曇り空に響く
どんどんサブタイが雑になってる気がする……。
「ほう、これはまた興味深い題材を持って来ましたね」
「そういうのはいい。出来るのか?」
「せっかちですね。……まぁ、結論をいうと可能だとは思います」
「じゃあ!」
「……が、現状では不可能です」
「おい!」
「まあまあ、話は最後まで聞いてくだいさい。まずですね……」
何故現状じゃあ駄目なのか、理由を聞くとこういうことらしい。
まず変化魔紋とは変化系のスキルを使う魔物の魔力のパターンを分析してそれを魔紋におこして作るもの。
そのパターン自体もメジャトは逃げる前にちゃっかりと黒猪の『正深正冥』を観察し、それ元に割り出しているが、問題は試作を作る材料にある。
「肝心の闇属性の魔力がない、か……誰かから借りられないのか?」
「ふむ、それも当然考えましたがどうもそれを作り出せる『闇魔法』が不人気らしく習得したものがいないのです。お陰でそもそものふり出しである陣の作成にも取り掛かかれず、まったくの検証が出来ていません」
「俺は『実体化』さえ抜き取れればいいんだが」
「それこそ『魔術』と完成させて詳細な構造を見ない限り無理ですね」
「本当に……一人もないのか?」
「僕が知って限りプレイヤーが初期スキルでは絶対に取りませんね。定番の地雷スキルですから。運の悪いことにNPCの方たちも持ってませんし」
「あ、ミーチェさん戻ってたんですね。で、地雷スキルってまた何で?」
「ちょっと離れたとこにずっといましたよ? それがですね……」
まず使い方が限定的過ぎる。
ゲームよって様々な能力で表現される闇属性の『闇魔法』だが、WCOの『闇魔法』の能力はちょっと変わっている。
”魔力を流した場所の光エネルギーの排除”、それが『闇魔法』の能力だ。
無論こんなので攻撃など出来るはずも無く、よくて目眩ましや物陰で身を隠しやすくする効果しかない。
MPが多いと話も違ってくるが、補助スキルぎっちり詰めてもMPが少ないゲーム開始時にはただの残念スキルでしかない。
が、ここまでならまだ良かった、地味でも有用性はあるのだから。
それよりも致命的問題があったのだ、それは……。
「『光魔法』の習得ポイント増加……」
「序盤に強力な回復手段が取り辛いのはかなり痛手ですから」
「そこに関しては多いに賛成するしかないですね……」
俺も『光魔法』がなかったらイセットに会ってからも何度死んでいたことか、そう思うとぞっとしない。
今にして思うと、あの時偶然とはいえ『光魔法』を選んで本当に良かったって気がしてならないな……。
「せめて、闇属性の魔晶でもあればよかったのですが」
「魔晶?」
「アベルさんが魔石って呼んでるものの正式名称です」
「あ、やっぱり他にあったんだ正式名称。それなら俺も結構集めてたけど、闇属性っぽいのは一つも見なかったですね」
「でしょうね。かなりレアドロップですから。私も今まで拾えたのは数個で、それも既にメジャトの研究に使われてもういませんし」
手詰まり……のように聞こえるが、そこで一つだけ疑問点が浮び、即座メジャトに聞いてみる。
「てか、その魔力パターン?ってのは『魔術』を発動しないと『実体化』の『魔術』分離出来ないのか。材料あれば作れるってことは原理とかカラクリは分かってるんだろ? ならそれを書き起こすなりして比較すれば……」
「それはそうですが……実を言うと私には魔術師として致命的な欠陥がありまして、その……」
珍しく言い淀むメジャトを見かねたようにミーチェさんが言葉を継ぐ。
「メジャトは読み書きが出来ないんです」
「いやいや、まさかそんな…………え、マジで?」
「ははは……お恥ずかしながら。一応勉強はしてるんですけどね」
予想しなかった返答に思わず絶句する。
正直にかなり以外だ、間違いなく俺なんかより遥かに頭の出来がいいはずのメジャトが読み書きが出来ないという。だから文字で原理や式をおこすのは無理とのこと、端っからそのための知識ないから当たり前だ。
いや、でも普通に日本語喋るのに……これもあれかミーチェが言っていたシルフィの時と一緒でAIの機能問題ってやつか? 最初から文字の入出力機能、言語データが実装されてなかったとか、そういう……。
「口頭で伝えて周りの人が代行するにも、正直感覚的過ぎてメジャトが何を言ってるのかさっぱりな状況でして……後、メジャトの真似をするにも純粋に『魔術』スキルのレベルが不足と何より陣を書くセンス不足していまして」
「そっか……」
そうじゃ無いかとは思ったがメジャトはイセット同様に感覚派というか、天才肌のようだ。俺もいきなりイセットと同レベルの立体機動をしろ言われて無理なのと一緒な程にかなり無茶な話、ということは何となく分かった。
これは、今直ぐはどうにもならなそうだな。
もし『実体化』が出来たらイセットの『魔力体』もどうにかなるんじゃないかと思ったんだが……そう上手くいかないか。
まぁ、『架け橋』の近くにこれただけで良しとして置こう。
登録さえすれば、『魔力体』のデメリットでもし死んでも復活出来るんだ、そこまで焦る必要はない。
「……~♪」
「こーら、くすぐったいぞ~」
(ゴロゴロ!)
「ちょ、はははっ、転がるのは、もっと駄目だから~!」
当の本人は最初から気にもしてないみたいだしな……。
今もイブンさんの顔周りひらひら飛び回ったり、転がったりとイタズラしてるし。
というか、いつの間にイセットはイブンさんにあんな懐いたんだろ、俺が寝てる時になんかあったのかな? それに確かイブンは殺されかけたとか言ってた筈なのに……ほんと何であんな仲良いんだろうな。
「まぁ、気長に探すか。それか、俺かイセットが『闇魔法』を習得するかだな」
「不死族系の魔物でも、大量発生すればいいのですがねー」
「メジャト、縁起でもないこと言わないでください。いや、アンデットならいっそのアレから徴収するという手も……いや、いくら何でそれは」
「はふぅ……あ、危なかった。後一歩で、ダメなお顔になるとこだったよ……」
「……~♪」
メジャトが不謹慎なことを言い出しなんかミーチェが物騒な顔でブツブツとしだしたところで、二人の謎のくすぐり合いも終了したのかイブンさんから安堵の声が漏れ聞こえる。
こっちは真面目に話し合ってる側で何をやってるんだか……とか思いながらも楽しいそうな二人の様子にほっこりとした気持ちにもなる。
「で、もう難しい話終わった? それじゃ『架け橋』行くついでに村見て周ろうよ! 店とかも沢山あってご飯とか結構の美味しいんだからさ」
「そうですね……行きますかアベルさん。あ、勿論お疲れじゃ無ければですが」
「え、あー……」
「ふむ、それなら私は魔術研究に戻りましょう、丁度家の修理も終わったようですし」
そういいならがら立ち去ろうとするメジャトの声に振り向くと、本当にさっきまで半壊してた家が建て直されていた。
「はやっ! というかいつの間に……物音ひとつ聞こえなかったんだけど」
「『土魔法』の魔術陣で資材の形を整えて、ガラスをはめるだけですからね、ゆっくり目だと静かなものですよ。話して間にも足元でこそこそとやってましたね。……それで、どうします?」
もう話が終わったと見るやすぐに立ち去るメジャトを視線だけで見送りながら、考える。
どうするかな、確かにもうここに居ても大して得られるものもなさそうだし、村の様子も気になるちゃ気になる。
いやでも、一刻も早く体制を整えてマナクリスタルを探しに行った方が……と思って迷っていると悩み原因たるイセットがゴロゴロと目の前に来た。
(ゴロゴロ~)
「……イセットは行きたいのか、村」
(ゴロゴロ~!)
「そうだな……もう焦る必要はないもんな。そんなら行くか」
イセットに言われて漸く肩の力が抜けた気がする。
そうだ、さっき言われた通りここは結構安全だ、だから無理に急ぐ必要も焦る理由もない。
それに俺もそうだけど間違いなくついて来るであろう、イセットにも羽根を伸ばすいい機会だ。ここに来るまで本当に気を抜く暇もなかったんだから。
「じゃあ決まりだね、ではレッツラゴ~」
(ゴロゴロ!)
「あ、待って……わっ!?」
ずんずんと先へ行こうとするイブンさんとイセットを追っていったのがだが……。
……くぅっ、中心がぶれて上手く走れない……長くじっと座ってせいで片腕がないのを忘れてた。
(ゴロゴロ!)
「とと、ごめん勝手に先いっじゃって。歩きづらよね、はい手掴まって」
「あ、ありがとうございます。イブンさん、イセットも」
でもイセット、高速接近から糸で宙釣りやり過ぎだから普通に解いて、な?
そう目で訴えると了承したのか、糸の数を減らして腕のない右肩を釣る。
離す気はないのね……うん、何となく分かってたよ。
そんなこんなと右手を引かれ、左肩を吊られるという奇妙な格好で村の中へと繰り出す。
「あ、あれあれ。あのおばさんとこの飯凄く美味しいの!」
「クランさんの飲食店ですね。というかもう寄ってたんですか、まだ来て一日経ってないのに」
「どっかで……ああ、前に一緒にいた探索組の人が言ってた……。でも金とかないんですけど」
「アベルさんたちは僕の奢りでいいですよ。昨日はお世話になりましたので」
「あ、私はお金ちゃんとあるから心配しなくいいよ」
「お金って言ってもマナクリスタルでの物々交換みたいなものなんですけどね。ここではこれが貨幣代わりですから」
と、いいながら無色透明な水晶をザラッと揺すり、冗談めかすミーチェさんを見ながら思い出す。
あれに襲われたの……昨日のことのはずなんだよな、もう昔のことの思える。
まぁ、それだけ激戦だったってことなんだろうけど。
と、別のことを考えてる間に簡素な石造りの『クラン定食店』と看板が掛かっているに建物の中へ連れられる。
「いらっしゃいませ……おやミーチェちゃんに朝にぎょうさん食ってたお嬢さんじゃないかい、見ない顔もいるようだけどこんな時間からまた飯か?」
「おう……」
「ははは、驚いてる~。ま、私もだったけどさ」
失礼なのは分かっているが、クランさんをみて思わずそんな間抜けた声が漏れた。
俺の倍はありそうな3m超えの身長、赤黒い肌に厳つい顔……だと言うのに片手におたまを持って、服の上には可愛い猫イラストのエプロンという無駄に家庭感溢れる額にでっかい角がある大鬼。
デカい……そしてキャラ物エプロンの存在感と違和感すげー気になる、これ飯どころじゃないだろ。
「へー、じゃあんたあのおっかない猪を……やるじゃなの! はっはっはっ!」
「何で腕がないのかど思ったら、そんなことあったんだ……」
「いえ、結局最後は自爆でしたし……うまっ! やっぱめちゃうまいっ!!」
「……~!!」
「そうかいそうかい、たーんとお食べ。おかわりもあるからね」
……とか、思ったのも出された飯を口にするまで。
一口匙を入れた瞬間広がる旨味でそんなことはわりとどうでも良くなった。
よく考えたらまとまな味がする飯って何年ぶりだろう? 病院にあった機器は普遍の安物だったから味覚再現とかおざなりだったんだよなぁ……。
因みにイセットは小人とか用の小さな食器でカツカツ出された飯を凄い速さかっ喰らっている。
そして他の人たちはそれを見てる引き攣った顔で見ていた。
「イセットちゃんどこにそんな入るの……私の倍は食べてるじゃん」
「多分イセットの特性で一瞬で分解して魔力にとかになってるんだと思います」
「は、はぁ……」
皆よく分からないといった顔で困惑していたが、『従魔武装』の状態で実体験してもそうとしか表現出来ないからこれ以上聞かれてもどうしようもない。
ま、イセットの生態が謎なのは今更なので俺は特に気にしないけども。
それからも多分、分かりやすく顔を緩ませながら飯を食っていると、イブンさんがいつ言おうかと待ってた風に切り出す。
「……で、さっきから気になってたんだけどさ、敬語やめない? 私堅苦しいのあんまり好きじゃないし歳もそんな差ないっぽいしさ」
「それなら僕にも。最初の時のようにタメ口でいいので。あ、さん付けもなしで僕も取るますので」
「なら私もさん付けなしで!」
「う、うーん……いいけど。イブンとミーチェはこれで本当に大丈夫? 多分俺が一番年下だけど」
「そういうってことは、アベルくん年齢制限ギリなの?」
「うん、まぁ……そうかな」
「最初からアバターが若いとは思ってましたけど、それほどとは……」
因みに今の時代のVRアバター……特に完全没入型のは本人の体を元に作成するよう法律で決まられている。
昔これのせいで障害を起こした者があとを絶たなかった事が原因だそうだ。
人型アバターをもっと弄りたい勢には頗る不平だが、安全のためなので仕方ない処置である。
これもいっその事、人と姿形が離れて過ぎていると自然と区切りもつくものらしいが微妙に違ったりするのはアウトらしい。
だから人型アバターは見る人が見ると大まかな骨格と肉付きの仕方とかで年齢は大体分かるとか何とか。
VRネット常用者には結構有名な話で、よくアバターが若いだの老けてるだのの単語が生まれたのだという。
外部接続の制限されていた俺は他のアバターをあんまり見なかったら分からないけど、ミーチェさん……いやミーチェはそのVRネット常用者なのだろう。
「はは、だったら私は結構お姉さんだ。ま、でも私はそんなこと気にしないから、気楽にしてよアベルくん」
「僕は、どうせそれでも2、3ぐらいしか違わないのでお気になさらず。アベル」
「ん、そういうことなら……ッ!?」
「よし、それじゃ腹も膨れたし次は……ッ!」
(ゴロゴロッ!)
「これは……」
イブンさん……イブンが元気よく次の行き先を告げようとしたその時、索敵スキルが強力な反応を示す。
イセットは俺を通して、二人は各々のスキルでそれを感じ取ったのか、イブンは表情を硬くしミーチェはセンサーのように猫耳と尻尾ぴんっと立たせ瞬時に固まり……
カン、カン、カン、カンーッ!
「敵襲ーッ! 天職祭壇の方角で大規模なゴースト群れが接近中ー!!」
……薄暗い曇り空に届かんばかりの警鐘と叫び声が鳴り響いた。
はて、ゴーストはどっから湧いたんですかねぇ?