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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第12章 トリスタン‬
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6 デパート・・・シロル

 これまで:おかしな家は撮影セットらしい。荷物の管理ロボトを執事に改造、シルバと名付けた。丸の探検は3ヶ所目へ突入する。

 トリスタンの高台地下探検も3ヶ所目でございます。

 上空から見るとほぼ円形の緑の濃いエリア、その真ん中に4人で降り立ちました。ミットさまが地面を調べます。首を(ひね)りましたね。深さが予想と違うのでしょう。


「だいぶ深いけどいーかな?」


 リュックから銀の穿孔(せんこう)筒を出して地面に立てました。

 この筒は先日ミットさまがアリスさまに強請(ねだ)って作らせた地下探索用具で、直下にある構造物まで内径3セロの管を下ろし、続いてその構造物に同径の穴を開けます。そのあとはライトとカメラを先端から出して内部を撮影すると言う物です。ミットさまはその映像で、本来なら見ることのできない地下への転移が可能になるのです。

 画像はマノボードを介して見ることができます。とは言えここにいる者でマノボードを使う必要があるのはミットさまだけですが。


「お、天井を抜けたねー。どんなとこだー?」


 何か棚のようなものが間仕切りのように連なっていますね。間の通路は1メル半といったところでしょうか?カメラがぐるっと回って広そうな場所が……に、4人並んで立っています。これがミットさまの能力の一つ、転移です。


「ミットさま、声くらい掛けてくださいませ」


 突然の移動にセンサがガサガサ異常値を吐きます。あたくし、思わず言ってしまいました。


「シロル、ごめんって」


 口では謝っていますがいつもの通り、悪びれたご様子など微塵(みじん)もありません。あたくしは各部センサーのリセットに少しかかってしまいます。シルバも頭を振って確認しています。

 さて、ここはどうなっていますか?棚の物はほとんど()ちています。元がなんだったのかも分かりませんね。ほぼ中央ですから、どちらへ行っても同じようなものです。

 ミットさまが進まれる方へ付いて行きますと横切る通路がございます。倉庫のような場所なのでしょうか?


 どこまで行っても空の棚が続きます。突き当たりにカウンターが見えてきました。お隣のネズミの骨が脳裏を(よぎ)りますが続けてそんなことはないでしょう。

 棚にあった物は見事に何一つ判別が付きません。カウンターの裏には筆記用具、ハサミなどがあります。透明な箱もありますが用途は分かりません。左にあるのは階段ですが1段の高さが30セロと高めです。あたくしのような小柄な者は昇降が大変そうです。そのまま左回りに進んでみます。


「なんだい、ここで行き止まりかいー?」


 ミットさまが壁を叩いてみますが、鈍い音がするだけでほとんど反響音がありません。かなり厚い間仕切りのようです。


 右へ壁沿いにドアを探します。角を曲がると広い床面にポッコリと並んで突き出た1メル幅の階段が二つ。左手を見ると一面の透明な間仕切り。中程に透明なドアがあり外周の壁まで透明板でずっと仕切られています。

 仕切りの向こうは黒い台に白く濁った箱が載っています。


「飾り棚かな?何があるんだろうね?」


 シルバがズシっと重そうな透明扉をグッと押して中へ入ると、白く濁っていたのは埃が積もっているためでした。側面から中の棚が霞むように見えていたのです。

 覆いの表面を(ぬぐ)って中を覗きますがどの棚にも何一つ入っていませんでした。奥に分厚い木調のカウンターがありその裏に黒いドアを見つけました。


「鍵がかかってるねー。アリスー、なんとかなるー?」


 アリスさまがナノマシンで穴を開け、灯りとカメラを中へ押し込みますが、随分と厚い金属製のドアでした。


 ミットさまが中へ転移したあと、しばらくガチャガチャやってロックを外してくれました。


「ゴツいつまみが3つもあったから手間取っちゃったよー。なんでこんなめんどーな仕掛けになってるんだー?」


 中はそれほど広くありません。長さ6メル、幅と高さが2メルといったところでしょうか。床も20セロほど高くなっています。壁という壁にびっしりと棚が並び、小振りの箱が隙間なく並んでいます。

 一つ一つに丸いつまみがついているので手近な一つを引っ張ってみますと、蓋付きの軽い箱が抜け出て来ました。蓋は箱にはまり込むように載っているだけで簡単に外せました。

 中には青い滑らかな手触りの布が入っています。取り出してみるとその下には青い透き通った石の付いた指輪が5つ。宝飾品の保管庫だったようですね。

 調べるとどの箱にも何かしらの宝石、貴金属の装飾品が入っており、大変な金額になりそうです。


「どうする、これー?」

「使い道がないし仕舞い場所がないよ。ここに置いておけば後で何かに使えるでしょ」

「まー、そーなるよねー。中から元どーりロックするから先に出ちゃってー。穴も塞いでいーよー」


 ドアを閉めアリスさまがナノマシンで金属を集めて開けた穴に蓋をしましたが同じ色にはできません。穴の跡にはガルツ商会の紋章をアリスさまが浮き彫りにしていました。



 正面の階段で下へ降りて見ます。灯りを向けて驚きました。

 大量の衣装です。顔の無い人形に着せられたものがそこここに、並んだ高い棚に色別、サイズ別に分けて置かれています。

 この辺りは女性向けのようです。ミットさまもアリスさまも棚から引き出しては当てて見て、もう夢中ですね。デザインは割とシンプルですがこの色使いは斬新(ざんしん)です。


 グルグルと見て回ると一部朽ちてしまった物もありましたが、総じてこれは宝の山ですね。


 下着もありました。ガルツ商会の下着に勝るとも劣らないこの品揃え。防刃仕様でないのが只々(ただただ)残念ですが、これは明らかにひと財産です。

 靴下もいいですね。可愛い柄のものをお二人がリュックに詰めています。


 こちらには靴があります。色とりどり、様々な形の街歩き用。残念なことに外歩きに向いた丈夫な靴はほとんどありません。

 華やかな帽子がひと区画。随分と様々な形があるものです。


 男性向けの区画もありましたが、いくらか手狭に感じます。


 足取りも軽く下の階へ移動します。灯りをかざしてまた驚きました。

 お鍋が並んでいたのです。片手鍋、深鍋、両手鍋。5列もの棚に鍋だけが並んでいます。サイナス村にいくつか持っていってあげたい。エレーナさまだってこれを見たら狂喜乱舞(喜んで踊り回ること)確定です。


 お隣はキッチンナイフの数々。すごいです。随分と大きなものもあるんですね。レントガソールさまが料理するならこれくらい?と思うようなものもありました。

 ケックさまにも見せたいですね。この刃の異様に長いナイフ。2メル3メルの魚を(さば)くのに良さそうですね。アリスさまが作られる剣があるので必要ありませんが、そう思わせる逸品(いっぴん)です。


 次は調理用品。見たこともない、何に使うのかも分からないものが並びます。箱や札に説明があったのかもしれませんが、ほとんどが朽ちているのです。残念です。


 食器も大変な量が並んでいます。お皿だけでも3列です。大中小の色違い(がら)違い、一体何種類あるのでしょうか。中に割れないお皿がありました。デザインの気に入ったものを5枚リュックに詰めて持ち帰ります。

 小鉢、お椀、ボウル。どれもあたくしの持ち歩く箱には到底入りません。おっと、ティーカップがあります。素敵なポットとセットですね。しかもこちらもずらっと5列。5客セットが……カップは場所を取ります。とてもトラクには積めません。泣く泣く(あきら)めるのでした。


 これ以上はあたくし、耐えられません。


「シロルー。ハイエデンの部屋に持って行ってやろーか?」


 ミットさまはお優しい。ですが使ってこその調理道具、食器でございます。すでに死蔵(しまいっぱなし)と言っていい食器もございますので使わないものをこれ以上増やすのは……


「ありがとうございます。ですが結構です。今使っているものが壊れたりしたら、その時またお願いします」


 断腸(だんちょう)の思いでそうお答えしました。


「そーお?まあ、あたいはいつでもここに来れるから、その時は言ってねー」


 このフロアの半分が調理器具関連でした。広い通路を横切るとそこはなんとお弁当箱。可愛い絵柄のお弁当箱にアリスさまもミットさまも夢中です。2重構造で冷めにくい物がありますね。汁物を入れるタイプもありますが、シール材が劣化しています。アリスさまに見せると


「ケルヤークのゴムを使えば直せるね」


 となるとこれもなかなかの商品ですね。あたくしの保温筒よりも保温機能の高そうなものがあります。外でお茶を淹れるのに良さそうです。4杯分、10杯分の2種類押さえておきましょう。シール材の取り替えをアリスさまにお願いしました。


 この辺りは野外へのお出かけ用品のようです。折り畳みのテーブルや椅子、外用のコンロ、水汲み用品、テント、などなどが並んでいます。小さく丸めるお布団やマット、灯りもいろんな種類が並んでいて飽きませんね。


 目を引いたのは車輪が2つ縦に並んだ、座面と握る場所があるので乗り物でしょうか、とすれば不安定極まりないのですが。足で回転させると車輪が回る様になっています。重心の調整に反復計算が大量に必要ですが乗れないことはなさそうです。


 そう結論が出ましたのでちょっとやってみましょう。ただ車輪の外側が(ひど)く劣化しています。発泡材料で置き換えしました。この後ろの機構が立てておくためのものですね。ロックを解除して座席に(またが)ります。ちょっと座面が高いですがつま先でなんとか立てました。


 アリスさまとミットさまが興味津々と言った顔で見ています。地面を蹴ってペダルを踏み込みました。グラリと左へ傾き、アリスさまの息を呑む声がしますがご心配は無用でございます。前の車輪を左へ向けて更に足を踏み込みますと加速の反動で立ち直りました。こうなってしまえば後は微調整でしかありません。

 グリグリと通路を走り、売り場のひと区画を回って戻ります。発泡材はもう少し硬い方がよかったでしょうか。ミットさまが駆け寄って来て近くからあたくしの動きを見ています。アリスさまも遠目に見ていますね。


 同じようなものがまだ10数個もあるので、早速ミットさまが挑戦なさる様です。アリスさまも行きましたね。さあ、どうなるでしょうか?生身でこの重心移動がどこまでできるものでしょう?

 アリスさまが車輪を同じように修正します。あたくしもお手伝いしましょう。

 あ、でもこの乗り物がここにあると言うことは商品として売っていたものですね。乗る事が不可能であれば売れるはずがないので、生身でも大丈夫なのでしょう。


 ああっ。ミットさまが盛大にコケました。アリスさまは棚に突っ込んで商品の上に倒れ込みます。あたくしとシルバは乗り物を放り出し、怪我などないか見に行きますが、防刃仕様の衣服でした。軽い打身程度です。

 よほど悔しかった様で、お二人とも必死でございます。ミットさまは5、6回コケただけで乗りまわせる様になりました。アリスさまも危なくなると足をつく戦術で、しばらくかかりましたがすっかりマスターしてもう転ぶことはありません。


「いやー、これ、おっもしろいよー。平らでないと乗れないのが残念だよー」

「ミットさま。こちらの棚の上の小さめの物はいかがでしょう?コイルバネが付いていますから、多少の荒れ地なら乗れるのではないでしょうか?」


 そうシルバが言いますと早速ミットさまが2台の乗り物を浮かせて下ろし、トラクへ転移で持って行ってしまいました。


 他にも目を引く小物や装飾品、実用品と見て行きましたが、このフロアは一通り見てしまいましたので下へ参ります。


 次の階はキレイな色のついた箱と大きなボードが並んでいます。華奢(きゃしゃ)で硬質な帽子がありますがこの薄いクッション材では頭部は守れません。だいたい目元まで塞いでしまってどうすると言うのでしょう。同じような軽い手甲と胸当てに足甲がセットのようです。

「シロルー、動かしてみよっかー」


 ミットさまがおっしゃいますが、正体も分からないのに大丈夫でしょうか?

 帽子も手甲もバッテリーが空になっているだけで生きていました。問題は箱ですね。この箱に合う規格で電力を流さなければ最悪は燃えてしまいます。


 衛星を修理した時に集めた知識だけでなんとかなるでしょうか。蓋を開けるとなかなかに複雑です。まず電源がどうなっているのか分かりません。小さなバッテリーがありますがこれで動くようなサイズとは思えないのです。

 そのそばにある、箱の裏面に網目状に伸びる回路が電源のあるべき位置にあるように思えます。30メニほどシルバといろいろ試してみましたが、この場は(あきら)めざるを得ません。


 他の箱を見て行くと電源に線で接続するタイプがありました。スタジオの投影機と同じように動くかも知れません。このタイプは箱が一つに帽子が一つだけで、寝台がそばにあります。


 いろいろやってみましたが結局動かす事はできませんでした。同じ電源タイプのものがもう一つあったので、お持ち帰りして詳しく調べてみる事になりました。


 ミットさまにお願いすれば戻るのも一瞬の事ですが、たまには出かけた先でのお弁当もいいものです。とは言え真っ暗な中で灯りを頼りのお昼ではございますが、せっかく用意いたしましたので。


   ・   ・   ・


 先へ進むと大きな棚に人形が載っています。ミットさまがそれを見た途端に空中を彷徨(さまよ)いだします。

 ジーナさまに拠れば(おの)れを浮かす浮遊術は非常に加減が難しいとのお話でしたが、あまりに滑らかな動きに見惚(みとれ)れてしまうほどです。軽やかに手を伸ばし、表面の埃を取り去りながら微笑むミットさまはお幸せそうでした。


 周囲には人形だけではなく、大小さまざまのカラフルなものが棚に詰め込まれていました。いくつか手に取ってみますと、どうやら子供向けの玩具(おもちゃ)のようです。

 精巧な彫刻と見紛(みまご)うような手のひら大の人形が、埃を被って幾体も並ぶ棚もありました。全く同じものが奥に何体も穴だらけになった箱詰めで並んでいるのが少し異様に見えます。


 箱や掲示に何か書いてあったのでしょうが、ほとんど判読できるものは残っていません。どういう使い方を想定して作られたか分からないのは残念な事です。


 隣の広い棚が立ち並ぶフロアには本がたくさん並んでいます。表紙は劣化してボロボロですが中の文章は読むことができます。棚にぴったりと並んでいるものは表紙も無事でしたが、文字が全く異なるのであたくしが翻訳するしかありません。けど、果たしてこれを読みたい方がいらっしゃるのでしょうか?

 ミットさまが画集を何冊か見つけてリュックに押し込んでいましたが、こちらも後ほど調査すると決め先へ進みます。


 残りは何か崩れた残骸がポツリポツリと残る広いスペースになっています。端の方にベンチや木の枯れた鉢植えがいくつか見えるくらいで目立つものはありません。


 さらに下へ進むと食堂街のようです。広い廊下の左右にずらりと並ぶ入り口。カウンターや30人程座れそうな椅子とテーブルが置かれた室内。それぞれの奥に厨房があります。

 ネズミの骨が頭をよぎりますが、大丈夫なようです。食材があまりなかったのでしょう。


 このフロア全体がそうした小規模な食堂が集まった街のようで、ところどころに50メルほどの広場もあって家族連れなどで(にぎ)わったのかもしれません。


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