだけど、1日違いだ、間違いではない。


「交渉?なんだそれは?」

「北に新しい街が出来る。この間の行商人の寄った街とは別にだ。東の川を山5つ下った場所だ」

「できる?山5つといえばそう遠くはない。行ったことだってある、そんな広い場所などないぞ」

「場所はもう出来てる。だが人がいない。だから俺が集めに来たんだ。新しい畑があるんだ。この村全部より広い畑だ。俺は10日余り耕して豆を作っている。ここの豆よりも育ちがいい」

「お前1人でか?そんな広い畑が……」

「ああ、そうじゃない。俺が耕してるのはうちの畑より少し広いくらいだよ。そんな畑がもう11あるんだ。耕し手のいないやつが」

「そんな夢のような話が……」


 次兄のグレスがいくつか手に持ったものをテーブルに置いた。

「親父。これをどう思う?リカルド。これはなんだ?」

「グレス兄貴。手土産さ。カップに櫛。極上のナイフ。その丸いのは灯りだ。こうやって使う。俺はこれを渡す代わりに人を連れて帰る」

「帰るって、リカルド。あんたの家はここだよ」

「違うわ、母さん。リカルドに女の匂いがする。汗の匂いがひどく薄いわ。リカルドが帰るのは北なのよ」


 俺も含めて家の男どもがギョッとした顔になった。女は恐ろしい。だがこれでリカルドの話の信憑性が上がった。


「ショーンはどうした」

「オオカミに襲われて首に食いつかれた。俺もやられそうになったところに助けが入ったんだ。もうあれから50日にもなるのか……」

「そうか。首を……」

「親父、ここを捨てて移住しないか?俺はそれが一番いいと思う。この人数なら上流の6軒のうち3軒は大丈夫だ」

「3軒ってなんだ?」

「もう家もあるんだ。俺も一軒もらった。だから畑に専念できるんだよ」

「本当ならすごくいい話だが……大丈夫なのか?」


「俺を疑うのか?まあそうかも知れないな。ミットさん?」

『あー?なんだいー?』

「親父を連れて畑を見せたいんだが?」

『田舎の人は疑い深いからねー。それだけ何度も裏切られてるのさー。そこに何人居るんだい?まとめて連れてくよー』

「えっ?8人だけど……」

「『じゃあ行こうか』」


「……」

「あー。この人はミットさん。俺の畑を見に連れてってくれるそうだ」

「わわっ!あんた、どっから入ってきた?」

「あんたの彼女?」

「きれーな人ねー」

「羨ましい!」

「あはは。みんな立ったほうがいいよー?いっくよー」


 次の瞬間、俺たちは俺の家の前にいた。

 呆気に取られ呆然と見回す俺の家族。

「ミットさん。やり過ぎだろ!」

「あはは。アリスを泣かせた罰だよー。なんとかしなー」


 そう言ってミットさんは消えてしまった。

 話し声を聞いてアリスが玄関から顔を出した。大勢いるんでびっくりしている。俺と目があった。


「リカルド?これ、どうしたの?」

「アリス、ミットさんにやられたよ」

「あいつー。またやったのかー。で?この人たちは?」

「あー。こっちが俺の親父、クーロイ。ネディア母さん。一番上のアレック兄貴。で、サタナ姉さん。2番目のグレス兄貴。妹レン。弟ナスタルだ」

「あ。アリスです。よろしくお願いします。ガルツ商会で先遣隊の班長やってます。

 ショーンさんのことはごめんなさい。間に合わなかったの」


「親父。アリスさん達がオオカミの群れから俺を助けてくれたんだ」

「アリスさんがなんで謝るんだ?ショーンは首に噛みつかれたってこいつに聞いたよ。そうなったら死ぬのは一瞬。助けた人に謝られたら俺なんかどうすればいいか分かんねえぞ。とにかくありがとうな」


 アリスはちょっと羞含(はにか)んだ可愛い表情を見せて言った。

「リカルド、畑を見に来てくれたってことでいいの?」

「まだその説明の途中だったんだ。

 あー。俺の畑を見てくれるか?親父」

「あ、ああ、見せてもらおう」


 俺が先に立って案内して行く。みんなゾロゾロと歩き出した。アリスが少し足を引きずるようにしている母さんに目を止めた。

「ネディアさん。ちょっと足を見せてもらっていいかな?」

「アリスさん、ここでかい?」

「そうですね。リカルド、後から行くわ」


 アリスはそう言って母さんの手を引き家に入ってしまった。

 俺はとにかく畑を見せることにして歩き出す。

「おい、リカルド。お前の畑というのはどこからどこまでだ?」

「5つ左の畝から右端迄だよ。この畝は300メルあるんだ」

「おお。うちの畑の倍あるぞ。お前は知らなかったか?うちの畑の半分は小作だからな」

「そうなのか?隣も同じくらい村長に納めてるからそんなものだと思ってたよ」

「うちなんかいい方だ。全部小作の家が何軒かあるが、食う分カツカツみたいだぞ?」

「アレック兄貴、それ本当か?」

「ああ。友達が一人全小作だ。どうもしてやれんが」


 親父と兄貴が豆の葉の裏を確かめ、茎を指で押してみている。

「ほう。いい苗だ。撒いて2月ってとこか?」

「親父、俺がここに来てから撒いたんだ。まだ一月経ってねえ」

「「「なに?」」」

 改めて舐め回すように苗を見始めた。


「ふうむ」

 唸る親父に俺は声を掛けた。


「向こうに葉物を撒いたんだ。まだ3日目だからチョロチョロだけど見てくれよ」

「ほう?葉物か。何を撒いたんだ?」


 畝を跨いで歩きながら

「15種類もあるからまだ覚えてねえんだ。札に書いてあるよ」

「15?そんな種どこから手に入れた?」

「アリス達だよ。あっちこっち行くらしい。ああ、そこだ」


「おお。小さな葉が出てるな」

「ほんとだー。うちのと違うねー。あ、こっちのも?」

「札から札までが同じ種だから。どんなのが出てくるかはお楽しみだ」


「まあー?立派な豆の苗木!」

 母さんの声だ。グレス兄貴が畝を身軽に飛び越え傍に行った。母さんの足を気にしてるんだな。


「見ての通りまだ全部の畝に植えてない。一人じゃとてもそこまで手が回らないからな」

「それにしちゃあ雑草がないぞ?」


 あ?ほんとだな。クロミケが抜いたのか?3メルもあるくせに細かいこともやるのか。

 見ると母さんがひょいひょいと畝を渡ってくる後ろを、グレス兄貴があわあわしながら付いて来る。

「おい。ネディア。お前、大丈夫なのか?そんなに動いて」

「アリスちゃんにさすってもらったの。肩もほら!」

 右腕をぐるっと回して、ちょっと顔を歪めた母さんに、親父が抱えるように手を伸ばす。

「おい、動くのか?だからって無理するな」


 畝の向こう端で片目をつぶって、親指を立てた笑顔のアリスがいた。俺はアリスに手招きした。怪訝な表情で駆け寄って来る。走る姿に見惚れているうちに傍まで来た。


「どうしたの?」

「母さんのことはありがとう。畑の分け方なんだけど……」

「いいのよ。あたしも嬉しかったから。

 街のことは全部リカルドが決めて。あたし達は作るのが仕事よ。基本、現地の内政には口出ししないの。交易の邪魔になるのは排除したりもするけどね。そうでなければ、放置よ、放置!」


「そうか」

 俺がやんなきゃいけないのか。


「親父。どうだ、この畑。みんなでやってみないか?」

「いい畑ってのは分かったが年貢がどうなるんだ?」


 俺はアリスを見た。

「そんなのないよ。他所だと税金が2割から4割の間くらいかな?町の運営にお金は要るから」

「そうかい。4割と言われたらちょっときついな。食う分には充分だが、他にも掛かりはあるからな」

「うん。だからさ。この畑は親父に。アレックとグレス兄貴には隣2つでどうだろう?家付だぞ?」

「何?そりゃあ……いくらなんでも…広すぎやしねえか?」

「俺は街の仕事をこれから教わるつもりだから、あんま手伝えないかもだけど8人も居るんだ。なんとかしろよ。親父」

「うぐっ!くそ」

 そこまで言って親父は座り込んでしまった。


「なあ、アレック兄貴。村に全小作って何軒あるんだ?」

「ん?俺もよくは知らないが6軒くらいかな?」

「あたしの記憶じゃ7軒だと思うよ。ねえあんた、7軒だったよね?」

「……全小作?ひのふの……ああ、7軒だ」

 親父は座り込んだまま指で数える。


「そうすると空きは後2軒か。兄貴達、来そうな3男坊ってのはどうだろう?」

「そりゃお前。これ見ちゃったら、なあ?」

「ああ。なんかくじ引きでもやるか?」

「そうだよな。とりあえず親父は村へ戻って全小作に移住を聞いて欲しい。あの荷車のものは自由に使ってくれていい。あと引越しの準備もな」


「リカルド。家は見せなくていいの?」

「あ、そうか。アリス、どれも一緒なのか?」

「そうだよ」

「じゃあみんな、俺の家を見てってくれ」


 アリスが顔を真っ赤にして言った。

「ちょっと待ってよ、リカルド。片付けて来るから、呼ぶまで絶対入れちゃダメだよ?」

「なんだ?あんなに慌てて?」


 姉さんが母さんと走り去るアリスを見て、顔を見合わせて笑った。

「男どもには分からないよね。あんたらは言われた通りにしてな」


   ・   ・   ・


 家を見せてお昼も食べさせた後アリスがミットさんを呼んでくれて親父達は村へ帰った。


「後でジョーヨーを作ってあげるよ。不便でしょ?」


 アリスが見送りの時、手を振りながら俺に言った。


こんにちはー ミットだよー。

アリスでーす。


ミ:あと何話だっけ?

ア:今日の分入れて7話かなー?

ミ:長いようで早かったねー。

ア:ほんとだよね。最後の3話は1/16日に連続で出すって言ってたよ?

ミ:なんでー?

ア:さあ?予告しちゃったからかな?


ミア:変なのー。まったねー。

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