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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第13章トリライン‬
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5 休暇・・・アリス

 これまで:ナーバスの治水工事がもう少しというところで大水がやって来た。全員で対処するが間に合わない。そこへジーナの加勢が入り、間一髪町は守られた。3月を費やしナーバスでの作業は終了した。

 あたしたちはジーナのとこへ、3日ほどお泊まりに行くことにしたよ。


「ジーナ。カンツ、ネギラ、おひさー」


 ミットが村長屋敷の前でナックを抱いて声をかける。あたしとシロル、シルバはお土産に持ってきた蜂蜜の壺を屋外のテーブルに並べ始めた。


「アリスさん、お久しぶりです。これ、もしかして蜂蜜ですか?こんなにたくさん貰っていいんですか?」


 ネギラさんの目がキラキラしてる。喜んでもらえて何よりだ。


 挨拶(あいさつ)もそこそこにミットがナックを下ろすとヨチヨチと歩き始める。村の人たちがワッと集まって来た。この村ではまだ小さな子はいないので、ナックは大人気だ。みんなしゃがみ込んでナックの動きを目で追っている。


「3日ほどお世話になります」

「休暇でいらしたかね、可愛い坊やを連れてきんさったのう。ゆっくりしてったらええ」


 村長屋敷には広い客室が4つある。その一つを使わせてもらう事にした。あたしは早速天気のいい海辺に出て、小舟を連れて海に潜った。

 何日か日差しが強かったせいか、水が緑に濁っていたけど、見えないほどではない。

 あまり深いところへは行かないつもりで、貝を拾って行く。3回目に海面に上がって小舟に捕った貝をあげているとそばで大きな水飛沫(みずしぶき)が上がった。何事かと見回すけど周りには何もない。

 首を(ひね)っていたら右側にミットが浮かび上がった。


「アリスー、置いてきぼりはひどいねー」

「何、さっきの水飛沫(しぶき)はあんた?」

「うん。あの辺から飛び込んだー」


 そう言ってミットが真上を指差した。


「ナックは大丈なの?」

「シルバもシロルもいるしねー。村のみんなが取っ替え引っ替え抱き上げるから、ちょっと逃げて来たんだー。ひと泳ぎしたら砂浜に連れてくよー」

「ふうん?美味しい貝を持ってってやりなよ」

「ヒャッホー」


 ミットは一気に海中へ身を躍らせた。あたしも続く。もうあんなとこまで潜ってる、さてはズルして体を重くしたな。

 空気を持ったまま重くして潜ると何十メニでも平気だからね。ミットのアレに対抗しようと思ったら不恰好で重い潜水セットを(まと)わなきゃならない。


 脇に抱えた棒は銛というにはゴツい、あれはどう見ても槍だ。

 余程の大物を狙っているのか護身用か。その柄で海底の岩をひっくり返し、驚いて出て来た魚を次々に3匹拘束した。

 ミットが言うには水を圧縮で固めてしまうらしいんだけど、細かいことはよく分かっていない。


 尾鰭(おびれ)の先だけがパタパタ揺れているので死んではいない。槍の穂先を当てると丁寧(ていねい)に止めを入れて行く。腰の網に手掴みでしまうと、起こした岩の周りを見てナイフで貝を()がしこれも網へ。岩一つでもうパンパンじゃないの。

 やっと追い付いたところで、ミットがニカッと笑った。手招きされるままミットの泡に首を入れると


「いやー、いきなり大漁だよー。まだ貝が付いてるからそっちにも入れて」


 あたしはこんなとこで息継ができてありがたいけどね。ミットが貝を剥がしだしたのであたしも泡から出て反対側に回る。網に半分ほど捕ったとき、ミットの様子が変わった。沖の深みを警戒してる。


 薄暗い水中は見て分かるようなものは見えない。ミットが右へゆっくりと顔を向けているのに気がついてあたしは少し下がった。

 このまま回り込まれたらミットの槍の邪魔になる。


 振り向いたときには何か黒っぽいものに向けミットが槍を構えていた。そいつはあと数メルというところで上へ登った。

 腹は薄い水色をしてかなり大きい魚だと分かった。ただ正面に長い棘が何本か見えたように思う。


 大きな影は右へ旋回を始めた。あたしの武器は40セロの短剣が一本だ。あの大きさを相手にできるか心許ない。まあミットがいるからね。きっとなんとかなるよ。逃げるのもパパっだし。

 そんなこと思っている間に、こちらが二人だけだと獲物認定したようで、旋回範囲を小さくしてあいつが降りて来た。そして2度ほど5、6メルあたりを通った。そろそろか?


 ミットが腰を低く構える。あたしもそれに倣う。

 魚は逆向きに急旋回すると頭を低く真っ直ぐに突っ込んでくる。

 あの棘を突き立てようというのか?あたしは正面に海底の土で壁を突き上げた。高さが50セロしかないけどあたしが身を隠すには十分だ。

 上を大きな影が通り過ぎて行った。

 後を血煙が追って行く。ミットを見ると槍が無かった。

 ミットが消え、抱えていた泡が大きく上へ巻き上がるように登って行く。離れたところに黒い影が旋回を始めたのが見える。と、その影が見えなくなった。


 はて?


『アリスー、上がっといでー。あいつはシロルに預けたよー』


 耳元からミットの声がそう言った。


 なんだったんだ?もう仕留めたの?

 浮上してみると小さな舟の上にはミットが待っていた。貝だらけの舟底にミットが足でザラザラと場所を作ってくれる。舟縁に座ってやっと一息吐いたあたしは

「あれ、どうやったの?」


「足元の岩に槍の柄を立てて向こうに向けて待ってたんだよー。体は伏せたけどねー。いやー、上手く刺さって良かった良かったー。でもまだ元気がいいんで逃げた先に転移してさー、拘束してナイフでグサリー。あとは宴会場の台所に持って行ってシロルに任せて来たよー?」


「はあ」

 転んでもただ起きないやつ。


「貝も結構取れたから戻ろうか。あの魚もあるしね」

「じゃあ、あたいはナックを連れて砂浜に行くよー。準備があるから先に戻るねー」


 準備ったってシルバにさせてるじゃん。あたしは座る場所を作って、岸を目指してオールを()ぎ始めた。


 河口から船着場まで入って小舟を(もや)うと、番小屋のおじさんが貝の荷下ろしを手伝ってくれた。8分目の箱が4つ。あたし一人で捕ったにしては大漁だ。


 台車を借りて村長屋敷へ向かうと、涼しげな服に着替えたミットがナックにツバ広の帽子を被せ、手を引いてブラブラ出て来た。シルバはいつもの黒服をビシッと着て、大きな荷物を両手に下げミットの後ろに付いて来る。

 ミットはあたしに手を振って砂浜に向かって歩いて行った。


 台車を低温庫の前に止めて中へ箱ごと持ち込み棚に積み上げる。


 シロルを探さないと。多分外の調理場だ。行ってみるとおばちゃんたちが5人ほど、何やら奮闘中だった。


「グレイジャスなんて何年ぶりだろ。お前たちは知らんだろうがこいつは美味いぞ」


 年寄りがはしゃいだように言う声が聞こえた。

 中心にいるのはあの巨大魚を真っ二つに下ろし、大きな板のような中骨を切り分けているシロル。見ると6本の棘を天に向け突き立てる頭がテーブルの片隅に鎮座していた。隅にミットの槍が立てかけてある。

 おばちゃんたちは半身を切り分け大皿に盛り付けて行く。これは食べ切れないんじゃ?


「シロル。貝も捕ってきたんだけど」

「あら、いいですわね。ミットさまも少しお持ちになりましたが少し足りませんので」

「保温庫に4箱あるから」

「はい、分かりました。こちらの半身は塩漬けにしますので、どなたかお手伝いをお願いします」

「忙しそうだね。あたしは砂浜に行って来るよ」


 シロルが手を振って

「あたくしも後で参ります」

 と言ってくれた。


 砂浜ではミットが大きな傘の下で椅子に座り、足を組んでお茶を(すす)っていた。

 普通ならあんなおしゃれ着を身に付ければもっと優雅に見えるんだろうけど、あたしも敵わない猫舌だからね、しょうがない。


 ナックはシルバがハラハラと見守る中、波を追いかけておぼつかない足取りで走り回っている。波打ち際の砂は固く締まって、ナックの小さい足でも沈んだりしない。

 波の泡が一瞬残ってほわっと消えるのが面白いのか、しゃがみ込んでじっと寄せて来る辺りを見ているね。


 あたしも傘の下に敷かれたシートに腰を下ろして時間を忘れ、ミットと一緒に海を見ていた。

 そのうちナックがグズリ始めた。何か気に入らないことがあったのだろう。砂を握ってシルバに投げつける。


「ヤー!チーケッ!」

「ナックさまどうされたのです。ほら綺麗な貝殻を拾ってございます。見てください、どうですか?」

「ヤー!」


 あれあれ、と成り行きを見ているとそこへ丁度シロルがやって来た。シロルはポシェットからクッキーを取り出し巧みにナックに握らせる。怪訝(けげん)な顔でシロルを見ていたナックが、手の中にあるお菓子に気付くのにさほどかからなかった。

 時々シロルが出してくれるクッキーだ。おいしいものはしっかり覚えている。ナックの(ほお)がにまーと緩む。


 ナックはクッキーを一口食べると笑みがさらに大きくなった。その場に座り込んで大事そうに2個のクッキーを食べて行く。


 食べ終わるとキョロキョロとあたりを見回し、あたしたちを見つけると上機嫌でこちらへ向かって歩き出した。

 砂の乾いたところは柔らかいのでシルバが屈んで後ろから支えるのだが、そんなことはお構いなしに足を動かし真っ直ぐに向かって来る。


 転ばなかったのはシルバの手柄だけど、そんなことを気にするミットじゃないよ。


「シルバ、転ぶのもナックの自由にねー」


 辿り付いたナックの手を取るなりミットが言ってのけた。

 抱き付いて甘えるナックを持ち上げると立ち上がった。


「飽きたみたいだからあたいは部屋へ行くよー。ゆっくりしてなー」


 見送るシルバの眉は駄々下がりだった。

 シロルがバスケットから保温筒やらポットを出し、お茶の用意を始めた。お茶を飲む者はあたし一人だからね、これで一緒に戻ろうと思ったなんて言えない。お茶の一杯くらいは付き合いますか。


 それにしても長閑(のどか)だね。海面の下であんなでっかい魚が獲物を求めて彷徨(うろつ)いてるなんて思えないよ。


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