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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第15章 人のいない駅‬
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2 街づくり・・・アリス

 これまで:レアル村を出たリカルドと弟のショーン。新天地を目指し山越えの移動をしていくが、道に迷う。山に登り方角を見定め進んでいくがオオカミの群れに遭遇、ショーンは命を落とす。リカルドもこれまでかと思ったところで助けが入った。

 5年近くも放置されたこのケルヤークの開拓村に、探索に入るのはあたしたちが初めてだ。ここは一体どうなっていることやら。

 そんな心配をしながら降り立った乗り場はいつも通り真っ暗だった。ミットの先導で特に問題なく外に出た。


 通路を出てエーセイから取ったチズで見ると、ここは山間地域だ。山裾を流れる川沿いに遡って行くと平地に出られるようだ。小さな集落がいくつか見えていて、そのほど近い山裾の木が根こそぎやられている。

 平原に出る前に木を一箇所で伐採したんだね。あれじゃあ自分たちの農耕地に影響が出ちゃうだろうに。


 実際出てたらしいけど。


 トラクででこぼこな馬車道を進んで行く。川は今は小さな流れだけど河原が広い。山に大雨が降ると水嵩は相当に上がるのだろう。

 木のない草地の斜面が見えて来た。馬車道に裸の斜面から流れ出た土が被っていて、この辺りだけ1メルほども高くなっている。斜面を見ると草の間に深い溝がなん本も見える。あの土が流れ出てここへ積ったってことだね。

 溜まった土の上を歩いてみると、水が抜けていない柔らかいところが所々あった。


 シロルに言って元の地盤まで下げ、3メル幅の仮道路を作ってもらう。半ばまで土をかき分けるように進んだところで、ミットが川向こうの森に目をやった。


「ミット、どうかした?」

「川向こうでオオカミがなんか獲物を見つけたみたいだねー。5頭かー」

「こっちに来るんでなければいいかな?」

「そうだねー。ありゃりゃ!襲われてるの、人だよ!」


 ミットは寝台の仕切りに下げてあった矢筒を取ったと思ったその途端、あたしは空中にいて混み合った木の梢を見下ろしていた。


「針よーいしてー」


 おっと。余裕がないね。

 木立の間に出ると、正面10メルほどのところに見たところ二人、のし掛かっているオオカミの3頭に向け針を打ち込んだ。


 ギャン!ギャン!


 2頭が悲鳴を上げて飛び上がる。矢を番えたミットが3連射を決め、誤射の心配がなくなったあたしも2頭を仕留めた。

 あたしが次の針を引き出し警戒に就くと、ミットが2人に駆け寄った。

 小さい方は喉を食い破られ、ここからでも手遅れなのが分かった。身体の大きな男の方はまだ息がある。ミットが腰のポーチから血止めにジェルを塗り込みながらあたしを目で呼んだ。

 マノジェルの効力を解毒と肉の再生に寄せて調整する間に、ミットが男の子の埋葬を済ませてしまう。一言も言わないが、悔しそうに口を引き結んでいる。


「ミット。トラクに連れて帰るよ」

「……うん……」


 トラクに着くとミットはシルバに自分の寝台を片付けさせ、男をそっと横たえた。自分は向かいの上段、元はガルツの寝台を出して足元の方に荷を詰め込んで行く。


 その夜はミットは寝付けなかったようで何度も寝返りを打つ音が聞こえた。一緒に寝ているナックはさぞ迷惑だったのではと思う。


   ・   ・   ・


 山から流れ出た緩い土が覆う区間も後少し。あたしはミットと先行偵察に出た。上空から見ると、地図にある通り小さな集落跡が5箇所点在しているのが確認できた。それぞれが3、40ケラル離れていて、道だったらしい所どころか、屋根にまで雑草が繁っている。


「あの北の外れの集落だけ馬車の踏み跡が見えるね」

「乗り場近くを南に向かってるねー。見てみよーかー?」


 辿っていくと山の間を見え隠れに超え、村落に突き当たる。600人くらいだろうか、山裾まで開墾されているけど実りの方は、然程でもないようだ。

 中心部の大きな家では家畜を飼っているようで、上空まで獣の糞尿が臭っている。


「平地だけじゃなく山の斜面や、沢沿いなんて不便なとこまで畑にしちゃってるね。折角の山の木の枯葉が肥料になってくれるのに、腐る場所がないよ」


 枯葉が堆積するはずの場所まで伐り開いては腐葉土の量が減る。平地には沢水頼りの貧弱な貯水池がいくつか。先は長くないとあたしは思った。


 南へ下ると同じような山間の村がいくつかあるけれど、地図で見る限りここと同じような土地の使い方をしている。これでは早晩、不作から飢饉を招くだろう。東へ出れば川が切り拓いた平地があるが、そう広いとは言えない。


「アリスー、この川、大水で暴れたのはそう昔のことでもなさそうだよー?なんだってこんな山の中にチューブ列車の乗り場があるんだろーねー?」


 確かに今までの乗り場の近くには大きな街

 町があった。町ごと崩れてしまった場所もあったけど。

 手近な平原としては西側のケルヤークの入植地と、東側の河川敷が新たな町の候補地になる。戻ってシロルやシルバと相談しようか。


 トラクはまだ柔らかい土の区間を抜けておらず、拾ってきた男もまだ目を覚ましていなかった。顔立ちは顎が少々厳ついけれど整って見え、衣服を見ると木の皮を叩いて採った繊維のようで、ゴワゴワした手触りがした。

 上下とも前側を紐で合わせるようになっているが、ひどく汚れている上に右腕と左の足に噛み跡は千切れてしまい、血が固まってこびり付いていた。特に染めたりもしておらず、茶色は生成りのようだ。


 臭いもかなり強いがまだ動かすわけにもいかない。ナノマシンを散布して多少なりとも汚れ落としをしてあげよう。


 ミットがあたしの仕草を見て言った。

「折角の良さげな男なのに、それじゃあんまりだねー。アリスー、服、作ってあげなよー」

「そうだね。考えとくよ。それより、シロルとシルバはどう思う?」


 今回は両方ともあたしが偵察で見たものをマノさん経由で見てるからね。細かい説明は必要無いだろうと、いきなり切り出した。

 シロルがカップにお茶を注ぎながら

「あたくしは川沿いが良いと思います。護岸堤防を作り、乗り場近くの山の土を使って埋め立ててしまうのは如何でしょう?」

「へー。山の跡地が町になるってー?」

「はい。町の地盤は少し高く残して川沿いは全て農地にします」

「そうなると堤防や山の土運びにシルバ隊が要るね。シルバ、どうなの?」


 シルバは台所からフルーツケーキをシロルに手渡し、言った。

「はい。確認済みです。半数の4台を引き抜く交渉をテトにさせております。明後日の朝には作業できるでしょう」

「ずーいぶん、手回しがいーじゃないのー?あんたも分かってきたねー」

「恐縮です」


 シロルが切り分けたケーキをお皿に載せ、テーブルに置く。あたしは早速フォークで切り分け一口食べる。ミットもナックに一欠片食べさせた。


「うーん」

 ナックが身悶えして次をねだる。

 確かにこれは美味しいね。気持ちは分かるのであたしのを一口あげた。ミットもその間に一口食べて、母子で頬を押さえる姿が笑いを誘う。


 細かい計画を詰めていくうちにシルバ隊がやってきて、対岸の河床の地盤下げとその後を追うように、堤防の建設が下流から始まった。

 今回広げるのは12ケラルほどの範囲を予定している。河床はナーバスで行ったように、地盤を圧縮して左岸堤防の補強を一緒に行うものだ。


 土の量が多いところは圧縮に時間がかかってしまうので、ミットが土運搬の箱をつけたシルバ隊トラク、3台を相手に積み込みをしている。ミットが荷台の箱いっぱいの四角い土の塊を持ち上げ、その下にトラクが滑り込むとフレームをギシギシ言わせて土が箱に収まる。それを右岸の堤防予定地まで運んで空けて来るのだ。

 今のところ堤防はシロルが後追いで4メル幅の河岸道路として作っている。間仕切られた右岸は川の切り替えが終わった後に、山を一つ切り取って埋め立てるつもりだ。


 あたしはクロを連れてミットが引き抜いた木の片付けや、他の雑用だけどこれが結構忙しい。シルバはナックのお守りがてらあたしの手伝いをしている。

 思いのほか大工事になってバタバタしてる中、あの男が目覚めた。少し早めに作業を切り上げて、トラクに戻るとまだ本調子とは言えないようだった。


「おー。目が覚めたー?あたいはミットだよー」

「俺はリカルドだ。連れは弟だ。ショーンのことは聞いた」

「あたしはアリス。弟さんのことはごめんなさい。間に合わなかったの」

「いや、オオカミたちの悲鳴を聞いたときには、あいつはもう死んでいた……」


 ナックがあたしとミットの間から顔を出す。人見知りかな?

「ナックー」

「この子はミットさまのお子様でナックさま。私はシルバ、ミットさまの執事をさせていただいております」


 リカルドはシルバの顔をまじまじと見ている。まあこんな奴、見たことないよね。


 一応の紹介が終わったところで、気になるのはこの匂いだ。


「シロルー、いー匂いだねー。今日はなーに?」

「昨日の残り物を少しいじりました。新鮮なお魚を捕って戴きましたから、主菜が2品です」

「主菜だか副菜だか、美味しければあたいはなんだっていいよー。シロルが美味いって言えば間違いなんかないからねー」

「リカルドさんもこっちに座って食べましょう?」


「俺がいるから座る場所がなくなったのか?だとしたら申し訳ない」

「えっ?ああ。シロルとシルバは食べないのよ。この二人はロボトと言って人間じゃないの。気にしなくていいよ」

「はい。お気遣いありがとうございます。どうぞお召し上がりください」


 料理をどう食べたらいいのか分からないようで、リカルドはあたしたちの所作を見ながら恐る恐ると言った感じで口に運んでいたが、一口食べて目を丸くしていた。


 どうだ。シロルの料理は美味しいでしょう。

 言わないけど。


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