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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第15章 人のいない駅‬
144/157

1 レアル村・・・リカルド

 ケルヤークの二つ目の入植地についに到達したアリスとミット。そこは山間の町を作るには条件の悪い立地だった。20歳のアリスについに出会いが訪れたかに見えたが……‬

         登場人物


 アリス 主人公 20歳 薄い茶の髪、白い肌、青い目、身長160セロの女の子


 マノさん ナノマシンコントロールユニット3型


 ミット 19歳 孤児 濃茶色の髪、やや褐色の肌、黒い目、木登りが得意、身長172セロ ナックの母親


 ナック  2歳 ミットの息子


 ジーナ  ミットの師匠


 ガルツ 工房出身 元猟師 その後兵士を3年ほどやっていた。日焼けした肌、赤黒い髪、青い目、身長185セロの大男。青ずくめの防具、楯と長剣が基本のスタイル。ガルツ商会の会頭


 シロル アリスの従僕 白猫ベースのネコミミメイド ロボト


 クロミケ アリスの従僕 クロとミケの2体 身長3メルのネコ耳ヤロー ロボト


 シルバ ミットの従僕 銀色ボディの執事 ロボト 黒い執事服に白黒のねじり鉢巻を着用


 シルバ隊 総勢32体の4班の道路部隊 班長は ジー、トリ、テト、ペタ 外見はシルバと同じ 服などは着ていない


 リカルド レアル村農家の3男 村を出た男     18歳。


 ショーン レアル村農家の5男 リカルドの弟 12歳。


 アカメ   ライカースの岩型生物

 *********************************************


     第15章 人のいない駅


    1 レアル村・・・リカルド


 俺はリカルド。農家の3男だ。俺の村はどの家も子沢山で周辺の土地を開墾するのに忙しい。だがそれも限界が見えて来ている。

 山の木を倒し根を掘り起こし、下草を焼いて苦労して作った畑も、土が(こな)れるまで3年はかかる。焼いた草木の灰が幾らか実りをもたらすが、それでは足りないらしく年々収量が下がっているのだ。


 兄貴のために5年前に開墾した畑も、去年は半分まで麦の収量が減ってしまった。家畜の糞を半年以上寝かせたものは効果があるようだが、そもそも家畜は大農家にしかいない。

 うちのような貧農は、寄ってたかって開墾してできた畑を兄に渡し、3男以下はわずかな食料分配を受け取り、食うや食わずで働き続けるのだ。

 そんなとき旅の雑貨商から人のいない村があると聞いた。5年前に行った時には50人ほどがいたと言うのだ。ごく小さな村は何かの理由で消えてしまうこともあるのだろう。

 話ではここからそう遠くはない。馬車で7日。馬など家にはいないし、借りることもできない。歩けば10日以上かかるが、ここにいても先は見えている。夕飯の後、俺は親父に談判した。


「リカルド。そんなに遠くまで歩いていってどうすると言うのだ?聞けば捨てられた村ではないか。捨てられるだけの理由があったのだろう。ここもそう豊かではないがなんとか皆で食い繋いでいるんだ。そんな夢のようなものは捨ててしまえ」

「ふん。親父。俺は3男だ。このレアルにいつまでいたところで自分の畑など持てないんだ。持ったところで年々減る収量では、いつまで一家が食いつなげるものやら。俺は行くぞ。きっと一旗上げてやる」

「リック兄さん、僕も連れてって。足手まといにならないように頑張るから」


 突然声をあげたのは12になる5男のショーン。この頃は体に厚みがついてきたが、まだひょろっとした印象が拭えない。


 母さんが悲鳴のような声をあげた。姉さんも俺たちの手を取って泣いている。下の妹や弟たちも空気に飲まれ俯いて目を擦っている。だがなんとか止めようとするのは父母と姉さんだけだ。

 黙っている者は、口減らしができると思っているのか、感情がすり減ってしまったのか。痩せた土地にいろいろな工夫で手間をかけ、必死で生きているのだ。そうだとしても責められない。それが俺が出て行く理由の一つでもあるのだから。


   ・   ・   ・


 翌朝、俺とショーンは簡単な支度をして家を出た。持ち出せる食料は少ないが、狩の道具に剣を一振り、手作りの短弓を二つ、矢は10本ずつ、ショーンには短剣を持たせた。背負いカゴに持てるだけの水を皮袋に詰め歩き出す。

 母さんが追いかけて来て、芋とキビを袋ひとつ持たせてくれた。ショーンは抱き付いて一頻り泣いた。

 俺は今までの礼を兼ねて深々と頭を下げた。声を出すと泣いてしまいそうだった。ショーンの手を引いて黙ったまま村に背を向け、山道に足を踏み入れた。


 母さんは俺たちが見えなくなるまでそこから動かなかったと、後でショーンが教えてくれた。


   ・   ・   ・


 もう6日も山を歩いている。2本の足で歩いてもゴロゴロと石が転がり、草で隠れたくぼみに足を取られ転びそうになる。この道を旅の行商人は渡って来るのか。

 幸い見かけたアナグマを弓で射掛けて、傷ついて動きの鈍ったところを2人で追い回しなんとか仕留めたので、芋をふたつ焼いただけでここまで来られた。水も沢が一つあったのでそこで補給した。

 だがその水ももう残り少ない。美味くはないがキビを生で齧り、いくばくかの水分補給をしながら歩いている。


 気がつくと道が獣道になっていた。とても馬車が通れるような幅はない。どこで外れてしまったのだろう?

 少し戻って見たが道は益々細くなる。まずいな。ショーンは俺の様子がおかしいことにとっくに気づいているだろうに、何も言わずに付いて来る。小さい頃から我慢強いやつだった。

 もう方角も何も分からない。幸い、まだ食べるものはいくらかあるので高いところを目指してみる。そこで木に登れば遠くまで見えるのではないか?


 半日を費やして小高い場所へ辿り着いた。途中の藪やら崖の迂回やらで手間取ったせいだ。


「よし、ショーン。この木に登るぞ」


 俺はショーンが落ちそうになった時に使えるかもと思い、ロープを肩に掛けて登り始めた。太い木でゴツゴツと瘤があって登り易い。やっぱり力のないショーンは瘤だけではうまく登ってこれない。

 俺は丈夫そうな枝の根元に跨がり、ロープを降ろしてやるとショーンを釣り上げた。そんなことをもう一回やって、枝の間隔が混んで来たので逆に体の大きい俺が登りにくくなった。


 ショーンが先に立ちどんどん登って行き、ついに梢の近くまで登った。葉が邪魔で周りが見えないと言って、短剣で切り落とす細い枝が降って来る中、俺も登って行くがショーンの立つ枝は細く、2人分の体重にはとても耐えられそうにない。

 ショーンが振り疲れるのを待ち交代すると、ロープで体を幾らか固定して長い剣を振り回した。


 どちらを見ても山また山。正直ガッカリだった。ここまで苦労して登ったのに、どっちへ行ったらいいのか分からないなんて。

 もう一度何か見えないかと見回すと右手の山裾の方に土色が見えた気がした。そちらの枝を剣を伸ばして払ってみる。


「ショーン。こっちの枝を下で切ってくれ」

「なんか見えたの?」

「まだ分からん」


 ショーンが何度か短剣で傷を付け、折るようにして枝を下に向けて行く。3本目で大きく視界が開けて、木のない山の斜面に縦の筋がいく本も走っているのが見えた。

 風で葉が揺れるとその更に右下の方に何か見えたような気がする。


「ショーン。この枝も頼む」

「分かった」


 やっと枝が倒れて見えたのはなにか黒っぽいもの。隣の木の葉で隠れてそれ以上は見えなかった。ショーンならもう少し高く登れるかと思い、場所を交代してみたが背が低い分見る高さはそう変わらず、方角を目に焼き付けて下へ降りることにした。

 途中からはロープでショーンを先におろし、俺は瘤を伝いおりる。


 上から見る限りではこの方角に降りた向かい側の山だった。降りは登りよりも斜面の足掛かりがいい分、楽に降りられたと調子に乗っていたら、足を滑らせ数十メルの滑落。

 俺は腹に大木を打ちつけ、背にショーンがぶち当たる。しばらく息ができなかった。


「リック兄さん、大丈夫?」


 声が出ないので掌を軽く振って応える。

 やっと回復して背のカゴを見ると見事に潰れている。つなぎ目が折れていて、形はなんとか保っているが、もう重いものは運べそうにない。

 水袋はショーンのクッション代わりになって、入っていた僅かな水を撒き散らし破れてしまった。

 幸いと言うか食料はほとんど残って無いので、いくつかの道具が運べればいい。飛び出したものを集めてそのまま担いだ。山を降りたところは、思ったより深い森でまだ先は見えない。


 左の藪から何かが飛びかかる。咄嗟にショーンが背を向けたので、背負いカゴに当たりそのまま絡まるように倒れる。俺は慌てて剣を抜き細い手足大きな耳、汚れた灰色の毛皮の主に叩きつける。そいつは俺の剣を躱し飛びのいた。

 ショーンの背負ったカゴを思い切り叩いてしまったが、構ってなどいられない。


 でかい犬?オオカミか?

 ともかくも切っ先を向け一歩踏み出した。後でショーンがもぞもぞと立ち上がるが、俺は目を離せない。


 オオカミが突然左へ、横っ飛びに跳ねた。左足を合わせて踏み替えたところに、後ろから何かがぶつかって来た。俺は右腕を噛まれそのまま倒れ込む。激痛に構わず腰からナイフを抜き、そいつに突き立てようとしたところで、前の一頭が目の前に飛び込んで左手首に牙を立てる。

 右ではオオカミにのし掛かられたショーンが、手首を噛まれ振り回されているのがチラリと目に入った。


 くそ。挟み討ちか!オオカミは群れで動くと聞いていたはずだったのに、ショーンも俺も喉を食い破られないよう防ぐだけで精一杯。

 ここで終わるのか。


 横でショーンの腕がもぎ取られ、晒した首に牙が食い込む。俺はヤケクソでまだ動く両足をめちゃくちゃに蹴り、突き上げた右膝が一頭の腹に下に潜り込むのを感じた。

 左の脹脛(ふくらはぎ)に牙が食い付く。ショーンの喉を食い破ったやつがこっちに向かったのか。くそ痛え。

 右足の膝を思い切り突き上げ蹴り上げた。腕はもう、ろくに力が入らない。腕の牙は離せず頭の上に引き上げられてしまった。左足を咥えていたやつの目がギラリと光り、俺の腹に前足を載せた。

 もう急所を守る術はない。


 諦めた俺が力を抜いた時だった。

 ギャン! ギャン!


 腹の上のやつが居なくなった。

 右手が自由になり、左手のオオカミがパッと離れた。

 なんだ?何が起きている?

 周囲でオオカミの悲鳴が三つ上がる。


 呆然と動くこともできず、木漏れ日を見上げていた俺を見下ろしたのは、茶色い短髪の美人だった。

 もっとよく見たいと思ったが、残念なことにそこで俺の視界は真っ暗になった。


   ・   ・   ・


 身体が妙な揺れ方をするのを感じ、俺は意識を取り戻した。狭い小屋だろうか、どこもツルッとした、見たこともない素材で組まれた壁と天井。背中に当たる感触が柔らかい。

 なんで俺はこんなところに?腕と脚の激痛の記憶が押し寄せる。あれはオオカミ?


 「ショーン!」


 そうだ。ショーンが!


「あら、お目覚めですか。もう痛いところはないはずですが。お連れさまのことでしょうか」


 白い髪に白黒の飾りをつけた美人が、頭の方の仕切りの影から顔を出した。


「おつれ……!ショーンはどうなった?」

「年若い男性でございますか?残念ですがお亡くなりになっています。勝手ながらあの場所に埋葬させて戴きました。もう4日前のことでございます」


 妙に落ち着いた話し方をする女だ。黒のワンピースと言うのか?

 胸前が大きく開き中に着込んだ白いシャツの、小高い丘の上で黒いリボン結びが踊っている。俺は上体を起こして気が付いた。

 手足にひどい咬み傷を受けたはずだが……これは……

 改めて自分を見下ろすとふわっとした、見たこともない生地の、温かみのある黄色の上下を着ていた。足元は裸足。

 両手の平を裏返し、腕を捲ってみたが何処にも咬み痕すらない。左足も見たんだが、俺の記憶違いだろうか?


「まだどこか痛むところがございますか?」

「……いや……」

「あたくしはシロルと申します。アリスさまの従僕でございます。今日は皆さまお出かけでございます」


 そこまで言って白い大きな髪飾りがピクッと動いた。ふたつが一斉にだ。


「あら。お帰りになりました」


 そう言って右へ立ち去る女の腰から背の辺りに、細長く白いロープのようなものが、くねるように舞うように揺れていた。

 左側からガチャッと金属を叩くような音に続いて、ドタバタと足音と振動が昇って来る。


「おー。目が覚めたー?あたいはミットだよー」


 この女は見覚えがある。気絶する前に見たあの美女。隣は薄い茶の髪を肩まで伸ばした色白の美人。その隣、なんだコイツは?面を被っているのか?

 暗い銀色の顔に黒く太い眉が二つくっついている。白と黒の(ねじ)り模様の鉢巻を後ろに尾のように垂らし、かっちりした黒服を隙なく着込み……手には2歳くらいの男の子の手を握って?


「俺はリカルドだ。連れは弟だ。ショーンのことは聞いた」

「あたしはアリス。弟さんのことはごめんなさい。間に合わなかったの」

「いや、オオカミたちの悲鳴を聞いたときには、あいつはもう死んでいた……」


 小さな子供が女二人の隙間をこじ開けるように顔を出す。

「ナックー」

「この子はミットさまのお子様でナックさま。私はシルバ、ミットさまの執事をさせていただいております」


 口も目もそう言う形の窪みがあるだけ、眉だけがひょこひょこ動いて、表情らしいものを作っている。

 なんだコイツは?シツジ?


 この女たちも何者だろう。背は短髪の方が少し高く胸がでかい。

 衣装はどちらも赤と水色という色違いのチョッキのようなものの下に、長袖の見るからに薄い生地の白いシャツ。下は緑と青のスカート。ピッタリした白い布に覆われた形の良い足。

 その布は動きについて伸び縮みするようで全くシワにならない。腰のベルトには用途の分からない、いろいろなものが下がっている。靴は足首まで覆うゴツい編み上げ靴だ。

 武器の類いは見えない。左でゴソゴソやっていたようだから外したのだろう。


 ミットと名乗った女が鼻をひくつかせ言った。


「シロルー、いー匂いだねー。今日はなーに?」

「昨日の残り物を少しいじりました。新鮮なお魚を捕って戴きましたから、主菜が2品です」

「主菜だか副菜だか、美味しければあたいはなんだっていいよー。シロルが美味いって言えば間違いなんかないからねー」

「リカルドさんもこっちに座って食べましょう?」


 アリスさんに呼ばれて座ったが子供を入れて4人で食事か。


「俺がいるから座る場所がなくなったのか?だとしたら申し訳ない」

「えっ?ああ。シロルとシルバは食べないのよ。この二人はロボトと言って人間じゃないの。気にしなくていいよ」

「はい。お気遣いありがとうございます。どうぞお召し上がりください」


 そうか、あの動く髪飾りと白い尻尾。動かぬ顔の上で動く黒い眉。確かに普通の者ではない。ここで人と呼べるのは、揃いの衣装を着た女二人、ミットとアリス。それとこの子供、ナックだけか。


 出された料理も、見たことのないものばかりだった。テーブルが狭いせいか一品ずつ皿に盛られて、シロルとシルバが取り分けてくれる。

 あとは飲み物のカップが一つ。見よう見まねで一口食べて驚いた。


 柔らかい良い肉だというのはわかるが、この味付けは一体?

 決して強い味付けではないが、何処までも美味い。噛んで、噛み潰して、こなれた後まで美味い。飲み込む時も美味い。

 次を口に運ぶ間にも余韻が残り、早く食べろと急かされるようだ。味は一つではないということだろうか。俺の村では塩味しか無かった。

 


https://ncode.syosetu.com/n3642hi/

エイラの物語 連載中。


このお話より30年ほど遡った話になります。

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