4 サーバー・・・ミット
これまで:トリスタンの支店まで形を作ったアリスとミットは、初日に見たおかしな3つの丸の調査を始めた。22メルもの深さまで地面を掘った先にあったものとは。
あたいが提案して開けた穴にアリスが入っていった。マノボードで見てたけど何かの鉄の装置以外にろくに見えるものがなかった。
あたいは急いで後を追う。アリスは3メルの高さにある構造材にしがみついてジタバタしてた。
まーったく!あたいはそのまま頭から床へ滑り落ちるとくるっと体を回し床に立つ。音を立てずにうまく着地できた。周囲を確認してアリスの下に入る。ただの用心だ。
空気の層でふわっとアリスを持ち上げる。ちょっとジタバタしたけど何が起きたか分かったようだね。床にそっと下ろして足を下げてやる。アリスはふらりと立ち上がった。
シロルは一部始終を上で見ていて、アリスが自分の足で立つとタンと音を立てて床に降り立った。
あたいは灯りを3つ左右と正面に投げた。どこにもぶつからずに20メル先まで飛んでいってぼんやりと光っている。シロルを見ると黙って首を振った。あたいは壁際を右回りで進んで行く。ほんとに何にもないね?円周の1/4も回っただろうか、シロルが袖を引いた。
「ミットさま、真ん中に何かあります。反響音からは他に何もないようです」
ごく小さな声で教えてくれた。外回りはハズレかー。真ん中へ向かって歩いて行くと、左手に投げておいた3つの灯が反射して先に何かあるのが見て取れた。何か複雑な形をしている。近づくと縦の細い鉄棒が円筒形に立っているのが分かった。その中に何か斜めに横切るもの。なんだろう?
慎重に近づいていく。
10メル手前で灯りを放った。カラカラと乾いた音を立て灯りが転がって行く。斜めに見えたのは細長い板の連なりだった。
更に近づいていくと……あー、コレ階段だわ。螺旋階段って奴だねー。どっかで聞いたことがあるよー。ん?どっから中に入るんだ?縦の鉄棒の間隔は10セロで切れ目なし。なのに階段は下にも続いてるねー。
まいっかー。
アリスに縦棒を5本切るように合図した。
アリスは頷くと鉄棒の下を床の高さで撫で始める。次に上を握って一本ずつ毟り取った。静かに床に置いて次。さすが早いよ。アリスは鉄と相性がいい。
さてどっちに行くー?アリスは下を指した。りょーかい。
鉄の階段は靴音がよく響く。上にも下にも気配はない。だから何にもいないと言えないのが辛いところ。慎重に探りながら降りて行く。4メル降りると階段はおしまい。周りを見ると……でっかい影がいっぱいだね?アリスに縦棒を外してもらって、近い奴から見ていこう。
灯りを持って近づくと幅広のフセーチの足回りの上に大きな箱。あたいたちがヤルクツールで乗ったのに似てるねー。箱の後ろにドアがあった。開けてみると椅子が8つ、前が透明板で仕切られその前にも椅子がふたつ。前はどっから乗るんだろ?右へ回ると側面にもドアがある。開けてみると計器が並んだ運転台。へー。動くのかなー?
動くんなら転移で外へ出して乗ってみたいねー。あれ?どっかに出口があるのかな?回ってない壁におっきな斜路があるとか?
シロルがあちこち覗いて記録を取ってる。
前に回ってみると灯りの大きいのが4つ並んでその間は金網が張ってあった。1メル離れて同じ箱型が並んでる。てゆーか、ずーっと同じ形の影が並んでる。一応見てこようか。20台を数えたところで型が小さくなった。幅が1メル狭いだけでほとんど一緒だね。
更に20台行くと斜めの多い鉄の箱。足回りの帯もゴツい鉄を繋いでる。コレも後ろにドアがあって、中には椅子が10あった。運転台がないね。窓もない。
横へ回ると梯子が付いている。登ると小さな入り口がある。あたいたちのトラクの屋根にも展望窓をつけるまではこんな出入り口が付いてたねー。握りをカチャカチャやってたらパカッと開いた。
中に灯りを下げるとどうやら運転台だね。リュックを置いて足からヒョイっと中へ滑り込むと椅子が二つ。一つは前にボードが3つ並んで計器がぎっしり、おっきなちょうちょみたいなハンドル。足元にはペダルが3つ。
もう一つの椅子にもボードと計器が同じだけあってこっちはボタンがいっぱい。
「ねー、シロルー。もしかしてコレってデンシブヒンいっぱい積んでないー?中見られたりしないかなー。1台転移して見よーか?」
「ミットさま。今日は止めた方がよろしいかと」
「あー。そうかも」
さっき穴掘りでだいぶ力を使ったばかりだった。ちょーしに乗ると帰れなくなるねー。
「でも、そうですね。サーバーがどこかにあるかもしれませんね」
「サーバーかー。そんなのどうやって探すのやらー?」
更に20台。今度はさっきよりも更にゴツい足回りで後ろにドアが無く、おっきな筒を前に向けて突き出している。こんなの何に使うんだ?上に登るとさっきと同じ出入り口、中を覗くと椅子が二つ。
運転台がないね、ボードが三つ計器がいっぱい。握って何かするように見えるハンドルが正面のは一つ、右を向いたのには2つあった。何するんだか見当も付かないねー。
大きな筒の下にも入り口があったよ。よくみると、ここの段で筒のついた部分が繋がってるんだ。コレってぐるっと回るって事?
まあ良いや。開けてみると運転台だね。同じものが2つある。交代で運転できれば楽だよねー。
上に潜ってたシロルが箱を持って出て来た。なんか使えそうなものがあったのかな。
「シロル。いーものあったー?」
「はい、これは大きいですが[さん]に近い性能を持った電子部品です。このメモリが読めれば良いのですが」
「ねえ、ミットー。ここの車両ってみんなあっちを向いてるよね。前か後ろに出口があるんじゃないかな」
「そーかも!後ろに入り口があって、前に出口があればまんまだよねー。前に行って見よー」
前方の壁には大きな開閉機があった。やはりここから地上に出られるようだ。今はどうすれば良いのかまるでわからないけど。
「今度は上に行こっか?」
「まあ見られるだけ見ていこうよ」
螺旋階段をてっぺんまで登った。やっぱり縦棒が閉じてたのでアリスが外す。この施設は全部で5層あることまではわかった。
ここは白い壁で仕切られていて雰囲気が違うねー。まずここが四角い部屋の中だ。6メル角くらいで天井が4メル。ドアが向かい合うように2つ。螺旋階段が一つあるちょっと大きな部屋ってなんか変だよ?
ドアはすんなり開いた。出たのは3メル半も幅があって広くて長い廊下の途中。どっちを見ても5メル間隔くらいにドアが両側にずーっとある。コレまためんどくさそうなー。右から両側を開けて進んで行こうか。
開けてみると右は仮眠室っぽいね。左はだだっ広い部屋に林立する青い箱。なんだろ。左のドアってみんなこの部屋のドア?なんでこんなにドアだらけ?この壁からは立ち並ぶ箱が3メルくらい離れてる。
箱を一つ調べてみると、5セロ厚の黒い箱がぎっしり棚に詰め込まれている。裏側は紐が大量につながっていて、一つの箱から8本の紐が出ている。箱は8つある棚にぎっしり。数えてみると棚一つに40個。大きな箱に320個の黒い箱。
その大きな箱が幾つあるのか分からない……
「これ一つ一つがたぶんサーバーです。でも規模が大き過ぎてあたくしでは手が出せまん」
サーバーって前に乗り場で見つけたやつは15セロ角の薄い箱だったよね?これは50セロ角で厚みも5セロもある。サーバーのおっきいやつか。
「一個外して持っていくのはー?」
「この配線の複雑さは、あたくしに対応できるとは思えません。何か資料があると良いのですが」
林立するサーバーの間を奥へ向かって進んで行く。200メル行くと机がいっぱい並んでいた。どの机にも隠し部屋で見た四角い箱紐と黒いボードが載っている。壁にはぎっしりと棚が並び大量の箱紐が雑然と詰め込まれている。
こんな環境はアリスが得意?顔を見るとアリスが首を振った。デンジーバーが見えない?どー言うこと?
「アリスさまは電気の流れで起こる電磁場を見ていたのです。ここには電流が全くないので流れを辿れないのです。あたくしも全く同じです」
「んー?バッテリをつなげばいーんじゃないのー?」
「あたくしたちの小さなバッテリを1000個集めてもここの機械群は動かないでしょう。小さな部品を外して持ち帰り調べたいのですが、どれを外したら良いものやら」
「そー言うときは片っ端からでしょー。
この奥の棚はみんな貰ってもよさそーだよねー」
「ええ、これはおそらく廃棄か予備の部品です」
「あとはロッカ?しまってある奴ー」
「そうですね。手分けして探すのはどうでしょうしょう」
アリスが頷いた。
そうだねー、この中なら離れてもツーシンが届く。となると、どこを探すかだ。向かいの小部屋をいくつか開けてみようか?螺旋階段の向こうも気になるし。
廊下に出て左へ向かいのドアを片端から開けてみる。部屋は3メルの5メル、そう広いとは言えないけどベッドと机椅子があって寛げる感じだ。おっきなボードが壁にかかっている。
机を漁ったけど何も入っていなかった。
隣へ行ってみたけど同じ。次々と5つ覗いて、見たら右に廊下があった。その廊下は6メル先で左右に分かれている。
どうやら小部屋を挟んでもう一本廊下があるらしいねー。
廊下を抜けて突き当たりのドアを開けると、後ろの大広間と同じように、おっきな箱がズラっと並んでいるのが灯りに浮かび上がった。
向こうは青い箱だったけどこっちは緑なんだね。そーすると後ろは仮眠室かな?
一つ開けてみると予想通り3メルの5メル、ベッドと机が一つずつ。端の方へ行ってみるかー。
左へ曲がって渡り廊下を過ぎると、ドアの間隔がちょっと狭いかな?3メルくらい?
開けてみると3メル角の仮眠室。華奢なベッドが一つあるっきりだ。なにこれ、狭いねー、下っ端用なの?
片っ端から開けて覗いて行く。三つ目の渡り廊下は突き当たりだ。正面に幅の広いドアがあって左へ曲がっている。
その手前、角の部屋を開けた。中にはぎっしりと箱紐が詰めてあった。ふーん?
突き当たりの大きなドアを開ける。
ここにも棚がびっしり並んでるねー。すぐの左に机が一つ。箱紐とボードが一つ載っている。その後ろには空っぽの棚。部屋の幅は6メル半くらい。
奥行きは……おっきな部屋だね、両側に棚が櫛形にずーっと並んでいて奥まで灯りが届かない。棚の間に2メルの通路。この辺の棚はどれも空っぽだ。
奥へ行くと30メルで突き当たり、また大きなドアがあった。左右を見ると棚に少し物が載ってるね。
紙の箱を開けてみると透明な袋に入った箱紐がキチンと詰めてあった。同じ大きさの箱が20個くらいあるかな?
下の段の一回り小さな箱も開けてみる。あれ?これってサーバーじゃない?乗り場で見つけたちっこいサーバー。この箱は6個ある。リュックを下ろして詰め込んだ。フラップが閉まりきらないけどなんとか入った。
向こうの棚はどうかな?あたいの腕ほどの高さのあるでっかい箱が10数個、その下の段にはもっとでっかい箱が5個。
上は机の上に置いてある箱紐だった。下は同じくボードだった。あとは細い紐を筒に巻いた奴が幾つか。
奥のドアを見てみようか。あれ、開かないね、どうしようか?この隙間で引っかかってるんだよね。
あたいは軽い剣を抜いて、取っ手のそばの隙間に剣を振り下ろした。
中は6メル角くらいの小さな部屋に棚がぎっしり。手前の棚が空っぽなのは一緒だね。奥の壁一面にロッカがあった。突き当たりは空っぽ。右へ開けて行くと最後のロッカの下の段に小さな箱が一つ。隅の方に隠れるように置いてあった。同じ箱が一番上の段にもあるね。こっちは開いているようだ。
それもおろして中を灯りで見ると更にちっちゃな箱が8つほど、なんだろね。一つ開けてみると透明な袋に入った銀の八角ボタン。これ見たことあるよー。右耳のボタンを外して並べてみるとおんなじだねー。
「アリスー、シロルー。ちっこいサーバーとマノボタン見つけたよー」
『本当?どこにいるの?』
「廊下に戻って左に行くのー。そしたら右に渡り廊下があるから、そこを行ってまた左ー。ずーっと進むとおっきなドアがあるから入って二つ目のドアの奥だよー」
『分かった。すぐ行くよ』
「さてと、こっちはなにかなー。
やっぱり一緒かー。50個入り!すっげー」
『ミット、なーに?50個?』
「マノボタンが箱入りで58個ー」
『箱入りってなに?』
「さあ?透明な袋に包まれて、ちっちゃな紙の箱に入ってるよー?」
「『あ、居た居た』」
「アリス、シロルー。これだよー」
「倉庫のようですね。棚がほとんど空ですけど。外はそろそろ暗くなります。一度戻りませんか?」
「あー、そう言えばお腹空いたー」
「ミット、ここから外に出られる?」
「大丈夫でしょー?」
やってみるとパッと3人で地表に戻った。手摺代わりの筒の壁と、大きな土の山が長い影を草地に落としている。
「明日また来ようか?」
「そうですね。まだ回っていない層もありますし、山の調査がもう2つありますから」




