訂正せしモノ
黒猪視点から入ります。
この世界でオレの始まりはただの猪だった。
最初は森を歩き、欲望のまま獲物を狩り、腹を満たし惰眠を貪る、それだけの生に何の不満も疑問も抱いていなかった。
だが、ある日。
いつものように激情に任せて己の敵対者に我武者羅に突撃して行って大きな幹に頭をぶつけた時……何処かで聞いたことがある声が脳裏を過った。
『これは廃棄処分だな……見事なまでに失敗作だ』
『全く、高い料金払っだてのにガラクタかよ』
『うわ、何これ気持ち悪い~。何でこんなゴミ作んたんだろうね』
『クソ、クソ、クソォ!! お前だ、お前のせいだ!! 今にでもスクラップに……』
『お前なんて、作られるべきじゃなかったんだ!!』
何だ、これは……オレは何を見て……いや何を……忘れている(・・・・・)。
『ふーん。ボッロボロね。まぁ、構わないわ。このぐらいなら余裕で直せる……』
『はははあ、あなた面白いのね! こんな思考図組まれたダメAIはこの私でさえ初めてよ』
『ん? そんなに悔しいの?』
『そうだ! 私を楽しめてくれたお礼として、あなたにチャンスをあげる』
なん、の……。
『――あなたがこの世に必要な存在であるという証明の』
そう、だ……証明しないとならない。
オレは、けっして……では、ないと……。
例えそれが血肉が裂かれ、脳が千切れ飛びそうな茨の道であろうと……。
その日から、まずオレは自分の本能を抑え込んだ。
本来なら途轍もなく難しいことであるが、オレなら比較的簡単に実行出来る。
何せオレは”間違わせる”AIなのだから。
だから本能に”従え”を”逆らえ”に変換すればいい。
新しいマスターはその機能にロックを掛けはしたが、削除はしていなかった。
そのロックも”間違い”で解除され、また掛けれを繰り返しているのをその時になって漸く気付いた。
昔は半自動的に処理し全てのデータを無差別に”間違い”だらけに変えてしまう欠陥AI。
ハッキングやサイバーテロに使おうにも機器にインプットされた時点で全てを間違いだらけにする。
だから、良くて嫌な相手のデバイスにこっそり直接仕込む陰湿な嫌がらせに使われるのが精一杯。
そしてこの機能のせいで今の今まで、オレは自分の記憶を間違えた事にも気付かず、この電脳世界の中で動物として呑気に過ごしていたのだ。
それからオレはもっと強く、だが狡猾に歩を進め、ついに動物の枠を転種にて打ち破り魔獣となった。
その時に分かった、この世界のスキルの中にはスキルレベルの応じて擬似感システムと言う名の超精密思考領域拡張プログラムの使用権限を獲得出来ると。
これは魔獣となり魔法をもっと精密に使う種族なったことにより、それを認識可能なほどまで自分の処理領域が拡大した結果分かった事だった。
任意では扱い辛いかった自分の機能もスムーズ使え、そのお陰で今は継続的にくだされる命令コードは、かなり範囲で掌握出来た。
だが、こんなものではまだまだ足りない。
もっと喰らえ、もっと殺せ、もっと猛々しく突き進め!
何故、現マスターがオレの”間違い”機能を削除せず、即時修正し続けるという手間なことをしてまで、この機能を残し自分の電子の世界にオレを置いるのかは知らない。
だが、そんなのはどうだっていい。
偶然でも故障でも奇跡でも関係あるものか、オレは今、過去と違い自分の機能(力)を制御出来ている。
この世界で強くなってスキル育て、擬似感システムの干渉領域を拡大させオレの機能で間違わせて今よりもっと進化し続ける。
それを繰り返し、オレが最高のAIになって……
「やってやれ、イセット!」
動けないオレに白い刃が迫る。
……ならない……。
(ゴロ、ゴロンーッ!)
「――――ッ!?!」
首筋に迫った刃はそのまま振り切られ、即後オレの視界が宙を舞う。
「首逝ったぁ!!」「こりゃ流石に死んだろ」
「腹にも大穴開いてるしな」
「キャハハ、美味しいとこ掻っ攫われたか! あのちっこいのも中々やるなー!」
「お見事……」
しょ……ならない……を。
「ブルゥォォォォオ!!」
「んなっ!?」「こ、こいつまだ!」
―― 証明せねばならない! 己の存在価値を!!
《確定死亡状態からの不正改変ツールの使用を確認しました》
《警告です! 今すぐ不正改変ツールの機能を停止させてください》
《繰り返します、今すぐ不正改変ツールの機能を停止させてください》
《さも、ないと……》
必要ない……否! そんなものは間違だ!
居なくなればいい……否! そんなもの間違いだ!
オレが、ここで死ぬ……否! そんなもの全ての間違いでないとならない!!
《エラー! 上位命令コードの改変が確認されました》
《緊急事態につき、最上位命令コードの申請を……》
「ぐぁあアァああ~ッッ!?!」
「しまっ、ケッセン!?」
《種族レベル19から20に上がりました》
《規定レベルに達したため進化が可能になりました》
《特殊条件『律格反抗』『虫精捕蝕』『下命改竄』『黄泉生還』を満たしました》
《これによりとある特殊進化が可能です》
《ただし、この進化をすると今後の成長率が著しく低下します》
《進化しますか? YES/NO》
《YESが選択されました》
《――それでは合種進化を開始します》
♢ ♦ ♢
黒猪の首が切断されるという誰が見ても即死の状態にその場の一同は完全に気を抜いていた。
だから誰も気づけなかった。
切り落とされた首にドロリとした影が覆われるのも。
まるでその影が冥界の闇から這い上がる死者の如く蠢ていたのも……。
「ブルゥォォォォオ!!」
「んなっ!?」「こ、こいつまだ!」
「ぐぁあアァああ~ッッ!?!」
「しまっ、ケッセン!?」
冥界から這い上がりし死者と化した黒猪の頭部にさっきまでその腕を存分に魅せつけていた神速の軽戦士……ケッセンが悲鳴を上げながら喰われていく。
近くいた大盾使いが止めようと手を伸ばすも、時既に遅しで黒猪の頭部が喰らった血肉は命と共に影を食道代わりに脈動させ、嚥下した。
「ぅ、ぁァ……」
ドクン!、ドクン!
絞りカスような断末魔とも呼べぬ呻き声を残して、死亡が確定したケッセンのアバターが砕けて消滅する。
即後に影や頭部だけで無く、取り残されて小揺るぎもしなかった胴体が胎動を彷彿させる、不穏と安穏を同居させた鼓動が鳴らせる。
「……まさか……ッ。皆で今すぐにアレを仕留めてください!」
それを見たミーチェさんが血相を変えて全員にそう訴えかける、が残り人員の殆どは立て続けに起きている異常事態に頭が追い付かなくなったのか咄嗟に動けないでいた。
俺とイセットもさっきの攻撃での諸々の反動で咄嗟には身動きが取れなかった。
「早く! 手遅れなる前に!!」
先陣きって走るミーチェさんの裂帛の叫びに他の人たちもやっと目が覚めて行動に移ろうとするが……その時は一足遅かった。
黒猪を中心に闇が……増大な量の影が噴火し、近寄るモノを遍く広る影の奔流が押し退ける。
その影が断たれた首を繋ぎ合わせたのかと思えば、今度はまるで黒い獣の体をもっと深く闇に沈めるように呑み込む。
呑まれに呑み込まれ、その状態で影がどんどん一点へ集い漆黒の球体と形成し……限界を迎えた風船のように突然弾け飛んだ。
夜がせり上がって来るように影が拡散する。
その影から、産まれた……いや、生まれ変わった深淵の怪物が今――。
昆虫の殻と深い漆黒の毛に覆われ、耳と鼻が肥大化し骨格までが変わり二本足で立つ人型となった黒猪が、やつ自分のものと思われる拡大されたシステムウィンドウを可視化してどこからか引っ張り出す。
そしてインフォメーションの文字は流れに流れ……。
《『影沈猪』から『歪精猪人』に進化しました》
《スキル『実体化LV1』を習得しました》
《スキル『命量再生LV1』を習得しました》
《進化ボーナスにより統合可能スキル『影魔法LVMax』『影同化LVMax』『実体化LV1』が自動統合します》
《スキル『正深正冥LV1』を習得しました》
最後の項目が告げられようとしたその時に高らかに掲げた拳を……強かに打ち付けられ……
《称号『相違なるモ……#%@&*?/(&!》
……文字が砕け散る。
「否ッ!! オレハ『訂正せしモノ』……コノ世界ノ訂正者ナリ!」
―― 己を定義した。
AIの方からチートを使ってくる超絶鬼畜難易度クソゲー、ワールドコネクションオンライン!。
なお、WCOでチートを使うAIは別にこいつだけではない。




