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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第13章トリライン‬
129/157

11 偵察・・・アリス

 これまで:まだ名のない乗り場で、ミットはアカメと組んで巨大魚と大ダコを狩った。その始末に時間を取られ道は捗っていない。明日は偵察と決めた。

 上空から見るとこの島は北西から南東に200ケラルに渡る細長い形をしている。それは地図で見て知ってたけど……

 まばらな雲を映す深い青を背景に浮かぶ、灰色の岩場、それに続く緑の森を実際に見るとまったく印象が違う。


「今日は天気がいーからねー。すっごくきれーに見えるよー。ナックー。どうだいこの景色ー?」


 シルバも含めた4人で300メルの空中から島を見ていた。いつもの防刃衣装に交易品、食料を詰めたリュックに狩道具という出立ち(いでたち)だ。


 最初の村は岩場を抜け15ケラルほど、島の中央山地に張り付くように60軒ほどの屋根が並んでいる。山に寄り添うように小規模の畑を開き海に向かう道が一本。その先には桟橋があり4艘の小舟が舫ってある。


 200人ってとこかな。海もあんな巨大魚がいるんじゃ漁も大変かもだね。


「降りて見よう」

 村の手前の畑作地には数人の人影がある。その畑の縁にミットが転移した。


「こんにちはー。あたしはアリス」

「ミットだよー。この子はナックで銀頭はシルバ」

「旅で来たんだけど、ここってなんて言う村かな?」


 声をかけた男は茶色っぽい鍔広の麦わら帽子に、素肌に直接半袖の膝まである風通し良さげな藍色の上着を汚れた黄色っぽい帯で腰回りを縛って、幾つか小袋を下げている。手に柄の長い農具らしいものを持ち足は裸足だ。

「旅だあ?おめえらどっちから来た。ここはネクト村ってんだが。おらあコータってんだ」

「北東の岩場を超えて来たよ」


「北東だあ?ヤナドリの石の雨に遭わんかったか?やろら、こんなでけえ石を降らすでのお」

「あー、石の雨。あれは酷かったよー。馬車の屋根ボッコボコにされたけど90羽くらい海に落としたよー」

「馬車だあ?そんなもの通るとこなんか無いはずだが。法螺ぁ大概にせいや。で、なんの用だ?」


「あたしたちはガルツ商会で、行商みたいなことで回ってるんです。こちらで要りそうなものを売って、珍しいものや余っているものを買ったりするんです。それで先触れできたんですけど」

「行商ってなんだあ?売るう?買う?」


「馬車は明日の夕方くらいにはここに着くかな?何せ道を作りながらなんで時間がかかるんです。今は見本が少しあるだけですね。ここはどんなものが取れるんですか?」

「この畑はカンショにタママメ、ギーボくらいだあ。いまは取り入れがだいぶ済んじまったから、カンショしかねえ」


 コータが茶色い葉が茂った茎の硬そうな一株を引き抜いた。斑な葉よりもしっかり茶色の小ぶりの実が3個根にぶら下がっている。


「こいつがカンショだあ。んー、今年は実の入りが良くねえなあ。けど甘くてうめえぞ」


「海へは出ないんですか?」

「海は突き漁だなあ。船から長い銛で魚やウシコを突くんだあ。沖へは出らんねえ。たまに山みてえにでけえ魚に襲われるでなあ」


「あー。じゃあ近くに見える島には行けないんだー」

「ああ、島なあ。おらあ、こんまい時から一遍行ってみてえと思ってたがなあ。見えてて行けねえってのはなあ」


 そのあとリュックに詰めて来たカップや櫛、髪飾りなどを見せて長の家へ案内してもらった。


「ようこそおいでなされた。コータは失礼はせなんだか?あれはちょっと鈍いでな。わしはこのネクト村で長をやっているケーシロじゃ」


 服装はコータとあまり変わらない。屋内だからか帽子の代わりに赤い鉢巻がおしゃれな感じ?


「アリスです」「ミットだよー。この子はナック」「シルバと申します」


「あたしたちはガルツ商会の先遣隊です。交易をしに来たんです」

「交易ですかな。どちらから参られた?」

「北東のチューブ列車乗り場です。途中ヤナドリですか?石の雨が酷いんで岩場の影に道を作って進んで来てます。明日の夕方にはうちの馬車がここまで来るはずです」


「……チューブ……古い言い伝えにそんなのがあったか……

 なんでもこの島は昔はもっと広くて大きな街があったと言うんじゃ。今でも岩場が時々崩れておるから、まんざら嘘ばかりでも無いと思うておったが……」


 交易品について聞いてみると農産物の種類が少ないが、見合う量なら交換してもいいと言う。人口が決まっているので余剰が大量になるような植え付けは行っていないのだ。


 ここが180人、隣のタイタロスは320人ほどが暮らしているとのことだった。漁はどちらも沿岸漁業でタイタロスには広い砂浜があり貝堀りができるそうだ。

 山に入ると山菜やキノコがいくらか取れるそうで2村の交流は頻繁にあると言う。


 手持ちの交易品から1個ずつ、おやつ代わりのクマの干し肉をひと束置いてタイタロスを見に行くと伝える。

 代わりにカンショとギーボの団子を持たせてくれた。カンショは生では食えず、火を通せということだった。


「わしらでも2、3日はかかるでその軽装で大丈夫かの?踏み分け道はあるでな。迷うことは無いじゃろうが毒ヘビに注意しなされ」

「あいあいー」


 畑を5枚越えると鬱蒼たる森だ。

「アリスー、毒ヘビだってー。どんなやつかなー?」

「あんたは楽しそうで何よりだよ、ったく」


 普通、毒ヘビって聞いて喜ぶかー?


「お?あれそーかなー?」

「えっ?どこ?」

「ほら、そこの木の根本ー。ちょっと顔出してこっちを見てる」

 ミットは無造作に近づくと手を出した。

 あっ、バカ!


 ヘビが飛びかかる勢いで噛みつこうとする。ミットは肘から先をクルリと回しヘビの首を掴んで持ち上げてしまった。長さは20セロくらいか。濃い緑色のヘビは持ち上げられたまま手首に巻き付いた。

 右手で矢を一本、背の矢筒から抜くとヘビの口に当てる。開いた口を覗き込んでミットはことも無げに言った。


「可愛い牙があるねー。子供かなー。あー、これ毒っぽいねー」

 シルバに見せたあと、あたしの方にも手を突き出した。

「あー、ほんとだ。2本牙の根元に青っぽい液が出てるね」

 牙の根本から流れもせずぷっくらと丸まっている粘液。1/4セロも無いけどどのくらいの毒なんだろね?


「この緑の他にもいるかなー?もう少し歩いてみよっかー」

 ヘビをポイと横に投げミットは先へ進んでいく。あたしがその後ろに付き、ナックを抱いたシルバがしんがり。


 しばらく薄暗い森の中をテクテクと歩くとミットが左手を上げた。

「あっちにヘビっぽいのがいるねー」

 右手前方を指している。


 今度は少し慎重にそちらへ寄って行く。1メル半遅れてあたしも続いた。

「あー、おんなじやつだー。80セロー?ちっちゃいねー」


 そう言って一歩退がると向きを変えミットは元の道に戻った。

 そうやって2ハワー歩いたが、見かけた3匹はみんな緑だったので上空へ。




 島の突端上空120メル。タイタロス村って言ってたっけ。こちらは家の間に大きな木があって上空から軒数が数えにくい。やっぱり山裾に沿って広い畑が見える。

 西側に岩場に囲まれた入江があって小舟が6艘、南側にかけて1ケラルの砂浜。よくみると山を回り込んだ南側にも家があるね。


 北東の端、畑の縁に転移した。畑に人はいない。取り入れは終わっていると見え、枯れた草山があちこちに積み上げられている。


 広い畑の向こう、大木に寄り添うように何軒かの家が見え、庭先で何人か作業をしている。

 近づくにつれ丈の長い草の先を何か三角っぽいものに押し付けているように見える。後ろに座っていた女が地面を掻き寄せ、膝にあった袋に入れるとそれを持って奥の建物へ運び込んだ。二人の女と子供は相変わらず草の先をトゲトゲの三角に穂を当てている。


 さっきの女が戻って来てあたしたちに気付いた。


「こんにちはー」

 手を振って近づいて行く。


 声の届くところまで近づきもう一度挨拶した。

「こんにちはー。あたしはアリスって言います。ガルツ商会の行商なんです」

「あたいはミットだよー。シルバとこの子はナック」


「ああ、こんにちは。あたしはタイタロスのサラって言うんだ。これは娘のアイ、そっちは息子のケージだよ。どこから来たんだね?」

 ネクトで見たのと同じ藍色の服を着た40代の女性。オビの模様と襟に赤や黄色の縫い取りがあるのが唯一のおしゃれだろうか。大木の作る日陰の中なので髪を後ろで一つに縛っているだけだ。


「北東の端にチューブ列車の乗り場があるのは知ってます?」

「死んだひい婆さんがそんなこと言ってたかなあ?ここらでたまに聞く年寄りの法螺話だろう?ずいぶん大きな町があったそうだよ?」

「町は知りませんが、乗り場はあるんですよ。降りたらすぐ岩場の断崖で、海鳥が石の雨を降らせるもんだから屋根がボッコボコにされて大変でした」


「なんだい、それヤナドリじゃ無いのかい。あれは北東の岩場にしかいないはずだよ?ほんとにあっちから来たのかい。へえー」

「10メルもあるでっかい魚も見たよー。大ダコもいたー。7メルくらいの魚を襲ってたねー」


 それ全部食材にしちゃったけどね。


「そうなんだよ。あの巨大魚(ジャスパー)のお陰で沖へは船を出せないんだ。岸に近いところで漁をするんだけど、深いところを通ると襲われることがあってねえ」

 サラ母さんはしゃべり出すと止まらない人だったようだ。アイちゃんとケージくんは黙々と草の処理を続けていたけど

「母さん、喋ってるとギーボの脱穀が終わらないよー」

「あらいけない!ごめんね、そこの山は今日の分なんだ。割り当てでね。雨でも降った日には後始末が大変なんだよ」


 ギーボと言うのを見ると麦の穂とよく似てる。

 あたしがここで一山ダッコクや袋詰めするのは簡単だけど、明日も明後日(あさって)もできるわけじゃない。仕事がなくなるのは収入がなくなることだ。

 実入りのいい仕事を作るのが先なんだろう。


「あー、お邪魔してごめんなさい」


 先へ進むとどこの家でも子供と母親がダッコクの作業をしていた。実を取った後の細い茎を男の人が重そうな木製の荷車で集めて倉庫に運び込んでいた。

 聞くと(おさ)の家は倉庫の近くだと言う。


 タイタロス村長の家は、大木の幹を取り囲むように建つ板葺きの大きな2階屋だった。入り口からあたしが声をかける。


「こんにちはー。ガルツ商会の先触れでお邪魔しているアリスでーす。長の方はいらっしゃいますか?」

「わしが長のカラタロじゃ。どこから来なさった」


 自己紹介の後、北東の乗り場とそこから続く新たな道、ヤナドリ、巨大魚の話をしたけど半信半疑のようだ。それでも交易の話は聞いてくれた。


「アリスさんと言われたか?交易と言うがどんな物を扱っておられるのか?ここはもうご存知と思うが、(ジャスパー)に襲われるで他の島に渡ることができぬでな。二つの村で要るものを自前で作っておるだけじゃ。それでこれまで不自由は無かった」

「見本を少し持って来ています」


 シルバがそれを受けてリュックからカップや飾り物を並べ始めた。

 カラタロさんは品を並べるシルバの方が気になるようで、上から下まで舐めるように見ている。


「このシルバと言われる者はどうなっているのじゃ?腕や足がこんなに細いのはどうしたのか?」

「あー、これはロボトって言ってねー。人間じゃないんだよー。あたいの執事をやって貰ってる」

「シツジが何かは知らぬが、暑いなかこのような仮面をかぶって大変なのだな」


 詳しく話してもこの様子じゃ伝わらないか。


「北東の岩場が崩れているって聞いたんだけど、この辺りは大丈夫なんですか?」

「ネクトの者が言うには年に何度か大きな崩落があるらしいな。島の西側は毎年大きな嵐が何度か来るで、大波で海岸が削られることがある。言い伝えではこの島は今よりずっと広かったらしいが」


 あたしは目にエーセイガゾーから海底のチケイズを出して貰った。東側は3から5メルくらいの水深で200ケラル先まで広い棚のようになっている。逆に西側は数百メルの浅瀬の先はどんどん深くなって行く。

 東の棚が全部陸地だったらこの島はずいぶんと広くなる。こんなになるなんてよほど脆い地層だったんだね。3つの島は硬い岩山の名残りらしい。


 あたしはリュックから紙を出すとシルバに地形図を描かせた。島の輪郭線に海底の等高線。

 シルバは3メニとかからず1メル角の大きなチズを描き上げた。

 あたしは長の前に広げて説明して行く。


「この大きな細長いのがこの島です。見えている3つの島は東側にあってこの辺りの水深は3メルから5メル。10メルクラスの巨大魚(ジャスパー)が泳ぐのに支障ない深さです。一方西側は狭い浅瀬の所々が深く海底まで切り立っていて、そう言うところは船が襲われやすい」


 唸るような声で頷きながら長がチズを覗き込んだ。


「確かにこことここは船がよく沈められる。その先まで行くものはいないが、まだ2箇所も危ない場所があるのか」

「西側の深い場所は2メルの深さまで壁を作って巨大魚(ジャスパー)の侵入を止めようと思います。それで岩場の近くまで舟が行き来できますね」

「そんなことができるのか?」

「海の中はやったことがないですけど、多分できます」


 海底で50セロの小壁を突き上げたこともあったし。


「東側は……そうですね。海岸線に10メル幅の護岸を作りましょうか。そうすればそのまま海岸道路になりますし、土地が嵐で削られることもなくなります」

「こことネクトの近くにしか浅瀬がなくてな、東は漁がほとんどできんのじゃ」

「漁場ですか……1メルの隙間を開けた平たい杭を海底から立ち上げて外海と仕切って仕舞えばどうでしょう……えっ?大ダコはすり抜ける?……50セロ以下の網目?……ふうん……」


 杭を立ち上げた後、間を目の荒い網で繋ぐ感じだね。杭の厚みを1メル、間隔を2メルにして網で繋いでいけば海流をあまり阻害せずにデカブツたちの侵入を防げるね。

 マシン散布で作業トラクを移動するのに上に道路があるといいんだけど、どうせ作るんなら8メル幅の観光道路なんていいんじゃないかな?

 海の穏やかな日に走るのは気持ちよさそうだよ。

 漁場の整備なら先行投資で商会の稟議(りんぎ)は通るよね。


「杭はこんな感じで広く囲ってみましょうか。3つの島も中に取り込むようにしてこうグルって丸く。出来上がったら中の巨大魚は駆除してしまいます。そうするとこの中はいい漁場になるでしょう」


 カラタロさんは目を白黒させてあたしを見ている。


「あとはそうですね。ガルツ商会の支店を建てたいので土地を売ってもらえませんか?ここで取れる作物や海産物を買って他所の食べ物やそこに並べたような商品を売ります」

「土地を売るのは構わんよ。じゃがここの者は2ヶ村合わせても500人じゃ。漁場がそこまで広くなると、作物の始末や暮らしに必要なことに子供まで駆り出しておるでな、とても手が回らん」

「ギーボの脱穀とかでしょー?アリスが道具を作ってくれるよー。他にもいろいろあるから大丈夫だよー」


 話している間にマノさんがケーカクズを作ってくれた。シルバがそれを何枚もの紙に描き出していく。


 あたしがその説明をカラタロさんにしていく間にミットがガルツと連絡を取り先行投資の話をつけた。シルバは兄弟の空きを確認して一班呼んだらしい。

 大規模な新規事業には一班8台のシルバ隊が使い勝手がいい。道路班も今や30台を超えているが、町や村の要請であちこちに散っていて細かな作業に重宝されている。


 カラタロとの詰めの話し合いはその日で終わらず、翌日また出直すことになった。


   ・   ・   ・


 夕飯後の会議でシロルを交えて話をする。


「大きな計画はできたから細かい修正をしていけば特に問題ないと思うんだ」

「困ったのはお金だねー。島じゃ物々交換だって言うんだよー。お金は物置に積み上げてあったよー。あれを住民にどう分けて使ってもらうかってのが厄介だよねー」

「支店を先に建てて買い取ることでお金を渡すか、頭割りでお金をばら撒いちゃうか」

「アリスー、家の物置とかに溜め込んだお金が埋まってるかも知れないよー?」

「そう言うこともあるでしょうね。でも御先祖の遺産ですから、それはそれでよろしいんじゃないでしょうか?」


「買い取りは売るものがある人はいいけどねー。うちの準備もいるよー?買い取り業務に慣れたやつ連れて来ないとー」

「それは開店に合わせて本部から何人か呼ぶから大丈夫だけど」

「観光道路ですか?そうしますとヤルクツールやライカース並みの施設が必要になるのではないですか?」

「最初は魚介の美味しい温泉宿って程度でいーんじゃないー?お客さんがどれだけ呼べるか分かんないよー。まだ、チューブ列車で旅を楽しむ人ってそんなにいないじゃないー。ハイエデンから5千人、ヤルクツール、トリスタンから年間3千人くらいってこの間ガルツが言ってたよー」


 シロルの作ったお菓子を摘み、紅茶を飲みながら夜遅くまであれこれをワイワイと話した。

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