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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第14章 海上交易‬
142/157

11 テロング・・・シロル

 これまで:山に出ると言うトカゲはサイナスの森で出会ったキラキラトカゲ(アガマ)だった。ミットは遮蔽材(タングステン)で頭蓋内を破壊する攻撃法を思いつく。だがそれが通じないものが現れた。そのピンチをミットは網と転移使って切り抜ける。

 あたくしたちはネドルの船の寄港地を確保すると言う当初の目的のため、カントロールを出て海を目指し街道を南下することにいたしました。

 ミットさまはまだキラキラトカゲ(アガマ)の駆除に奔走されていますが、手伝えることがほとんどございません。ナックさまをサイナスに預けたままのミットさまも、この仕打ちには面白くないご様子で、12頭のトカゲをトラクまで運んで積み上げて行きました。皮を剥ぎ肉はほとんどを保存用に加工いたしますが、何分量が多いので曳いている荷車を拡張したりと、その間は動くことができません。

 それも町長やネイタスさまとご相談されたようで、一段落しそうと言うことでございました。


 先を急ぐ旅でもございませんが、新しい土地を見ると言うのも心急(こころせ)くものでございますね。衛星からの地形図をみますと、カントロールの西から続く山並みは、それ程の高さではございませんが海まで続いており、山向こうには深く広い谷という地形になっております。

 この街道の先に村落がございまして、山並みの突端が海に突き出ていて、自然の港といった形になっておりますが、大型船が寄港できるほどの深さは期待できません。


 それが低い山を一つ越えるだけで広く深い河口があるようなのです。つまりこの山を切り開くかトンネルを作るだけで、ネドルの船を付ける港の候補地となります。

 現地での調査をアリスさまが望まれる理由のお一つになっています。夕暮れ近くになってミットさまが2回に分け、5頭のトカゲ(アガマ)を運んできました。


「これでおしまいにして来たよー。あたいはナックを連れに行って来るねー」


 2度目にそう言い置いてサイナスに行ったのでしょう。こちらは動くこともままならず、解体からそのまま野営の準備に入っておりますと、30メニほどで戻って参ります。


「やあ、ナック。元気だったー?サイナスは楽しかったかなー?」

「うん。ジーナといーっぱいあそんだよー」

「そう。良かったねー、こっちはママが頑張ったからねー。今夜はトカゲのお肉がいっぱい食べられるよー」


 アリスさまが早速ナックさまに付いておりますシルバも戻ったので、山越えの手配は任せられそうです。


   ・   ・   ・


 朝の支度が終わりますと街道を揺られながらの移動になります。


「ミット。悪いんだけどトカゲ(アガマ)肉の配達を頼めるかな?後ろの荷車を軽くしたいんだよ」

「いいよー。どこに持ってくー?」

「トリスタンとハイエデンだね。200キルずつ頼むよ」

「あいよー」


 アリスさまの依頼にミットさまは軽く二つ返事で出かけていきました。その間にアリスさまは皮の方の加工をするようです。あのキラキラのままでは衣服にはできませんので、皮塊(かたまり)の状態にしてしまいたいところです。そうしておけば形や色もある程度自由に使えますし、保存性も良く、何より場所を取りません。

 新しいデザインの衣類との出会いが今から楽しみでございます。同じデザインの最高防刃性能の衣装がすぐに作れるのですから。


 あたくしはトカゲ肉の調理法や、周囲の景色などを見ながらのトラク旅でございますね。そうは言っても右の山が近く、左側の木々も濃いので景色の方は代わり映え致しませんが。


 お昼の休憩の後、少しして村が見えて参りました。大きな木に寄り添うように立つ家が多いところを見ますと、強い風が吹くのでしょうか。広い畑が両側に街道を挟んで広がっています。野菜と豆類ですね。

 建物の数は150軒ほど、人口は5、600人といったところでしょう。ミットさまが周辺の空中散歩で情報収集にお出かけされますと、アリスさまが畑の草取りをしているお爺さんに声を掛けます。


「こんにちはー。ガルツ商会のアリスと言います。ここはテロング村でいいですか?」

「ああ、そうじゃよ。わしはネイドルじゃ。商会と言うのは行商のことかい?」

「あー、似たようなものですね。買付けもしますし、他にも色々と。村の代表に会いたいんですけど、どうしたらいいかな?」

「村長の家はこの道の右にある大きな家じゃ。ダウベルトの家は他とは違うからのう。すぐ分かるじゃろう。今なら家におるはずじゃ、行ってみなされ」

「ありがとう」


 右の大きな家、ダウベルトさまですか。行ってみましょう。

 辺りを見たところ、山越えをするならこの畑の手前で右に分岐して行ったほうが、良さそうですね。


 どの家もせいぜい7メルくらいの幅でしたが、こちらは3倍以上もありますね。しかも3階建てです。間違う方がおかしいでしょう。

 アリスさまが向かわれますので、あたくしも付いて参ります。


「こんにちは。ガルツ商会のアリスです」

「あたくしはシロルと申します」

「カントロールで出店を出しとった人かね?話は聞いてるよ。わしはダウベルトじゃ。手に負えないトカゲを討伐してくれたとか、ありがたいことじゃで。で、用向きはどのようなことで?」

「港のことを聞きに来ました。近々大きな船を呼ぶので、着けられるか、場所があるかなどですね」

「ここの船着場は小舟しか繋げない。大きな船など無理じゃぞ」

「やっぱりそうですか。この山の向こうに大きな河口がありますよね。そこって使ってもいいものでしょうか?」

「山を越えるのは大変じゃぞ?山菜やらキノコ、ウサギ狩に行く程度じゃからあまり荒らしてほしくはないが、トカゲ(アガマ)を討伐してくれたしのう。どうされるつもりじゃ?」


 あたくしはこの辺りの地形図を大きな紙に描いていきます。それを指しながらアリスさまが説明していきました。


「畑の手前、この辺りから街道を分岐させて8メル幅で山に穴を掘って向こう側に抜けようと思ってます。船着場はこの河岸に沿って10メル幅の台を作って、前後に100メル程伸ばします。倉庫が欲しいので道の両側に大きめのを二つ建てます。あとは街道を8メル幅でカントロールまで整備しますが、村を通る道もついでに広げたいです」


「山に穴を掘る?10メル幅の台で船着場に倉庫?一体何年かけるつもりじゃ?」

「トンネルと道路が一番時間がかかりますね。3月くらいでしょうか?」

「信じられんが、話の通りならこの村にも恩恵はあるか。街道を広げると言うのはこっちの海沿いもか?」

「はい。この先にも町や村はあるのでしょう?道が良くなれば、物の売り買いも増えますよ」


「それで、村の負担はいくらかかるんだ?」

「今あたしが言った分は一切かかりません。立ち退きやらでご迷惑かと思いますがその補償もできません。家の建て替えなどの協力はできますが、そうなるとお金がかかります」

「村の中は後回しにしてもらおうか。皆に聞かねば、わしの一存というわけにも行くまい」

「結構です。船着場、トンネル、倉庫、北の街道整備については進めていいですか?」

「ああ。負担がないなら是非お願いする」


 あたくしはシルバにシルバ隊の招集を知らせます。どのくらいの台数を引っ張って来れるかで大きく日数が変わりますから。


「ではあたしは調査を始めますね」


 アリスさまは一旦これで切り上げるようです。あたくしも一礼して後に続きました。


「ここまで来たんだから海沿いまで出てみようか」


 6メルほどの幅の街道を揺られながら進んでいくと左右の家並みと左手の森が途切れ、先に見えていた防風林の間から桟橋が見えて参ります。10艘ほどの小船が、2本の桟橋に分かれ波間に揺れていました。一本帆柱に斜めの長い帆桁。ラティーンセイルと言われるもののようです。

 舵やオールまでは見えませんが、5、6人で漁に出るのでしょう。近海、沿岸であれば十分ですね。あいにくの曇り空で海面も灰色ですが、遥か彼方まで水平線が広がっています。


 防風林はそれぞれ1メル半弱の間隔で、西の岬から遥か東へと海岸沿いにうねるように並んでおり、どれも幹が太く枝葉が濃い割に6、7メルと高さがありません。根が大きく張って地面が盛り上がり、それが列を成しまるで堤防のように見えます。

 桟橋の前だけ2箇所間隔が広くなっていて、それでも通りにくいのでしょう、前後に斜路が作られています。


 街道はその手前で左に折れ、10メルほど離れたところを走っているようでした。左手は赤茶けた荒れ地で植生は疎らです。


「ふーん。こっちは砂地っぽいか。この岬は大事にしないといけないみたいだね」


 アリスさまの言われるように、この村が沿岸に有り続けることができるのは、岬から数百メルの範囲、堆積土や腐葉土のおかげのようですね。

 ですのにこの防風林が大きく育っているというのは、相当な手間がかかっているということでしょう。


 ミットさまが現れる微かな振動をセンサーが拾います。もともと、体の周囲の空気を揺らさずに動き回る方ですから、転移前後の空気の揺れはごく僅かです。

 トカゲ(アガマ)がそれを察知したらしいと聞いて感度を随分上げ、始めて捉えたような次第ですが、まだ誤作動も多く調整の余地が多分にあります。ですが、このトラクのような室内であれば、30%程まで確率が上がります。


「アリスー。あたい、ここ気に入ったよー。岬のちょっと手前に高いとこがあってさー。そこの大木の上!

 もう周りぐるっと見えるんだけど、海沿いの街道から森にカントロールに山の連なりでしょ。そんでおっきな川の向こうにまた山がずーっとあって、これが川に映ってさー。すっごいんだよー」

「んー?あんた、その景色をずっと見てたの?」


「うん。村からもトンネル掘ってー、途中にエレベーターで展望塔ってよくなーい?」

「むー。村からいくらか取らないと商会の規約違反になるよ?あたしとミットの発案にしたって結構な額になると思うな。それより調査の方はどうなってるのよ?」


「えっとね。川の水深はたっぷりだし、1ケラルも幅があるから船の取り回しは問題ないよー。でもねー、首長トカゲが泳いでたよー。エサは小魚みたいだけどー」

「ふーん?一応警戒はした方がいいか。他には?」

「水がすっごく冷たかったよー。あれじゃジャスパーは寄り付かないんじゃないかなー。あと、対岸のちょっと上流におっきな洞窟があったねー」

「へー、ずいぶん頑張って調べたね」

「そりゃ、あたいだってやるときはやるよー」


 畑まで戻りあたくしがトラクで交差点とカントロールへの道から作っていくことになりました。ミットさまはアリスさまを連れ、船着場の下見と洞窟の調査です。

 アリスさまに許可をいただき、モニターをしながら道路作成を進めていくと致しましょう。


   ・   ・   ・


 アリスさまはまず、トンネル出口の位置についての検討ですね。こちらの河岸は余り出入りがなく、水辺が急傾斜になっており、平地などは全くありません。


「見事に平らなとこがないね。タイタロス島と同じように、10メル幅で護岸を作って船着場にしちゃう感じだね。トンネルは短い方がいいから、ここらかな?山の一部を切り欠いて倉庫を建てることも一緒に作るよ。シルバ隊の足場になるから」

「ふーん?じゃあ、あたいは倉庫の場所の土を移動したげるよー」


 アリスさまは出口部分だけ200メル四方の造成のため、ミットさまに抱えられ空中からナノマシンの散布を始めました。

 ミットさまが造成場所の立木を引き抜いて、倉庫用地の余剰土砂を川岸に転移すると護岸の造成が加速します。材料の移動ができると、50セロ厚程度の表面処理だけですから造成は倍くらい早く進行しますね。

 ミットさまがマシンの回収をさせると言ってミケを連れて行ってしまいました。


「ここはミケの箒に任せて展望塔を見に行こーよ」

「え?わわっ。ちょっと」


 ミットさまは岬の上空へ移動したようです。

 なるほどこれは素晴らしい景色です。曇り空の下というのに、遥か先まで広がる濃い色合いを湛えた一面の海。波は穏やかです。

 ミットさまが浮遊したまま回転したようで、見えてきたのは広い河口の向こうに広がる森が色を分けて続く海岸線。北西の奥に白い帽子を被り、裾を青く霞ませた山々が見えています。


「へえー。ミットが言うだけあるか。天気が良かったらすごいだろうね、これ」

「でしょー?ここ、そんなに高くないんだよー?」


 川の上流は東へ大きく回り込んでいるようで遠くまでよく見えています。あれがミットさまが言われていた洞窟でしょうか、水面近くに小さな黒い穴が見えています。

 そのままさらに視界は右へ回り、濃い緑の山並みのは遠く先程の山脈へと続きます。木々の合間にぽっかりと家々の屋根が見えるのはカントロールの町ですね。

 その奥の方、水面は見えませんが広く木のないあの辺りが乗り場近くの湖でしょうか。曲がりくねったカントロール行きの街道が森の所々に顔を出す鬱蒼とした森。


 一転して植生の疎らな荒れ地は数10ケラル先まで森との境目をくっきりと赤茶と緑に分け、さらに回ると海沿いの細い街道が防風林と並んでどこまでも続いています。浜は幅広く遠目には砂浜と見えますが所々に黒い影があり、岩が突き出ているかもしれません。


 アリスさまは声もなくしばらく見ているようでした。


「いーでしょー?」

 アリスさまは景色から目を離しませんが、ミットさまの得意げな顔が見えるようです。

「うん。いいねこれ!」

「よーし。じゃ、おっ楽しみに行ってみよっかー」

「え、あ、洞窟ね」


 一瞬で川面を隔て、大きな黒い口を開けた洞窟の前にいました。岩が苔で緑に覆われ、周囲の木々の枝葉も相まって不思議な雰囲気です。

 ミットさまがそのまま洞窟に転移します。入り口から少し入った辺りで目を慣らし、さらに奥へ。アリスさまが灯りを翳し周囲を照らすと岩が青く光り、さらに広くなっていることが分かりました。左手が一段高く歩けそうです。

 ミットさまがそちらへ転移するとアリスさまが見回す視界に、上から下がる青い槍のような石が何本も飛び込んで来ました。それらの表面が反射だけとは思えない透明感を伴って輝く、数多くの石に覆われています。

 宝石でしょうか、なんと幻想的な光景でしょう。


 足元はとても平らとは言えず岩が波打つように上下し、岩盤の皺に手足をかけ登ったり転移で登り降りしたりですが、天井が高くそう窮屈な道行ではありません。


 そんな大岩を越えようと岩場を見上げたときでした。

 ミットさまが振り返ります。

 アリスさまも釣られたように後ろを振り向くといつの間に寄ってきたのか、3メルほどの高さに揺れる緑の光が二つ。その下に横一文字に白く反射する鋭い歯列が現れました。顔の大きさと高さからヘビかと思いましたが、向けられた灯りに反応してか風切り音と共に振られた首は、左の水路の上まで大きく動きます。


「んー?でっかいねー」


 のんびりとした口調とは裏腹に素早く剣を抜くミットさま。視界の端にアリスさまが準備された太い針が映りましたが、再び迫る大きな口にはまるでノコギリの様なギザギザの尖った歯。その顔面に立て続けにミットさまの双剣が打ち込まれ、間隙を突くように口中に針が飛びます。斬りつけた目の辺りには傷一つ付けられませんでしたが、針は効果があったようで、嫌がるように首が遠ざかりました。


 前に立っていたはずのミットさまがフッと消え、遠くに振られた首の後ろに現れます。あたくしは画像の感度を上げました。

 ミットさまが空中で頭を挟むように両手を翳している姿が映り、次にふうっとそのトカゲ頭が水面に落ちてしまいました。大量の血が噴き出したらしく、水面の温度が上がっています。

 どうやらミットさまが遮蔽材(タングステン)爆弾で仕留めたようです。


「アリスー。これどーしよーかー?」

「トラクまで運べそう?」

「どーかなー?ちょっと持ち上げてみるねー」


 ザバァッと持ち上げられた体は、尾まで入れると4メルにも及び、太い胴体は1メル近くあります。


「んー、2500キルくらいかー?先にあんたたちを運んじゃうねー」

 あれをここに持ってくるんですか?あの場所では解体は無理そうですもの、仕方ありませんか。


「ミットさま、ミケも回収お願いします!」

『あー。忘れてたよー。連れてくねー』

「『はい、とーちゃーく』」

「ミットさま、あの首長トカゲはトラクの前にお願いします。いまトラクを退げますので」

「『あいよー』」


 そのあとはすっかり顔色をなくしたミットさまが、倒れ込むように衛星軌道のカプセルへ跳んで、あたくしは残された水生首長大トカゲの解体をトラクで行いました。

 四肢が大きなヒレになって、尾にも上下に厚い板状の突起があり、泳ぎに特化した体の作りでしたが、丈夫な皮を剥いでしまえば後は肉と骨。困るのはその量です。内臓はとても食べきれないうえ、保存も間に合わないので埋めますが、積む場所を作らなければなりません。


 アリスさまが一旦は縮小していた荷車を、10メルまで拡張して冷蔵パイプをまた配管してくださいました。できたばかりの道路を受け皿代わりに、干し肉に加工した肉が1トン以上も取れました。

 皮も肉と骨をクロミケが運んだ後、脂肪などを削ぎ取り、皮塊(かたまり)にまで加工するともう夕方です。今日は500メルしか道路を進められませんでした。


 お疲れのミットさまがそろそろお帰りになる頃です。夕飯の仕上げをいたしましょう。


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