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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第14章 海上交易‬
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7 サンゴ礁・・・アリス

 ここまで:ニーラルの河口に毒が流れ出ると聞き調査すると、銅の鉱石が溶け出したのが原因だった。港の開設には好都合と川を切り替え橋を架け、銅山の開発もついでにやってしまう。一通り始末がついたので、アリス達は次の乗り場へ向かうためネドルへ戻った。

「今回も静かだねー。ネドルと一緒で湿っぽいよー?」


 チューブ列車から降りてすぐにミットが言う。通路には見覚えのあるシャッターがあった。


「ここも海底駅なのかな?」

「それっぽいねー。行ってみよー」


 上に開く扉を開け、灯に照らされた通路の奥へ30メル。その先にまた扉があった。これはエレベーターだね。奥行きが12メルもある。トラクごと乗って上に行く。ネドルよりは登る時間が明らかに長い。

 やっと止まって開いた扉の先には森があった。一本の太い木が正面にあってトラクが通れるかギリギリだね。


「何で森ー?しかも()っとい木ばっかりだねー」


 ミットが足を踏み出すと一面の小枝や枯葉がパリパリ、カサカサと賑やかに音を奏でた。振り向いて上を見上げる。


「やっぱりこれも丸いんだねー。周りの木を退けないとお日様ハツデンがいくらも利かないんじゃないかなー」


 あたしはクロミケにチェンソーを用意させる。ミットが正面の幹が一抱えでは利かない木を引き抜いた。周囲7メルに渡って盛り上がる土。ブッブッとくぐもった根の引き千切れる音が響く。ボコォッという音と共に目の前の土の塊が宙に浮いた。それでも残る根が未練がましく伸びて、耐え切れず弾けるように切れると土が周囲に跳ね飛ぶ。トラクの前面にバチバチと土や小石が当たる中、クロミケがあたしの前で壁になって、パンとかカンなんて音が聞こえてくる。


 それも収まりミットが木を地面の穴にそのまま下ろす。今度は他の木の枝をバキバキと薙ぎ落としながら向こうへ倒していった。引き抜いた穴を抉るように根が暴れ、またしても土が跳ね飛ぶ。それを見たクロがあたしを抱えてトラクに素早く放り込んだ。


 ボーっと見てる場合じゃなかったね。反省。


 シロルに手を引かれ前の席から外を見ると、透明板にはベタベタと土が貼り付いて斑模様になっている。その隙間からやっと倒れた木にクロが取り付いて根の切り落としを始めた。

 1メル以上もあるチェンソーのブレードで上から大半を切り込んだ後、根の大きさで浮き上がっている幹を下から切り離しにかかる。そうすることで切り口が下へ沈むに連れ開いて行くので、回転する刃が幹に食い付かれないのだ。


 根が落ちるとミケが枝払いを始める。ミットが右の離れた木をもう一本引き抜きにかかったようで、見ている地面へ土が右から吹き上がった。次いでチェンソーのチュインヂャインと響くうるさい音を切り裂くように、木の倒れる音と振動がエレベーターに飛び込んでくる。


 右からチェンソーが鳴り出すと左で土が弾け、エレベーターの出口に土の雨が降り注ぐ。バキバキズシンと腹まで響く音が、外は地獄だと告げていた。

 2ハワー余りも巨人達の乱闘もかくやという騒ぎは続いた。土塗れではあるものの、出口から見える荒れ果てた地面は明るくなった。

 玉切りされた幹が離れた所に積み上がって行く。その向こうに枝が山を作っている。


 出口に盛大な泥や枯葉の雨が降ると、シロルが前方に8メル幅の道路を設定し始めた。クロミケが屋根の掃除をして、安全確認が取れたのだろう。チェンソーの音はまだ響いているが、木の引き抜きは終わったようだ。15メニ待ってトラクが前に進んだので外へ出て見るとぽっかりと見える青空が楕円形に広がっていた。周囲には巨木が積み上がり荒れた地面が整地を待っている。次の散布が終わりシルバがエレベーターの中の泥や何かの掃除を始めた。


 木が積み上げられた山を呆れて見ていると、そばにミットが転移して来た。


「アリスー、ここって島だよー。ゼッカイのコトー。島の南は岩場で崖でさー。ぐるっと断崖だよー岩の上に森が乗ってる感じー?

 4ケラルくらいのちっちゃな島だよー」


 言われてエーセイガゾーを探す。これかな、ちっちゃい島がある。こんなとこに出たんだ。

 拡大してみるとミットの言うように全部森。青い海にポツンと緑の点だ。もちろん集落なんてない。はて、どうしたもんだろう。エレベーターで出た場所はほぼ山の天辺(てっぺん)で海まで降りるには300メル下る必要がある。しかも低いとこでも3メル以上の断崖。


 ちょっと使い道が思いつかないね。


「シロルー。道路は2つでおしまいだよ。あとは整地だけして引き上げるよ」

「あらあら、あたくしも確認しましたがやっぱりですの。発電素子の日当たりが良くなっただけ良かったですね」

「うん。伐った木は後で回収させるよ。枝と根は木質(セルロース)にしておこうか」

「それがいいですわ」


 ミットがポンと転移して来た。


「南東側かなー、3ケラルくらいのとこから浅瀬になってるよー。ピンクのサンゴがどわーっと80ケラルくらい広がってたよー。深さは2、3メルかなー」

「連れて行ってもらっていいかな」


 そんなに綺麗なとこなら見たいよね。ボートを持って行こう。

 資材庫からボートを引っ張り出して膨らませるとミットが島の上空へ転移した。


「あの辺の波が細かく見えるでしょー。行ってみたらすっごく浅いんだー」


 言われてみればそうかなくらいだけど、よく気がつくね?


 パッと景色が変わり一面のピンクの波が揺れている。空中で見回すと島が小さく見えた。次の瞬間、波に揺れるボートの上。ミットがジェットを回し走り出した。

 最初は揺られるだけだったボートが波の頭を舐めるように走る。トスっトスっと波を飛び越えジェットから噴き出た水が波間に撒き散らされる。


 こうなったらミットはしばらくこのままだ。いつもならミットが分かんない事を叫んだりするとこだけど、この揺れじゃ舌を噛む。スピード狂の血が鎮まるのを黙って待つしかないか。


 後ろを見ると撒き散らした水が作る幅広い真っ白な航跡が、青空を映しキラキラ光る海面を二つに分けていた。ボートは大きく左へ旋回して行く。

 突然左前方に2メルちょっとの魚影が跳ねた。続けてパタパタと3匹が海面に弧を描く。


 それを見てミットが動力を絞った。ガクンと速度が落ちて揺られながら近づいて行く。と並んで泳ぐ影がいくつも現れた。さっきの魚だ。

 一匹が突然すぐ脇から少し離れる角度で真っ直ぐ空中に飛び上がった。海面から2メルも上がって、胸のヒレをパンパンと二つ打ち鳴らし尾ビレを下のまま、水を跳ね上げ海に戻った。


 並んでい泳いでいた一匹が離れたかと思うと、後方を横切るように突進してくる。水面からバシッと言う音と共に飛び出すと空中で縦に2回転。そのまま頭から滑り込むように水に入った。

 10メルあたりの後ろへ3匹が一斉に飛び上がり空中で錐揉み回転を見せた。3つの回転体は飛び出した角度を変えずに盛大に水飛沫を上げ着水してみせた。


 ん?見せた?この子達あたしらに見せてくれてるの?


「ミット。こっちもなんか見せたいね?」

「やっぱりアリスだねー。でもどーしよー?そだ!」


 少し離れて泳いでいる1匹が5メルの水球と共に一気に持ち上がる。水塊が海面から離れないうちに空中に顔を出したその子が、ジャボンと頭から元の海面に潜ると頭を真っ直ぐ上に突き出し、そのまま立ち泳ぎに移行した。


「クケケケ」


 笑うように鳴きながら3拍ほどもお腹まで立ち上がった姿勢を維持して水中に戻った。


「「あはははー」」


 ミットが手当たり次第に水塊を持ち上げ始めた。魚の進行方向に長い塊を3本。太さ1メルちょっと、長さは10メルくらい。魚はその上昇する水の筒を泳いで先端から飛び出す。8メルほどの高さから空中に飛び出し綺麗に着水を決めた。


「ミット。ここ浅いからあんまり高くすると怪我させちゃうかも」

「分かったー。でもあのくらいはへーきみたいだねー」


 次の水のチューブはジャンプ台のように先へ向かって上昇する。筒が回転するような動きは水のような固まっていないものにさせるのは難しい。ミットは相当に集中して目が真剣だ。

 10メルの筒の中で魚が加速した。5メルちょっとまで持ち上がった先端から飛び出したその子は、頭を上に回す縦ロールを2回決めてシュボンと海に滑り込む。


 2匹が腹まで立ち上がってヒレを2回叩いた。


「「クケケケ」」

「「あははは」」


「なんかたのしくなってきたー」


 ミットが動力を開けた。波を蹴るように水飛沫(しぶき)を撒き散らしボートはグングン加速する。両側を3匹ずつあの子達が付いてくる。

 マノさんがさっきから何か言ってるけど……イルカっての似てる?


「ミット、この子達、イルカだって」

「ふーん。イルカ、速いねー。まだ付いてくるよー」

「ケケ!」「クケ!」


 なんか騒ぎ出した?

 いきなりピンクだった海面が黒く深い青に変わり、イルカ達が左右に散った。波で光が乱反射するので、ピンクに見えるのは5メルくらいの範囲だから気付かなかったね。


 ミットが動力を緩め急角度で左に曲がる。惰性で進む右手前方の海面が盛り上がった。ボートが曲がり切ったあたりで、ツノのついた大きな黒いものが海面から突き出し、こちらへ首を回すとさらに上へ伸び上がる。ミットが動力を開き全速だ。

 後ろでは大きな魚頭の下に鋭い歯の並んだ口が、海面から姿を現していた。手を伸ばせば届くと言うところまで迫った大きな口を、加速するボートが引き離す。


「でかいね!」


 半身すらも見えなかったけど、ツノのあるジャスパーとすれば15メルは超えているかも。西の内海にいたグレイジャスに似てる。


「こいつはツノ1本かー。15メルくらいー?どーするー?」


 サンゴ礁で飛び跳ねるイルカ達に向かいながらミットが言う。狩りたいみたいだけど。


「始末、どうするのよ?おっき過ぎて余すよ?」

「むー。そうなんだよなー。シーフラウがあれば、あんなの20匹だって余さないんだけどー」

「いや、ぎゅう詰めだから」


 ミットは諦めたようでイルカ達に向かってピンクの波を蹴立てて行った。

島へ向かってボートで走る間中、一緒に泳いで青い空を背景にキレイなジャンプを代わる代わる、見せてくれるイルカ達がうれしそうに見えた。


 ここをどうしたらいいのかまだ分からない。まだまだ旅行する人が少ないのに、タイタロスとネドルなんて観光が主産業となる乗り場ができてしまった。ここに手をつけるとなると漁業とサンゴ礁観光、深海は見てみないとだけど、人が住む人工島も必要そうだ。そう言う絵も楽しいけれど、今はまだ。


 トリラインだけ見てもあと一駅が未踏査で、ケルヤークの開拓村もその後を確認していない。ここは一旦ネドルに戻って仕切り直そう。


 まだ飢饉になる事態は起きていないけれど、交易圏でそう言うことが起これば対処できるだけの規模になっている。


 飢えない世界の一歩目は目前だ。

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