3 夜・・・アリス
これまで:リカルドはアリスにねだって農具を作らせた。畑を耕し作物を育て半月、育ちの悪い場所を気にして家を汚してしまう。その真剣さに怒る気の失せたアリスは節目のパーティを開いた。飲み過ぎたリカルドは先に寝かせたのだが。
*性的描写があります。不快に思われる方はご遠慮ください。
パーティのあとテーブルで寝ちゃったあたしだけど、飲み過ぎて目を回したリカルドを思い出して、ちょっと様子を見て行くことにした。
他人の寝室を覗くってなんかドキドキするね。シルバはちゃんと服を脱がせてベッドに入れたようだ。寝相が悪いね。足の方にしか上掛けが掛かってないよ。仰向けに手足を投げ出してすごい格好だ。
お腹が冷えちゃうよ?
ベッドに膝をついて向こう側に寄ってしまった上掛けを引っ張る。体が伸び切ったところでリカルドが寝返りを打った。
腰から下を裏返し、続いて右腕を畳むと左腕が大きく振り回された。肘があたしの肩口を捉え、そのままあたしはリカルドの方を向いた姿勢で絡め取られてしまった。
左足はまだベッドの外にあるけど身動きができない。続いて左足もあたしの右腿に乗って来てしまった。いくらか自由になる右手で、リカルドの頬を突くけどまるで起きる気配がない。
少し待っていればまた寝返りするだろう。そう思って寝顔を見ているうちに、あたしも眠ってしまった。
・ ・ ・
髪を撫でられる感触で微睡から引き戻される。それに抗って両手をぎゅっと?
ん?なんかそばにあったかくてでっかいのがいるね。あたしの眠気は一瞬で吹っ飛んだ。
そーっと目を開けると、青い透き通るような目があった。とても近いので重なって一つに見える。
なんだ?この状況は?一体どうなった?
確か居間でパーティをやって……その後居間のテーブルで目を覚まして……あ。太い腕で絡め取られて動けなかったんだ。
あれ?そんなに嫌じゃないね。右腕の枕が後ろから髪を撫でてくれる。左腕はあたしの腰から背中を撫でてくれる。なんかふわっとした気分だ。
青い水を静かに湛えたような目を見ながら、あたしはそのまま横になっていた。
左手に当たるリカルドの胸が暖かい。少し動かすと心臓の落ち着いた鼓動が掌に響いて来る。右手を持ち上げ背中へ回すと、ゴツゴツとした筋肉があたしの指に反応してピクピク動くのが面白い。指先で背中を歩き回って感触を楽しんでいるとリカルドが目をギュッと瞑った。
鼓動が早まるのが分かったけど、あたしはあの澄んだ目が見えなくなって残念だった。
「ねえ。目を見せて」
ためらうように瞼が震え開いた目には悪戯っぽい光があった。この目もいいね。割と好きかな?左手に伝わる鼓動はさらに速くなっている。釣られてあたしの心臓も飛び跳ねた。
リカルドの左腕に引き寄せられて腰骨が当たる。上側の腿同士がぴったりとくっ付いた。腕枕が少し高くなって頭が引き寄せられ、口に柔らかい感触が躊躇うように触れて来る。あたしは目を閉じて右手を引き寄せた。
そのまま永遠が過ぎたかと思った頃、リカルドが身体を開き、背中を撫でていた左手が脇腹を撫でながら上へ前へと動く。大きな手のひらがあたしの右胸を包み込んだ。
頭の後ろの方にピクリと刺激が走ってあたしは少し仰け反った。離れたくないとあたしの右手がリカルドの背中にしがみつく。
左手から伝わってくるリカルドの速い拍動が心地いい。
離れた唇を求めてリカルドの顔が視界を覆う。身体を回し腰があたしの上に乗った。潰さないように気遣い、触れる程度に浮かせているのが分かった。
それが嬉しくて両手でリカルドの背中にしがみ付いた。左手は胸に優しく触れ、右手のひらがあたしの頭を持ち上げる。唇を割って舌があたしの前歯を舐めて来る。
ドンドンと玄関先で音が鳴った。ハッとしたようにリカルドがベッドを出て、シルバが畳んでくれた服を着始めた。前のふくらみをズボンに押し込もうと苦労しているのがおかしくて、あたしはクスッと笑った。
その横を通ってあたしが玄関を開けると、ミットが扉の横に寄りかかって待っていた。
「よく寝られた?」
「ええ。テーブルを抱いてぐっすり」
「へえ?」
あ。これはバレたか?まあ、いいや。隠し事するような仲でもないし。
「リカルドー。早くしなよー。シロルのとびっきりの朝ごはんが待ってるよー」
悪戯するときの顔のミットが奥へ声をかけた。
・ ・ ・
ミットは今日から河岸道路沿いを植樹の残りをやって行く。あたしはまだ用水路やら支店作りやらこまごまある。シロルは町内の主要道路を整備して行くことになってる。
リカルドは昨日あたしが教えた棒の掘り出しと土の入れ替え。あれは一人でやったら
2、3日で終わるのかな?
「ねえ、リカルド。クロに手伝わせるよ。1人じゃ大変だよ?」
「うーん。できれば1人でやりたかったんだけどな」
「なーに?なんの話ー?」
「畑の真ん中になんか悪い物が埋まっちゃったみたいなんだ。作物の葉っぱがそのせいで枯れかけててさ、3メル角くらいの土を入れ替えないといけないんだよ」
「えーっ?それ人力だと大変だよー?あたいが手伝えば1ハワーでお釣りが来るよー?ミットさまお願いしますって言ってごらんよー、リカルドー」
「うぐっ!
……く、仕方ないか……他にもやりたい作業があるし……
ええい!ミットさま、お願いします!」
「はーい。お願いされましたー。じゃ、今植ってる作物を除けちゃってねー。そしたらあたいが悪い土と棒を引っこ抜いてー、新しい土を入れたげるー。クロは浮かした土をロープで引っ張ってねー」
リカルドが作物を寄せに行き、クロは親指を立ててロープの準備を始めた。
畑へ行くとだいたい除けてあったけど一箇所毒の濃いところがある。リカルドに言ってそこも寄せてもらい、ざっと地面に線を引く。
ミットがその線に沿って1メル厚の土をボコっと持ち上げた。クロがそれに長いロープを回し畝なりに引いて行く。あたしは穴に降りて、棒のあるところを広めに線で囲む。リカルドの手を取って上に戻るとミットがそこも1メル厚で抜き出した。クロが手で押して最初の塊の上へ持っていった。
悪い土は畑の外れまで引いて行くと、ミットはそこで一旦地面に土の山を下ろし、山裾の腐葉土を見合う量になるまで30セロ厚で捲って持ち上げた。クロがロープを巻き穴の上まで引いてくる。
「よーし。クロ。ほぐしちゃってー」
クロがショベルを振るい細かく土を切り分け穴へ落として行く。下の方は20セロくらい入るとその都度踏み固めている。最後の40セロはふわっと盛った。
「いいねー。後は自分でやんなー。腐葉土が入ってるけど調整は要ると思うよー。あたいはあっちの始末しちゃうねー。クロ。行くよー」
「ほんとに1ハワーかかってないですね。ミットさま、ありがとうごぜえますだ」
「なーに、いいてことよー」
リカルドはノリも悪くないね。さて、肥料はどうしようか。ミットの言う通りバランスは悪くないね。カリームってのをちょっと足してやればいいかな?
「シロル。魚のアラから作った肥料が欲しい」
『分かりました。今お持ちします』
「足りないってもちょっとだから作物植えちゃってもいいよ」
「そうか。じゃあ一回起こしてみるよ」
あー。そのままは植えないいんだ。耕して空気を混ぜるんだっけ。やってる間にシロルが肥料を持って来てくれた。
10キル入りか。十分だね。畝なりに撒いて軽く起こし、土を盛り上げて行くと前後と同じ畝ができて行く。
リカルドはそのてっぺんに退けておいた作物を優しく植え替えていった。最後に結構ジャブジャブになるくらいの水を撒いて今日はこれで終わり。他の作業をすると言うので、あたしも下流側の農家を5軒建てにお出かけだ。
・ ・ ・
夕食が終わるとミットは今日もジーナのところへ跳んで行った。
あたしはリカルドの居間でシロルのお茶を飲んでいる。リカルドは洗い場で体を洗ってる。お湯が欲しいよね。でもなー、ここ一軒だけ温泉ってのもなー。支店で掘るんならいいんだよ?でも農家って広い土地を扱う分どうしても家が離れちゃうからね。
この土地には今、上流6軒、下流で6軒、12軒の入植者の家を建てた。町なら支店が割と近いから共同浴場もありだよ。あ、そうか。町に寄せて小さな共同浴場はいいかもだね。
町の名前はまだ決まってないから取り敢えず上流浴場でいいや。明日一軒建てちゃおう。で、そこから農家6軒にパイプを引いてっと。
「リカルド。お茶が入ってるよ」
「ああ、ありがとう」
「今日は新作のクッキーでございます。お味見をお願いします」
「味見ったってシロルはいけると思ったんだよね?」
「はい。ですがあたくしのセンサーと皆さまの舌は別のものでございますから、本当に美味しいかどうかは分かりませんので」
「ふーん。あ、やっぱり美味しいよ、シロル」
「おお!美味いなこれ!甘いものは疲れが抜けるような気がするよな」
「あ、そーだ。リカルド。あたし、明日ここに温泉引いてあげるよ。うまくいったら夕方には入れると思う」
「オンセン?」
「おっとー!お風呂は分かるよね?」
「ああ。トラクで何回か入った」
「あれはお湯を沸かしてるんだけど、地面を深ーく掘っていくとあっついお湯が出ることがあるんだ。それをお家の洗い場に引くんだよ」
「ふうん?」
「むう!寒い冬なんか水じゃ大変だよって話!」
「あ、ああ。分かったよ。ご心配ありがとうございますっ」
「うふふっ。アリスさま、あたくしはここを片付けましたらトラクに戻りますので」
「あー。分かった」
シロルはパパッと片付けを済ませトラクに行ってしまった。
むう。間が持たないよ。
「あ、そーだ。リカルド、野良着、解れたりしてない?繕ってあげるよ?」
「え?野良着?どうかな。まだ作ってもらったばっかりだぞ?まあ、そう言うなら見てみるけど」
リカルドが先に立って洗濯場へ行くと、今日着ていた分の他にも全部吊ってあった。
「乾いたの取り込んで、仕舞わないと。ほら、部屋まで運ぶから乾いてる分おろしちゃって」
「あ、ああ。分かったよ」
ああ、なるほど。あたしが年上だから軽い命令口調で操縦すればいいのか。これ、いいかも。
リカルドの寝室でベッドに並んで座って、野良着のチェックだよ。リカルドが言う通り、あたしが作ってからまだ一月と経って無いんだから、余程でなけりゃ解れなんかあるはずもない。
それでも一枚一枚腿がくっ付く感触を楽しみながら見ていって、椅子の背もたれにかけて行く。なんだかハイエデンで聞いた誘惑するお姉さんのお話みたいだよ。てか、これってそのまんま?ドキドキするね。どんなセリフがあったっけ?
「ふう。大丈夫みたいだね。あたしちょっと疲れちゃった。横になっていいかな」
「えっ?ああ、いいよ」
「ふう。あれ、リカルド。枕が低い。あんたの腕、貸しなさいよ」
「ああ、いいよ。ちょっとそっちに寄って」
おー!今朝とは逆側ですか。
「ほら、首上げて。どうかな?」
「うん。ありがとう。落ち着くわー」
じっとしてると左手があたしの髪をいじっている。ゴロリと右を向くと横目であたしを見ていたリカルドと目が合う。あたしは右手をリカルドの脇に当て左で顎の線をなぞっていく。
「この辺の形がいいのよね」そう言ってみた。
リカルドの口元が緩むと体をずらしてこっちを向いた。正面から見つめ合う形になった。右手は心臓の上、まだ鼓動は少し速いけど落ち着いている。髪を撫でられ揺蕩う感じがまたいいね。リカルドの左手が背中へ回って背骨の突起をなぞっていく。
「あ、それ、いいわね。ちょっと押してみて」
突起の両脇の筋肉を押してもらうのはとっても気持ちがいいことは分かった。リカルドはゆっくりと押しながら下へ指を進めていく。感触がくすぐったさに変わると2人の息が変わる。熱く、速く、荒いものに。
あたしは息を大きく吸って目を閉じた。しばらくリカルドはそのまま続けていたが、やおら体を起こすと上に乗った。
下腹に固い感触を受けて、あたしはリカルドの背中に両手を回し、しがみつく。リカルドの唇を求めて頭を浮かせ、むさぼった。
そこから先はもう覚えていない。どこかで互いの服を剥ぎ取ったのは覚えている。
目を開けるとリカルドの薄く澄んだ青い目がこちらをじっと見ていた。あたしはなんだかそれが嬉しくて唇に吸い付いた。
朝だった。
またミットに戸を叩かれるのだけはごめんだ。あいつに寝坊助と言われるのは嫌だ。マノさんに時間を聞くとまだ大丈夫。でも起きちゃおう。日課の朝のお散歩だ。
いつもの防刃衣装を着て行くけど下着の替えが無かったね。次は用意しておこう。
そこまで考えた時にあたしの顔に火が点いた。
次ですって!!
タイツを持ち上げキュロットに足を通すときに違和感がある。足の間に何か挟まってる?
手で触れて確かめるけどいつも通り。ふうん?ハイエデンでお姉さま達にそんな話も聞いたっけ。ともかく身支度をして、リカルドに一つ手を振ると玄関を出た。ここに鏡が一つあった方が良いかな?
アリス20歳、リカルド18歳の出来事。




