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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第13章トリライン‬
128/157

10 解体・・・シロル

 これまで:エレベーターをトラクごと登り、降りてすぐの通路が断ち切られた乗り場。上空から海鳥による石の爆撃を受け、ミットの活躍で岩屋根の下へ逃げ(おお)せた。海へたたき落とした鳥に群がる巨大魚とそれに遅いかかる触手。ミットは大物を見つけ眼の色を変えた。

 30メニ程してもうひと区間進んだトラクの横にミットさまが現れました。アカメが一緒です。手元を見ると遮蔽材をひとつ抱えています。


 あたくしとアリスさまがトラクから出て、どうするつもりか問いただしました。


「んー?偵察して来るよー?アカメは保険だねー」

「保険ってあんたアカメ連れて潜る気?」

「アカメは土の塊だからねー。おっきな水溜りは苦手なんだー。ここにおいてくよー」


 シルバが抱いて出て来たナックさまに両手を小さく振って

「ちょっと行って来るねー」

 声と共にパッと消えるミットさまをナックさまがキャッキャと見送ります。


 消えて10メニ、アカメに興味津々のナックさまがペチペチと(みどり)の肌を叩いていると、大きな丸い赤目が現れます。

 驚いて固まったナックさまですが、すぐにニコッと笑い「ヤー」と一声。

 アカメはゴロゴロと出来上がっている道の海寄りを転がっていきました。


 500メルほど移動したところで海に動きがあります。下から大量の海水が噴き上げているようで、丸く盛り上がる海面が広がっていきます。

 その直径が200メルほどに達し、突然その中心から触手が現れ海水を叩きます。離れたこの場所からも、水中で激しい動きがあるのが海面に現れたうねりからも分かります。


 荒れ狂うような海面の動きが続く中、時折見える触手の沖に別のうねりが現れました。周囲の緩やかな波とは明らかに異なる3本の矢。矢と言うには大変に大きいのですが、あれは海面近くを巨大なものが移動していると言うことでしょうか?


 やって来る3つの大波、その中央が突然弾けます。

 一瞬吹き上がる波が激しく飛び散る中に巨大な魚の顔が見えたようです。中央の波が静まると右が弾けました。先ほどと同じように静まると次は左です。

 巨大魚が海面を破って空中を舞い、叩きつけるように横腹から没しました。


 手前を見ると最初の大ダコと思われる波はすっかり鎮まっていました。


『シロルー、タコとお魚3匹、どこに持ってたらいーかなー?』

「ミットさま?それは大変に大きいのでしょう?冷蔵設備なんてここにはございませんよ?」

「ミット、どうなってる?」


『えーっ?こんなでっかいの転移で持ってくったって、とてもじゃない1匹だって運べないよー』

「やっぱりでっかいんだ。あんたやりすぎだよ。どうするかなー……あんたそれ浮かせてこの道路までクロミケに引いてもらって引き揚げなよ。なんとか捌いて小さくしないと運びようもないから」

「『はーい』」


 声と同時にミットさまがロープの束を拐って消えました。

 アリスさまがシルバからナックを受け取ると

「ハッポーで包んだ荷車をたくさん作るよ。クロは資材庫から要る材料を出して」


「ミット。上げ終わったら捌くのはクロミケに任せて、アカメにトリスタンとハイエデンまで転移陣作らせて」


 ミケの視界を覗くとミットさまは獲物にロープをかけこの高さまで浮かせた大ダコをミケに引かせています。海水をすっかり抜いても5トンでは利かない重さがありそうです。

 あれは一度茹でたほうがいいのですがどうしたものでしょうか?


『あいよー。いっそがしーことになって来たー』

「誰のせいよ?」

「アリスさま、今上にがっているタコは茹でると多少日持ちするようになります。茹でる前に内臓を取ったあと下に水槽を作って海水に手持ちの塩半分を加えてもみ洗いさせて下さい」

「うえっ。シロル、まさか丸ごと?」

「はい。丸ごとです。下処理しないと折角のタコが台無しになります」

「ミット、聞いてるー?下処理だってよー。準備するから、できたら海水汲んで」


『……あいよー……』


 アリスさまはベルトのついた椅子にナックさまを座らせると、少し離れた岩場に広い場所を見つけて直径8メルの水槽を作り始めます。クロはミケに頭の肉を持ち上げてもらって中へ潜り込み、大ダコの内臓処理を始めました。


 荷車を1台終わらせたシルバが発泡材を取り付け始めました。あたくしは発泡材はシルバに任せて荷車の量産をしましょうか。できたばかりの道路はすっかり作業場と化しています。

 巨大魚をまだ見ていないので、どれだけの荷車が必要なのか分かりません。


 5台の荷車を並べた頃、ミットさまは体長10メルの巨大魚を引き上げ始めたようです。こちらも製氷機を全開に設定して荷車を冷やす準備を始めましょう。

 岩天井の支えに残した岩の柱の間からクロミケに引きずり込まれるように巨大魚が入り、今や巨大な俎板(まないた)となった道の上に横たわります。

 アリスさまの指示でミットさまが海水を2メルの球にして、できたばかりの水槽に放り込みますと、大ダコのもみ洗いをあたくしがいいと言うまでクロがみっちりとやった後、海水をすっかり入れ替えていただきました。

 そこへアカメがゴロゴロと水槽に向かって来ます。


「お湯を沸かしてくれるってー」

「え?なに?アカメが?」

「そー言ってたよー。どーやるか知らんけど」


 ミットさまからアカメとの対話はあまりキチンとしたものではないと伺ってます。

「少し離れていたほうが良さそうですね」


 近くにいた者が5メルほどの距離を取る中、アカメは水槽の前まで来るとそこで止まります。なにをどうするつもりなのでしょう、そのまま1メニほども止まったままでございます。


 と、ブワッといきなりの蒸気が水槽から噴き上げました。あたくし、実は唖然としてしまいました。

 一体何メニの間思考が止まっていたのかログファイルをひっくり返すことになりました。その結果分かった経過時間はおよそ1メニ半のフリーズでした。


「もう少し茹でたら上げなくてはなりません。ミットさま、準備をお願いいたします」

 そうミットさまにお願いいたしましたが、うまく動揺を隠せたか自信ございません。


「あたいはいつでもいーよー」


 アカメが役は終わったと言わんばかりにゴロゴロと退がる中、あたくしが手を上げミットさまが合図を待ちます。

 タイマーが5メニを指したところであたくしが手を振り下ろすと、ミットさまが足を丸く縮めた大ダコを道路に転がしました。全体に発泡材のシートをかけこのまま10メニほど内部まで余熱を通します。わたくし、このサイズは初めてですから、うまくいくか心配なところです。


 ミットさまはそれを見届け、ロープを引いて海中へ、2匹目の巨大魚の回収に向かわれました。あちらもそう長くは置いておけません。すぐに体長10メルの巨大魚が海面から浮き上がります。クロミケの引くロープで天蓋を支える岩の柱の間から引き摺り込まれるように入って、今や完全に俎板と化た道路に横たえられました。


 あたくしはアリスさまの指示でトラクの散布マシンの再プログラムを行いました。今回作るのは道路ではございません。巨大魚の加工、食用可能な部位の分離でございます。

 その間にもミットさまが7メル、8メルの巨大魚を大俎板に並べて行き、アリスさまがお刺身に良さそうな部位をクロに切り取らせています。


 あたくしはトラクを180デグリ転回し道路上に一直線に並んだ4匹の巨大魚を射程に収めます。

 さあ、解体開始でございます。これまでもずっと小さな獲物で何度もやって来たことではございますが、まさか作業仕様トラクで食材の解体をするとはあたくしも思いませんでした。

 マシンを散布しますと30メニかけて皮、背の魚肉、腹側、カブト周りのお肉、骨、内臓に分かれ積み上がるはずです。

 あたくしもトラクを降り、魚肉の品質を見に参りましょう。


 通りがかりにシートを捲って見ましたが大ダコの方はもう少しでしょうか。


 巨大魚の頭のあった辺りに遮蔽材(タングステン)の10セロ球が転がっています。これがアカメを連れて来たタネでございましょうか。後ほどミットさまに伺いたいところですね。


 でき始めている各部位を生のまま味見してみます。どの部位も1級品と言っていいでしょう。特にカブト周りは絶品です。量も多いですから食べ応えは十分ですね。この量をこのまま市場に流すと値崩れが酷いと怒られてしまうので、8割はこちらに押さえましょう。

 ミットさまはナックさまを抱いて、アカメにハイエデンの本拠に直通の転移陣を作らせていますね。トリスタンデパートの冷蔵庫前にも繋ぐようです。


 クロミケに手伝ってもらい生食部位を選んでどんどん荷車に積み、氷漬けにしてハッポーで包んでいきます。


 とは言え背肉も腹肉もいくらなんでも量が多すぎです。

「アリスさま、背肉と腹肉は半分を燻製加工にしませんか?」

「あー。この量は売り切れる気がしないね、しゃーない。保存用に回すかー」

 こちらはアリスさまにお任せしましょう。


 内臓部分に卵と白子が入っていますね。こちらは別に取り出して調味料で味付けしましょうか。醤油漬けや味醂付け、塩漬けなどどれも美味しそうです。手間のかかる楽しそうな加工は後にして次は大ダコですね。


 足の一番太いところを切ってみます。ここで火が通っていれば他も大丈夫ですがどうでしょうか。1メルに近い太さがあります。薄く切って手触りを見ます。中心部分の30セロは生ですね。太さ70セロのところを切って確認しますとこちらは大丈夫。うん、美味しい。

 クロを連れて来て足を切り分けてもらう間に頭の確認します。こちらも問題ありません。


 切り分けた大ダコは氷を敷いた荷車に積み上げ、間にも氷、上からも大量の氷を被せハッポーの覆いを被せました。


 生煮えの足はどうしたものでしょうか。もう一度煮たのでは固くなってしまいますし、このままではすぐに腐ってしまいます。

 量が多いのでこれも保存食にしたほうが良さそうということもあります。5セロ厚に輪切りして塩干し加工と燻製加工をやってみましょう。お湯で戻して使うことができれば理想的です。


 まったく。ミットさまはやりすぎです。おかげで今日は700メルしか進めませんでした。

 午後の遅い時間までかかって50トンにも及ぶ食材の送り出しも終え、夕食後の会議になりました。


「いやー、調子に乗ったあたいが悪かったよー」

「もう何度も聞いたからそれはいいよ」

「それよりもミットさま。あの遮蔽材(タングステン)の球はなんでしょうか」


「えっ、あれー?あれは…アカメがね……」

「アカメが絡んでるのはみんな知ってるよ、どう使ったのかが聞きたい」


 アリスさまが詰め寄ります。


「えっと、アカメが転移陣で遮蔽材(タングステン)を簡単に加工するのは知ってるよねー?」


 アリスさまと一緒にあたくしとシルバが頷きます。


「あいつ、うんと離れてても変形できちゃうんだー。それで遮蔽材(タングステン)をあたいが囮になってタコや魚の口に押し込んで、あたいの合図でこう、ドシャーッ!と?」

「「「……」」」

「あれ?」


「なんとなく分かった。で、上手くいったもんだからチョーシに乗ったと?」

「あ、はい……」


「もう一つ。あの湯沸かしはなんでしたの?」

「あー。あれ、すごかったねー!」

「はあ。なんとなくわかりました……」


 あたくしが追及を諦めるとアリスさまが話題を変えます。


「この島には村が二つあるみたいだね。今日の騒動で岩場にはもう2日いることになるんだけど、偵察頼めるかな?明日あたしと一緒に」

「じゃ、シルバとナックも連れてくねー」

「むう。子守付きかー。

 近くに島が3つあるからそこも調べたいんだけど?」


「大丈夫ー。やばくなったらちゃんとアリスを置いて逃げるからー」

「それは……なんか腹立つんだけど」

「えー?気のせいだよー。お風呂入って早く寝よー」

「ええ。長い1日でした。ごゆっくりお休みください」


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