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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第14章 海上交易‬
136/157

5 |巨大魚《ジャスパー》・・・ミット

 これまで:ネドル島発の双胴船の出港準備が進んでいた。桟橋を出て3日目。

 船は北北西、タイタロス島に向かって進んでいる。エーセイを修理してからと言うもの、世界はずっと広いことがわかった。


 トリラインは後2駅で一周できるところまで来てるんだよー?こんなに長い距離を3年もかけて走ってるってのに、この世界の1/20って先が思いやられるねー。でもさ、お互いの行き来ができないと交易なんかできないからー。

 そこまで考えた時だった。


「来たよ!10メルクラスが2匹だー!もう少し引きつけたら帆を畳んでジェットを回すよ。準備しな!」

 船上にあたいの声が反響する。


 ネドルを出港して3日。初心者ボーナスだろうか、穏やかな日が続いていた。いや、穏やかなのは天候だけで、船上にはいくつもの嵐が通ったのだ。慣れない大きな帆の操作。展帆、縮帆を汗だくになりながら繰り返し、風上へ向かって繰り返される風縫い(タッキング)と風下への3回転(ウエァリング)。2ハワー交代で7セットがアリスの指揮で連日繰り返された。


 保安班はあたいが剣を教えた。20人が屋上に並び3ハワーの素振りと20メニの休憩が3セット。薙いで振り下ろし切り上げる。剣の動きに合わせ一歩踏み込み一歩下がる。右へ踏み込み左へ下がる。次は左へ、この動きが延々と繰り返され腕が上がらなくなると回復に調整されたジェルを互いに擦り込むんだ。


 客室にも嵐は吹いた。汚し役と片付け役に別れ船内で半日鬼ごっこ。朝昼晩は食堂で給仕。午後は左舷船首で洗濯と右舷の乗員船室の掃除。片付けにも掃除にも、もちろん洗濯にも押さえるべきポイントがある。一つ一つをシロルが叩き込んでいた。


 そんなわけで今日は半直で1/4が軽い作業の予定だった。だがその平穏は巨大魚(ジャスパー)の出現で破られた。



 船室に響く警報音に操帆の3人が各マストへ走る。

 レールガンは説明を受けただけで実際に使うのは初めてだ。ともかくも命綱を巻いた保安班が点検を始めた。作業デッキに続くハッチの前にはもう何人かが待機している。

 ブリッジでは魚影の確認とジェットの準備が慌ただしい。厨房は揺れに備え汁物に固く蓋をし携行食を作り始める。客室係も物の固定に大わらわだ。


 初戦闘にしては悪くないねー。あたいの口元が思わず緩む。それを無理に引き締めて

「操帆も命綱を巻きな!まだそのままー!」


 10メニ、20メニ。巨大魚(ジャスパー)はジリジリと左舷から近付いてくる。

「こんなでっかい相手はそういないからねー。乗ってるあたい達はうまそうに見えるのかなー?」


 銛はお初だからねー。そろそろ行けるかなー?


「縮帆しなー!舵。取り舵ー!」

「縮帆します!」

「取り舵!」


「舵戻せ!右舷銛。右を狙えー!」

「銛、右を狙います!」

「左舷は待て!右舷てー!」


 右の巨大魚(ジャスパー)まで40メル。当たればそれでよし。

 巨大魚(ジャスパー)の手前の海面に銛が突き刺さって白い水柱が上がった。ズン、と鈍い音が伝わって来る。右の巨大魚(ジャスパー)は潜ったのか見えなくなった。


「左舷左を狙え!」

「狙います!」

 もう少し、もう少し。「撃てー!」


 手前に着弾し先ほどよりも高い柱が噴き上がった。が、音がしない。


「どうなった?」

そんな声が上がった途端、強烈な衝撃が襲った。あたいは叫ぶ。


「ジェットー!半速前進!」

「半速前進了解!」


 復唱を聞いてあたいは30メル上空へ飛んだ。右舷の巨大魚(ジャスパー)が大きく右へ回り込もうとしている。

「右舷銛!再装填用意!」

「?銛がありません!」

「分かってる!銛はあたいが持って来る。用意!」

「?用意します!」


 海中に沈む銛を探す。捻れるように流れるワイヤーの先……あった!一旦船尾の空中に転移して、用意のできたところで装填位置へ再転移した。ワイヤーが海中に(なび)いているけど的が近ければ照準に出る影響は少ないだろう。


「ジェット!両舷全速!」

「両舷全速にします!」


巨大魚(ジャスパー)は右にいる!狙えー!」

「!……狙います!」


「まだまだ!」


 船速は伸びているよ、できれば後ろで打ちたいんだ。アリスのワイヤーだから滅多にゃ切れないはずだけど。


「撃てー!」


 ドン!!

 どうだ?いい音がしたよー?

 船にガクンと衝撃が走り若干速度が鈍る。

 あったりー!


「両舷半速!作業デッキ水平までおろせー!」

「両舷半速。床下ろします!」


「両舷ウィンチ全速!作業デッキに人を出しな!」

「ウィンチ全速了解!」

「作業デッキに配置!」


 さーて、あれで死んでてくれるといーんだけど。作業デッキで暴れられたらえらいことだよー。

 上空から海中を引かれる巨大魚(ジャスパー)の動きを見ていると、左舷のワイヤーに動きがある。あれはまだ生きてるね。


「左舷ウィンチ半速!」

「左舷ウィンチ半速了解!」


「両舷レールガンに短槍(たんそう)を用意ー!」

「短槍了解!」

 作業デッキに飛んで、あたいはネモスを呼んだ。


「絡まると厄介だよー。右舷はそのまま巻いてデッキに引き揚げよー。左舷はまだ元気だから衝撃が来るかもだよ。みんなによっく言っときなー」


「短槍、装填完了!」

「30メルまで引きつけなー。そこまで来たらウィンチを止めて狙い撃ちだよー!」

「30メル、了解しました!」


 一応上から見てよーか。来たのが2匹でよかったよー。回収考えたら銛2丁であれ以上は相手できないしー。


 巨大魚(ジャスパー)は漂う感じで右舷に流れ短槍(たんそう)で仕留められた。銛で深い傷を負って、これだけ引きずり回されたことを思えば頑張った方だろう。


「両舷停止ー!解体を始めるよー」

「「「おう!」」」


 2匹ともが作業デッキに横たわると流石に狭い。あとのは半分だけ引き上げて先のを解体させた。切り分けた身を冷凍庫に入れるのにウィンチのワイヤーが邪魔で、上のデッキから吊り上げる必要があったけど、あり合わせの道具でなんとかした。

 こう言うのは使ってみないと分からんもんだねー。


 解体する間は2ハワーほども船を動かせなかった。2本の銛の再装填にそれぞれ真上のガフが必要だったし、揺れると切り分けた重い身を運ぶのが大変だから。もちろん切り身は薄いシートで密封してから冷凍する。操船訓練でかなり洋上をグルグルしてたんだけど、タイタロスまで500ケラルというところまで来ている。明日には近くまで行けるだろう。

 あそこは巨大魚(ジャスパー)がいっぱいいるはずだから楽しみー。そんなことを考えていたらネモスが巻き網をやりたいと言い出した。根っからの漁師だねー。でもあれって2艘でやるんじゃなかったっけー?


 詳しく聞くと2本のウィンチで長い網の端々を引くらしい。網の下側に(おもり)、上には浮き玉を付け、あまり速くない速度で海中を曳いて、最後は下から絞るように持ち上げるんだそうだ。


「海面から5メルくらいまでの魚を捕れるって言うんだけど、おっもしろそうだねー。別に急いで行く必要もないんだし、やってみよーよ」


 アリスに相談すると結構乗り気だった。シロルも巨大魚(ジャスパー)よりは普通の魚の方が練習になると言ってくれた。そう言えば積んできた魚はほとんどが燻製だったー。


 ネモスが右舷の倉庫から4人でゾロゾロと長い網の束を出してきた。デッキに広げて浮き玉と(おもり)を付けていく。両端の浮き玉は底から絞るための引き綱が付いている。船尾のデッキから網を投げ入れ、ウィンチを伸ばして行く。帆は半分に減らして少し船速(あし)を落とした。20メル後方を大きく広がった網を引き連れ2ハワーほど走る。


 ネモスの合図で巻き上げが始まった。網の両端が船尾デッキに当たるまで巻き、縦帆(じゅうはん)を畳んだガフブームから降りてきたフックで、底から巻き上げると網の下端は引き絞られる。もう一本フックを下ろし1人が泳いで離れた浮き玉に掛けた。


 ここからはどんどん巻いて網を持ち上げる。3メルも揚げると中で暴れる魚たち、見る限り4、50セロの黒く太い魚が多い。さらに持ち上げると1メルを超える背の青い平たいやつ、鱗の赤い30セロクラスも結構入っている。

 そこでウィンチを巻きデッキ側の網を床に広げるように引くと、5、6人が並んで大きな掬い網(タモ)で上げ、締めてはデッキに転がす。それを争うように男達が右舷、左舷のハッチへと放り込んで行く。ハッチの中では防寒服を上だけ着込んだ者が、奥の棚へ運んで収めていく。

 このくらいのサイズは彼らには見慣れた獲物だ。ワアワアと幾らも経たず片付けてしまった。フックから網を外し、洗ったあと錘と浮き玉を外し、丁寧に畳んで右舷側の船殻にあるフックに干された。


 帆走は交代で夜も続く。この辺りに浅瀬がないのはエーセイガゾーで分かっているし、だいたいの位置も分かる。巻き網は風向きが良かったのであまりロスにはなってない。明日にはタイタロス島が見えて来るだろう。


   ・   ・   ・


 お昼過ぎになってメインマストの見張りから知らせがあった。まだ遠いけど島影が見えるってー。すっごく長くて左が高い。タイタロスだー。

 見張り台には4台のカメラがあってブリッジでも見られるんだけど、高いとこが好きな奴もいるって、あれ?あたいもかー?

 目は多い方がいいってんで一人は登るようにしてる。日が出てる間だけだしー。


 さあこっからだよー。でかいのを狩らないと島には寄れないからねー。あと2ハワー走って寄ってこないようなら、少し島から離れて一晩明かすようだ。

 ()るんなら明るいうちだからねー。とか言ってるうちに、来たねー。


「左舷前方、お客さんだよー!面舵ー!横帆(おうはん)は畳みなー!」

「面舵、了解!」

「横帆、畳めー!」


 船内では警報音がガーガーと鳴り操船員が持ち場へ走る。客室係も動いて困るものを固定する手際も良くなった。厨房では携行食を作り始めただろう。


「左舷半速!間切(まぎ)るよ!」

「左舷半速了解」


風は右前から吹いてるからね。風上にジェットで走るのは効率が悪いよ。


「左舷停止!縦帆(じゅうはん)だけで切り上がるよ!両舷銛の用意!」

「左舷停止了解」

「銛の準備できてます!」


「13メルクラスが1匹だよー。引きつけなー!進路そのままー!」


 猛烈に追って来るねー。なんだって船をこんなに目の敵にするんだろねー?


「右舷、てーっ!」


ドンっと上がる水柱。巨大魚(ジャスパー)はガクッと遅くなった。


「右舷、短槍(たんそう)準備ー!ウィンチ半速ー!」

「短槍、了解!」

「右舷ウィンチ半速で巻きます!」


 曳かれながらも左右に泳ぐ巨大魚(ジャスパー)を帆走で引きながらウィンチで巻いて行く。


「30メルで短槍撃つよー」

「30メル了解!」


 右舷の短槍が放たれドスっと響いて動きが止まった。


「ウィンチ半速ー!」

「半速了解!」


 みんなが注視する中、巨大魚(ジャスパー)は船尾へ近づいて来る。


「右舷短槍準備!ウィンチ停止!」

「ウィンチ停止します!」


船がガクンと揺れた。巨大魚(ジャスパー)が急激に潜り始めたのだ。


「両舷全速!縦帆畳めー!」


 今度の揺れはジェットの全速運転だ。グングンと速度が上がる中、暴れる魚の振動が別建てに伝わって来る。

 が、10メニも走ると後方15メル辺りに浮き上がってきた。


「右舷短槍発射!」


 ドスっと刺さる槍に魚の動きはない。


「両舷微速!ウィンチ巻け!」

「両舷微速了解!」

「ウィンチ巻きます!」


 13メルは息絶え、デッキに引き上げられた。


「両舷停止!(いかり)を降ろせー!」

「両舷停止。錨を降ろします」


 解体は任せるよー。



 あたいたちは右舷の食堂隣の2等客室に陣取ったけど、なかなかいいよー。あんまり広いと落ち着かないからねー。

 今夜はアカセとクロバチの刺身にヒラクスの骨スープだった。今まで食ってたのはなんだったのってくらいお魚を感じたよー。

 ヒラクスはネドルでも見たことなかったらしい。網には3匹しか入ってなかったからねー。また巻き網やりたいねー。


「ミット、よだれ。さっき食べたばかりだってのに」

「あははー。でもいーよねー、ヒラクスー。また捕ろーよ」

「はいはい。それよりミット、船をどこに着ける?」

「あー。こっち岸はでっかいの対策で水深2メルくらいにしたんだっけー。そっかー、じゃあトリに言って周遊道路に桟橋作ってもらおー」

「シルバ。あんたトリ班に連絡できる?村に近いとこで桟橋作らせて欲しいんだけど」

 アリスがシルバに意見聞く。


「はい、連絡はできますがこの船を着けるとなると8メル以上の水深が必要です。海底に水路を作る必要がございます」

「あー。考えてなかったなー、そっか。むうー。トラクを一台海底仕様にしちゃう?」

「可能ですが巨大魚(ジャスパー)の襲撃や大ダコに対処できません」


「むー。じゃ、近くまで行ってあたいが浮かせたトラクをロープで引っ張るー?それを作業デッキに2台並べてー」

「この船も狩が終わるまではデッキを塞ぐのは推奨できません。できる範囲で道路上から海底を10メルまで下げておきますので」


「うーん?今の道路から海底が深くなるとこまで伸ばして来るのは?この辺なら入って行けるよね?」

「はい。ですが30時間ほどかかります。それでよろしければ作業を始めます」

「一本できたら間隔を100メル取ってもう1本伸ばしておいて。嵐の時は繋ぐ場所が多い方がいいから」


「それでしたら2本目は短くてもいいかと。出来上がった桟橋上から海底整地ができますので」

「へー、なるほどねー。できあがれば奥まで入れるんだー。じゃーそれでやってもらおー」


   ・   ・   ・


 あたいたちは翌朝から巨大魚(ジャスパー)を狩り続けた。20匹以上にもなって、2日目にはトリスタンから呼んだトラク2台に、あたいが収め切れない冷凍魚肉を転送するハメになった。

 その量に音をあげたあたいはサイナス村からジーナを呼んだ。ナック坊や見たさに声をかければすぐ飛んでくるからねー。


「ミットさん。これはすごい船じゃの。これであのグレイジャスを狩っていると言うのか」

「ジーナ、あれはジャスパーって言うんだってー。言われてみるとツノがなくて色が違うくらい?似てるねー。やっぱり肉食で見境がないんだよー」


 二人で冷凍庫の奥からトラクの荷台に転移を繰り返し、次々と放り込まれるジャスパー肉の置き場所を作って行く。2台の輸送トラクを満載にし、セーシキドーまで二人で休憩に行って来る。


 いつの間に見て来たのかジーナは船室が気に入ったようで

「サイナスの子供と年寄りを連れて来たいのう。どうじゃろうか?」

「いーんじゃない?客室係の実地研修になるし、ジャスパー肉が食い切れないからー。アリスに言っとくから呼んどいでよー。人数は何人ー?お部屋は4人部屋が30くらい空いてるよー」

「30部屋じゃと?全員で来ても泊まれるのか?それはすごいのう」

「50人ちょっとだっけー?」

「今は62人おるのう。明日連れて来て来て、一晩泊めてもらうのはどうじゃろうか?」

「アリスー。ジーナがサイナス村をシーフラウに引っ越すってー」

『えっ?何?ほんとに?それはちょっと……』

 慌ててるねー。


「2日でまた引っ越すらしーよー」

『なんだ、びっくりするじゃない。何人?』

「62人だってー」

『分かった。いつ来るの?』

「明日ー。一晩泊まって帰るってー」

『用意させるよ。切るね』


「はい、オッケー」

「それではわしは村に戻って準備をさせようかの。送り迎えの手伝いは頼めるかの?」

「カニでまけとくよー」

「ふむ。ではの」


 よーし、あたいも戻ろーか。



 その後もなるべく単独になるように島には付かず離れず巨大魚(ジャスパー)を狩って行く。

 解体途中で大ダコが1匹出て来て魚肉を狙われ、騒然となる一幕があった。あたいは近くになんかいるとは思ってたんだけど、デッキにしがみつくまで気がつかなかった。そいつは撃ち込んだ銛2本にアリスがデンキをケムリが出そうなくらい流してやっと仕留めたよー。


 サイナス村御一行をジーナと転移する間も巨大魚(ジャスパー)の狩は続いていた。数も減って来てるし何より操船や魚への対処が上手くなってる。そう大きく船を揺らすこともなく、動いて止まってを繰り返す感じだった。


 午後にはもう獲物が見つけられず、それでもしばらくグルグルと帆走してタイタロスの新桟橋に停泊した。サイナスのお客さん達は屋上で大きな船の走る様を楽しそうに見ていたねー。

 トリ班とシルバに見張りを任せて、夜はみんなで宴会やらお風呂やらでゆっくりできたよー。


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