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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第15章 人のいない駅‬
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2 街づくり2・・・アリス

 これまで:トリライン最後の探索地、ケルヤークの開拓地にやってきたアリス一行。ミットが気づいたオオカミの狩の対象が人と知ってトラクから跳び出した。男を一人助け出した。周囲の調査をするうちにその男が目を覚ます。男の名はリカルドと言った。

 あたしは起きたばかりのリカルドに、夕飯を食べさせた。シロルのファンがまた一人増えちゃうかも。


「食事が終わったら体を洗う?お風呂があるんだよ?」

「オフロってなんだ?」


 おっと。お風呂知らないかー。


「こっち来てもらえるかな?この奥」

「あ?なんかあるのか?ん?なんだ、お湯が入ってるのか?」

「ちょっと狭いと思うけど、ここで服を脱いでこのカゴに入れるでしょ?このカーテンの向こうは狭いけど洗い場だから、まずここで体をよく洗ってね。石鹸を泡立ててこの布でよく擦って、お湯で床に流しちゃって。髪の毛もよく洗ってね。そしたらそこのお湯の中に入ってあったまるの。あったまったら、こっちの布でよく体を拭いて、この棚の服を着てちょうだいね」

「お、おう」

「わかんないことがあったら呼んで。じゃ、ごゆっくり」


 ガルツさんよりは小柄だから、洗うのは問題ないはずだけど、初めてだと大変かな?呼ばれたらシルバに見てもらおう。


    ・   ・   ・


 リカルドはマノジェルの治療効果もあって4、5日経つとすっかり元気になった。あたしの作った服がよく似合う。川の作業に案内すると、シルバ隊が河床の盤下げをする様子を珍しそうに1日見ていた。今はそれも終わって、山の土を運搬しているところだ。


 ミットが引き抜く山の木が余りに大量になるので半分は植林用に仮植えした。土地の盛り付けが終わったら、河岸道路の並木に使おうと思っている。


 土の盛り付けは上流から水を絞り出すようにやってきているので、中心部から外れる最初の方は農地になる。

 あたしは河岸道路沿いに何軒か家を建ててみることにした。リカルドの意見も聞きながら家や納屋を建て、中の家具類もある程度用意して行っている。家具用の木質(セルロース)はクロミケが玄関先まで運んでくれるけど、家の中に配置したり移動したりはリカルドに頼んじゃった。


 まずは食料生産だからね。移住者も早目に入れたいところだよ。と思ってたらさすが農家の3男坊。鍬やらの農具をねだられて作ってあげた。早速耕し始め、なんの種か分からないけど持って来ていた種を蒔いていた。

 沢水を流す用水路をところどころ堰き止めたりして上手に水やりもしていって、半月もすると畑らしくなってきた。


 ミットが切り出す山もいい感じの台地になって、河岸の植林も半ばまで出来てきた。

 でもやってみると人のいない場所の開発は初めてだから、何を作っても良いんだか悪いんだかよく分からない。


 張り合いが無いっていうか?なんせ今の住民はリカルド1人だからね。


 土運搬が終わった記念にリカルドの家でパーティーをすることにしたよ。明日からはシルバ隊の4台は道路を作って散って行く。節目の日というわけだ。

 ミットは植林の残りが終わればしばらく休暇。といってもそこらをフラフラしたりぬいぐるみを縫ったりと、のんびりするんだろうけど。


 トラクをシルバがリカルドの農場に乗り付けて、シロルが用意した料理をリカルドの居間に運び込む。とそこで足が止まった。


 昼間会ったときに言っておいたのに!なんでろくに物がないのに散らかるの!床に葉っぱとかコビリ付いてるし!


「ミットー、ダメだー。掃除からだよー」

「えー?ヤローの一人暮らしじゃしょーがないでしょ?って、これはまたー?」

「シロル、シルバ。お掃除が先。リカルドはどこよ?」

「うへー。アリス、怒ってるよー」


 あたしはリカルドを探して奥の寝室に足を踏み入れる。


「うわっ、なによ、これ?ベッドが泥だらけじゃないの?どうやったら5着しかない服をここまで散らかせるの?」


 椅子の背もたれに重ねて掛けた泥だらけの野良着が崩れて、床に散らばって何枚かは踏み跡が付いていた。

 何度かそんな野良着のまま寝たらしく、シーツも上掛けにもドロ模様があった。


 ここまで探していないってことはまだ畑か?

 あんのヤロー!あんだけ言っといたのに!


 そのまま外へ出ると家の周りをぐるっと見て廻る。いた!8列くらい向こうの畝の中間辺りに屈み込んで手を動かしているのが見える。行き倒れてないのは分かった。

 あたしは畝をぴょんぴょん飛び越えてそばまで行って見た。


 あれ?この畝だけ葉っぱが茶色いね?両隣も葉っぱに勢いと言うか元気がない。ふうん?

 マノさん、ここって盛り土のとこだよね?

 目に古い地形図に今の地盤を重ねた絵が出てきた。育ちの悪い部分が薄い赤に塗られている。土を調べた数字がズラッと20数個並びその内の2つが赤い字になっていた。

 これってー?


 地形図がぐるんと回転して、スパッと手前の絵が無くなった。ほお?

 ここは3メル近く盛ったんだね。1メル半下にあるこの赤い棒、何?

 ……まったごちゃごちゃ言ってるよ。もっと簡単に言えないんだろうか。むうー。

 我慢して聞いているとあの赤い棒が悪さしてるらしい。てか、何度も聞こえる「ソガイヨーイン、トナッテ」って何!?


「リカルド」


 あたしが声をかけるとビックリしてリカルドが顔を上げた。こうしてみるとまだあどけない表情が可愛いんだよね。


「あたしお昼に来た時言ったよね?」

「えっ?ああ……あーっ!いけね!すっかり忘れてた!」


「家の方は大丈夫だよ。今、みんなで片付けてる」


 途端に青ざめるリカルドが面白くて、ありそうな追い討ちを一つ。


「シロルとシルバは大丈夫。問題はミットかな?あいつ、けっこうめんどくさがりだからね」


 何を想像したのかリカルドは更に顔色が悪くなった。ちょっとやりすぎたかな?


「しょうがないね。明日あたしが片付け手伝うよ。ここね、1メル半下に棒みたいのが埋まってるって。それが悪さしてるみたいだよ。明日ミットに頼んで取ってもらうよ」

「それを掘り出せばこいつらは元気になるのか?」

「悪さってのが土に染み込んじゃってるからね。隣の畝の葉っぱも元気がないでしょ?この範囲の土は入れ替えた方がいいかもね」

「分かった。俺がやる」

「えー?ミットは後植林が残ってるくらいで暇になるんだよ?手伝ってもらおう?ね?」

「ここは俺の畑だ。そこまで教えてもらった上に何にもしないで見てるなんて、親父や死んだ爺ちゃんにドヤされる。だから俺がやる」


 頑固に引き結んだちょっと厳つい顎の線がなんでかカッコよく見えるね。


「そっか。家に戻ろう。みんな待ってるよ?」

「ああ」


 リカルドは立ち上がって、名残惜しそうにもう一度畝を見回した。


「ほら、行くよ?」


   ・   ・   ・


 家に入るとまだ20メニくらいしか経っていないとは思えないほどキレイになっていた。


「シロル、シルバ!ナック、ミットー。すっごいよ。新品同様ってやつ?ありがとうー」

「いえいえ、しばらくぶりに気合が入りましたわ」

「あんたの順番は正しいよ。ナックはあたいの3倍頑張ってたよー」

 そう言ってミットはナックを撫でている。


「寝室は明日リカルドにやらせるね」

「あら?アリスさま、申し訳ありません。居間を除いた他の部屋の片付けは、シルバが終わらせてしまいました」

「え?家中すっかり終わってるの?」

「ボク、がんばったー」


 あたしはナックのそばに屈み込んで頭を撫でながら、リカルドに言う。

「あんた、ボーっとしてないで身体洗って着替えといで。もうそこらじゅう汚すんじゃないよ?」


 リカルドが慌てて洗い場に行くと、ミットが目を丸くしてあたしを見てた。

 ん?なんかあった?シロルの目がなんか優しいし。


 改めてシルバが料理を運び始めた。それを見てミットが転移でバタバタと持ち込む鍋や皿を、シロルが手早く並べて行く。テーブルの用意ができた頃、リカルドが髪をタオルで擦りながら居間に入って来る。


 あたしは早速お酒の入ったカップを持って音頭を取る。ここではあたしが一番お姉さんだし。

「シルバ隊の土運搬とミットの積込みが終わったのでお祝いします。ミット、シルバ。ご苦労様」


 シルバは真似だけ、それ以外はみんな一口飲んでくれた。もちろんナックはフルーツジュース。


「さあ、いただきましょう」


 やっぱりリカルドが一番がっついてる。まだ伸び盛りみたいだし、畑もずいぶん頑張ってる。ミットが面白がってあれもこれもと勧めるけど、片端からその皿はリカルドの前に積み上がって行く。

 シロルが鍋を横にドンと置いて、

「こちらから装ってお食べ下さい」

 と言うので、あたしはシロルからお玉を奪い取った。


 リカルドが肉にかぶりつく間に、空になった深皿にシチューを盛り、ボウルに野菜を載せ足すと白いソースをサッとかける。

 それも瞬く間に平げ、リカルドはパンに手を伸ばした。パンを咀嚼しながらお酒のカップをぐいぐい傾けてるけど、そんなに飲んで大丈夫かな?

 ミットがカップにお酒を注ぎ足した。

 あんたはナックを見てなさいよ?


 リカルドがニコニコとシチューの皿を空にした。あたしがもう一杯装ってあげていると、リカルドがあたしの方をじっと見ている。


「リカルド。どうかした?」

「あ?ああ……いや、なんでもない。シチュー、美味しいね!」


 妙にテンション高いけど、大丈夫かな?

 そう思って見ているとまたカップをグイッといった。

「ちょっと?お酒はそれくらいにしときなさいよ」

 ミットが構える酒瓶を制しながらそう声をかけるけど、リカルドが裏返った声で返事をする。

「お酒?これジュースらないの?れも、おいしーよー?」


 そこまで言ってリカルドはテーブルに突っ伏した。拍子にお皿が何枚か跳ね飛んだ。

 ミットがニヤッと笑いシルバに目配せすると、シルバはするりとリカルドの脇に手を入れ肩に頭を乗せるようにして立たせてしまう。そのまま寝室へ運んで行ってしまった。


「アリスー。そんな心配しなくたってシルバがちゃんと寝かせるよー。さあ、こっちは続きと行こーじゃないのー」

「シロルー、ボク、ケーキがいい」

「はい、ナックさま。ちゃんとご用意がございますよ」

「ほら、このお肉、とっても美味しーよ。食べなー」


 寝室から出てきたシルバは床のリカルドの靴跡を掃除し始めた。うん。このカオスはいつもの夕食だね。


 お腹が一杯になるとミットは眠くなったナックとシルバを連れてジーナのところへ跳んで行った。

 あたしはそのまま居間でシロルとお茶とおつまみ。お酒を飲んだせいかお菓子が美味しくて、少し夜更かししてしまう。たまにはいいよね。


 いつの間に寝てしまったのか、あたしは居間でコートを掛けられてテーブルに寄りかかっていた。

 ミットがいれば転移でトラクのベッドに放り込むはずだけど、シロルはあたしを起こしたくなかったのかな?


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