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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第14章 海上交易‬
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9 町長・・・アリス

 これまで:カントロールの乗り場に降り立ったアリス一行。湖から街まで森を切り拓き進出する。在庫処分を兼ね売店を開きつつ情報収集を行なった。

 翌朝は雨だった。どんよりとした空からシトシトと降る雨に冷たい風。

 ミットは遅くまでぬいぐるみを作っていたようで、朝食を食べたらまた寝てしまった。


「アリスさま。外で何か騒ぎが起きています。

 ……北の道がどうとか……あ、昨日繋いだ道のことでしょうか?」

「あれあれ、しまったかな?町の偉いさん捕まえて言っとくんだったか」


 あたしは雨具を羽織ってトラクを飛び出した。広場の一画に屋根付きの舞台がある。そこに5人ほど集まって何やら議論中だ。後ろに兵士っぽい影が何人か並んでいる。


「町長は聞いておらんのか?」

「山の獣が出て来たら一大事だぞ」

「まだ出て来たと言う報告はない。念のため5人頼んで見に行かせた」

「一体いつあんなものができたんだ?」


 うえっ。これは間違いなくあたしが作った道路が槍玉に上がってるよ。


「あのー?その道路の件なんですがー?」

「なんだい、お嬢さん。見掛けない子だね。どちらさんかな?」

「あたしはガルツ商会のアリスって言います。昨夜(ゆうべ)はそこで飾り物を売らせてもらいました」

「ああ、報告は聞いている。珍しい色の綺麗なものばかりらしいな。今夜辺り家内と娘を連れて見に行こうと思っていたよ。私は町長のキルスグリーだ」

「ありがとうございます。それで、その道のことなんですけど、作ったのはあたしです。昨日の夕方……」


 みんながわっとこっちを見るので言葉が途切れる。


 真ん中の背の高い白毛混じりのおじさんがパチン!と額を叩いた。


「一体なんだって?ほんとにかね?あんな固い平らな道を?」

「あ、はい。あのー、チューブ列車って聞いたことあります?」

「ああ、そんな言い伝えがあるのは知っておる。それがなんだと言うのか?」

「あの道の先にチューブ列車の乗り場があるんです。あたし達はそこから来ました。乗り場から出たら道がないんで近くの町まで……ここですけど、道を作って繋いじゃったんです……」


 おじさんたち、目が怖い!


「さっきの5人にネイリスは入っているのか?」

「いいえ。娘の誕生日がどうとか言ってたので外してます」

「すぐ呼べ!今の話を確かめる必要がある!」


 制服姿の槍持ちが駆け出した。


「ああ、ワシは商会長のグレッグ、こっちは兵長をやってるセイラム。学者のキントス、相談役だ」


 早速キントスが紙にペンを構えて質問を始めた。


「古文書にいくつも町の名前が出てくるのだ。いくつか言ってみてくれぬか?」

「あ、はい。商会の本拠地はハイエデンと言います。次に行ったのはケルヤークで、ネクサール、ヤルクツール、ナーバス、トリスタン、えーっと、ああ。ライカース、タイタロスにネドルです。名前の無いのが3つかな。トリラインには13の乗り場があります」

「ふむ、見覚えのあるのがいくつかあるな。それは後で確かめる。次は道だがどのようなものだ?」

「幅は3メル半で作りました。距離は3ケラル半くらいかな?6ハワーくらい掛かってます。邪魔になる立木を30本くらい切っちゃいました」


 間が空いたとこへセイラムさんが聞いてくる。


「ああ、木か。そういえば倒した木はどうした?」

木質(セルロース)に加工して道端に積んでありますよ?」

「あの丸太は見たよ。枝が大量に出るはずだがそれはどうした?根もあるじゃろう」

「え?あ、そっかー。普通はそうだよね、枝も根もあの丸太になってます。って言っても分かります?」


 うっわー、キントス、ブルブルして、なんか怒ってる?


「……3ケラル半?6ハワー?それはいくらなんでもおかしいじゃろ。木の伐採にそんな加工までしてあのように整頓された道を?何を隠しておる!?」

「こら待てキントス!落ち着け!おい、そっちで休ませろ!」

「「はっ」」


 兵士が引き摺るようにキントスを抱え、舞台の向こう端に座らせていた。ボソボソと宥める声が聞こえる。


「あー、済まない。興奮するとちょっと性格が変わるんだ。普段は穏やかな男なんだが。しかしチューブ列車か。さっき言っていた町に行けるってことだよな?」

「人だけじゃなく馬車ごと乗れます。15台一度に運べるって言ってました。あたしが乗って来たトラクで12台です」

「馬のない馬車と門番からの報告があったな。ふーむ」


「兵長、ネイリスが来ました!」

「北に続く新しい道ってほんとですかい?」


 背に剣と弓を背負い黒い革鎧を着たネイリスが、舞台に身軽に飛び乗った。

 へえ。


「あれ?あんたは昨夜の櫛を売ってくれた……」

「アリスです」


 チラとキントスを見て顔を(しか)めた。


「なんかやらかしたか?」

「うふ。道を作ったのはあたしなんです。それで質問に答えてたら、あんな感じで……」

「道って北に続くってやつ?あー。で町長の護衛か。分かった。すぐ行くのか?」

「ああ。兵士が5人、先に行っている。奥にチューブ列車の乗り場があるそうだ。それを確認したい」

「ワシらも行って見たいのじゃが、どうじゃ?」


 わがままな町の幹部にネイリスが答える。


「そんな人数連れてけねえよ。この町の兵士全部集めたって無理だ!」


 何割か?はうちのせいだ。協力する姿勢は見せておこう。


「あのー。うちのトラク出しましょうか?ちょっと窮屈ですが町長さんたち5人なら乗れますよ?」

「それも見ておかねばならんと思っていた。頼めるか?」


 あたしはクルリと後ろを向くとツーシンで呼んだ。


「シロル、ミット。町長さんたちを乗り場に案内することになったから、トラクを持って来て」

『なーに、アリスー?なんかやらかしたかー?』

「まあ、そんなとこ。お客さんが5人乗るから片付けといて。あたし達は昨日のネイリスさんと歩くよ」

『分かったー。用意するー。切るよー』


 振り向くと皆さんぽかんとしてるけど構うとこじゃないね。


「トラクは直に来ます。中でシロルがお世話しますので町長さんたち5人は中に乗って下さい。あたしとミットはネイリスさんと歩いて先導します。距離はここからだと4ケラルちょっとですね」

「そんなに近いのか?」


 後ろから車輪が地面を踏む音が近づいて来る。振り向くとクロが先導するトラクがいた。


 ミットとシロルが降りて来て

「どうぞ。窮屈かと思いますがこちらへお乗りください。あたくしはシロルと申します」

「あたいはミットだよー。おー?ネイリスー、あんたも行くのー?」

「ああ。私は先導役だ」

「キグーだねー。あたいもだってー。なんかいい獲物、出るかなー?」

「こら、ミット、絡まないの。みんなが乗ったら行くよ」


 道には雨のせいか、物が出ていないので、ガタガタ揺れるトラクは順調に進んで行く。門番にはネイリスが一つ手を振ってそのまま通過した。新しく作った道の交差点を左へ曲がる。ここからは揺れないので、シロルが準備したお茶を振る舞う頃だ。


 ネイリスが道端に積まれた丸太を(いぶか)しげに見て、平らな路面を短剣で叩いたりしている。

 納得したのか諦めたのか、先へ歩き始めた。いつものようにミットが先に立つ。


「ミットちゃん。先頭は危ないよ。私に任せてくれないか?」

「んー?あたいはどっちでもいーよー?左に回るねー」


 道を調べている兵士を追い抜いて、半分ほど来ただろうか。


「右になんかいるねー。200メルかなー」


 ネイリスは半信半疑と言ったところ。

 50メルほどそのまま進む。


「来たよ、2頭。クマっぽいー」


 途端に草むらを突き破って右前方から2メルほどの熊が2頭。

 ミットの警告は聞いていたからね。あたしの弓はもう番えてあるよ。

 慌てたようにネイリスが背の長剣を抜き放つ。


 足場のいい路面を左右に体を揺らし向かって来る熊の一番大きな的、胸辺りを狙って矢を射込む。

 ミットの矢は眉間を捉えた。あたしは少し外して腹の上。直ぐに二の矢を胸に向け放つ。今度は当たった。やっぱり針がいいなぁ。


 ネイリスが構える長剣の5メル手前で2頭の熊が路面に転がった。呆然とするネイリスの横をクロミケが回収に出て行く。

 矢を引き抜くとロープをそばの木の太い枝に投げ、熊の足に結わえて吊り上げる。首の血管を切って血抜きが始まる。


「先行くねー。任せたよー」


 ミケが親指を立てた。

 ネイリスが我に返り、一つ首を振ると長剣を背に収め歩き出した。


「熊ー、小さいねー。でも干し肉は楽しみだよー。あのかったいのを薄く切って食べると美味しーからー」

「ミット、あれ好きだもんね」

「ネイリスは熊肉は好きなのー?」

「いやちょっと待て。熊なんてそうそう獲れるものじゃないだろ?」

「えー?そうなのー?じゃあ2頭も出てラッキーだったねー」


 程なく迷路の壁が見えて来た。ミットの声がかかる。


「壁の右の影。多分鹿」


 言うが早いかミットは気配を消し、するすると道の右へ出るとそこで転移した。

 向こうへ回り込むつもりだね。あたしも右の木に駆け寄り弓を構える。上空に一瞬ミットの姿が見え、すぐに消える。鹿の群れに悲鳴が上がる。一頭が倒れ10数頭の群れがこちらへ走り出した。ネイリスは道の左の木に逃れ、弓矢を引き出す。

 あたりを(ろう)する蹄の音の中で、あたしはメスの首に一本射込んだ。ガクンと脚が落ちたところへ胸あたりに2本目。ネイリスも後脚に一本、止めの2本目で1頭仕留めた。


 群れが走り去るとクロミケが回収にやって来て、2頭を吊し血抜きを始めた。さっきの熊はとっくに皮を剥いで、そっくり冷蔵庫へ収めてしまったのだろう。クロがミットの仕留めたオス2頭を回収に行った。


 ネイリスが血抜きするミケを見ながら

「ミット嬢の戦闘力はものすごいな、一体どうしたらあんなに早く気配が察知できるんだ」

「あー。あたいの気配察知はねー、ちょっと説明しにくいんだけどそう言う系譜らしいよー。血の繋がりは無いんだけどねー」


 その間にもシロルはトラクを突き当たりまで進め、仮の壁を消しに掛かっている。ある程度の説明も進めているだろう。

 鹿4頭は流石にそのまま冷蔵庫に収まらない。穴を掘って内臓を埋め、脚を外して大まかに分け、なんとか押し込んだ。

 壁が消えてもクロミケの鹿の始末が付くまでトラクは動かなかった。


 トラクが壁を越えるとあたしはまた仮の壁を立てておく。前へ回るとみんな降りて暗い通路を覗き込んでいた。

 ミットとシロルが灯りを配り使い方を教えている。


「この奥がチューブ列車の乗り場です。暗いですから気を付けて付いて来てください」


 8人で暗い通路を灯りを翳して進んで行く。後ろをトラクがついてくるのはシロルが遠隔で操縦してるからだ。こうやって歩いた方が緊迫感があっていいし。


 通路の突き当たりは左右に3メル半の乗り場で1メル20の低い壁がある。その向こうは6メルの深さの円筒形。左の角を曲がってすぐの壁をポンと触って見せた。

 ボワッと浮かぶ太く丸い線を指してあたしが説明する。


「この一番下がここの乗り場です。記号が書いてありますが翻訳しないと読めません。この字を変える方法はまだみつかってないんで、この紙を使ってください」


 シロルが翻訳した路線図を配ってくれる。


「あーっと、ここの両隣は無人駅ですね。左は無人島でした。その先はネドル。海の只中に浮かぶ四角い島です。タイタロスは細長い島。ライカースがあってトリスタン。

 ここは人口2万を超える大きな街で乗り場が貨物用と人用に分かれています。小さい四角が貨物用ですから間違えないようにしてください。ナーバス、ヤルクツール、無人駅。レクサールの次がハイエデン。ガルツ商会の本拠があります」


「嬢ちゃん達はガルツ商会って言ってたな?」

「はい、あたし達が先遣隊で乗り場を調べて回ってます。で、ケルヤークがあって、未調査の無人駅。でここカントロールに戻ります。

 ここに書いてあるのは主な特産品ですけど、他にも売り買いできるものはあるのでそれはお互いに話し合ってください」

「ほう、こんなにも広い世界はあるのか」


 いや、それでこの世界の1/20だから。って言ったら大変なんだろーなー。


「次はチューブ列車の呼び方です。

 ハイエデンは右に3つ目ですのでこっちの丸で見て3つ目の四角に触ります。そうすると近くの操車場から列車が出てここまで来て、目的のハイエデンまで運んでくれます。ハイエデンでかかる時間はだいたい2ハワー、距離は2400ケラルあります」

「なんだと!2400ケラルが2ハワーだと!あり得ん!」

「信じるかどーかは勝手だよー。でもどーやってあんたはその距離を測るんだいー?」

「なるほど。信じるしか無いと言うことか」

「ぬ、ぬ、ぬぅ」


「キントスだっけー?頭の固いのは長生きできないよー?あたいが遊覧ヒコーで見せたげよーか?」

「わわっ!ミット、やめて!死んじゃうから!長生きどこじゃ無いから!」


 この間ガルツさんにそれやって、あの滅多に動じないガルツさんが半べそでエスクリーノさんにしがみついてたのを忘れたのか?こいつは。


 掛け合いをしているうちに音が近づいて来た。


 コオォォーー


 左手に薄灯りが見えだんだんこちらに光の輪がやって来る。音が大きくなり、


 ヴヴゥゥーー

 減速が始まった。

 乗り場に光を撒き散らすように滑り込む筒型の車体には、大きな窓が並んで光が溢れている。

 ニュウゥッっと音が聞こえそうな動きで入り口が開く。手前の低い壁と一緒に5メル幅の入り口が筒にも開いている。いつものことだけど、あのおっきな窓はどこにいっちゃったんだろ。

 あたしは片足を列車に踏み入れた。


「ハイエデンまで行ってみます?」


 キルスグリーは逡巡していたが

「行ってみたいところだが、あの道に何が出るか心配だ。次の機会にしよう」


 早速ミットが絡んで行く。


「何が出るってんだいー?」

「ネイリス。説明してくれ」

「……12年前のことだ……山菜取りなんかでそこの山は結構人が通う山だった。少なくともこちらの斜面の裾の方は。ところが帰って来ないものが続出して、私が猟師5人を連れて調査に行くことになったんだ」


 長い話だったけど要するにトカゲのでっかいのが山に居座ってて手が出せない。そうして何年も経つうちにそいつの子供が増えてでかくなったんで、たまに町の近くまで来るようになった、追われた獣もよく来る、と。


「クジョだねー。それでいーい?」

「えっ。私の話をちゃんと聞いてたのか?」

「無駄に長い話だけどちゃんと聞いたよー。なんだったらシロルが一言一句繰り返してくれるけどー?」

「はい、お任せください。すぐに始めますか?」

「いーや。後でねー。じゃ、戻って調査に入ろっかー」

「ミットの仕切りが一番収まりがいいよ」

「アリスもよっく言うよー」


 トラクを乗り場の通路で切り返し、向きを変えると町長達を乗せて町へ戻ることにした。


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