霊魔盗争 ー前ー
村に緊急事態を報せる警鐘が鳴らされてすぐに、俺たちはミーチェの提案により全速力で蘇生碑石のある『架け橋』がある村の中央に来ていた。
村の中にいるにしても、戦いにいくにしても先に登録しといた方が安全だという判断でのことだ。
村の中央にいる、他の木より樹高がちょっと高く幹が結構太いだけの樹木の前に俺とイセット、ミーチェそしてイブンが立っている。
「近くて見ても全然分からない。本当にこれが『架け橋』なのか?」
(ゴロゴロ?)
「ええ、残念なことに。まぁ、中を見れば嫌でも分かりますから、とにかく入りましょう」
ミーチェさんが幹にある、目を凝らして見ないと絶対に分からない程の出っ張りを押し込むと、そこを起点として光の線が幹全体に走る。
やがて光の線が渦状を描き、白煙を排出しながら開く。
「うひゃ~、インパクトあるねー!」
「……ここだけ文明レベル違い過ぎないか?」
「気持ちは分かりますよ。僕もですが、最初は来て人は大体そういう反応ですから」
自然豊かな森にはミスマッチな門を潜り抜け、ふかふかな土から固く冷たい鉄の床に踏み入れる。
中の全体構造は寸胴の内側ような形で、内壁は未知の金属で出来た滑らかでメタリックな曲線を書いている。
でもそんな機械的な印象とは裏腹に配線とかはなく、その代わり淡い光を放つ魔紋の集合体……魔術陣があっちこっち散らばまれており、ファンタジーとSF感が絶妙に混ざり合っている。
特に床部分の円陣にいるやつとか複雑過ぎて見てるだけで目が回るそうだ。
「いやー、これぞ魔導科学って感じの場所だね」
「なんだそれ……。あれ、ここ外で見てたよりずっと広い気が……」
「メジャトの話では高等の空間拡張の『魔術』が使われているとか……理屈は僕にはさっぱりですが」
「まぁ、そこはゲームだからでいいじゃん」
「いえ、ここのGMはそういうのは厳禁だそうで……だからインベントリとか便利機能はないですし、重要オブジェクトのここが破壊不可なんてこともありません」
「……とことん不親切だな、WCOの運営陣」
俺も何回虚しき抗議の声を上げたことか……。
「代わりに、と言ってはなんですが。理論上はプレイヤーも作れるらしいですけどね……時間も労力も掛かりますが」
それって絶対ほぼ不可能なレベルの、が付くやつだよな。言っているミーチェからもありありとそれが見て取れる……やはり不親切、一切の容赦がない。
運営への不満を吐露しながら、『架け橋』内部を見回していると一番壁奥の真ん中にひと際存在感を放つ、階段続きの祭壇のようなものが見えた。
無論の底から天辺に至るまで魔紋でびっしり埋め尽くされて、魔紋の線に沿って今も光が脈動しているが、そこだけはそれが一層力強く鮮烈だ。
「あれは……」
「……~!」
「ああ、あれが外星中継転送メイン端末……通称『架け橋』です」
「あはは、いつも思うけど無茶苦茶派手な見た目の割にはなんの捻りもない名前だね!」
「ふふ、そうですね……それに肝心な星渡りが『封鎖』されてますから。今は他の皆さんもただの観光ガイドブック兼ネット掲示板の接続ツール扱いです」
(ゴロゴロ、ゴロー!)
このゲームの最重要オブジェクトが思ったよりかなり辛辣に評価されていた。
まぁ、イセットだけは魔術陣に興味津々なのか隅々まで見て回って……というか転がってるし大はしゃぎなんだけど、今日の目的は別にある。
「これに手を乗せてスキルを使う時みたいに念を送ってみてください、まぁ思考入力と一緒です。それで登録出来るはずですから」
「ああ……イセットも戻ってこーい」
(ゴロゴロ!)
「あ、因みに私は先に済ましたよ。イセットちゃんはアベルくんが起きるまで傍を離れなくて出来なかったけど」
ああ、やっとやっとか。
このために森を飛び回るなり魔物倒すなり死にかける思いしたりで、どれだけ苦心したことか……だった数日前のことだがそう思うと感慨深い。
でもこれでそれも終わりだ、ここで登録してこれからはゆっくりと『魔力体』をどうにかする方法を探せる。問題が解決した訳じゃないが今はそれだけで満足しよう。
そんなことを考えながら何処か天職祭壇のモノリスを彷彿させる蘇生碑石に指し合わせるでもなく、イセットと一緒にそっと手を乗せ念を送る――
「これでやっと……ッ!」
「……~!」
―― 瞬間、光の波紋が『架け橋』に広がった。
《蘇生碑石が思念感受反応を感知しました》
《登録申請者のデータを読み取ります、暫くお待ち下さい》
《…………読み取りが完了しました》
《個体名『イセット』の登録が完了しました》
《個体名『アベル』のアバター構成データに激しい損傷が見受けられました》
《読み取りデータを元に蘇生時のアバターを修正いたします》
《…………修正しました》
《個体名『アベル』の登録が完了しました》
「……今、なんか変なインフォメーション混ぜってなかった?」
「こんなのは僕も初めて聞きます」
「腕ないからじゃない?」
「手足もげた状態でセーブした人は他にもいましたが、こんなインフォなかったのはずです……」
どうやら登録のインフォは『架け橋』全体に響くらしく二人も俺たちのインフォを聞いみたいだが、やっぱり俺のインフォは異常なもののようだ。
アバターに激しい損傷、心当たりがまったく無い訳でもないが……まさかな。
あの黒いシミみたいなのも全部消えていたし、それに関しては対処済みだと言ってたはず。
そう思いながらもマントのように身に纏っている黒い毛皮に視線が惹かれてしまう。
「いやいや、あいつは死んだはずだしな。うん、きっと気のせいだ、気のせい……」
「……~?」
「なに、難しい顔して。なんか悩み事?」
「いや、何でも。用事も済んだし早く行くか」
―― そんな漠然とした不安を胸に俺たちは『架け橋』を後にした。
♢ ♦ ♢
「「「「――――――……オォ」」」」
「「「――――……ォ」」」「「――……ァ」」
「怯むなー! 魔法でじゃんじゃん蹴散らせーッ!!」
「「「おおおおおオォ――ッ!」」」
村と森の境界線……そこでは生と死の者の壮絶な闘争が繰り広げられていた。
複数の魔法と呪詛が飛び交い混ざり、時に相乗し、時に反発ししあって派手に破壊を伝播させて薄透けの霊を人を退散させる。
地に魔と死が散華する、熾烈な火花が上げられていた。
「壮観だな……」
(ゴロゴロ~)
「範囲増しの魔法オンリーで殲滅してますから、どうしても派手になりますよ。と言っても敵の数が多すぎて膠着状態ですけどね」
『架け橋』で登録したその後、結局俺たちは戦場に足を運んでいた。
最初俺は休んでいろとイブンに止められてたが、ミーチェの説得によりイブンをなんとか宥めて来ることが出来た。
「お姉さん、やっぱ特攻とか良くないと思うな……」
「とは言っても、村に部位欠損を治せる人はいないんです。アベルの腕を治すにはこれが一番手っ取り早く無駄がないんですよ」
「分かってるけどさー……」
(ゴロゴロ~!)
後方支援という名の諸々の雑用か群れ親玉に向かっての特攻、これがこの戦場で俺に任せれた役割。
というよりはMP回復不可の状態異常……ミーチェ曰く『魔路損傷』のせいでMP使用を前提する俺の戦術だと、まとも戦えないから特攻か後方支援(雑用)しか仕事がない。
因みに『魔路損傷』も部位欠損並みに酷い負傷らしく村で治せる人員はなしと、まともに戦える道は八方塞がり。
で、復活時の怪我の治療こともありミーチェがすすめるまま俺は特攻を選んだ訳だが……それでさっきからイブンとミーチェがこんな押し問答を繰り返している。
無論、イセットもゴロゴロと混ざって抗議している。
イセットは分かるが、なんでイブンが不満げなんだ……心配してくれるのは何とかなく分かるがあって間もない俺に何故ここまで気にかけるのか……それが分からない。
そこまで考えたところで後ろからメジャトが声を上げながらシルフィと一緒に走り寄ってくるのを見て、先の思考は中断となった。
「あー、ここにいましたか。ミーチェ」
「……メジャトどうしたのですか。ここは危ないですよ? それにゴーストとは相性悪いシルフィまで巻き込んで」
「勿論それは分かってますが……ありえないことに、いきなり魔霧塊が大量発生したというではありませんか」
「ええ、見ての通り……ってありえない? どういうことですか」
「はい、ありえません。そもそもゴーストというのはですね……」
またまた長いのでメジャトの説明をかなーり割愛して語ると……。
生物が死滅する際にそこには暫く死んだものの意識の残滓、言うなれば”魂”が滞在しそこに高濃度の魔素が密集すると魂を軸に曖昧な形で魔素が集結して霧状の非実体……魔霧塊となる。
だが、この森の魔素濃度からして急激ここまでゴーストが湧き出るのはありえないそうだ。
「でも実際には湧いてるだろ?」
「ええ、こうなると可能性はふたつ在ります。1つは誰かが召喚系の『魔術』などで召喚した、もう1つは何処か大量の生物が大規模魔法で死んでその残留魔素で湧いたですね」
「前者はともかく後者はそんなの見たこと……いや、前に何かゴーストが来た方角から爆発音しましまたね。それで死に戻って……うぅ、嫌な事思い出しました」
「どこどこ、地図とかないの?」
「います、多分ここですね」
「ここね……あ、これもしかしたら湧いた瞬間、私ここにいたかも」
「「「え?」」」(ゴロゴロ?)
ミーチェが小さなポーチから取り出した地図を覗き見たイブンから、さらり爆発発言がなされた。
直ぐにどういうことかと聞きただすと、以下のような話だった。
イブンは他のプレイヤー宜しくリスポーンしながら探索してた時に偶然にも天職祭壇の近くに復活して、これ幸いと直ぐに就職したらしい……夜の真っ只中に。
天職祭壇は知っての通り使用する際に派手に光る、そして夜にそんなことすれば当然魔物を呼び込む。
「そこでゴーストが出たと、それもわんさか」
「うん、そうなの。後は結局またあいつらに殺されたってわけ」
「巣だと思われる場所は正確に分かりますか? ゴーストが地縛型なら死んだ土地からあまり離れられはずです」
「それは……多分天職祭壇から見てモノリスのいた方角じゃないかな? 最初そこから飛んできたし」
「地図からすると……ここですね」
それにしても地図まであるんだ。測量を補助するスキルとかもあるのかな……って感心しながら呑気に眺めていたのだが、地図の指された場所を見てびくりと肩が竦む。
な、なんだろ、気のせいかな……この位置に覚えがあるような、ないような……。
「あ、やっぱりここ……」
「どうしたんですかミーチェ? 苦い顔をして」
「いえ、ここで前に謎の攻撃を受けて死に戻った場所で……今もなんかピカッとして凄く痛かった以外思い出せないですから、ちょっとトラウマになってるんですよね」
ピカッとして、一瞬で…………。
……間違いねー、それ鏡面蜥蜴のレーザーだ! そして指してるとこは半端犬ゴブリン元住処! それによく見たらゴーストもぼやけてはいるけど半端犬ゴブリンに似てる気がする!?
ただの偶然……そうだよな、まだなんかあったりしないよな?
俺が訳もわからない焦燥に駆られて変な汗を掻いていると、まるで畳み掛けるように話が進む。
「ふむ、妙ですね……。ここは前に調査した時にざっと『魔視』を通しましたが特に魔素濃度に他と差はなかった。やはり群れ単位まで生成されるのは無理あります……ならあの爆発音が」
魔素、魔素ってたしか……ああ、あれだ、メジャト講座で言ってたな(うろ覚えだけど)。
確か魔力の最小単位の状態で、魔素が集うと魔力になり現象を起こし消費するとまた魔素に変わり拡散するものだったな。
魔素、魔晶、現象、消費、出現場所……そしてゴーストからの連想されるイメージ。
まさか、まさか……。
「なぁ、メジャト。もしかしてゴーストってさ殺した相手を執拗に追ったり、する?」
「場合にもよりますが、しますね。中身は死んだ生物の精神が宿ってる訳ですから」
「………」
(ゴ、ゴロゴロ?)
それで何故ここに大量のゴーストが押し寄せたのか悟った俺は……
「ごめんなさい!!」
……その場で勢いよく土下座をした。
後編は明日更新します




