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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第13章トリライン‬
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1 ナーバス・・・アリス

 チューブ列車の路線の旅は続く。どこも何某かの問題を抱え閉鎖に追い込まれているらしい。アリスとミットは全ての乗り場を復旧できるのだろうか。

         登場人物


 アリス 主人公 18歳 薄い茶の髪、白い肌、青い目、身長160セロの女の子


 マノさん ナノマシンコントロールユニット3型


 ミット 17歳 孤児 濃茶色の髪、やや褐色の肌、黒い目、木登りが得意、身長172セロ ナックの母親


 ナック  0歳 ミットの息子


 ジーナ  ミットの師匠


 ガルツ 工房出身 元猟師 その後兵士を3年ほどやっていた。日焼けした肌、赤黒い髪、青い目、身長185セロの大男。青ずくめの防具、楯と長剣が基本のスタイル。ガルツ商会の会頭


 シロル アリスの従僕 白猫ベースのネコミミメイド ロボト


 クロミケ アリスの従僕 クロとミケの2体 身長3メルのネコ耳ヤロー ロボト


 シルバ ミットの従僕 銀色ボディの執事 ロボト 黒い執事服に白黒のねじり鉢巻を着用


 シルバ隊 総勢32体の4班の道路部隊 班長は ジー、トリ、テト、ペタ 外見はシルバと同じ 服などは着ていない


 トーレルソン ナーバスの町長


 ミルキーゼ ナーバス町長秘書


 ハルマー   ライカース町 センセーと呼ばれる隠遁者


 ケーシロ   ネクト村の長


 カラタロ   タイタロス村の長


 アカメ   ライカースの岩型生物

 *********************************************


      第13章 トリライン


   1 ナーバス・・・アリス


 早いものでこのトリスタンに来てもう1年半が過ぎようとしている。この1年はいろんなことがあった。

 中でも一番大きいのはミットの出産だろう。


 相手はトリスタンの酒場勤めでひょろっとした(やつ)。歳は10くらい上だったと思う。あたしにも色目を使う、口調も私生活も軽そうな男だった。

 それでもミットとは波長が合うようで、街にアパートを借りて結婚式こそしてないけど一緒に暮らしていたんだ。

 あたしはどこがいいのかと思っていたんだけどね。案の定、3月後にミットがラジョー弾きとの浮気現場に踏みこんで、そいつはギッタギタに伸され、ミットの借りた部屋から追い出された。


 その時にはもうお腹に子供がいたんだね。男の子が生まれたのはつい4ヵ月前。例の地下施設のある高台を5段の住宅地に整備して、その2段目に家を立てた。今はシルバと息子と3人で暮らしている。


 あとひと月は子供べったりだろうと思う。ガルツさんもせっかくだからゆっくりしてもらえと言っていたけどあの性格だからね、乳離れしたらすぐにでも外に出てくるよ。シルバは大変だろうけど。


 トリスタン整備の方は貨物用の地下道と予定していた橋は大体出来上がった。

 乗り場へ向かう地下通路も15箇所の出入り口を整備して、今はあの地下施設にガルツ商会の精鋭が入って、ニコラスの下で売り場の整備中だ。近々支店を地下に移して、今の支店の建物は温泉と展示小売にしてしまうことになった。


 道路班がトカタ村を越えバクスト町に迫っている。3班来てるからね。来月にはイヴォンヌの班が南西ルートの整備に3台(ひき)いてきてくれる予定になっている。

 地上の旧街道の整備はシロルとミケがやってるけど、街中は6メル幅しか取れないから、郊外の畑作地に環状道路を作ろうかという計画が持ち上がっている。

 クレスハントの陣頭指揮で200軒程の立ち退き交渉が始まった。それであたしは集合住宅の建設と宅地の整備の仕事が増えた。

 ミットの家もそんな一角にあたしが建てたものだよ。


 山脈を越える転移陣は1年前にジーナさんが手伝ってくれて、すでに貨物駅から直通で山向こうへ転移できる様になっている。

 流石に身重であの放射線鉱山にミットを出入りさせるわけに行かないと、二つ返事で跳んできてくれた。


 探索ロボト改め地下道製作ロボト32体は、2番から5番を班長とした8体ずつの4班に分かれて、今日もトリスタン地下道の延長を行っている。

 班長にはマノボタンを載せ替えて会話ができるようにしてある。

 名前もつけたよ。順番に、ジー、トリ、テト、ペタにした。なんか数字まんまだね。でもいつの間にかシルバ隊ジー班とか呼ばれるようになってた。


 山脈地下の3つのドーム都市は今の所、壁で通路を(ふさ)いで封印してある。入り込んで荒らされても後始末が大変だし、まだ地上のトリスタンの整備が先だからね。


 今夜はジーナが新鮮な魚介を持ってくるというのでミットの家でパーティの予定だ。今から楽しみなんだ。ナック坊やもお座りができるようになったから、カニ肉を潰して食べさせてあげよう。



「やあナックー。アリス姉ちゃんだよー。ジーナばあちゃんも来たよ」

「ナックー、ばあちゃんじゃぞー。今日もいい子にしとったのー」


「赤ちゃんの相手って皆様こんな感じなのでしょうか?まだ言葉はわからないのでしょう?」

「シロルー、そんなきつい言葉遣いはダメだよ。優しく言わないとね」

「ナックー、今日はご馳走じゃぞー。ばあちゃんがカニと魚を持ってきたからの、一緒に食べようのう。ほれシロルさん、料理を頼むぞい」


 新鮮な魚とカニ肉のすり身はナック坊やも気に入ったようで、ダーダーと声を上げて笑顔を振りまいていた。ジーナがメロメロになってたよ。200年も生きてきてこんな小さな子供に触れるのは初めてなんだって。


 ふた口ほど美味しそうに食べて、ミットのお乳を飲んだらナック坊やは寝てしまった。時々寝顔を(のぞ)き込みながら、静かにパーティは続いた。


   ・   ・   ・


 あたしらがずっと調べて来た環状のチューブ路線は、その昔トリラインと呼ばれていたらしい。

 路線図にある乗り場12個のうち探索できたのは7個。右回りのトリスタンとヤルクツールの間に一つ、左回りに5つ行ったことのない乗り場がある。

 そうそう、ガルツがバス運転の訓練で回った時にあのハゲ山の乗り場に『ケルス』って付けてくれた。何軒かの管理棟があるだけだけど、あの温泉や、トラーシュにも道路を作っていくって言ってた。


 トリスタンが交易網に加わったので商会の仕事は十分にあるし、ここは旅を楽しんできても良いよね。

 新しく見つけたジーラインも気になるけどやっぱりこっちの乗り場を先に確認するべきだろう。


「ミット、あんたはナックがいるから少しのんびりしたら良いよ。あたしはチューブ列車でヤルクツールの方を見て来る。トリスタンでできることはやったし、こっちのトリラインを固めてしまいたいから」

「えーっ!アリス、ズルイ!あたいだって探検に行きたいよ。シルバがお留守番してくれるし、ミルクだってあるんだし、大丈夫だよ。あたいも行く!」


「あんた、そんなこと言って。見なさいよ、シルバの眉。思いっきり下がってるじゃないの。ナックも寂しがるだろうし、可哀想だよ」

「うぅー」


「そういうことで、ナックを可愛がってね」

「うぅーー。ナックも連れて行く!」

「えぇーー?あんた本気なの?」

「本気!ほんとに危なくなったら、ナックを連れて逃げるから!」

「うーん?それならいいか。ちゃんとあたしを見捨てて逃げてね」

「うぅーーん?」


   ・   ・   ・


 トラクはトリスタンの地下通路を通って北へ向かっている。地下には灯りはないけど、前を照らすライトが付いているので左を走る馬車よりずっと早い。

 馬がビビらずによく走れるものだと感心するけど、まあ、慣れた光景だ。このまま2ケラル、郊外まで出て斜路を登ると左手に曲がり、森を抜けたらまた左。そこからまた地面に潜るとトリスタンの貨物駅だ。

 貨物駅では右がジーライン、左がトリラインで今日はトリラインを一駅北へ行く。

 ナックに夜泣きされたせいで、ミットは夢の中、あたしもちょっと眠い。シロルとシルバが乗ってるから寝てても構わないんだけど、せっかく久しぶりの探検だもの、楽しまなくっちゃね。



 貨物駅ではあたしがトラクを降りて路線図を操作した。13メニで来るって。隣までは30メニくらい。次の乗り場はだいぶレクサール寄りのようだ。


 久々に構内の据えた空気を吸い込みながら待っていると、来た来た。コォォーーーーという音がやって来る。


 明るい筒が構内に滑り込んできて、ヴヴゥゥーーとブレーキがかかり目の前に列車が止まる。低い間仕切り壁と列車の窓付きの壁が一緒にニュウゥッと10メルほども開いた。

 あたしたちのトラクは全部の車輪を真横に向けてゆっくりと乗り込む。長さ8メル高さ3メル半のトラクが、あっさりと列車の中へと入って行く。

 20トン近い重量が乗ったというのに、カタリとも揺れないチューブ列車は不思議な乗り物だ。


 乗ってしまったあと少し待たされるのはいつもの通り。音もなく車体が壁に戻り窓ができている。トンネルの壁を照らす室内の明かりがゆっくりと走り出した。中に乗ってしまえば本当に静かだ。

 軽く弓と剣の素振りでもしておきますか。 


 剣を振ってちょっと汗ばんだころ、シロルがお茶を出して来た。到着まで後10メニほど、ちょうどいい頃合いだ。


 トラクに乗り込むとミットはナックを抱いたまま、まだ寝てた。気持ちは分かるけどそこまで無理するかな?

 二人の寝顔を見ながらお茶を飲み終わる頃、チューブ列車の減速が始まった。


「ミット、着くよ」

「あぅ、眠いー。ううぅー」

「ほら、シャキッとしなよ。頼りにしてるんだから」


 低い仕切り壁を()めるように列車は真っ暗な乗り場に滑り込んだ。ミットはナックをシルバに預けるとトラクを降りて、壁が開くと一歩乗り場へ踏み出した。

 じっと周囲を(うかが)っていたが首を一つ傾げて先へ進んで行く。手を振ったのでシロルがトラクを乗り場へ引き出した。ミットは出口へ通じる通路まで行くと灯りを掲げて、手を口に当てるとのけぞった。


 どうしたんだろう?

 あたしもトラクを降りて見に行った。なんということか、ほとんど曲がり角まで土が流れ込んで10数メル先では天井まで(ふさ)がっていた。


「なにこれー?」

「土だねー。土砂崩れでもあったかー?」

「あらあら。アリスさま、ブロックに圧縮して脇へ寄せるしかありませんね。開通してからなら運び出せます」

「あはは、あたいが一緒で良かったねー。あたいも圧縮はできるから土の片付けを手伝うよー」


 とにかくトラクが正面を向くまでは、あたしがマシンを()くしかない。作業を始めて20メル、あたしがブロックにしたものをミットがさらに圧縮してクロミケに引かせ、右の壁に積んで行く作業をしていると木の荷台が出て来た。

 もしやと思い周りの土をミットが浮かせ、ミケが引き出すとやっぱり馬車で正面から土に飲み込まれたらしく、2頭の馬もペシャンコに潰されて白骨になっていた。御者もつぶれた屋根の下敷きになっていて、白い骨に茶色く土で汚れた衣服が生々しい。

 馬と御者の骨は別にまとめて袋に入れ土を退()け続けた。


 途中、シルバがミルクの時間だとナックを連れて来た。オムツやら遊び相手など、子守は上手にやってくれてるみたいだね。


 お昼になってもまだ300メル。今までの乗り場と同じなら半分くらいは掘ったはずだ。隠し部屋はあったけど、トリスタンの採取がたっぷりあったから今は漁る必要がない。


 午後も続けて土を退かしていくと通路の出口らしい壁の終わり見えた。天井も土に変わっている。そうなると、この上の土がどれだけあるのか。あんな奥まで土を押し込むだけの圧力がかかったのだ。少々の厚さではないだろう。


「よし、トンネルにしよう」


 退かすよりも周囲に向けて圧縮して空間を作った方がいい。真っ直ぐに100メル突き抜くつもりでマシンを散布した。なにせトラクごとどこかへ抜けないことにはどうしようもない。

 4回目を抜くとトンネルの先に茜色(あかねいろ)の光が見えた。外は夕暮れ時らしい。通れる太さにまで通路が広がる頃にはすっかり薄暗くなったけど、これで最後だと思うと嬉しいね。


 通路は出来上がったけどこのまま野営する事にした。トラクを広げると通路幅いっぱい。

 まあ、誰が通るわけでもない。

 シロルの夕飯を食べたらまた明日がんばろう。


   ・   ・   ・


 朝になって外から光が入って来た。なんかガアガア(にぎ)やかだね。


「アリスさま、おはようございます。トンネルに鳥が入り込んできています」

「なに、鳥って。ガアガア言ってるやつのこと?」


 前の透明板から出口の方を見ると(まぶ)しい朝日を背景に地面近くをチョロチョロ動く影。鳥と言われればそうかな?ヒョロっとした頭が時折見えたり、羽っぽいのがチラチラ見える。

 危険はなさそうなのでミットを起こして朝ご飯からだね。


 ご飯が終わる頃には日も上って眩しさはぐっと減った。鳥もどこかへ行ったようで静かになっている。トラクの幅を戻して出口に向かって進んでいくと。

 森の斜面の途中だね。左手の眼下には5、6000人くらいの小さな町。正面は斜面を降った先に川が流れている。左へ行くには落差が大きそうだから右へ斜面なりに下って、川べりまで降りたら川沿いに町へ行くルートかな?


 日が当たれば動力に問題はないから遠回りでも構わない。右の壁を大きく(えぐ)ってトラクが回れるように広げてやるのに50メニ費やした。クロミケはミットと先行して木を伐採しに行った。


 ヤルクツールや西の内海でやった道路作りを思い出すよ。あの湖までここからならそれほどないんじゃないかな。

 あたしも通るところを決めるため外に出た。だいたいのところはミットに任せておいてもいいんだけど、森の空気を吸うのはやっぱり気持ちいいからね。


 シロルが操るトラクは昼前には川のそばまで来た。この調子なら明日中には町まで届くかな。

 川はこの山裾から随分と深いところを流れていて、たくさんの鳥が(よど)みに浮いて魚を捕っていた。(がけ)は崩れそうな感じで、あまり近くへは寄らない方が良さそうだ。


 ここの斜面はそのままではとても走れないけど、割となだらかで右下がりの緩い傾きになっている。左に土留めの壁と右に排水用の溝をセットにして道路を作っていくことにした。

 所々に大きな岩が顔を出しているなか、ミットたちは遠慮なく進路にあたる木々を伐採している。


 おっと、ナックのミルクタイムのようだ。シルバに呼ばれてミットがこっちに向かっている。ミットが引き抜いて山積みにした木はたくさんあるからクロミケが暇になる心配はないね。それほど太い木は多くないし、切り倒すくらいでも全然いける。


 そんな調子でお昼もそろそろという頃、1本の木に大きな蜂の巣が見つかった。ミットには朝から蜂が多いって話を聞いていたから(あわ)てるもんじゃないけど、是非とも蜂蜜は欲しいね。


「煙で(いぶ)すといいって聞いたよー?やってみよーかー」


 クロが倒した木の枝をまとめて巣の下に置いた。ミットが着火具でそこに火を点けるともうもうと煙が立ち上り、あたり一面が白煙に包まれた。


「あんまり蜂、出てこないねー?クロー、巣を割ってみなー」


 ミットの声にクロが片手で巣を木から潰さないようにもぎ取り、パンでも割るようにそっと二つに分けた。中からバラバラと蜂が落ちるのには構わずに片方を地面に置くと、手に持った巣に付いている蜂を払い除ける。

 ある程度取れたらミットがそばへ置いた大鍋に、両手で包み込むように巣を潰し蜜を絞り出した。もう一つも同じようにして蜜を取り出したので、(いぶ)していた火を消してその場を離れ様子を見る。


 お昼の間に蜂たちは煙から回復して辺りをブンブンと飛び回っていたが、やがてどこかへ飛び去っていった。蜜は大鍋に7分目もあった。


「まあ。こんなにたくさんの蜂蜜。どうしましょう、保存容器が足りません」


 シロルは大喜びだけど、小分けする容器を作ると言ってまわりの土を物色し始める。


「あたいがトリスタンに買いに行こーか?そのほうが早いよー」


 言うが早いかミットがフッと消えた。


「あらあら、行ってしまいました」



 ミットは30メニほどで50もの壺を引き連れて戻ってきた。煮沸(しゃふつ)消毒は済んでいると言うが、シロルが中を確認した。


「良さそうですね。詰めてしまいましょう」

「ミットは休憩したらまた外を頼むよ。夕方には町に入りたいし」

「あいよー」


 クロミケが頑張っているから道は順調に延びている。良さそうな路地に道をつなぐには一部をトンネルにしないといけないようだ。このへんから左へルートを変更して行こう。


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