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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第14章 海上交易‬
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6 ニーラル・・・アリス

 これまで:ネドル島発の双胴船はタイタロス島周辺で、魚肉が積みきれずトラクで積み出すほどのジャスパーを狩った。その運搬にサイナス村の全員を船上に招待した。

 出港して4日が経った。次の目的地はニーラルという漁港だ。

 ニーラルは隣の乗り場、ライカースから南へ下った港町で、ライカース支店のハルマーの話だと人口は8500。沿岸漁業と近くの山の斜面で採れるブドウなどの果物が名産らしい。エーセイガゾーで見ると港の水深が浅そうなので、水路の整備を先にしないと入港できそうもない。

 それで屋上にトリ班のトラクを1台積んで来た。


 タイタロスを出たシーフラウは島の北東部の断崖を左手に見て470ケラル離れたニーラルへ向かっている。島の東端で12メルの巨大魚(ジャスパー)を1匹狩った他は平穏な航海だ。

 右手やや前方からの風を受けシーフラウは毎ハワー30ケラル近い速度が出ている。明日の朝にはニーラルが見られそうだ。


 少し手前で洋上で泊って朝から作業に掛かる予定で動いてもらってる。日暮れ前にジーナ達がお帰りだ。

 狩でうるさいし、くるくると向きを変えたりするから、落ち着かなかったんじゃないかな?お金を取るお客さんじゃないからまだいいんだけど、これが本番ならクレームもんだ。


 ミットと二人で5、6人まとめて村へ転移して行く。あたしが見送りをしてたら、5回跳んで帰りにジーナがカニを10匹連れて来た。


「ほれ、ミットさんの送迎代じゃ。湯掻いてみんなで食うがいい」


 作業デッキに転がしてもらったけど、足は細紐で縛ってあってみんな生きてたよ。


「ありがとう。今夜もご馳走だよ!」


 あたしが言うとシーフラウがわあっと沸いた。


 客室係は早速空になった部屋の掃除を始め、保安の連中はカニを厨房へ運んで行った。あれはシロルに任せておけば大丈夫。日が沈むまで走って、2人の当直を置いて今夜は錨泊(びょうはく)だ。


   ・   ・   ・


 朝日が差す頃には乗り組みの大半は起きて活動を始めている。寝てるのは夜間当直の4人とミットくらいだ。あたしは薄暗いうちから1階の外周通路や船内の横断路をぐるぐると歩き回っていた。


 そのうちにネモスが出発準備を号令した。錨を巻き上げ、補助マストに縦帆(じゅうはん)が張られた。船はゆっくりと動き出す。続いて横帆を下だけ張ると右後ろからに風を受けて船速(あし)が上がる。進路は真北だ。

 日が登るに連れ、陸地にかかっていた(もや)が晴れていく。まだ(かす)んでいるがあれがニーラルだろう。港らしいものはまだ見えない。しばらく見ていると左手に桟橋が見えて来た。木製のようで20艘ほど漁船が舫ってある。もう出漁してる時刻だろうから一体何艘の船があるのやら。


 あの桟橋に着けるのはどう見ても無理だね。

 ミットに交渉を頼もう。


「ミットー。仕事頼んでいいかなー?」

「ふわぁーー、なーにー?こんな朝っぱらから仕事ー?」

「そう。ニーラルの桟橋がすっごくしょぼいんだよ。あそこにこの船を着けるのどう考えても無理だよ。変なとこに勝手に作っても漁場荒らしって言われそうでさ」

「ん、んー?で、なーに?あたいがこんな朝っぱらから交渉ー?」

「そう!ぱぱっと顔洗って、ご飯食べて行ってきて!」

「ふわぁー、しょーないかー。起きるよー」


 へへっ。動くと決めたらミットの行動は早いよ。もそもそと起き出して身支度するとナックを抱えて洗面所へ行った。シルバが後を付いて行く。

 あたしがブリッジでこのあたりの地形や水深をボードで見てると

『アリスー、あんたも行くかいー?』

「うーん、どうしようか。とりあえずこっちでできることはないか。今ブリッジにいるよ」

「よーし、行こうー」


 戸口からブリッジに入ってきたミットに腕を掴まれ、次の瞬間ニーラルの上空でさっきボードで見た地形図を肉眼で見ていた。


「まだちょっと時間が早いから、漁船をいくつか捕まえて聞いてみよーか?どこなら都合がいーの?」

「良さそうなのは西の岬の手前の岩場だね。道をニーラルを通ってからライカースに向けて行くようにすればいいと思う。道は東へも伸ばして、あの入江の奥に倉庫を一つ建てればいい中継地になるよ」

「よーし。じゃあ、あの漁船に聞いてみようか?」


 ミットが指したのは岬を回った岩場で揺れている小舟。二人が寝そべるように両舷から身を乗り出し棒で何か突いている。岩場にポンと現れると10メルと離れていない。


「こんにちはー」


「お?なんだ?どっから、わっ!いつそこに来た?」

「今降りてきたとこだよー」


 ミットがあいまいに手を振った。一人は女の人だ。


「何か用かい?」

「あたいはミットだよー」「アリスです」

「ああ、オレはグックスだ。こいつはネクリだ」

「用ってのはねー。この岬の裏っ側に港を作りたいと思ってさー。そしたら困る人がいたりするかなー?」

「この裏か?オレ達は岩場でエビや貝を取ってるんだが、あっちもいい漁場だぞ。港って何をしようってんだ?」

「海底を深く下げて大きな船を入れたいんだよ。ニーラルの船着場じゃ浅いし混んでるでしょー?」

「海底を下げるって?それじゃあまるきりオレ達の獲物が居なくなっちまうぞ。そりゃ迷惑な話だ。だいたいそんなことできるわけがない」

「まー、信じないのは勝手だねー。他に迷惑にならないような場所ってあるかなー」

「本当にできるとしてだが、漁場に向かないとこがニーラルの東にあるぞ。川の出口なんだが途中の湿地から毒水が出ててな。あの辺は何にも捕れないんだ」

「ふーん?ありがとー。行って見るよー」


 岩場を伝って上に行く。いくらも行かないうちにグックスがまた海に棒を突き始めたので上空へ。

 東側か。あの川?


「あー、あの森に囲まれた川ー。あの辺から色が変だよー。青っぽい水がでてるねー」

「え?青い?あたしにはそんな色見えな……わっ!赤い点々が出たっ!毒!」

「毒の元から見てくー?」


 森の境目の川岸に降りるとはっきりこの辺りから草木が無い。マノさんが何かごちゃごちゃ言ってるけど何を言ってるのかが分からない。


「なんかね、マノさんが調べるのにかな、ナノマシンを散布したいらしいよ?よく分からないけどやってみるね」

「気配は特に無いからねー。あたいには分かんないよー。任せたー」


 少し広めにマシンを散布した。モーマクトーエーでマシンの動きがゆっくりだけど地中に入って行くのが見える。そのうちに数本の濃い部分が見えて来た。毒の通り道かな。ミットもボードを出して同じ絵を見てる。


「んー?アリスー、だんだん集まってないー?」

「そうだね。今、地面から7メルくらいかな?」

「ヘー、結構深くまで行ってるんだねー」

「まだ潜ってるよ」

「こりゃ、時間がかかりそーだねー。シロル連れて来てお茶にしよっかー」

「ん。任せた」


 ミットがシーフラウへ跳んで行って、15メニ程でテーブルセットとシロルを連れて戻った。ナックを抱いている。

 マシンは20メル辺りから広がり始めている。この出口を塞げば毒が止まるのかも知れない。でもこの地下の大きいのって何なのか興味もある。もう少し見ていようかと思っていたらマノさんが騒ぎだした。


「銅鉱石らしいよ。重さの半分近い銅が採れるって」

「へー?」

「あら、それは良かったですね、アリスさま」


 平然とシロルはいつものバスケットからティーセットをテーブルに並べ始めた。ポットに茶葉とお湯を入れ、ナックにジュースを注ぐ。茶菓子を出してカップに注ぎ分けて行く。今日はトルネールイの蜜板を出してくれた。

 これが入ると一味変わるからね、あたしも好きなやつだ。お茶受けには色のきれいな冷えたゼリーも出てきた。


 この頃はナックがスプーンを使って自分で食べる。ゼリーを上手に掬って口に運んだ。あむっと口を閉じるときにちょっとはみ出るのはご愛嬌。ミットがすかさず拭き取ってあげると二マーっと笑う。


「おいし!」


 一言言ってカプっとジュースを飲んだ。

 ミットと顔を見合わせあたし達も程よく冷めたお茶をいただく。ナックを真似てスプーンで食べるゼリーは、何の果物か、つけた甘味と酸味のバランスがいい。


「美味しいね」


 そう言ってナックを覗き込むと、ナックがニコッと笑った。ついついナックに連られて紅茶をもう一杯。


 ふと気が付いて確認するとマシンは西側の進行が止まって下へ向かい出した。北と東もだんだんと深くなって行く。


「ミット、15メル下の塊って少し取り出せるかな?」


 ミットがボードを覗き込んでちょっと考えている。


「どーかな、見当は付くからやってみるよー」


 ムムムッと眉間を険しくして集中すると40セロの黒っぽい球が地面に転がった。


「小さめにしたんだけどやっぱり重いねー」


 マノさんの見立てだとあれで130キルくらい。見ている間に段々と表面の色が紫っぽく変わって行く。ここで銅の採掘をしようか。西側の端がわかるから、地中に壁を立てて川を西に迂回させちゃおう。毒水も川に混じらなくなるし。


「ミット、そろそろいい時間だから、町の代表捕まえてここに港を作るって交渉してもらっていいかな?」

「あーい。そう言うと思ったよー。こっちは任せたー。シロルー、船まで送るからそこまで移動させてくれるー?」

「はい、ミットさま。お任せください」


 来た時と同じようにミットはテーブルと一緒にパッと消えた。後には銅鉱石の球が一つ転がったままだ。

 あたしは地下へ侵入したナノマシンの動きを止めた。薄く広がりすぎたのと動きすぎで動力が切れかかっている。


 西側に壁を作る目安に反応が残っている方がやりやすいし。まず下流から迂回水路を作って来ようか。20メルも余裕があれば何かあっても大丈夫かな。


 水路をすっかり切り替える頃にはミットがニーラルとの交渉をまとめ、沖の方からシーフラウがトラクとシルバで海底の盤下げを始めた。陸側はあたし一人なのでミットが見かねてシロルとトリ班のトラクを1台タイタロスから地上に転移してくれた。

 シルバ隊のトラクは軽量だけど1トンを超える。流石に重かったのだろう、ミットはすぐにセーシキドーに行ってしまったけど助かったよ。これで陸側から桟橋を伸ばして行ける。


   ・   ・   ・


 港の整備と大きな倉庫を建てるのに2日かかった。新しい河口の西側に囲うように海に突き出る8メル幅の埠頭は、海面から5メルと高い。その西側を100メル幅の水路と係留用の短い桟橋。こっちは小舟も着けられるように1メルくらいの高さで、荒天時には大型船を対岸からも固定できるように頑丈な係留杭が付いている。

 ライカースから作って来ている道はまだ遠いので、トリ班の2台はここに残し、ニーラル経由で北の村へ行くルートと、銅鉱山の上に長い橋を掛けて東へ行くルートを伸ばしてもらうことにした。


 シーフラウはタイタロス経由でネドルへ戻る。ネドル支店には本部から5人の応援が3日後に来ることが決まった。


 船員は十分に訓練できたと思うし、あたし達にできることはもう少ない。転移で先にネドルへ戻って次の乗り場を目指すことにした。


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