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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第12章 トリスタン‬
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2 カンズラール・・・ミット

 これまで:これまでで最も大きな街トリスタン。転移で降りた裏路地で一悶着あったがアリスとミットは一応の偵察を終わらせトラクへ戻った。

 穀物を積んだ馬車の列は日が沈んだところで止まってしまった。街道に止めたままの野営だよ、おっどろいたねー。

 後ろの馬車に聞いたら、毎年のことだと言ってお弁当を広げて笑ってたよー。あたいたちは寝床もあるし、あったかいものも食べられるけど、御者(ぎょしゃ)台に座ったままポンチョに(くる)まって寝るなんてごめんだね。


 近所の家の間から手押し車が何台か出て来た。見るとお弁当やお茶を売り歩くようだ。街道の右側は空いているのでそこを通って売り歩く。


「パンにスープはいかがー。スープはあったかいよー」


 子供の声があたりに響く。2人の身なりを見ると継ぎだらけだけど洗濯はしてるようだ。


「君たちはどこの子かなー?」

「少し先に教会があるの。今はそこにいる」

「ふーん。頑張って売っておいでー。帰りにここに寄ったらいいよ。お菓子を作って待ってるからねー」

「え?お菓子?」「ほんとに?」

「友だち連れて来ても良いよー。たくさん作るから」


 子供たちは元気にお弁当を売りに行った。


「ミットさま。何を作りましょう?」


 なんでシロルが嬉しそー?


「そーだねー。日持ちする甘いクッキーかなー。我慢して何日も取っておく子もいるからねー」


 あたいもやったねー。大事にちょっとずつ食べてたのに、隠し場所見つけられて……いけね、涙が出て来たー。


 1ハワーくらい経ったか。売れ残りを抱えて子供たちが戻って来た。大人の物売りもいるからねー。手押し車5台に16個の売れ残り、売った方だよー。


「ひとついくらで売ったのー?」

「50シルですー」

「シロルー」

「はい、ミットさま。ちゃんと美味しくしますよ?皆さんも食べて行きますか?すぐできますから」


「シロル。頼んだー。ほら800シル。みんなあたいが買うよー。

 そこに座んなー、お茶入れるからー」


 クロが椅子を並べると目を丸くしていたけど、座ってくれた。


「教会って広いのー?これ駐められるかなー?」

「庭は広いけど、牧師さまに聞かないと分かんない」

「そっかー。明日行ってみるから場所を教えてよー」



「二つ先の路地を行って真っ直ぐだよ」

「あんたたちが出て来た道かいー?」

「え?見てたの?」


「そうだねー。お、出来たー?」

「はいミットさま。大変に美味しく出来ましたよ。アリスさまのお墨付きです」

「今のはねー、つまみ食いされたって意味だよー。さあ食べなー」

「え、良いの?ほんとのほんとに?」


「どーぞどーぞ。ここらのパンがどんなものか見たかったからねー。これは売り物になりそうだねー」

「はい、ミットさま。ミケの護衛付きで屋台をやりましょうか?」


 わ、シロル、めっちゃ乗り気ー。


「おいしいよ、これ!」「本当だー」

「こんなの食べたことないよ」「わーん、美味しー」


 いや、泣かすつもりはなかったんだけどねー。


「食べたら気をつけて帰るんだよー。この袋、一つずつ持って行きなよー」


 中身は美味しいシロルのクッキーが6個ずつ。仲良く食べるんだよー。子供達が見えなくなるまで見送って、あたいは鼻をすすった。


「中に入ろうよ」


 アリスのかけてくれる言葉が、なんでか嬉しかった。


   ・   ・   ・


 馬車が動き出すと5本先の広い通りを右へ行く。子供たちが言ってた通りはいくらなんでもこのトラクには狭すぎる。エーセイのチズがあるから場所はすぐ分かったし。3本目をまた右に曲がって2本戻る。結構大きいねー。

 あの子達はどんな暮らしをしてるのかなー?


「おはようございます。ガルツ商会のアリスです。トリスタンは初めてなんで、野営場所を探してまして。お礼はしますから庭先を借りられないでしょうか?」


 アリスは改まった口上(こうじょう)が上手いねー。あたいなんかあんなセリフは考えただけでムズムズするよー。


「構わぬよ。どちらから参られた?」

「ずっと東から旅して来ました。行商のようなことをやっています。ミットにシロル。後ろはクロとミケと言います」

「「よろしくお願いします」」


「ああ、わたしはここの牧師をしているカンズラールだ。どのくらいここにいるのかな?」

「まだ着いたばかりですので。場所をお借りするのにいくら払えばいいでしょうか?」

「まあ寄付ということで気持ちだけいただければ結構です」

「分かりました。取り敢えずこれだけ納めて下さい」


 アリスが用意していた袋を渡す。ズシっとした重みにビックリしてるねー。

 ギルクスからドンともらったからねー。少し散財しないとー。なんせガルツ頭取さまの直々のお達しだよー。成金もいろいろ大変だねー。


 さて許可ももらったしー。早速アリスが屋台を作り始めたよ。昨日シロルが作った甘ーいパンを子供でも売りに行けるように、踏み台付きの軽い屋台。アルミーの角筒で作って、表面に焦げ付き模様をつけたので見掛けは木製っぽい。

 焼き台は薄い銅板で火箱と煙突は薄い鉄製だ。中で薪や炭を燃やして焼き物ができるようにした。材料は固いパンの薄切りと甘いトロッとした油。シロル特製だよー。


 甘い油を塗ったパンと野菜や果物を一緒の焼き台で焼く。しっとりと味の染みたパンにそれを載せて、洗ったユウビクサの葉で包んで食べるんだ。

 この葉っぱは昨日バクストから来る途中、道端にいっぱい繁ってた。香りの爽やかな大きな葉っぱでシロルが出番を狙ってたんだ。そーいや根も美味しいんですよって、シロルがいってたねー。

 材料は火箱の下にかなりの量が入るけど、きっと足りなくなるねー。


 2ハワーくらいで、試作ができるくらいに出来上がった。


「ちょっといーかなー?屋台を出そうと思うんだけどー、どーしたらいーかと思ってさー。

 牧師さん、相談に乗ってよー」

「ああ、屋台かね。商業組合に申請を出して、場所を割り当ててもらうはずだな。皆中央広場に出したがるが、どうだろうな。おそらく空きは無いと思う。向かいの敷地で良ければわたしの許可証で出せるが。人通りは広場とはずいぶん違う。それでもよければやってみるかね?」


 あー、この道の向かいっかわねー。確かにそれほどの人数は歩いてないけど途切れることもないねー。ただ木が鬱蒼(うっそう)としていてちょっと暗いかなー。明るい感じにできたらいけるんじゃねー?


「木が混んでて暗いから少し枝払いしてもいーかなー?」

「ああ構わんが、そんなこともできるのかね?」

「でっかいのがいるからねー。林の雰囲気は残すよー。

 まずやってみるねー。試食会やりたいんだけど協力してもらっていいかなー。味の感想とかー?」


「ははは、そうか。で、なんですか、試食ですか?」

「売り物の味見をねー。意見は多い方がいいんだよー。子供達もいーかなー?」

「これからですか?」

「うん。用意はできてるよー」

「では皆を連れて行きましょう」


 総勢14名さま。シスターさんがふたりに牧師さん。あとは子供たちが11人、大所帯だねー。寄付がどれくらいあるか知らないけど、建物を見る限り楽な暮らしではないねー。


 クロが出したテーブルでは足りないけど、屋台の立ち食い料理だからね。甘い匂いのしっとりしたパンを食べてもらおー。


「ほう、この葉で包むのか。東に行けばいくらもある葉だが、こんなに香り高いとは思わなかったな」

「固いパンがソースを吸い込んで柔らかくなっています。この甘味はなんでしょうか。大変に美味しいです」

「夕べご馳走してもらったよりずっと美味しくなってるー。お姉ちゃん、料理、上手なんだね」


 シロルが作るんだから問題ないのは分かってるよー。向かいではミケが枝を間引きしているからお昼時に出店が間に合うかなー?

 アリスも様子を気にしている。


「道路のそばは明るくなったね。奥の方もやって貰えばテーブルを幾つか置いて、いい休憩場所になるね」

「牧師さんー、3人くらい手伝いを頼みたいんだー。子供たちを借りていーかなー?」

「何をさせるつもりかな?」


「テーブルの掃除と品渡しかなー?作り方も覚えて欲しーねー」

「まあ、良かろう。ルイーダ、年長の3人を選んでくれ」

「では、トルクスとアイサ、レイラ。お手伝いをお願いします」


 ミケが食材を詰め込んだ屋台を引いて道を渡る。あたいたちも一緒に渡って、車輪を固定したら薪を足して焼き台の温度を上げ、シロルに習って作り始める。

 ミケはそのあともテーブルや椅子を運んで、明るくなった木の間に置いていく。やっぱり木漏れ日の差すなかで座って食べるのが落ち着くよー。


 クロが落とした枝を集めて山に積んでいる。

 あれも甘味(グルコース)の材料だ。でもどこまでが教会の土地なんだろね。


   ・   ・   ・


 初日から甘い匂いを振り撒いたのと、珍しいのとで用意した7割近く売れた。夕飯時を過ぎると人通りが(まば)らになるので、暗くなる前に屋台だけ道を渡して片付ける。子供たちも馬車を相手に売り子をしているので慣れるのが早い。手間賃に300シルずつ渡して帰した。そしたら翌日は手伝いが5人になった。



 4、5日続けるとシスターのルイーダさんが付いた。あたいが牧師さんに屋台を預けて別の商売をしたいと頼み込んだ成果だ。

 料理はもう子供だけでもできるくらいに慣れて、覚えの速さには舌を巻くよ。シロルが野菜たっぷりの麺を塩味で焼く料理を追加した。

 甘いばかりでは飽きてしまうだろうし、ユウビクサの葉の香りとも意外と相性がいい。この根がまた水で(さら)すと少し辛味が出て、いいアクセントになった。細く刻んで(そば)に添えたものをちょっとずつ(かじ)ると美味しいんだ。


   ・   ・   ・


 明日からは仕込みだけやって販売はお任せだ。


「なんで屋台なんか始めちゃったかな?忙しくて何にもできなかったじゃない」

「えーっ?アリス、ノリノリだったじゃないよー?」

「はい、アリスさまもミットさまも楽しそうでした」


「牧師さんに聞いたんだけどさー。あの林って街の土地らしーよー?なんか、公園用地ってことになってるのに、手入れもしてないから荒れ放題だったんだってー。教会の土地は道路沿いの5メルだけだってさー」


「へぇ、もったいないね。中心部に近いのに。ガルツ商会で買っちゃおうか?」

「誰が忙しくて大変だってー?さっき自分で言ったばかりだよー。買ったらまた建物建てたり忙しーよー?」

「まあそうなんだけどさ。あたし、あの子達がお風呂をどうしてるのか気になって」


「高台の調査に行けると思ったのに、こいつは。仕事増やすんだからー」

「また温泉ですか?どんなお湯が出るでしょうか。楽しみですね」

「今まで外れたことないけど、絶対出るってもんでもないらしいよ?」


「あら?うんと深く掘れば熱源は間違いなくあるんですよ?水も地下にはいくらでもあります。確実に出るとは言えませんが、十分に確率は高いですよ」

「ここの管理は市長ってのがやってるってー。あした聞きに行ってみよーか」


   ・   ・   ・


「おはようございます。ガルツ商会のアリスです。教会の向かいの林はこちらの土地だと聞いたんですが、お話を聞いていいですか?」

「ああ、街の管理だよ。私は市長をやっているクレスハントだよ。あの土地がどうかしたのかね?」


「公園用地だそうですね。手入れされずに放置されていると牧師さんに聞きました。

 あの場所に屋台を出してまして、木漏れ日が気持ちいいいので、テーブルなんかを置かせてもらってます。枝払いも少しさせてもらいましたが、もったいなと思いまして」

「ああ。あの屋台はおたくのでしたか。庁舎の女性陣はすっかりファンですよ。いや、なかなか手が回らんのです。公園も計画はしたのですが、もう5年も手を付けられずにいます。枝払いは助かりましたよ」


「どのくらいの広さがあるんでしょうか?よろしかったらあの土地を買おうかと思っているのですが」

「確か間口60メル、次の道路まで突き抜けで85メルだったか?ちょっと待ってくださいね。

 ああ、これだ。間口は75メルでした。広い土地です。本当に買ってもらえるんですか?」


「真ん中辺の木は間引いて建物を建てますが、

 それでもよければ。おいくらになりますか?」

「土地は所有者が自由に使うものです。制限などはありません。市の査定額は38万シルです。相場は8掛けですから30万4千シルですね」

「そうですか。何か手続きなどはありますか?」

「いいえ。売買契約書を取り交わすだけですね」


「この場で支払っても?」

「今あるんですか?」

「ええ。ここに」


 アリスはあたいのリュックから袋をいくつも取り出した。[浮揚]を使ってるからねー。30キルの(きん)だってへっちゃらさー。

 てゆーか、まだ50キルも入ってんだよー?こんな安いと思ってなかったから。


 あとは住所と広さ、金額を書いたおっきな紙に市長とアリスがサインをして終了だった。


 土地の範囲を現地で教えてくれるというので戻って来た。屋台はお客さんがいっぱいだねー。塩焼きの麺が出てるよー。ユウビクサの根が効いたかなー?

 目印は4隅に一本ずつ細長い石が埋めてあった。木は10数本切らなきゃだねー。なるべく教会側は木を残したいね。角に店を建ててもいいかなー?


「さあミット、土地は買ったよ。どういうふうに使おう?支店は向こうっ側でいいよね。こっち側は温泉!温泉だよね!」

「あんた、はしゃいでるけど支店長の当てはあるの?いつまでもあたいたち、ここにいないと思うよ?」


「牧師さん……はダメかー。誰か呼ぶー?」

「それが堅いねー。おっきな街だから押し出しのいいのじゃないとねー。ガルツに聞いてみよーよ」


 エーセイが増えたからねー、ツーシンが割とすぐ繋がるようになったんだ。


「ガルツさん。アリスでーす」

「ガルツー、ミットだよー、元気にしてたー?」


『おお、元気だぞ。そっちはどうだ?』

「この間話した通り、トリスタンって街に着いたよ。駅があるって噂があるんだ。レクサスの街みたいに中心部まで山が迫っててね」

『ああ、山を中心にする理由があるはずだな』


「支店を作ろうと思ってねー。土地を少し買ったんだよー。75メルの85メル」

『ほう。支店としては充分だな』

「支店長、誰か回してよー。人口が3万ちょっとって言ってたからねー。押し出しのいいやつが欲しいんだよー」


『押し出しってもなあ、交渉力も必要だからニコラスにケビンを付けて出すか?他はちょっと思い付かん』

「そうだね。あと道路班はどうなってるの?」

『ああ、お陰でな、家族で乗ってくれるのが5組増えたよ。ただ、子供を産む前後はどうしても1月くらい止まるがな。パルザノンからサイナスへのルートに3班回すことになった』


「あー。良かったねー。道が悪いとせっかくのトラクもろくに走れないからねー」

『トリスタンの道はどうなんだ?』

「整備はされてるよ。でも馬車用だもの。本気で走ったらどこへ飛び込むか分からないよ」

「狭いしねー」

『そうか。準備ができたら知らせてくれ』


「うん。2、3日で準備できると思うからー、引越しの準備をさせといてー。あたいが荷物ごと運ぶからー」


『ああ、そんなことを言ってたな。どのくらい持って跳べるんだ?』

「1トンくらいかなー」

『分かった。用意させておく』

「じゃあまたかけるね。切るよ」

「ニコラスとケビンかー。硬軟のコンビはいーかもねー」


 アリスが支店を作ってる間に売店の話をカンズラール牧師に聞いてみた。屋台の売上で喜んでいたところだったので、是非お願いするといわれた。費用もできる範囲で出すって言ってたけど、そんなのどーでもいいんだよー。

 あの子達がつまんない苦労を背負い込まなけりゃそれで。


 結局引っ越しの他に2回も商品を運ばされたよー。まーったく、ひっと使い荒いよねー。

 あいつらはこれから自分の住処を整えて地元民の雇用と顧客の開拓だ。トリスタンは広いから大変そー。


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