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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第11章 サイナス‬
103/157

8 湿地・・・ミット

 これまで:内海の外輪山越えは転移陣の見様見真似で解決を見た。トラクは内海周遊路を終わらせ、サイナス村から西へ新たな旅が始まった。

 ふっふー。楽しいトラク旅だよ。今あたしたちはジーナさんに教えてもらったトリスタンに向けて西へ走ってるんだ。

 走るって言うとビュンビュン進んでるように思うかもだけど、野を越え、山を越え、ついでに谷も越えだからね、そんなに調子良くは進めない。


「アリスさま、最初の目標の村が見えてきました」


 午後の秋風を楽しみながらのんびり揺られて居たらシロルから声がかかった。


「おー、割と近かったねー。地盤が固いと進行が早いよー」

「それもここまでかな。この先は湿地帯だよ。どこを走ってもたっぷり時間がかかりそうだね。どうする?」

「いくっきゃないでしょー。道のないところに道を作って進むのが、あたいたちの旅ってものだよー」


 あたしは思わずミットの顔を見た。言うことはその通りだけど、妙にテンション高いぞ?

 ミットが、んー?とあたしの顔を覗き返してくる。気のせいか?


「ミットの言う通りだね。シロル、真っ直ぐ湿地を突っ切るよ」

「はい、分かりました」


 となるとここからは100メルずつ道を作りながら進むから、1回30メニとして1日12ハワーのフル稼働で2ケラル半。うん。明後日には村に入れそうだ。


 湿地に600メル突入したところで、駐車場代わりに8メル幅に拡幅して野営に入る。今作っている道路は移動できればいいやって感じで新たな道も4メル幅だ。でもそれだと、馬車の行き違いができないので、所々に幅を広くして待避所を作っている。ここの湿地のように道がないところは特にないと困るからね。


 でも一番は野営の時にトラクの幅を広くしてあたしたちが中でのんびり(くつろ)ぐためだ。2メルちょっとのトラクを1メル半も幅出しするから、4メル道路じゃいっぱいいっぱいで車外で何にもできないから広い場所が欲しいんだよ。

 次に重要なのは逃げる時。このトラクは8個の車輪で動くんだけど、車輪の向きは全部自由に変えられる。全部の車輪を横向きにしてその場でくるりと方向転換ができるんだ。でも車両の長さが8メルなんだよね。4メル道路じゃ向きを変えられないし、バックで走るのは遅い上に何かと危ないから広くしておいた方がいいわけ。


「シロルー、晩御飯はなーにー?」

「ミットさま、今日は干し肉を煮込んでみました。大変に柔らかくする方法がございます。期待してください」

「ほほー、なんか考えたんだねー。固い干し肉がどこまで柔らかくなるか、楽しみだよー」


 サイナス村を出て10日、新しい食材の補充をしてないからね。特に肉や魚は生を食べ尽くして昨日あたりから干物や燻製(くんせい)になって来てる。

 ミットに街までお使いを頼むのもありだけど、折角の旅の気分が台無しになるからね。シロルに頑張ってもらおう。


 日が暮れるとカエルの大合唱がゲコゲコガアガア始まった。あたしは今お風呂の中で聞いているけど、たまにはこう言うのもいいね。

 あたしが上がると次はミットがお風呂へ行った。シロルが冷たい果汁を出してくれた。


「今周りで鳴いているカエルですが、大きいですね。こうしゃがんだ格好で1メル近いですよ」

「へえ、カメラで見たの?」

「いいえ、運転席の透明板に何匹か貼り付いてます。クロミケも朝一番で洗ってあげないと大変そうです」

「うえっ、外はどんなことになってるのよ?」


 運転席へ行ってみると、大きな窓には薄い黄色のカエルのお腹と赤い吸盤のついた足裏しか見えなかった。カメラにもカエルの背中がいっぱい。トラクがカエルで埋まってる?

 ゾワっとして思わず中規模の電撃を飛ばしちゃった。バタバタと車体からカエルが落ちる。

 運転席の透明板もひどく汚れているけど、外が見えるようになった。カメラで周囲を見るとカエルだらけ。後ろの画像でも同じ。


 あれっ、道はどうなってる?あやや、道がカエルで見えないよ。この道路カエルのヌルヌルで滑るんじゃない?


「なんか騒がしー。何やってるのー?

 あー、カエルさんかー。アリスー、いじめちゃダメだよー」

「ミット、あんた、平気なの?トラクがカエルで埋まってるんだよ」

「朝になったらいなくなるよー。洗えばいーじゃん?」


「ううっ、こう言うやつだった。あたしが嫌なんだって言ってるでしょ?」

「だからー。気にしたら負けだよー?

 しょうがないなー、せっかくお風呂に入ったのにー。追っ払えばいいんでしょ?チャチャっとやってくるよー」


 ミットはいつもの防刃仕様の外出着を身につけ始めた。そして一通り着るとフッと消えた。

 トラクが伸び上がるような動きをしてその後左右に揺れた。カメラを見ると周りのカエルは居なくなっている。でも10メニほどでまた一杯だ。また縦揺れが来てカエルは居なくなった。


 ミットがぶつくさ言いながら戻って来た。

「まーったく人使い荒いんだからー。6回も運んだぞー。今夜中にはここまで来られないだろ、さあ寝るよー」


 よく分かんないけどカエルがいないならいいや。


「「おやすみー」」


   ・   ・   ・


 翌朝、あたしが電撃で殺したカエルが58匹、トラクの周りに転がっていた。朝ご飯の前にお片しになっちゃったね。クロミケに両手に一匹ずつ持たせると分解ナノマシンを頭からかける。

 まず皮が路面に落ちて広がる。その上に肉が外れて積み上がる。今回は一晩放置しちゃったからね。臭み取りの処理が増えたので肉は別に除けておく。骨が足の方からブロックになって皮の上に積み上がって、内臓系は水分を飛ばして肥料ブロックになる。ここまで来ると残った頭は皮の端の方に置いとけば良い。

 5メニかかったよ。これをあと14回かー。あたしの朝ごはんは遠そうだね。


 ミットはカエルをいじめた罰だと言ってたよ。そういえばここも大量のカエルで埋まったんだよね。ヌルヌルになって滑るかと思ってたけど、全然そんなことないね。


 ナノマシンをクロミケの持つカエルに振りかけてしまえばあたしは次まで暇になるので、除けておいた肉に次の加工をする。

 これは肉の表面にマシンを塗り付ける感じになるんであんまりやりたくないんだけど、せっかく獲った肉なので美味しく食べたい。大きい足の肉は一本ずつ、小さいのは何本かまとめて左手にぶら下げ、右手でぐるっと撫で回す。


 これで良し。4匹分だからそこそこあるね。25キルくらい?

 マシンが肉の中に分け入って臭みを抜くので表面に泡が出てくる。この泡はパリパリに固まるので調理の時に剥がして捨てればいい。


 そんな感じで10回目が終わった。あと5回。


「アリスさま、朝食ができました。あたくしが代わりますので食べてください。お台所が片付きません」


 シロルが呼びに来ちゃったよ。料理番のシロルは猫耳メイド、白ネコだ。マノさんのセッケーズライブラリから選んであたしが作ったロボトだ。

 ミットと同じくらい高い身体能力とあたしと同様のナノマシン操作。エレーナに匹敵する調理技術。一応あたしの従僕だけど大事な旅の仲間だ。


「いやー、ミットにカエルをいじめた罰だって言われてるから、これ終わらせちゃうよ」

「しょうがないですね。お手伝いします」


 そう言ってシロルが2匹、両手にカエルをぶら下げた。50キルの少女が70キル近いカエルを2匹吊り上げる絵を気にしなければ、このくらいの重さはシロルにとってはなんてことない。6匹ずつ処理できればあと3回になるか。

 って、忙しいぞ、これ。



 後片付けはクロミケに頼んで、あたしは朝ご飯だ。シロルはできたお肉をひと抱え持って付いて来る。道を作る待ち時間にいろいろ試すのだろう。


「アリスさま。手を洗ってくださいませ」

「あははー。どうだったー、いじめの罰ー」

「新鮮なお肉がいっぱい獲れたよ」

「それは良かったねー」



 あと800メルで湿地を抜けられそうだ。村はその先1ケラルくらいだ。その晩は気持ち悪いのを我慢してなんとか寝た。


   ・   ・   ・


 村へ入ったのは午前中だった。みんな畑へ出ているのか、村が閑散としているなか小さな子供が道端で遊んでいた。


「こんにちは。お父さんたちはどこにいるかな?」

「畑だよ。ばーちゃんならうちに居るよ?」

「おや、どちらさまかね?」

「あ、ばーちゃん。お父さんに用事があるみたい」


「あ、いえ。どなたでもいいんです。この村のことを聞きたかっただけで」

「ほほう。旅の方ですか。珍しい。どちらから?」

「東です。山脈の向こうから。そこの湿地を渡って来ました」


「ホッホッホ。()くならもっとマシな嘘を吐くもんじゃで」

「嘘ではありません。道を作って渡ったんです。見ますか?」

「わしは足が悪いでの。湿地までなど歩けぬわ。運んでくれるとでも言うのかの?」

「いいですよ」


 シロルが会話を聞いているのでトラクを回してくれるだろう。程なく狭い通りを慎重にトラクが入ってくる。この村はトカタというらしいけど、東側は出入りを考えた作りになってないからね。

 唖然とする老婆と孫?の子を(なだ)めてトラクに乗せた。慎重にバックして村を出ると向きを変えトラクが走り出した。


「おおう。湿地の上に道があるぞえ。なんと立派な道じゃ」

「このまま山脈の向こうまでは行けないね。時間がかかりすぎちゃう」


 全部綺麗な道になっていれば往復しても2ハワー掛からないけど、走れればいーやで来てるからね。最初の待避所で向きを変えて戻ることにした。


「あの道をあんたらが作りなさったか。この馬車もどうなっておるのか。こんなにも広い乗り物は初めて見たぞえ。これなら中で一家が住めるじゃろ」

 村が近づいて来た。


「あー、西へ回ってもらいたいのだが通る場所がないの。困ったのう。さっき通ったのは道ではないでの」


「おばあちゃん、足見せてくれる?」

 あたしはシロルにトラクを止めてもらって椅子に座ったおばあさんの両足を爪先から揉み解すように触った。


「他に痛いとこはあるの?」

「腰と左の肩がの」

「うん、見せてね」


 そちらも一通り(さす)ってみる。


「こんなんで良くなった人もいるから期待しないで20日くらい待ってて。ここから歩こうか」

「仕方ないの」


 そう言って立ち上がり、あれっと言う顔をする老婆。


「なんだかずいぶん楽になっておる?」

「そーお?効いたんなら良かったね」


 外へ出るとクロがしゃがんで待っていた。あたしが呼んだからね。


「この背中に乗っていこう」

「こんな大男がおったのか?」

「まあいいじゃない。乗って乗って。チビちゃんも乗るでしょ?」

「チビじゃないもん。リリーだもん。でも乗るー」


 おばあちゃんがリリーを抱えクロの後ろへ回した腕に支えられ背中に落ち着いた。クロが立ち上がる。いきなりの3メルの視界に老婆は言葉を失った。対してリリーは大喜びだ。クロが村の中を歩いて行く。平家(ひらや)が多い村を3メルの視点で見ると、小人の村へ迷い込んだようだろう。


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