10 バクスト・・・ミット
これまで:内海の外輪山越えは転移陣の見様見真似で解決を見た。パルザノン方面への転移陣を設置したのち、トラクはトカタ村からバクストの町へ進んでいく。
「ミットさま、バクスト町が見えて来ました」
あれっ?あたい、いつ戻ったっけ?ここってトラクのあたいの寝台?
「さっきまでそこでジーナさまがお茶を飲んでおられましたよ?」
ガルツの使ってた寝台下の狭いテーブルスペース。カップが一つ残っている。ジーナが寝てしまったあたいを運んで来たんだと。
お弁当のいい匂いがしてたからかー?トラクだってどこにいるか分かんないのに。上から探したんだろーけど、良くやるよ、ジーナ。
「バクストー?ズーニスが話は通して置くって言ってたけど、どーなるかねー?」
「お出迎えが出てるよ、ミット」
いないと思ってたら運転台の方からアリスの声がした。行って見ると街道の先、遠く1ケラル以上も先に3人立ってるねー。
じーさんとゴツいのが2人、武器は持ってないね。いつからあそこに立ってたんだか。
アリスを見ると
「出て来たのはちょっと前だよ。右の物見の上に一人、目のいいのがいるみたいだね」
「ふうん?ちょっと上から見てくるよー」
町の上空500メル。浮遊術で高さを固定する。ジックリ見せてもらおーか。
絵描きカメラで写るかなー?大体入るねー。もうちょい上に行こう。
中央に街道が貫いてるけど狭いねー。6メルはなんとかあるから馬車のすれ違いがやっとだねー。バイパスするならどっちだろ?南に川があってギリギリまで家が立ってる。
北側は大きく迂回することになるし農地が沢山潰れるねー。これは頭が痛いかもー。
戻って見るとアリスもチズでどう抜けるか考えてたよ。かなり手前から斜めに川を渡って街に向かって3本の橋を架ける。で、また斜めにかけた橋で街道に戻るルートだねー。町の中の立ち退きは橋ができるところの6軒ってとこかー。川向こうの土地に行けるようになって町が広げられるねー。
シロルがあたいの撮って来た絵を大きな紙にサササッと描いてくれた。
そうこうしてるうちに、3人の前まで来てトラクが止まった。
「こんにちはー。ガルツ商会のアリスでーす」
「ミットだよー」
クロミケがなんだか楽しそーにテーブルと椅子を出し、シロルがお茶を振る舞う。
「あたくしはシロルです。こちらはクロとミケ。話すことはできません」
「儂はバクスト町、町長のギルクスだ」
「ゴンドスだ」「ガロンドだ」
なんだか一段と濁点だらけだねー。
「ズーニスから話は聞いている。山向こうへの交易路ができると聞いた。道を広げると言うがそれは本当か?」
「あの山の向こうには西の内海って、海があってね。サイナス村では魚が捕れるんだ。穀物なんかが欲しいんだよね。
もう一つ山を越えた先にパルザノンっておっきな街があるよ」
「トカタ村が大きく変わったと言うのは見に行かせた者から聞いている。ここにも道を通すと言うが、難しいのだ。トカタ村は600万シルもの借金を負ったと聞いたが、そんなことはできん」
「でー?どうするつもりかなー?」
「今のままと言うのはダメだろうか?」
「馬車の往来が今のままならいーんだけどねー。これはトラクっていう馬無しで走る車両だよー。こんな荒地じゃろくに走れないけど、道が良くなれば1ハワーで150ケラル走るんだ。道がこのままなら通るトラクに狭いバクストは恨まれるよー?町の人だって危なくて歩けやしないことになるんだ」
「だが、10メルの道など70軒以上も立ち退きせねばならぬ。住民を説き伏せ、代替地を用意しそれだけの家を建てるなど……」
「6軒ならどうだい?10日で道が通って、川向こうのの土地が使えるってのは?」
「川向こうじゃと?一体何をすると言うのじゃ?」
「これを見なー。この街の絵だよー。
道はこっちから斜めに川を渡って、反対側で元に戻すんだ」
「それでは町が素通りではないか。それではこの町は潰れてしまう!」
「そーだねー。でもまず聞きなー。ここまではあたいたちが勝手にやることだよー?
町のお金でここと、ここと、ここ。橋を3つ架けるんだ」
「おおっ!それなら川向こうが近い!」
「どん突きの6軒くらいはそっちでなんとかしなー。そう急ぐ話でもないしねー。
でー、この橋は町のものだけどいくら払うねー?」
「ぬぬ!確かに良い案じゃ!じゃが橋じゃと?木造の小さい橋でも何万シルと掛かるものをこの川に3本もなどと……くうーっ!」
「ミットー。あんまり虐めちゃダメだよー」
「あはっ!ごめんって、ギルクスー。ちょっと悪ノリしちゃっただけだからー。アリス価格でいくらになるー?両端が10メル幅、真ん中は15メルでどーかなー」
「えーっとね。材料費に、手間賃とうちの利益3割、ミットー、穴埋めはー?」
「あたいがやってもいいよー。ギルクスー、土を取っていい場所ってあるー?石とか岩でもいーけどー」
「ああ?少し遠いが北の畑の外れなら。と、そうじゃな、川向こうの高いところでも構わんが?」
「じゃ、川向こうにするねー」
「むう。300万シルでどーかな?」
「ぬう。橋3つであれば非常に安いとは思う。
じゃが、のう。ちょっと考えさせてくれぬか。町長とは申せ町が背負う借金じゃで、儂の一存では決められぬ」
「それは構わないけどー?4日もあればいーかなー?5日目には多分街道に合流しちゃうと思うからー」
「ななっ?たった5日で?」「「なんと?」」
ギルクス達が町へ戻って行った。トラクを700メルバックさせて8メル幅の橋を架ける準備が始まった。あたいは川向こうの埋め土を見に行くよー。
上空へ転移して見ると日が傾いて来てる分、起伏がよっく見えるねー。結構ポコポコと高いところがあるよー。近間から今作ってるとこへ運んじゃおー。
この山半分行けるかなー。浮かせるのはぜんぜん大丈夫ー。転移は絶対無理だからそのまま向こうへ押すんだけどー。
お?そーっと押す感じならいけそーだねー。あー、これなら持っていけるよー。
「うわっ!ミット?これ何トンあるのよ。あんた大丈夫?午前中グロッキーになってたじゃない」
「へへーん。転移は絶対無理だけどー、こんだけなら浮かせそーっと押すんだよー。この倍でもいけそうな気がするよー?」
「あんた、それ絶対やめてよね!無理しなくてもいいいから!」
「まあテキトーに運んどくよー。後2つ分くらいは要るんでしょー?」
「うん。ゆっくりで良いよ。でもそろそろ夕飯だよ」
「うん。もう一つだけ運んじゃうよー」
あたいがもう半分を運ぶ間に、河岸から高さ2メルの壁が20メル程の長さで立ち上がって街道の地面と川を隔ていた。あの壁の上に橋が架かる感じかなー?
ここの川は水路幅で50メル。橋桁が100メルと言っても斜めに渡って遠くなる分、真ん中に一つ支柱が欲しい。その分、水の流れが乱れるからあの壁ってことらしいね。
・ ・ ・
ギルクスが相談すると言ってから3日経った。道は15メル幅で町の対岸を作り終わって街道に戻る橋の準備中だ。この橋で使う分の埋め土はあたいが集めてもう両岸に山になってる。東から馬車が出来上がったばかりの橋を渡ってこちらに来る。
川を渡れる橋は上流のこれ一つだからねー。ギルクスの使いだろー。どーするのかなー?
降りて来たのは町長ギルクス本人だ。
「アリスどの、ミットどの。先日の話の通り橋3つの作成をお願いしてよろしいか?」
「やっと決まったかいー。この絵で確認しとくれー。作る橋は3つ、真ん中が15メル、後の二つは10メル幅で作るよー。橋は見て来た通り地盤から2メル持ち上げた上に架ける。
ここまではいーかいー?」
まあ立ち退き軒数が少し変わるかもだけど、河岸はずっと壁で遮られる形になるねー。ギルクスが頷くのを待ってあたいは後を続ける。
「こっち側は見た通り、15メル幅の通りになってる。橋を渡った向かい側には交差点を作ってあるからそこからの道は自分たちで作るなり、うちの道路班を呼ぶなりしとくれー」
「うむそれでな、急ぎこの6軒の立ち退きは話を付けた。なんとか橋の通行ができるようにしてはくれまいか?」
「いいよー、それくらい構わないよー。いいとこ1ハワーだろー」
「うむ。200万シルだけ儂が工面したでな。持って来たゆえ、納めてくれ」
「ふーん、あんた、いいとこあるねー。分かったよー、受け取っておくよー。橋は明日中くらいでできると思うよー」
「そうか。だがなんと言うことだ。僅か3日でこの変わりよう。明日にはここを橋で渡れるなど、今もって信じられぬ」
「まあ、アリスが奇跡担当だからね。お礼ならあっちに言っとくれー」
「そう言えばトカタ村の年寄りが、やたら元気だと報告にあったが何か関係があるのか?」
「あー、それねー。あるっちゃーあるかなー?」
「そうであったか。この町にも30数名おるがお願いできないだろうか?」
「みんながみんな元気になるわけじゃないよー?それでよければアリスに頼んでみたらー?」
アリスとは明日、真ん中の橋の向こうの集会場に集めておくってことで纏まったらしい。
ともかくもこれで先に進めるねー。
ミットの用語解説だよー
単位ねー
お金 シル
長さ セロ=センチメートル メル=メートル ケラル=キロメートル
重さ キル=キログラム トン=トン
時間 メニ=分 ハワー=時間
温度 セッシド=度
角度 デグリ =度
アリスの目 見たものの寸法が分かって赤い線を引いてもらえるー 温度が見えるー 毒が見えるー
マノボード マノさんが提供する絵やカメラの絵が見られる板
サーモ ものの温度が見られる表示モード
チズ 上から見た周りの絵が見えるー。大きさも変えられるってー
マノボタン 飾りボタンだけどお返事がないらしいー。マノさん材料が採れるってー
デンキ 浴びると軽いのは人や動物の動きが止まる。強いと気絶したり、死んだりする 滅多に使わないよー
灯り 4セロの猫耳付きの白い円盤 厚さは半セロ 真ん中を押すと3段階で光るよ 明るいので連続3日くらい光るらしい
バッテリ 元気な力を溜めるものー
トラク 幅2メル30セロ 高さ2メル50セロの箱型の乗り物ー 長さは用途により変わるよー。速度は150ケラル/ハワーまで出せるー。人がいっぱい乗れるのはバスってゆーのよー
木質 木が原料ー。木には戻らないけどこっちの方が丈夫ー。いろんなものになるよー。
甘味 木が原料ー。甘い味の調味料ー。加工用の材料にしたりもするよー
箱紐 乗り場の隠し部屋で採れるー。たいがい四角い箱の片面から紐が何本も生えていて箱がぐるぐる巻になってるー。いろんな原料が採れるよー。
虫の殻 これもいろんなものを作る原料になるよー。
セーシキドー アリスがアルミーで作った窓付きの殻が浮いてる場所ー世界がちっちゃく見えてーあたいは元気がもらえるんだー
次はあたいが使える術ー。
転移 行ったことがある場所、見える場所に跳べるー。 1トンくらいのものを運べるけどつっかれるよー。
浮遊術 自分の体を持ち上げるんだけどこれが難しーんだ。ジーナもまっすぐ上がって止まって降りるだけー。
重さ無視 上げるだけなら50トンくらいは上がるー。元々は手荷物を軽くしてたんだってー。
遮蔽材変形 硬くて厄介な遮蔽材だけどなんでか相性がいいねー。中からくすぐる感じで変形ができるよー。
気配が読める これも能力だってー。周りの興味のあるものの場所がなんとなく分かるー。
こんにちはー。アリスでーす。
ミットだよー。
ミ:あたいの姉弟子って言うのかなー?会ったことはないんだけどねー。30年も前だってー。エイラさんのお話ー。
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ア:また大変そうな話だね?あ、ミットのお姉さんってもしかして跳びホーダイ?
ミ:ジーナには聞いたことないからねー。あたいも楽しみにしてるよー。
ミア:とまあ、宣伝でしたー。まったねー、バイバーイ。