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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第14章 海上交易‬
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8 カントロール・・・アリス

 ここまで:ニーラルの銅鉱山と港の整備を終わらせ、次に降りた海底駅は4ケラルほどの小島だった。アリスとミットは珊瑚礁でイルカを相手にひと時を過ごす。一旦ネドルヘ戻った。

「う、うーん。よく寝たねー。昨日、準備はしてあるけど大丈夫かなぁ?」

「アリスさま、余りご心配なさらない方がよろしいですよ。いつも通りお散歩に行ってらっしゃい。いい天気とは申せませんが、風が気持ちいいかと」

「そう…だね。顔を洗って一回りして来るよ」


 洗面を終えるとトラクを出て、後方左側のシャッターをボタンで開ける。エレベーターの海上へのボタンを操作した。


「これに一人で乗るのはおっき過ぎて気が引けるねー」


 なにせ幅が6メル奥行き12メルもある箱はトラク2台が乗れるのだ。小柄な女の子一人では広すぎる。


 大きな扉が開くとそこはネドル人工島の常に揺れる広大なデッキだ。シロルの言う通り曇り空だね。左手正面に大型船用の船着場があるけど今は空でマストは見えない。

 ネモス船長率いるシーフラウは今日あたりタイタロス島を出てこちらへ向かう頃。順調なら3日で戻る。


 あたしはシーフラウの係留場所まで行って一段登ると下を覗き込み、そのまま外周歩道を戻って来る。エレベーター棟のすぐ近くにある漁船用の係留所は当然空だ。


 漁船は夜明け前に出漁して昼前に村ですぐに食べる分、燻製加工する分を村の前で下ろした残りをこちらで水揚げし、海底レストランの冷凍庫に小型トラクで運ぶのだ。


 そのままエレベーター棟の裏側へ回り込む直径15メルの歩廊を歩いて行く。

 広い海をこの歩廊から見ると船の舳先(へさき)に立ったようでワクワクする。

 でも海面から5メルの高さがあると言っても波の荒れた日にはこの歩廊も海水に洗われる、そんな場所だ。


 今日の予定はまだ行った事のない乗り場。


 昔ケルヤークの先遣隊が、調査に行ったが帰ってこなかったと言う曰く付きの場所。尤もあの情報も曖昧な話だってのは昨日の海底駅で分かった。あそこではおそらく、あの通路のシャッターが開けられなかったので諦めたのだろう。只それだとちょっと辻褄が合わないから、何かの危険はあるんだろうな。


 あたしは反対の端まで往復すると、エレベーターに乗ってトラクヘ戻った。


 ミットを起こし、尻を叩いて準備させる。危険が予想される以上、シャッキリしてもらわないと。


   ・   ・   ・


 いつものようにミットが先頭で暗い乗り場に降り立った。数歩進んで気配を探っていたけど、手をヒラヒラさせて灯りを手に前へ進んで行った。

 あたしもその後ろを少し離れて付いて行く。後ろではシロルがトラクをチューブ列車から引き出した。クロミケが左右に展開しているのがチラッと見えた。

 通路の手前でミットがちょっと止まるが、角を慎重に曲がって行った。


 ここも真っ暗だね。出口から刺す光を頼りにミットは暗いまま進んでいく。あたしも目を暗視に切り替えてあたりを見て行く。

 暗視は物が緑色に見えるけど、微弱な光を増幅して割とはっきり見えるようにしてくれる、トリスタンのサーバーからマノさんが得た技だ。実際に見ているのは額に巻いたバンドに並んだ目で、その絵が目にトーエーされているらしい。だからあたしの目は開けていなくてもいいんだ、開けるけど。


 眩しい光に目を慣らしながら、ミットが出口まで出たところで止まった。


「なんだこれー」


 10メルほど先に壁があって道が左右に分かれている。そのまま別れ道に立ったミットがまた言った。


「なんだこれー、転移陣迷路ー?メーワクなもの作ったねー」


 行ってみると何の変哲もない草地の道路に見える。壁は石積みだね。


「左は10メル先でどっかに跳ばされるよー。右もなんかあるねー」


 そう言ってミットが消えた。きっと上から見てるんだね。案の定ツーシンが入る。


『アリスー、右に曲がって正面の壁を取っ払えば出られるよ。シロルに真っ直ぐ道を作ってもらって』

「分かった」

『あたいは近所を見て来るよ、こんな(はた)メーワクなもの作るんだ。まだ罠があるかもだし』

「うん、お願いね」

『一旦切るよ』


 ナノマシンが何もかも組み替えて行く20メニを待って壁が消え、道路になったので進んでいくと森の中だった。


 抜けた先には左には丈の高い草の向こうに大きな湖が見えている。対岸は4ケラル先だ。

 エーセイガゾーはどうなってる?

 目に現れたチズを見て行くと、このまま行けば左寄りに町があるね。4、5000人ってとこかな。方角としては南になる。海に出るには300ケラル近い道が必要だ。海沿いには村が点在していて町からは細い馬車道が2本。一本は山越えだ。北にもいくつか村が見える。

 右の山は海まで連なってそのまま岬になって突き出ている。山向こうは大きな川だ。

 湖の向こうを走る馬車道があるけど、草ぼうぼうって感じかな?


 クロミケに邪魔になる木を伐採してもらって、道を作ることにした。消した壁は戻しておく。道幅は3メル半でいいか。


 1ハワーを過ぎた頃5回目の道路造成が終わり、ミットが戻って来た。このあたりに罠になるものはないので、近所の町と村をざっと見てきたと言う。


「このまま町まで行くでいーんじゃない?あたいはそこの転移陣の行き先を調べるよー」


 調べると言うのは実際に跳ばされてみて、どこに出たかをみると言う事だ。ミットはどこに跳ばされても、戻ってこられるからこそできる荒技だ。アカメなら出口がどこか分かるんだろうか?



 30メニほどで戻ってきたミットが

「どれも山の中だったり人気(ひとけ)のないとこばかりだよー。川の真ん中ってのもあったねー」


 昔やって来たケルヤークの先遣隊は散々な目に合ったようだ。


   ・   ・   ・


 午後も遅くなって家々から炊煙が上る頃、町の北東側の手入れの良くない馬車道に出た。あまり通りはないらしくて傷みも酷いので、これも治した方がいいのか悩ましい。通れないことはないのでそのままにして街へ入ると、門番に止められる。


「カントロールへようこそ。お前たち、どこから来た?この馬車はどうなっている?馬がいないではないか」

「あたし達は北の湖から来たよ。行商しようと思って来たんだ。これはトラクって言って自分で走るんだ。馬なんか要らないよ?」

「北の湖を通って来たでいいか?向こうには村がいくつかあったろう。で、何を売るつもりだ?」


 シロルが箱詰めの商品見本を出して来た。

 ミットもぬいぐるみの在庫処分するらしく、昨夜から選んでいた袋を持って来る。


「こんなカップや髪飾りなんかだよー。こっちの人形も売りたいねー。他にも少しあるけどー」


 ミットが答えると門番の男はミットを2度見した。2回目はやや下をしっかり目に焼き付けたようだ。それから商品の検分にかかる。

 今日のミットは上が薄着だったりするからね。


「ふうむ。通行料と売店の権利を買ってもらおうか。合わせて3000シルだ。払うかね?」

「いいよ。払うから商売させてねー」

「ではここに全員の名前を書いてもらおう。

 このでかい馬車を停めるんなら南西側に空き地がある。この番号の場所からそう遠くないから使ったらいい」


 ミットのおかげかな、空き地まで教えてくれたよ。あたしの名前を責任者にクロミケまで5つの名前が書き込んだ。シルバとナックがサイナス村に行ったのは一昨日(おととい)のことだからここにはいない。

 売店許可の札をもらって町へ入って行く。狭いのでミットが前に立って邪魔になりそうなものを交渉し、クロが退けてトラクを進めて行く。


 空き地を見つけトラクを停めると、資材庫を開いて簡単な売り台を作った屋根の裏に灯りを二つ下げ商品を並べて行く。手押し車に箱詰め、袋詰めの商品を積んで運んで行った。


「番号の場所が向こうにあったよー。これ持ってくの大変だよー?転移はまずいよねー?」

「クロ。売り台担いでみて」


 ミケが手伝って黒の方に売り台を乗せると、ミットが先導してクロがのしのし歩く。その後をミケの押す手押し車、シロルとあたしが続く。



 灯りの付いた売り台は目立つようで、みんな何事かと寄って来る。この売店の目的は、商品を売りながらの情報収集だ。


「これは櫛か?赤と橙か、.……む、この紫がいいかもしれん。ほう、変わった形の人形だ、フワフワしている。……これは見せんと選べんな。

 明日もやっているかい?」

「明日なら大丈夫と思うよー。近くの人ー?」

「ん?ああ、家は西の外れの方だが」

「帰りの商品が欲しくってねー。ここらの名産とかとあるかなー?」

「名産と言われると分からんが、畑ではカンショとデグ豆が取れる。西の道からソブ湖へ行けば魚がいる。あとはこれは私の仕事だが南の森の動物が濃いのでな。畑荒らしのイノシシや鹿、大ネズミあたりの肉がそこそこだな。森の奥から北に続く山は山菜やキノコが取れておった。今年はもう終いだがね。そっちの見回りも私の仕事だな」

「へえー。おっちゃん、猟師か。あたいの知り合いに元猟師がいてね。今はうちの商会の頭取やってるよー」

「ほう」


 ミットが手招きして台の裏へ呼んだ。


「ガルツって言うんだけど、あたいが見たのはグリンカイマンに白ヘビでしょ。でっかい熊にトラ!」

「ほう。大物ばかりではないか。私ならそんなものには近付かん」

「ガルツもそんなこと言ってたかな?でもあたいとこっちのアリスと3人旅でさ、襲って来るんだもんー」


 ミットが指差したあたしを見て納得したようだ。


「それは災難だ。そうなればやるしかないが……」

「すっごかったよー。1メル30の長剣で相手して。あ、トラは弓で迎え射ったんだっけ。あたいは外したけどアリスは矢を当てたよ」


 おっちゃんはミットの腕と肩を改めて見た。


「ほう?弓を使えるのか?」

「ガルツに教えてもらったからねー。剣も使えるよー」

「ほう。私は町の雇われ猟師のネイタスだ」

「あたいはガルツ商会のミット。アリスは班長、向こうがシロルにクロミケ」

「うおっ!で、でかいな?」

「3メルのネコミミヤローだからねー。今度西の森と山っての、案内頼んでいーかなー?」


 まだギョッとした顔のままネイリスが答える。目はクロミケから外さない。


「この時期はまあヒマだから声をかけてくれれば。たまに緊急の仕事が入るから、カチ合ったらすまんが」

「じゃ450シルねー」


   ・   ・   ・


 シロルが売上をまとめて言った。

「結構売れました。初日ですのに」


 売り台はそのままにして商品だけ箱詰めして片付ける。隣に朝はいつから開けるか聞いたら、みんな昼頃から店を開けるそうだけど決まってるわけじゃないらしい。


 後ろでクロミケ工場が今日売れたものを200ずつ増産している。ロボトはブラックだよ。

 ミットも売筋のネコやクマを楽しそうに縫っている。寝るまでに4つも作れたら精一杯だって言うのに良くやるよ。

 久々の売店がよっぽど楽しかったんだろう。ナックがいない分安心して針を使えるし。


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