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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第14章 海上交易‬
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10 トカゲ・・・ミット

 これまで:カントロールで急に現れた道が見つかってひと騒動。その説明を兼ねて町の幹部5人と猟師ネイリスを伴い乗り場まで案内した。

 カントロールは山間(やまあい)の町だ。300メルの上空から見るとそんなに大きくはない。町長のキルスグリーは4500人って言ってたか。西側に森があって、3ケラルほど行ったところから山並みになってる。


 木が混んでるから上から見てもよく分からないか。

 あたいは50メルまで降りてふらふらと漂ってみた。上下に動くのは割と簡単にできた。ジーナもやってるしねー。でも横に動くのは難しい。どーいう理屈で浮いてるのかもわかんない。できるからできちゃう。そんな能力なんだ。

 で、その難しいことをあたいは今やっている。気配は相手にもよるけどそんなに遠くからじゃ分からない。だから近くへ行くけど広く見て回りたい。


 でもこれ、つっかれるわー。30メニも頑張ったら頭が痛くなって来たー。ちょっとセーシキドー……って、なんかいたねー。

 木の間へすーっと降りていくと黒いのが木漏れ日でキラリと色が踊る……見たことあるよ、アイツ。どーしよーか?せっかく見つけたんだけどあたい一人じゃ手に負えない。目印くらい付けたいけどあの鱗は何にも受付ないくらい固いし。


 相手が分かっただけで良しとしよーか。セーシキドーに転移してアリスを呼ぶ。


「アリスー、見つけたよ。アイツだよ、サイナスの森にいたキラキラベトベトトカゲー」

『うえっ!あれかー、皮は固いから欲しいけど、あの厄介なやつかー。あの時と同じやり方でいいかな?』

「見つけたとこは山の斜面だったよー?うまく包囲できるかなー?」

『何匹いるかも分かんないからね。探して包囲して集中攻撃、その後回収だもんね』

「それきっとできないよー?足場悪いものー。回収も大変だよー」


『回収はハッシンキーっての付けとけば、後で探し易いみたいだよ?』

「あたいが見つけるのもしんどいんだよー?浮いたまま移動するからねー。30メニで頭痛くなったよー」

『ドロン使ってみる?ケルヤークの疫病で使ったやつ?ミットならちょっと練習すれば、すぐ乗れるよ?』


 となると後は攻撃方法かー。みんなが来るの待ってるって言ったって、山じゃそうは動けない。

 口の中で勝手に動くような武器を食わせちゃえばいいんだけど。なんか無いかなー。口を開けさせて、あのネバネバを避けながら口に放り込むと、中でトゲトゲが暴れるー、みたいな……


 遮蔽材(タングステン)かー。アカメは遠くても自由に変形させるからタイタロスじゃ、あたいを噛み付きに来る巨大魚(ジャスパー)の口に放り込んでやった。もっと近ければ転移で放り込む……


 んー?近ければ転移で放り込める。転移なら口でなくたっていいんだよね?うまくやれば、もしかして狩ホーダイ?これはもう少し詰めないとー。


 あたいは準備に2日かけた。アリスにもわがまま言ってあれこれしてもらった。これならと思うとこまで煮詰めたよー。明日は朝から、トカゲ狩だ。


 それはそーと、あたいが準備に余念のないのをいーことに、売店の売り上げは鰻登りだ。悔しいけど町の名士6人の影響力は大きいということかー。


   ・   ・   ・


 森の梢からいくらもない高さであたいは漂っていた。ブーンと四方から聞こえる低い音が邪魔だけど、気配の形は覚えている。この高さなら見落とすことなんてない。


 山裾から1定の幅で行ったり来たり。行き来の度に段々と上に登っていく、しらみ潰しの探索はもう1ハワーも続いていた。ドロンの音に驚いたか、影に怯えたのか6本先の木の枝から鳥が数羽、山を降って逃げ去った。


 ピリッとした気配が刺さる。あたいが待ち望んでいたその気配。あたいは転移で梢の下に潜り込み、薄暗い森に静かに目を凝らす。

 上空でブゥンと音が小さくなったのは、あたいの体重が急に消え、その分ドロンが上昇したから。アイツはあそこであたいを待っていてくれる。


 あの低木の脇、黒い影のように(うずくま)るのがあたいの獲物だ。ベルトからそこらで拾った枝を抜き、投げ付ける。トカゲはするりと躱し、姿を見せた。思ったよりも小さい姿に戸惑いはあったけど、ともかく背中へ転移して両手で頭を挟み付ける。

 驚き慌てるトカゲを、押さえつけるように挟む掌の間に小指の先程の遮蔽材(タングステン)を跳ばした。

 一瞬に網目を頭蓋一杯まで広げたのは予定の通り。だがその結果はいささか刺激の強いものになった。トカゲの鼻と口から大量の鮮血が噴き出したのだ。


 頭蓋の内部を切り裂かれ一瞬で絶命したトカゲの心臓は、主の死にまだ気づかず数回の拍動で血液を送り出す。けれど首から先の組織は口腔内まですでに切り刻まれていて、その圧を止めるものなど無かった。その固い皮に最初から開いている穴から噴出するのは、思えば当然だ。


 そしてその血は低木の葉で跳ね返り、あたいのせっかくの防刃装備に、点々と赤い水玉模様を付けてしまった。


「あちゃー。失敗したねー」


 転移で振り落とそうとするが、既にいくらか染み込んでいて振り切れない。仕方なく頭蓋から遮蔽材(タングステン)を回収してトカゲをふわりと持ち上げ、後脚にロープを回し枝に縛ると、体長3メル近いトカゲを高い枝からぶら下げた。

 血は面白いように抜けて地面に撒き散らされる。あたいはその足に小さな紐付きの円盤を括ると、その真ん中を一つぎゅっと摘んだ。


 今頃クロミケの頭の中で、小さな光点がぴこぴこしてると思うと笑みが溢れた。


 上空へ転移すると、10メルほど流されたドロンを見つけて跳び乗れば探索は続行だ。

 今度はそれほど間を置かず次を見つけた。山の上に登るにつれ当たりが多くなる。どうやらこうやら6頭を仕留め、先へ進むと強い敵意が刺さって来た。まだ距離はあるようなのに、これまでとは比べ物にならない痛みが走る。


 ドロンから樹冠の下へ跳ぶと殺気のラインが2本。目に見えるかと思うほど強烈だ。

 出所は太い木の数本先、1頭は黒く姿を(さら)していて、でっかい。オスだろうか?

 もう1頭はそれに比べると小さな気配だけどこっちの方が殺気は強烈だ。あの灌木の辺りに潜んでいる。(つがい)っぽいねー。


 あたいは木の枝をメスじゃないかと思う方に投げ付けた。姿を晒しているオスの真上に転移する。メスが驚いて飛び出す動きはこいつの注意を引いたはずだ。

 その首の後ろへ両手を構えて出現と同時に遮蔽材(タングステン)を叩き込むつもりで跳ぶ。だがオスは頭を下げ後ろ足を跳ね上げた。お尻をイヤというほど突き上げられ、遮蔽材(タングステン)が手から落ちる。宙に舞ったあたいに向かって、メスのベトベトが飛んで来る。転移で逃げるが、どうやって位置を知ったのかオスがこっちを向き口を開けた。


 こりゃまずいよー。

 あたいは一旦上空へ退避した。あたいを追いかけるようにベトベトが樹冠を突き抜いて、枝に絡み、ねっとりと垂れ下がっていく。


 あたいは狩の途中で見かけた、幹だけの倒木と共にメスの上空へ転移した。気配を頼りに真下に向け加速する。樹冠ギリギリまで位置を見極めて突き立てた。

 勢いをそのまま、あたいはもう一度オスの背に転移した。直後メスのいた場所に倒木がドカンと落ちて四散する。その破片があたいに届く前に、頭蓋の中を破壊する遮蔽材の発動が終わらせるつもりだった。

 落下の衝撃に首を縮めていても、メスが吐き出すネバネバは、あたいの腰から左腿にべったりと当たった。地面にくっつくまえに上空へ逃れたあたいが樹冠に開いた穴から見たのは、そこから差し込む日を浴びてキラキラの光を撒き散らし咆哮する2頭のトカゲだった。

「「キシャーーー!」」


 ちっくしょー。勝ち鬨かよー。

 あたいはアリスにツーシンを入れて、お風呂の用意を頼んでトラクの前に転移した。

 ネバネバをナノマシンで分解してもらい、熱いお湯で(こそ)げ取ってもらうと、あたいは念入りに洗って湯船で対抗策を考える。


 ネドルじゃ網を使って魚を捕ってたけど、丈夫な網をかけたら自由に首が動かせないよねー。首さえ押さえちゃえば、きっと何とでもなるんだよー。でも2頭でも手に負えないのに、団体さんの相手なんかできないねー。


「アリスー、丈夫な網を作ってほしー」

「網なんて何に使うのよ」

「キラキラトカゲに被せるのー。何とか作ってー」

「むー。トカゲ用か。動きを止めるんなら、柔らかくないと絡み付かないよね。マノさんに聞いてみるよ」


 最初は静かだったんだけどねー。ブツブツの声がだんだん大きくなって、そのうちマノさんにキレてたよー。まー、いつものことだけどー。

 その間にあたいは、健気にあの木の辺りの空中で待っているドロンを回収して来た。


 アリスは1ハワーくらいで8メルの丸い網を5枚作ってくれた。柔らかいのでちゃんと丸められるんだー。


 あたいはそれを持ってドロンごと森の広い場所に跳び、広げたまま重ねて置く。まずはあの(つがい)のいたところだ。2ハワー近く経っているけど、居ないにしてもどっちに行ったかくらいわかるはず。

 転移した途端、ピリッと来る感触に位置を確かめるため梢の下に跳んだ。あたいがまた来たと分かっているだろうに、射竦めるような殺気以外に反応はない。メスは灌木寄りだけど、オスは網が使える場所だ。


 あたいはすぐさま網を取りに戻り、オスの3メル上で広がったままの網を被せるように落とす。メスのベトベトを躱し枝を投げ付けると、すぐに下生えの疎らな場所へ降り立った。オスにはうまく網が掛かって、動くほどに足が絡んでいく。メスは少し離れたあたいを射程に収めようと走り出した。

 良さそうなところで、その背後へ跳んで動きを止め、網をもう一枚取ってくると、その真上に転移した。その間に移動した分の位置合わせで、もう一度の転移のあと網を落とす。


 網の中で暴れる2頭を離れて見ていた。オスは吐き出したベトベトが網に絡んで酷いことになってる。もう周りなんて見える感じじゃないので、そばまで漂って行ってメスの頭を先ず吹き飛ばした。

 オスの近くまで跳ぶと大きく暴れ出した。出現するのが分かるのかな。そのまま見ていると動きが止まったので、浮遊で近寄ると遮蔽材(タングステン)爆弾を弾けさせた。


 自分じゃ分かんないけど、ジーナが転移して来た時に微かに空気が揺れる感じはあったかなー?そー言うのにこのオスは敏感だったらしーねー。にしてもせっかくの網が1回でベトベトだよー。2枚の網を連れてアリスのとこへ転移した。


「アリスー。上手くいったけど、網がこのザマだよー」

「うえっ!こっちはひどいねー。ベトベト(まみ)れじゃない!」


 網の掃除を拝み倒してあたいは狩に戻る。夕方までに単独で動いてた4頭を仕留めた。いくらクロミケが力があると言っても12頭は運び切れない。仕方ないので8頭はあたいが運んであげたよー。


   ・   ・   ・


 翌日もあたいの狩は続く。単独のやつは見つけたら3回くらい至近距離で転移を繰り返し、混乱させてからとどめの爆弾で問題なく狩れる。

 4頭を仕留め、次を探しているとまたあの痛いような殺気があった。これも(つがい)か?


 枝をかき分け降りていくと大きなオスが3頭、小柄と言っても3メル近いのが1頭。あたいが現れたのにもお構いなく、4メル近い巨体をぶつけ合うように3頭が争っている。何してるんだろね。


 こっちを無視するなら都合がいい。あたいは網を1枚連れて戻ると、オスの1頭の上に落とした。次は当然警戒されているのでハエが飛び回るように、3度の転移を立て続けにやってオス1頭を捕獲。

 同じ手で更にメスをと言うところでオスのネバネバ攻撃が飛んで来る。続けて吐けないことは分かっているので、瞬間1メル上に転移し網を落とすと、最後のオスの周りを(うるさ)く転移で撹乱した。

 混乱した頃合いで首の後ろへ跳び、遮蔽材(タングステン)を頭蓋内部で発動すると、口と鼻から大量の血を噴いて大きなオスは地面に(くずお)れた。


 後は網が絡んで動けないトカゲを淡々と始末していくだけだ。最初はどーしよーかと思った相手だったけど、狩り方が決まってしまえばこんなものかなー?


   ・   ・   ・


 狩は5日目に突入した。連なる山地の粗方を一度は通って、探索をしている。駆除の終わったところに、縄張りの主がいないのをいいことに入り込んでる奴もいるだろう。


 あたいは今日から2巡目を始める。シロルとアリスはあたいを置いて、南の海を目指して街道を降り始めた。なんてハクジョーな奴らだ。

 あたいは昨日腹いせに12頭もトカゲを道に積み上げてやったよ。解体が終わらなければ先に進めないからねー。へへん。


 それでも朝から探索をやってると5頭も引っかかる。もう少しやったほーがいーかなー?


 あたいはネイタスと町長のキルスグリーに相談することにした。


「トカゲだけどさー、もう5日も山中を跳び回って40頭も狩ったよー。2巡目は軽く回って5頭狩ったけど、後どーするー?」

「何?そんなにいたのか?山中と言うがどのあたりまで回ったのだ?」


 あたいはボードのチズで南北60ケラルの範囲をしめす。


「そうか。もう十分だ。それだけアガマを狩ってくれたのなら当分は大丈夫だろう」

「少ないが町からのお礼だ。50万シルを受け取ってくれ」


 アリスが肉を大量に町に渡してるしねー。これくらいはもらってもいーかー。

 てか、アガマって言うんだ。アレ。

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