邪精暗闘 ー後ー
いつもよりちょっとだけ長めです
「つぅッ……! 一体、どこにいるんだ」
ひょろ長ゴブリンが姿を消して投擲での狙撃に戦術を切り替えて既に体感10分ぐらい経過していた。
あれからも『光魔法』で周囲を照らしたり、魔法を乱射したり、この前のように射線を辿ろうしたり、様々な方法で炙り出そうとしたが成果は全くの無し。
それらしい影がちらっと見えたりもするがそれは大体、誘き寄せる為にわざと見せることで追うとそのまま短剣がズブリと来る。
……それにしても何かひょろ長の投擲を受けると後頭部がジクジクするんだよな、なんでだろ?
そんなこんなで致命傷は負ってないけど小さな傷が蓄積されてじわじわと血と体力を奪い去られていく。
それにひょろ長の短剣に当たる度にHPバーに緑色の水玉……多分だが何かの毒を盛られている。
前の群れと戦った時も盛られていたのを見るに、ここのゴブリンには標準装備なのだろう、『光魔法』だと直ぐに治るので効果に気付かなかった。
「しかも種類も富んでるんだよな」
筋弛緩、幻覚、嘔吐感、神経毒まであったのだから本当にどんだけ持ってるのかと。
……豊富な毒に優れた隠密に高精度索敵に、とこっちはさながら暗殺者と言ったところか。
予想出来るスキルとしては『投擲』、『隠密』、『索敵』それと若しかすると『調合』も。
毒が自作とは限らないけど可能性は否めない。
「後は多分だけど格闘系統か? でもこのスキル構成だとひょろ長も防御力はないパターンだな」
何気に俺が戦った強敵の中で防御力あったの火爪熊だけか? 黒猪はあれ、見た目はともかくスキルは魔法関連でずっしりだよな。
火爪熊もどっちかというと攻撃偏重だったと思うし……これはどうにか出来る余地があった分マシと言うべきか、なんなの……
シューン!!
「ッか! あー、もう。ちょっとでも隙あると直ぐこれだ!」
どこからかなく飛んで来た短剣を魔法で弾きながら叫ぶ。
ったく、本当に油断も隙もない。
「今のでMPも2割り切ったか……」
無論、治すなり防ぐなりと魔法を乱用していたので今言ったようにMPは2割とちょっと。
MPが底をつけば今度こそ捌き切れず、殺られる。
くそッ何かの、何かないのか……考えろ、きっと何かあるはずだ。
《種族レベル8から9に上がりました》
え、今のタイミングで、何で?
(ゴロ、ゴロ、ゴロゴロゴロ!!)
「「「ギギァァァー!?」」」
……只今ゴブリンジェノサイド中の金属光沢な球体しかないか、はは。
つーかイセットのやつ、いつの間にか殲滅戦になったんだ。
しかも誰もイセットの動きについていけて無いから余裕まである始末。
これ、お供ゴブリンが居なかったら今頃全滅させてたかもしれない。
こっちは今でも死にそうだってのに……
「だからって、ふっ! こいつを押し付ける訳にも、はっ! 行かないんだよ、な!」
ひょろ長ゴブリンだとイセットを捉えられる可能性が高い。
ひょろ長に撃ち落とされて袋叩きにされればイセットは一溜まりもないのだ。
『硬化』スキルで耐えるってのもMPを消費するので、そう長続きしない。
そして乱戦になると俺はあまり使えないと来たものだ。
「なら、優秀な従魔が戦利品を持って来た事だし、どうにかしますか」
イセットの手の届かないところは俺がどうにかする。
それがあの子の主としての責務だ。
「これでもない……これも違う」
高速思考操作でスキル習得画面を開いて、じっくり読んでる暇はないので流し読みしていく。
その中で今必要そうなやつを脳内にリストアップして選別してする。
『索敵』……は多分効かない。
『暗視』……は良さそうだけど、そもそも肉眼で捉えられるか不安。
『闇魔法』……は『光魔法』のせいか10ポイントだ。
「くそ、本当に何もないのか……ん? これは……」
どんどん減っていくMP,HPに焦りが胸中を支配しだしたその時、一つのスキルが目に留まる。
さっとだけ詳細情報を見てこれだと思い、習得を選択。
《スキル『追跡LV1』を習得しました》
これでよし……後は良いのでひょろ長の大まかな位置を掴むことと、スキルが予想通りの働きをするか祈るのみ。
「……ふぅ」
息を吐きだして集中する。
次の短剣がどこから飛んでくるのか正確に見極める。
恐らくチャンスは一回失敗すれば次からは読まれて対応されるだろう。
……やれやれ、何で1日に2回もこんなことしないといけないのやら。
「自分の運の無さに嫌気がさすが、やるしかない」
なら先ず、どれでもいいからひょろ長ゴブリンの居場所を”認識”しないといけない。
だから……
シューン!
「来た! くぅッ、いい加減出て来いや、この野郎!」
短剣が飛来した方向に注視し、やがてその刃が俺の身を抉った瞬間。
予め溜めておいた『光魔法』を四方にばら撒き、そしてそれによって生じた影を見る。
捉えた、奥の……3番目の木の裏! そして今に動き出すべく揺れているのも。
「どこに行くってんだ、もう逃さん!」
すかさず駆け出し、ひょろ長ゴブリンを視覚で”認識”した事により前提条件揃って自動発動した『追跡』スキルに身を乗せる。
かなりに空気抵抗があったので、それだけでなく『風魔法』も発動して眼の前の空気の壁を退けて、推進力にする為に後方に放つ。
『走行』『風魔法』『追跡』の補正を受けたためか凄まじい速さで、目に映る景色が引き伸ばされていく。
が、それも一瞬でひょろ長ゴブリンの目前にて『追跡』と『風魔法』切れて急停止する。
「ふぐッ!? は、反動が……それでも……!」
「ギギィ!?」
当然そんな速度で急停止なんてすれば慣性に引かれて内蔵に響くが、それは無理矢理に捻じ伏せる。
炎の爪を挟めた拳を振り抜くべく身を捻り右腕を真っ直ぐにひょろ長ゴブリンに伸ばす。
「ギギ……」
最初こそ驚いていたひょろ長ゴブリンだったが今までと同じ愚直に殴り掛かるだけだと分かりどこか冷めた目で、さっきのように腕を掴み投げ飛ばそうとする。
舐めてやがるな、こいつ……ッ!
「同じ訳ないだろう、が!!」
「ギ、ギギィーッ!?!」
威力重視の『水魔法』で腕を真横に振り抜くように押し出す、それもひょろ長ゴブリンが腕を掴んでいるとこを基点してだ。
完全に油断していたひょろ長ゴブリンは高水圧で腕ごと手を弾かれ、”手の甲方に反り返るよう”にして握っていた炎の爪が首筋に迫る
でも爪が喉笛を掻っ切る直前、腕の弾かれ反動を利用してかバック転のような動きで、左脚を掻っ切られる代わりに一命を取り留める。
「今のは不意打ちだったはずだったんだけどなぁ……。たく、なんつー反応速度と反射神経してるんだ。でもこれでもう逃げ道ないぞ」
「ギギィ……ッ!」
でも、これもうさっきのように逃げるのは出来まい。
それに今度こそ俺はこいつから目を離さない、少しでも逃げる素振りを見せたら即応出来るように。
脚は封じたが、このレベル魔物はこれくらいで崩せない、それは空歩猿の時に身を以て体感した。
だから正直今ので殺れなかったかなり痛い、ただの取っ組み合いなったらこっちは分が悪いのだから。
「まぁ、MPももうすっからかんだし、どっち道やるしか無いけど、なッ!」
「ギギ!」
左拳で右顔面に殴り掛かり、押し出されるように逸らされ、短剣を掠める。
右拳で炎の爪を突き刺そうとし、半身だけで躱せし、投擲で反撃。
牽制で傷口に右脚で蹴りを放つが、こっちも腕のように右脚で流し、短剣を突き出される。
くぅ……ッ、分かってはいたけど、全然当たらない。
それに何とか躱すか、掠めるに留めるかしてるけど、かなり際どい。
「ギギィ」
「くッ、この!」
でも投げ技はしない、というより出来ないか。
ま、片脚だと人一人抱えて投げるのはそりゃ無理だよな。
今も攻防が成立してるのはひょろ長ゴブリンがその場から自由に動けないからだしな。
傷口が焼かれて血こそ出ていないが、太腿当たりがザックリと開かれているので走ったり跳んだりは確実に無理と断言出来る。
傷と俺を気にして迂闊に動けずに迎撃するしかないひょろ長ゴブリン。
こいつを野放しにする訳にもいかず通じないと分かる攻撃を続けるしかない俺。
両者ともに退けない、退く訳にはいかない。
こうなれば後は……
「さて、ひょろいの。それじゃ根競べといくか」
「ギギィーッ!!」
……お互いの体力と根性しだい。
♢ ♦ ♢
「はぁ……ぐ、はぁぁ……おい、いい加減、楽になったら、どうだ」
「ギ、ギギィ……!」
そっちこそ、と言わんばかりに荒い鳴き声を上げながら投擲、これを今回もギリで避ける。
もう何時間こうしてるのかは分からないが、徐々に夜が明け来ているので相当に経っているのだろう。
イセットの方はとっくの昔にゴブリンの群れを殲滅して、その間に『喰香』でよって来た別の魔物をこちらに近付けない様にしている。
相変わらずイセットは助けに入れない状態、戦いは続いていく。
俺もひょろ長ゴブリンもお互いボロボロだ。
俺の場合、攻めながら急所を避けるのが精一杯なので体のあったこっちに短剣を生やしている有様。
最中に僅かに回復したMPは毒を治すのに使ったから底をついたまま。
一方でひょろ長ゴブリンも流石に片脚では全部の攻撃を捌くのは無理があったのか、体に痣や焼け焦げた爪跡が多数刻まれている。
それにHPも残り僅か、そしてそれは多分だが向こうも同じ。
―― 次に当てた方が勝つ
不思議とそんな確信があった。
そんな中、先に動き出したのはひょろ長ゴブリンの方だった。
逆手に短剣を握り俺の首目掛けて高速で剣先が迫り来る。
「ふぅッ!」
「ギギィ!?」
俺はその腕の動きを見定め、剣を握った腕に手を添えて力の流れを変えるように受け流しながら半回転して、俺の背後に突き飛ばすようにたたらを踏ませる。
横切る時、ひょろ長ゴブリンの表情が驚愕で強ばるのが見えた。
「何を驚いてんだ。さっきからどんだけやられてると思ってる!」
武術の心得とかはないが、流石にこれだけ時間あると俺だって簡単なコツくらいは掴めるんだよ。
ひょろ長ゴブリンのやってることは”相手の動作に使わる力の流れの基点を変えるなり、別の流れを作り乗せる”といったものだ。
戦いの最中に相手の動作や込められた力を測るのはかなりの集中力がいるが……いい手本があるんだ、ならやってられないことはない。
虚は突いた、後はコイツの反応を追い回るだけ!その策も既に俺の”目”にある。
あと一歩の距離、本来の器量差ならいくら体勢が崩れていてもひょろ長ゴブリンなら避けれる距離。
振り向く回転の遠心力を乗せてパンチ、それにやや遅れはしたが反応したとこで……俺の体が突然加速して一気に距離を縮める。
「ギ……ギギィ?」
「追いついたぞ! はあぁぁーッ!!」
いきなり距離がなくなり、困惑するひょろ長ゴブリンに炎の爪を挟めた拳を打ち込むべく伸ばす。
何故こんな速度出せるのか?カラクリは至極単純、『追跡』スキルを使った……それもひょろ長ゴブリンではなく遥か先にある別の魔物に、だ。
「これなら、もう。なっ!?」
「ギギィッ!!」
ギリギリで跳んだ、それも怪我した脚まで使って……
これでも反応するのか!?それにそんな事すれば着地が……と、思っていたのだが見えてしまった、俺の進路線上に置かれるようにある、鈍色の先端……
コイツもここで勝負を賭けてきたのだ。
「く、間に合え……!」
「ギギィ」
極限の集中と死の危機に本能的なものか走馬灯ように時間がゆっくり感じられる。
だからはっきり結果が見えてしまう、このままじゃ拳が届くより先に俺が刺される。
今更方向転換は無理、スキル的にも体勢的にも。
何時ものように魔法で押そうにもMPはない。
なら、後俺に出来る事は……
「イセットォォォー!!」
(ゴロ、……ゴロッ!)
「ギギィァァアッ!?」
ちょうど俺の背後のいたのかどこからか飛んで来て『弾化』して肘を強打し俺の拳を腕ごと撃ち出す!
両者の刃と拳が交差し――
―― お互い、同時に命中したのだった。
さぁ、勝敗いかに行方は!?
・『追跡』
知覚内の生物を追うと思った対象に対して一定距離が離れている場合に自動で速力に補正が掛かる。
対象に一定距離まで近付くと補正は消える。
ここでのステータス的な速力の正確な定義とかは……まあ機会あれば、何れやるつもりです。




