6 ロック・・・アリス
これまで:西の内海一周野道を作るべく走り出したミット達は思わぬサイズの魚を勢いで仕留めてしまい、その処理のためパルザノンのホンソワール屋敷に持ち込んだ。縫いぐるみ漬けの一夜の後、内海沿岸に戻ったのだが。
ジーナさんからトリスタンの情報が入った。なるほどー、上から見れば分かる話なのか。てゆーかチズがポンポン見られるようになったからマノボードでも用は足りる。むしろ温度や反射波長でチズの見かけが切り替えられるだけ、広域ではマノボードの方が便利かな?
トリスタンを地上から目指すとして、山越えの場所はサイナス村の農地候補辺りが将来を考えると良さそうだ。ただどこで山越えするにしても飛び越えるのでもなければ、高くて厚い山塊を抜けていかなくてはならない。
トンネルを掘ると90ケラル、このトラク1台では8ヵ月かかる。道路班を3班入れて3交代で掘っても2月半。峠道だとルートにもよるけど200ケラル。掛かる時間も100メル当たり30メニから1ハワー。概算山越えだけで3ヵ月だ。
ここは道路班を呼ぶのがいいかな?
ただ、トリスタンが大きな街と聞いたから行ってみたい。それに旅は地上を行くのが時間がかかっても楽しいし、交易路が繋がるとなれば尚更嬉しい。
「そうだ、ミット。ジーナさんとミットの二人がかりなら、山の向こうへ重いトラクを運べたりしないかな?」
「なーに、アリスー。大人しいと思ったらなんの話よー?」
「トリスタンに行きたいの!」
「ふーん?山ってのはー?」
「サイナスの農耕地から山越えだよ」
「あそこからー?うん、良いかもねー。
で、なーに?山越え端折ってトリスタンまで行こうってのー?」
「そう!面倒なとこはパス!」
「まあそーだよね。山越えとなると道を作るのに2月3月かかるもんねー」
「だからさ。ジーナさんと相談してみてよ」
「いーよ。明日先に跳んでくよ」
「うん。頼んだ。トラクは任せといて!」
「アリスが居なくったって、シロルがちゃんと運んでくれるよー」
よーし。これでトリスタン行きは確定したも同然。途切れ途切れの4メル道路じゃここからサイナスまで2日かかるから、のんびり行くとしよう。
・ ・ ・
朝ご飯の後ミットがサイナスへ向けてフッと消えた。トラクが走るなか、あたしはシロルとエーセイのメモリの解析をしながらのんびりしてる。一部だけど中の記録を読み取れるものがあったんだ。大したことは分かってないけど読めたと言うことが一歩前進だ。
シロルの話ではフクゴウしないといけないらしいけど、何のことかあたしにはサッパリだよ。
簡単に読み書きできるメモリには古い地形図だの個人のツーシンブンだのしか入ってなくて、要らないデータを消せたのはエーセイに積んでしまった。残ったのが丸ごとアンゴウになっているこいつらって話なんだ。
お昼を過ぎて砂浜を走っていた時だった。急にトラクがスピードを落とす。
「アリスさま。前方に何か現れました。距離160メル、150セッシド、極めて高温の塊が道から3メルの場所にあります。大きさは5メルほど、このまま通るのは危険と思われます」
シロルの報告にあたしはモウマク投影でトラクのカメラを確認する。
おー、でっかいね。触ると火傷じゃ済まない熱さだね。岩かな、上から転がって来た?
岩が剥き出しになっている斜面をなぞってカメラを振ると、上に焼け焦げた木が何本も連なって見えた。見ている画面にもう一個火の玉が現れ、緑の木立を燃やし、なぎ倒しながら転がってみる間に砂浜にドスンッと落ちた。
うっわー。なんだろ?
もう一度斜面の上を向いたカメラに切り替えるが、さっき焼け焦げた樹木以外に熱源がない。
「アリスさま。高温の岩と見えたものが動き出しました」
「えっ、なんで?」
見ると太い1メルくらいの脚が4本、10メルはありそうな細い腕が1本、鞭のように振り回して、こちらへ歩き出した。後から落ちた二つ目にも脚ができ始めている。
「デンキは10メルくらいじゃないと効かないね。レーザはどうだろ?」
「岩だとしても切った端から熱で融合しそうですね」
そんなこともあるのか。シロルが言うならそうなんだろ。
「じゃあ先に水をかけて冷やしてみる?」
「30メル先に泉がありますが量が少ないです。川は250メル戻れば放水が可能です」
「しょうがないね。後退しよう」
あんな熱っついヤツの相手をクロミケにさせるのも可哀想だし。
鞭を振り回す岩はトラクの後をズンズンと歩いて追って来る。
小さな橋の上、地面から6メルほどの高さにトラクは止まった。クロミケが急造の水汲みパイプを川へ立てた。太い放水ホースをトラクの前へ引いて行く。
準備はできたけど、あいつら脚が遅い。
5メニほど待ってようやく射程内に2体が入った。シロルがポンプを回しクロミケがノズルを操作すると、ものすごい勢いで水が先端から噴き出した。予定射程の30メルどころか50メル近くまで水が飛んでいく。
頭から降り注ぐ水を岩の化け物が浴びて前が真っ白になった。風は海風だけど、金臭い湯気がこちらにも広がって来る。クロミケは水流の狙いを下げ熱い岩に直接ぶち当てているようだ。
どの帯域にも全く画像は映らない。クロの視界に切り替えると相手のおおよその位置が見えていた。2体に交互に水を浴びせ、急激に冷やしている。
まず細い腕が2本とも折れて落ちた。
次に脚が冷え動きが悪くなった。岩の表面が冷えると収縮して、内圧に耐えられず丸い胴に3つ4つとヒビが入り、ドゴンという音と共に割れてしまった。
岩はもう動かなかったが、道を塞ぐ岩塊を退かす必要があるので放水は続いている。
もう白煙は上がっていないけど、サーモで見ると60セッシド以上もある。もう少し冷やしたいね。
10メニほどの放水の後、岩を調べに行くと割れた断面に銀色の網目模様が浮いていた。マノさんはタングステンだと言っていた。
分解マシンをかけてみるとあっさり分離できたがこの金物は簡単に溶けなかった。複雑な網目の形に残った銀色をクロが丸めて小さくして回収した。あの細い腕にも3、4本の針金状の銀色が入っていた。なかなか面白いねー。
警戒しながら先程の場所まで進むとまた燃える岩が2つ降って来た。全く同じように川まで後退し、同じ手順で掃討したけど、これでは先へ進めない。
次は山裾に沿って大きめの水路を掘りながら進んで行く。岩が140メル先に転がり落ちたけどクロミケに準備だけさせて、もう50メルトラクを進めた。さらに2つ岩が落ちて来たところで放水開始。
真っ白い湯気の壁の中で蠢く4体の燃える岩に、クロミケが容赦なく2本のホースで水を浴びせる。
もう2体追加が落ちてきたのがクロの視界で分かった。2体がクロまで20メルまで迫り、3つに割れた。次が転がり落ちて、さらに白い雲が厚くなる。次のやつは前の破れた岩を乗り越えられずにもがくうちに、鈍い音がして4つに割れた。
また2体砂浜に落ちるドスンと言う音が聞こえる。
キリが無いね。いや、前は真っ白だけど。
さらに2体が割れ、2体が追加された。
『アリスー。どこまで来たー?』
「やあ、ミットー。今面白いやつが出てねー。
ドンパチの真っ最中だよ」
『えーっ!なになにー?すぐ行くよー』
上から見たらこの白煙ですぐ分かるね。
ほら来た。
「おお、これは面白そうじゃの?岩なのかえ?」
「うっわー、真っ白だから何かと思ったよー」
「奇遇だね、ミット。あたしも未だに何かと思ってるよ。
ジーナさん、これなんだか分かる?」
クロが押し潰した銀の鉱物をジーナに見せる。
「おお。これは遮蔽材じゃな。悪さをする力を閉じ込めるものじゃ。この網目を見るとロックかの。先代に見せてもらったことがある」
「うーん、それじゃサッパリ分かんないよ。あのロック?燃える岩に網のように入ってたんだ。あいつら次々に転がって出て来るんだよ。キリがなくってね」
「ほう。では加勢するかの。ミットさん、水汲みと参ろうか」
「ジーナ、どうするのー?」
「いいから水汲みに行くぞえ」
ジーナさんは海の方を向いて消えた。ミットが後を追う。
どうするのかと見ていると海辺で巨大な水塊が立ち上がった。ジーナさんの背丈の3倍はある半球体が砂浜から盛り上がっている。ミットも2メルほどの水球を浮かべた。ジーナさんが歩き出すと水の塊が後を付いてこちらへ向かう。
ミットが燃える岩の上に現れ、もうもうとした湯気の中で50セロの水球を岩へ投げつける。
塩水が効いたのか、ミットの水球が当たると岩の動きが止まった。
けれど上からはさらに追加の岩が転げ落ちて来る。その上、木にも火がついて森へ炎が広がって行く。ミットが落ちて来た2体に海水をぶつけ、上を見上げて次の瞬間姿が消えた。
燃える岩の出て来るあたりを覗き込むように現れ空中で静止すると、手元の海水を斜面の炎に次々と投げつける。5つ投げるとまだ燻っているが炎は収まったけれど、水も品切れだ。
一瞬体がぶれたかと思うとまた2メルの水球が現れた。一瞬で海水を持って元の場所に戻ったようだ。ミットの体力が大丈夫か心配になって来たよ。
クロミケは下へ降りた岩へ放水を続け、冷やして岩を割っている。あたしもシロルも手の出しようがなくて、見ているだけなのが歯痒い。
あの斜面に穴でもあるのかミットが立て続けに水球を投げ込んだ。次の瞬間ものすごい爆音が轟いた。海に向かって岩のかけらが撒き散らされる。ジーナさんが正面にいたと思い、そちらをみると海水の塊の中へ逃げ込んで外を見ている。
「水蒸気爆発のようですね」
シロルがボソッと言った。
ジーナさんは飛んでくる岩塊に迷惑そうな顔をしているが、慌てた様子はないのでほっとした。ミットは10メル上空へ避難していた。こう言う時のミットはいつもながら素早いね。
いまの爆発で燃える岩の出現が止まったようだ。
「この水を浴びせてやろうかの!」
ジーナさんの叫びに応え、ミットがそばへ転移して巨大な水塊を二人で持ち上げた。斜面の上まで登った水塊がクサビの形を取り、見えない溝を伝うように斜面へ流れ込んだ。
再び起こる大爆発にクロミケもホースを放り出して逃げて来たと思ったら、あたしの前に並んで立った。
穴は下からでも見えるほど大きく吹き飛び、海に岩塊がドボン、バシャン、バラバラと降り注ぐ。
なんか予想外に大ごとになってない?
岩はしばらく降っていたがそれも収まり、ミットが中を覗き込む。
「なんかでっかいのがいたねー。動いてないから大丈夫かな?」
ミットがそう言って穴へ跳び込んで行った。
いくらもしないうちに砂浜へ太さ5メル、長さ12メルほどの銀の網がドスンと現れた。
「重かったよー。ちっちゃいのがまだあったけど、ちょっとセーシキドーに行って来るよー」
「ああ、わしも一緒に行くぞえ。連れて行け」
「ひっと使いの荒い婆さんだねー。ほれ、掴まんなー」
どっちも顔色が悪かったし、あれはしばらく帰って来ないね。
「シロル。これどうしよか?」
「なんとか固めませんと大き過ぎます。ジーナさまは遮蔽材と言っていましたが、マノ[さん]のデータではタングステンとあります。これを溶かすには大変な高温が必要らしいです。マシンで時間をかけて纏めるしかないですね」
「むう。ミットー、さっきの遮蔽材って言ってたけど加工できるかジーナさんに聞いてみて」
『硬いけど簡単だって言ってるよー。力の通り道を曲げたりするのに使うらしーから』
「ふーん。集めておくから戻って来たらお願いするよ。ゆっくりしといで、切るよ」
クロミケがまだ小さいのがあると言う斜面の穴へ入って行った。クロの視界を覗いて見ると5メル以上もある大きな穴なのに奥は真っ暗だった。灯りをつけて進んで行く。
ほとんどまっすぐに90メル行った奥は熱気が渦巻いていて、4メル半の銀色の網がゴロゴロと10個ほど転がっているばかりだった。
一つずつ転がして網の玉を押し上げて来た。穴の出口までくるとあたしの合図で玉を斜面から落としてくれた。玉は12個あった。
その間にあたしは割れた岩を溶かしタングステンの回収をしていた。幸い道は岩の欠片が乗っているだけで、傷んでいなかったので掃除だけして通行できるようになった。
全部で7トンほどもタングステンが採れたけど、こんなに使い道が思いつかない。最初にクロが丸めてくれた150キルほどの塊だけ貰ってあとはジーナさんに預けよう。
夕方までそこでのんびりしているとミットが戻って来た。
「いやー、セーシキドーは良いねー。すっかり楽になったよー。ぬいぐるみの道具持って行ってみようかなー」
「別にいいけど、布やら糸やらがじっとしててくれないと思うよ?」
「あー、重さがないもんねー。テーブルに置いても風で飛んでっちゃうかー。おやつもトイレもお風呂もないしねー」
「それよりミット。このタングステンをどうにかしないと。せめて固めて荷車に乗せられないかな?」
「えっとね、ジーナが言うにはー……」
タングステンの網が縮み始めて、1体分が30セロくらいの玉になった。
「あー、これで良いのかな?」
クロが同じくらい大きな片手で、掬い上げるように持とうとしたが持てなかった。270キルもあったのだ。用意した荷車に両手で抱えて慎重に積んでいた。
「ねえミット。あんな穴がその辺にまだあるのかな?」
「どーだろ?どうやったら見分けられるのかなー?」
「熱だったら夜なら分かるかもしれません。夜間の衛星画像を調べてみますね」
シロルが遠い目をして動かなくなった。
「他には何があるかな。ホーシャセン?」
「あー。力のもとになるやつー?あの穴の中は結構あったねー。ここじゃ感じないけどちょっとあたいがみて来るよー」
ミットが斜面の確認のため転移して行った。
「アリスさま。この辺りでは海に面して熱源が2箇所ございます。他にも8箇所ほどありますがそちらは道路から離れています」
「うえっ。あんなのがまだふたつもあるの?」
「この先700メルと更にその1ケラルほどのところですね。ミットさまにもお伝えしました」
30メニほど経ってミットが戻って来た。
「シロルの言った通りみたいー。山の方も見て来たけど、どれもホーシャセンが出てたよー」
「あとは何がきっかけであの燃える岩が出て来るのかだよね。今まで急に山火事になったことなんてあるのかな?」
「どうでしょうか?燃え跡があっても2年も経てば区別なんてつきませんから、本当に最近のものしかわかりませんね。日中の衛星画像を確認してみます」
「ミットー、この辺の昔の山火事って言ったら、ジーナさん知らないかな?」
古くからこの辺にいるのはサイナスの魔法使いたちだけだし。
「聞いてみるよー」
あたしもシロルが見ている絵をモーマク投影でのぞいて見る。この辺のチケイズのようだが、色がパタパタと変わる。
「いまご覧になっているのは地形図ですが、波長ごとにフィルタをかけています。色は分かりやすくするため補色を選んで表示しているだけなので、そんなおかしな色が実際に見えるわけではありません。
これは炭素分子の反射分布です。先程の熱源を含む広範囲に炭素が多いですね。
火事になっても消す人がいないから、広範囲に燃えてしまうようですね」
その後もパタパタと色が変わり続け、特に意味がありそうな絵は出て来なかった。
「真っ黒い煙に驚いてジーナが2回消しに来たらしー。言い伝えではこの辺には山火事が多いから、巻き込まれないうちに消せってのがあるってー」
「そう。ありがと。120年で2回って少ないね。海沿い以外は放っといても良いか」
「じゃあ明日はこの先の2つだねー。これは楽しみができたよー。ジーナにも言っとくよー」
「そう言えばミット。ジーナさんと話せるの?」
「なんかねー、頭の中で切り替えがあってね、遠くてもパッと繋がるよー。忙しいとか寝てるかも分かるから、声かけていいかも分かるんだー」
「へー?便利……なのかな?」
「道具はいらないけど相手はジーナだけだからねー。微妙ー?」
これで明日の予定は決まったかな。
・ ・ ・
当たりをつけた場所から30メル手前までトラクは進出した。海水をここまで引き込もうと海から大きめの溝を掘ってみた。2メル幅、深さ2メルの箱をずーっと作って海水を引き込んで来る。300メル近い長さの水路、これは半日かかるねー。
退屈したミットとジーナが一つ先の巣へ行ってしまった。
しばらくして、遠くでドスンと言う微かな音が聞こえた。もう始めたのかな?
パッと白煙が上がり……ドォォーーン……
うわっ、もう早一発かましたよ。海面に岩が落ちて白い水柱が1面に立った。
それがやっと収まった頃、またしても白煙が盛大に上がる……ドゴオォォーーン。
あー。手順が昨日と一緒なのか。水を注ぐ口を大きくするのに2メルの水球を放り込んで、止めに巨大な水塊。
内海の水面を大量の岩が叩く。さっきの倍も遠くまで飛んでいる。
となると順番から言ってジーナさんは一旦セーシキドーまで行って来るのかな?
「多分いっちょあがりー」
ミットが目の前にポンと現れた。
「早過ぎない?」
「ジーナと二人掛りだからねー。あたい一人じゃこうは行かないよー」
そのあとミットは銀の網を穴から引き出しに行った。1トンくらいに分けて6回砂浜へ転移させたと言って、セーシキドーへ跳んで行った。
「ミットー。そろそろお昼だよ。調子はどーお?」
『あー。寝てたー。そっち行くよー』
呑気なやつー。
丁度、水路もできたしお昼の後、巣を叩こう。
海水を放水するためのポンプは用意した。
トラクを10メル前進させるが、出て来ないねー。場所は分かってるので放水で催促してみる。燃える岩が2体斜面を焦しながら転がり出た。クロミケが頭からたっぷりの海水を浴びせて足止めする。上ではミットが2メルの水球を穴へ放り込んだ。
ドコオォォーーン
岩の欠片はモウモウとした白煙と共に、砂浜と海に向けて飛び散った。ロックも1体、半割りになって砂浜に落ちたようだ。
さあこれで注入口は出来上がった。ミットが水路の海水をどんどん汲み上げる。ジーナが海から引いて来た量を目の前で作られると恐怖すら感じる水の壁が持ち上がった。斜面の上まで持ち上がると一気に穴へ流し込まれた。クロミケはもうあたしの前で壁になっている。
ズッガアァァーーン
盛大に岩が飛び雲が立ち上る。
「ふいー、近いと楽だねー。なんとかなったよー。回収行って来るねー。クロミケも行くー?」
「気を付けて行ってよ」
白煙が収まるのを待ってミットがクロミケを連れ、穴へ跳び込んでいった。ミットが大きな網を5個転移させる間にクロミケも3個ずつ転がして外へ銀の網を落としていた。
あたしはその間に牽引する荷車を2台追加した。量は少ないけどあの玉は一個一個が重過ぎる。この穴も6トン近い量が採れた。積込みはミットの休憩を挟んで夕方までかかった。
サイナス村に戻ると17トンにもなったタングステンの荷下ろしだ。ジーナさんに聞いて村長屋敷の裏に頑丈な物置を作った。クロミケが出入りするので異様にデカイけど、中にしまうのは60個近い30セロの玉だ。3段の頑丈な棚の浅い溝に一個ずつクロミケが並べてくれた。
「荷下ろしは終わったかえ?遮蔽材が手に入ったでのう。ちょっと考えてみたんじゃ。この間のヤルクツールじゃったか、あの転移が作れれば山越えどころか、トリスタンまでひとっ跳びじゃでな。一つ持って転移の広場へ行ってみようぞ」
「じゃあ準備するよ」