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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第12章 トリスタン‬
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7 乗り場・・・シロル

 これまで:3つめの丸は大量の商品を並べた店舗のようだった。一部は朽ちていたがアリス、ミット、シロルはその商品群を堪能した。

 食堂街を抜け階段を降りると大きな透明なドアがあり、開けると空気が一変しました。10メル幅はありそうな広い通路が左右に伸びていました。何か案内板のようなものも出ておりますが掠れてしまって読めませんね。


 左は昨日のスタジオ方面と思われますが、ミットさまが右へ行くと言うので付いて行きます。少し行くと空気が振動しているのが分かります。


「チューブ列車っぽいねー」


 真っ暗な通路を灯りを(かざ)し進んで行くと登り階段で22段、シルバが大きな透明板の扉を押し開けると右に広い上り階段があり、正面にチューブ列車の乗り場がありました。

 ここの乗り場は幅が広いですが、乗るのは人だけのようです。どこも階段で繋がっていて馬車などが乗り込めるようにはなっていません。路線図はやはり壁を触ると出てきました。

 ハイエデンなどでみられるものとよく似ていますが、どうでしょう?ちょっと違和感があります。過去の画像と比べてみると記号がちょこちょこと違うのが分かりました。


「この路線図はハイエデンのものとは違いますね。記号が異なりますし、四角い駅の配置も違います」

「え?じゃあ別の路線なの?」

「でもこの駅って一番下の印でしょー?四角で描いてあるけど、乗り換え駅って事でいいのかなー?」

「この先を見たら戻って探してみる?さっきの階段か通路の向こう端とか」

「そうだねー。まずここを一通り見てみよー」


 乗り場にはもう2箇所、階段通路が繋がっていました。戻って右手の階段を登ってみます。7メルほど登ると右に曲がりました。路線の上を通過して向こう側へ行くようですね。


 50メルほど歩くと下り階段があり左に曲がります。左右に伸びる広い通路に突き当たりました。左手には大きな透明なドアがあり、右は暗がりへ遠く続いているようです。

 ドアを押し開けると予想通りに数段の階段の先にチューブ路線の乗り場がありました。見慣れた路線図です。ハイエデンは右へ5つ目です。


 ここの地下通路はこんなにも広く何本もあるというのに本当に地上へは通じていないのでしょうか?真っ暗な通路は飾り気もなく地上の街の喧騒(けんそう)と無縁の世界に思えました。


 列車を呼んでみると問題なくやってきました。ではつぎの問題はここから地上への出口ですね。皆がミットさまのように出入りできるわけではありません。

 あ、もう一つ問題がありました。馬車やトラクはどうしたものでしょうか?行き来は出来ても荷を運ぶについては大問題ではありませんか。

 もう一度路線図を確認いたしますと右側、ハイエデン寄りに小さな丸が書いてございます。早速ですがこちらで呼んでみましょう。


「シロルー、よっくこんなのに気がついたねー。でもなんだろーね、ここ?」

「ロセンズではすぐそばだよね。馬車とか乗り降りできたら良いんだけど」

憶測(おくそく)してみても仕方ありません。行ってみましょう」


 コォォーーーー

 チューブ列車がやって来ました。


 ヴヴゥゥーー


 列車が止まり3メルほどの入り口ができます。4人で乗り込みました。

 いつものように乗ってしまえば音も聞こえません。違うのは速度が上がらずゆっくりと移動している事。壁の模様が窓からの光を浴びて、然程(さほど)の速さではないことがわかります。3メニほどで別の乗り場に滑り込み、乗ったのとは逆の左の壁が出口に変わります。

 さあどうなっているでしょうか?


 乗り場通路は3メル半程、これまで見た乗り場と同じです。出入りの通路は2本あって、10メルほど先が広場になっています。行って調べてみると幅30メルもある広い通路が右へ伸びています。向かいにも通路がありこちらはもう一つの路線だと分かりました。

 もう一本の横断通路を見て少し行ったところで大きな塊がゴロゴロと土を被って道を塞いでいます。


「うわー。これはひどいね。端から端まで見事に落っこちてるよ」

「頑丈そうに見えるのにねー。この天井が崩れるなんて、何があったんだろーねー?」


 さすがにこの幅の通路を開通させるのはアリスさまでも大変です。右側の壁沿いに3メル幅のトンネルを作る事にしました。あたくしの手持ちのマシンも総ざらいで投入し、まずは30メルで40メニですか。トラクを持ち込むわけにもいかないので当面は仕方ありません。


 変換された土は無数の細い柱で持ち上がり上へ上へと土を圧縮します。ある程度天井らしくなったらマシンはさらに上へ浸透していき天井厚50セロ以上に渡り硬化処理を行います。下へ降りて来たマシンは天井高さ4メルのところで縁切りを行い、余剰分のブロックを下へ落として行きます。


「この塊は邪魔なだけだねー。あたいが運んでおくよー」


 そう言ってミットさまがそれを浮かせてシルバが引き出しどんどん手前の広場へ積み上げていきます。夕方までに3回やって90メルの通路ができましたが、先は長そうですね。

 帰りはミットさまが一瞬でトラクまで揃って転移してくださいました。


 少し遅い夕飯になりましたがやっとお休みいただけます。あたくしはシルバと持ち帰った帽子や箱の調査を行います。シルバもサーバーからあたくしの作業記録を確認させてありますので知識は同じものを持っています。ただ元になった体の設計が異なるので、できることに違いが出ます。


 あたくしはアリスさまから各種センサーを増設されていますので、至近距離での物質解析に向いています。

 一方のシルバは貨物の荷役作業用ですので身体構造が丈夫にできており、皮膚組織のない分各種の工具も直接装着できるので、実作業向きです。

 まあ、あたくしの方が可愛いのは当然でございますが。


 まずは電流を流さないことには始まりません。適切な電圧と通電形式を探るところからです。電圧は低いと動かないだけですが、高すぎると回路が焼き切れてしまいます。また回路の劣化により適正電圧であっても耐えられないこともあります。


 慎重な通電作業も虚しく1台があっさりと焼き切れてしまいました。それも見える場所ではなく密閉されたケースの中の微細回路です。顕微レベルの目視検査の末の通電試験ですのに残念です。


 そういえばシルバも骨董品でした。回路の複製を進言しなければいけませんね。

 動いている回路の複製は電磁場から概要が推測できるので比較的容易なのです。


 機器は3台持ち帰りましたが、成果を上げることはできませんでした。


   ・   ・   ・


「ミットさま。起きてくださいませ。今朝は屋台の仕込みを見ると(おっしゃ)っていたでしょう?もう教会では準備が始まっていますよ」

「うーん……もうちょっと……あと5メニ……」

「ねぼすけ。さっさと起きないと置いていくよ」


 アリスさまが加勢してくださいますが、そのセリフは……


「うーん……。はっ、えーっと?アリスー、あたいを置いていくのはいーけど、どうやって下へ潜るつもりかなー?」

「あー。そう言えばそうか。まあ、起きたんだからいいじゃない」

「朝食の用意をしておきますので、早くお出かけください」


 さて、今朝は何をお作りしましょうか。好き嫌いもあまりなく、なんでも食べていただけるので腕の振るい甲斐があります。お弁当も用意した方がいいでしょうね。



「やっぱりあそこはお店を建てたほーがいーよー。そしたら屋台を中央の広場に回せるでしょー?」

「そーだけど、道の反対側だから盗みに入られたりしないか心配なんだよね。夜中になったら誰も居ないんだよ?」


 温泉が開業したので利用されるお客様が多く訪れますから、屋台の売り上げが伸びています。子供たちもすっかり慣れて屋台だけの仕事では人数が回りません。2人居るシスターさんも教会の外へ出るのが楽しみなご様子でしたからね。

 雑用でしたらすでに近所から下働きを雇ってもいいくらいの収入があります。


「戸締りの丈夫な建物にしてはいかがですか?それとも道路の下に地下通路でも作ります?」

「あー。ハイエデンの温泉場は本部と地下通路で繋がってたっけー。それもいいかもー」

「ミットー。簡単に言うけど教会からだと、道の向こうまで80メルくらいあるよ?半日仕事だよ」


「いーじゃない、それくらいー。建物をやってる間はどうせ動けないんだしー。余った土出しはあたいが手伝うよー」

「じゃあ教会から始めよっか。牧師さんに使っていい場所を聞かないとね。まず地下に降りるところからだし」


 トントンと話が進んでしまいます。あたくし、余計なことを言ってしまいましたでしょうか?

 休憩も取らずお昼にはなんとかお店まで形にしたようです。


 午後は貨物駅の通路の延長です。崩落の残りが幾らもなかったと見え、程なく北への地下通路が通れるようになりました。

 途中から登りになり右へ大きく曲がった先は森になっていました。大きな木が立ち並び、とても馬車など通れません。トリスタンからは3ケラル離れた外れになります。北へ向かう街道まで2ケラルほど、こちらも道路整備が必要です。


 合流地点を決めてトラクを取りに行きます。ミットさまに教会へ運んでもらい、あたくしがトラクで向かう間にミットさまが巨木の引き抜きと簡単な整地を行います。

 今日はこの森で野営ですね。


   ・   ・   ・


 10メル幅で森の木を根こそぎにしたため風通しが良くなったせいか、朝食の頃にクマが2頭現れました。体長2メルほどのクマはあっさりとクロミケに倒され、肉や毛皮にされてしまいます。


 あたくしが地下道まで道を伸ばす間に、アリスさまとミットさまがクロとシルバを連れて森の探索です。お昼に戻ってきた時にはクマが2頭、鹿も1頭増えていました。あたくしの方は残り500メルですから、終わったら教会にトラクをもどす事にしました。温泉でゆっくりしたいですから。


 夕方の混み始めた街道をノロノロと教会まで戻りましたが、馬のいない馬車はやはり珍しいのでしょう。2度ほど人集(ひとだか)りになって止められてしまいましたが、教会に戻る途中だと説明すると人がスッと引いていきます。

 あの教会はずいぶん皆さまに(した)われているようです。


 教会まであと少しと言うところまでくると教会側からミットさま、アリスさまにシルバ、クロが現れます。そのまま5メニほどお待ちいただきやっと駐車位置に止めることができました。


「上から見てたけど、道が混んでたねー。トリスタンは今の街道だけじゃ無理だよー」

「貨物専用の地下道なんかがあってもいいかもね。あの上下する箱がいるけど」

「アリスさま、あれはエレベーターと言うようです。[さん]のデータにございました。先日のサーバーの画像にも、それらしい乗り降りの場面が2300件ほどありました」


「でもこの街ってもう地下道があるよねー。あれとぶつかるとまずいんじゃないのー?」

「あー、そっか。でもどうする?歩いて探索しても全部分かるかなんて無理かも。落盤で進めなかったり?」

「まずシルバの兄弟たちに調べてもらいましょうか?ああ、そうでした。シルバの電装回路の複製をお願いします。あれは古いですからいつ壊れても不思議ありません」


「あー、確かに。動く前に焼け切れちゃうとお手上げだもんね。動いてる回路ならなんとなく分かるけど、モヤモヤっとしたとこも分かるの?」

「そこはあたくしが埋めますので」


「ねー、シロル作った時みたいにセッケーズ、ないのー?」

「ああ、ミットさま、同じものはございませんでした」

「ふーん?似たのはあったのー?」

「そうですね……荷役ロボトは3種類、似ていると言えばこちらでしょうか?18トン級の大型ですが基本構造は同じです」


「その回路の部分だけ小さくしたらシルバに載せられる?」

「どうでしょう?回路に掛かる電圧を全て確認しなければなりませんので、一晩お時間をいただきます」

「うん。やってみて」


 あたくしはシルバをそばへ呼び回路図を共有します。配線経路は短くするだけですが機器自体が大きいものは小型にしないと物理的に載りません。大雑把に(ふる)い分けすると、23の機器で検討が必要です。そこまで進めたところで、シルバに身体を(ぬぐ)うように言って、あたくしも温泉へお出かけの用意を始めました。

 あたくしにとってはアリスさまとミットさまのお世話が最重要任務でございますので。


 この温泉も3回目の利用になります。トラクの駐車場所の道路側に、道路からこちらへ向かって降りる階段がございます。これについては一般開放しています。

 低い柵を(また)いでそちらへ回り、階段を降りると右へ2回曲がります。道路の下を通って向こう側へ渡れます。この通路のすぐ右側に教会と店をつなぐ通路があるのですけれど、厚い壁で隔ててドアのようなものは作っていません。

 道を渡り切ると右に階段があり、店の脇に出られます。そのまままっすぐ行くと正面の階段を登り、ガルツ商会の売店の前に出るようになっています。商会の建物は5階建、緩い傾斜の屋根にはお日さま発電の黒いマットがべったりと貼られ、電力を(まかな)っています。


 敷地を通って一つ先の道路に向かうこともできますが、透明板の向こうの商品棚を見ながらブラブラと戻ると温泉の受付があり、2階が休憩室、3階が男湯、4階が女湯、5階は5、6人で入れる家族風呂になっています。3、4階からはエレベーターで、6階屋上の露天風呂に上がることができるのです。


 受付で商会証を見せて混み具合を聞きますが、まだ余裕があるようです。混み始めると商会員は遠慮(えんりょ)しなくてはいけませんのでこの確認は重要です。ひどく混んでいるような場合は人手の足りない部署に徴用(ちょうよう)されかねません。


 エレベーターで4階へ上がって衣服をロッカーに預け大きな湯船で温まります。潤滑剤の粘度が下がって骨格が膨張しますと疑似筋肉も引き伸ばされて動きが良くなります。良い状態であると認識されます。


 ここのお風呂の壁の絵はまだテーマがなくトルネールイの赤い花畑を描いてありますが、いずれはこの土地の自慢の風景を入れたいですね。エレベーターから屋上へ登ってみます。


「わあー。今日は風がきっもちいーねー」


 この屋上に匹敵する高さの建物はこのトリスタンにはありませんが、1メル半の手すりには目隠しの半透明のキチン質板が張ってあります。手すり際は一段高くなっていて首だけ出して周りが見られます。トリスタンは灯りといってもランプくらいしかないので、夜景というほどのものではありません。ハイエデンやパルザノンはやはり別格なのです。

 女湯から見えるのは東西と北側。山はこちらよりも高いですが、距離がありますので裸眼ではなにも見えないでしょう。今のところ覗きの心配はございません。北西の角から3人で街を見下ろします。


「中央広場に屋台の灯りがすごいねー。どこが通路か丸わかりだよー」

「本当だねー。あとは橋の(たもと)の灯りくらいでほんと、暗い街だよね。おかげで星はくっきり見えるからそこはいいけど」


 そのせいもあって、時間に余裕のある方々は明るいうちに温泉を訪れるので、混まなくていいらしいですがいずれここ一軒では対応できなくなります。


 さて、もう一度ゆっくりとお湯に浸かって戻るとしましょうか。


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