天職祭壇と……
俺のは胸部に短剣が突き刺さり、ひょろ長ゴブリンが炎の爪を頭に打ち込まれながら、ぶっ飛ばされていく。
あまりの反動にふらつき地に膝を付け、ひょろ長ゴブリンが起き上がろうと手を付け……
《種族レベル9から10に上がりました》
《『走行』レベル6が7に上がりました》
《『風魔法』レベル5が6に上がりました》
《『水魔法』レベル5が6に上がりました》
《『光魔法』レベル3が4に上がりました》
《『素手』レベル7が8に上がりました》
《『抗魔』レベル3が4に上がりました》
《『追跡』レベル1が2に上がりました》
……怒涛のようなインフォメーションに押されるように崩れ落ちた。
「くはッ……! あと、一寸で心臓に届いてた、な」
胸に突き刺さった短剣を引き抜きながら吐き出す。
今のは流石に寿命が縮むかと思った、はは……まぁ、今はそれより。
「ありがとうイセット。来てくれて……」
正直、本当に来てくれるという確信があって呼んだ訳ではなかった。
ただその時縋るものがイセットしか居なかった、それだけだったのだ。
だからか更に嬉しいような気がして自然と溢れるように感謝の言葉を告げたのだが……
「って、まだ戦闘中か……」
そういや、そもそもがイセットはまだ集ってきた魔物と戦ってる最中だった。
ありがとうを言うのは、まずこの場を落ち着けてからだな。
「ふぅ……MPが回復次第俺も出なきゃな」
俺はMPの自然回復を早める為に暫く精神を鎮めるのに勤しんだ。
♢ ♦ ♢
「これで、最後ッ!」
(ゴロン!)
良く分からない青の半透明のプルプルした体をした一抱えサイズのゼル状の魔物をイセットと一緒に魔法で散らしてやっと戦闘を終える。
ひょろ長ゴブリンと戦闘を勝利した後、イセットが魔物共を相手してる間に何とかMPを回復を図り最低限戦えるHPを回復して直ぐに俺も魔物との戦闘に参戦した。
……と言っても元から格下で、集団戦が得意なイセットがいたので一部のやつ以外にはあっさりと片が付いたけど。
その例外がさっきのゼル魔物の訳だけど……あれは本当に面倒かった。
物理攻撃、それも打撃があまり効かなかったので二人揃って最初ビックリしてたなぁ。
魔法で簡単に体が崩れたり、体内に透けて見える丸い肉塊が弱点だと分かったりしたことで何とかなったけど。
「今のはどっかで見た覚えが……あ、スライムだ!」
前にイラストで見たのとは大分違うから思い出すのに時間掛かった、イラストのはもっと丸々してるか小さい雫みたいで可愛かったのに今のはもっとドロドロしてたせいだな。
でもスライムってあれだよな、めちゃ弱くて服を溶かしたりするんじゃなかったけ?
俺の服溶けてないよな、今はこれ一張羅だから溶けて着れなくなるとかなり困るんだが……ん?
「あ、そもそも俺上の服イセットを包まるの使ってから今半裸だったわ」
(ゴロゴロ?)
で、ズボンや下着は……うん、どこも問題なし。
イセットがなにやってるの?感じで不思議そうにゴロゴロしてるが……後でな、結構重要なことなの。
まぁ、俺は大体上体前に出るから当たり前だけど。
「……仕方ないから、気にしないようにしてたけど森中で半裸って……早く服取ってこよ」
イセットを隠してた木の窪みにあるはずだから、そこまで遠い距離でもないのでささっと行って取ってくる。
で着直してから埃等を払った時にふと気付く。
「結構血が出たり転んだりしたはずなのにあまり汚れてない。それに破れたとこも直ってる?」
まぁ、この環境だし流石に全裸でマズいだろうと言う運営側からの配慮だろけど、何かすっごい違和感。
不便はないし、むしろ便利だからいいけどさ。
「さて、それよりも。ふふふ、今回の戦利品を確認せねば!」
と言う訳で、黒猪により殆どの建物が壊滅したゴブリンの住処を見て回る。
うーむ、柵とかもう見る影も無いな……住居もぐちゃぐちゃに破壊されて使えそうなのは1,2個しかない。
俺とイセットが身を隠せる場所が確保出来れば良いのでそれで十分であるが、ごちゃとし過ぎだな。
後で可能な範囲で掃除する必要もありそうだ。
「そのついでに使えそうなものがあれば拾っとくか」
今は何にしても足りない物ばかりだからな、少しでも使えるものを回収しないと。
他にあるのは……お、あれはもしかして井戸か!
これが地味に一番助かる、あの魑魅魍魎が跋扈する河川があるとこまで降りなく済む。
水がちゃんと満ちてあり、しかも水に匂いに惹かれて敵が寄って来ないよう丁寧にも蓋まで被せてある。
流石に釣瓶はないが縄で繋がってる桶ぽいのはあるからそれで汲めば良いのだろう。
これであのバナナや出来れば他の果実も食べれば食い扶持はどうにかなりそうだ
「これでちょっとは安定した生活が望める…………うん? あれは何かの祭壇、か?」
これからの生活に思いを馳せていた時に視線を上げれば、それが見えた。
森中にあるにしてはあまりにも不自然な凝った意匠が施された石材の祭壇が奥の方にまるで隠されるようにポツンとあった。
いや、というより実際に隠してあったのか、残骸を見るに壁で囲われていたようだし。
「それだけ重要なものってことか? ……ちょっと見に行ってみるか」
(ゴロゴロ……)
「?何か元気ないな。そういやイセットさっきからやけに静かだけど、どうかしたのか? もしかしてどっか怪我でも!?」
(ゴ、ゴロゴロ……)
違うらしい、微妙に横方向にゴロゴロしてるのはそういうことだ。
うーん、念の為にステータスを見てもスキルが上がったのと、種族レベルが10になった以外は特に変わったのは何もないな。
暫く様子を見てみても特に何も異常はなかったので一旦意識を謎の祭壇に戻し近付く。
でも何があるか分からないので、イセットは下で待ってもらう事にした。
明らかに怪しいとこに今の状態で連れくのも心配だし、何あっても俺なら最悪死んでも復活出来るしな。
外観は藍色の石で出来た石材の丸い土台とモノリスのような真っ黒な石碑が端っこにある上り階段と対極になる位置に鎮座されている形だ。
俺の腹の高さがある階段を登ってよく観察してみると床には何かの複雑な線が縦横無尽と引かれていて所々宝石のような物が嵌め込まれていた。
「……どう見てもゴブリンが作ったものじゃないよな」
明らか周りの建物との技術格差が違う、これ作れるなら木を組み上げただけのよりはマシな住居が作れただろうからな。
単なる素材不足ってのも考えたが、金属でもないのに継ぎ目すらないのは異常だ。
コンクリート製でもないようだし、もし作ったなら巨大な岩を丸ごと彫刻したことになるけど……あの群れの規模では無理がある。
「それと、あの石碑だな」
小さな白い宝石が大きな橙色の宝石を中心にして散らばっている。
で、この白い宝石には間を繋ぐように床同様、線が引かれてるのだが……これがどう見ても星座なのだ。
「えと、これが双子座でこっちにいるのが蛇遣座で、後は……よく分からん」
そういやWCOを作った『ツインセブン』の会社ロゴが天ノ川をイメージしたものだったけ。
じゃあ、これは運営が設置したのか? 何の為に?
その疑問を解消するため、石碑の方に近付く
―― と、唐突に祭壇が眩い光を放ち始めた。
「な、何だ、これ!?」
《天職祭壇への接続を確認しました》
《条件を満たしているため、祭壇が起動します》
《戦士の星石が光を放ち出した……》
《魔法士の星石が光を放ち出した……》
《密偵の星石が光を放ち出した……》
《光っている星石の内1つを手に触れると就職が開始されます》
困惑する俺をよそに勝手にインフォがズラズラと訳の分からないことを述べる。
するとまるで連動するように黒い石碑にある宝石改め”星石”で描かれていた3つの星座が清涼な輝き発していた。
「え、いや本当に何? 就職?」
お、落ち着け混乱してては分かる事も分からなくなる。
まずインフォの文脈を見るに俺が条件を満たした状態でこの”天職祭壇”に乗ったから作動した、ここまでは理解できた。
けど、下の文にある戦士とか魔法士とか言うのはよく分からない。
「うむむ……文脈の流れからすると輝いている星座に触れると対応する職に就ける、でいいのか?」
つい疑問が口から漏れるが当然答えてくれる人はない。
イセットも今はちょっと離れているしな。
「と言うか、これ目立つな。ほっといたらまた魔物が寄って来る」
今来ないのは……流石に『喰香』で釣られたのを殺りすぎたせいだろうな。
でもそれは暫くしたら、また来るって事でもある。
「その前に止めなきゃな。光ってる星座に触れればいいんだよな。何にしよう?」
えーと、どれがどの星座だこれ? 星座の種類なんて有名なの以外まるで知らないないぞ、俺。
それにインフォにも星座じゃなくて〇〇の星石って表記になってるから、もし知ってても何が戦士で密偵なのか区別つかないだろう、これ。
つってもこのまま光らせとく訳にもいかないし……
「ああ、もう! ままよ!」
結局、あれやこれや悩むのが面倒くさくなって目を瞑り適当なとこに手を伸ばす。
もう、なるようになれだ! どうせこんなので悩んだって分からないない事は分からないし、こうなれば運頼みだ! おかしな事になりませんように!
《密偵の星石に触れました》
《星石に宿った輝きが猟犬座を織り成していく……》
《――天職光星を開始します》
どうやら密偵の星石の星座に触れたらしく、俺のことはお構いなしに事態は動く。
目を開けると今度は俺が手を載せている星座から中央の大きな橙色宝石に流れ込むよう石碑に光の線が引かれる。
その光でまるで充電でもされたかのように橙色宝石も輝いてそれが今度は床へと流れ落ちる。
流れ落ちた光は床に彫られている線を伝い走り、点である星石に注がれ、やがて俺が手に触れている星座と同じ模様の……猟犬座の形を成す。
祭壇全体のと合わさるように星石の輝きが増していく。
その輝きは時を追うごとにどん、どんと増幅していき――
――遂に決壊するように溢れ出した。
「うわ!? 今度なんだ? レーザービーム?」
溢れ出した光は線となり俺の体に照射され、まるで弄るように這い回る。
痛みとかないが……何だろこれ、変って感じと言うか、どこか深い所を観られて作り変えられるような不思議な感覚だ……。
でもそれは嫌な気分とかはなく、むしろ温もりに包まれるような……心地よい光。
さっきまで慌ててたのが嘘のように心が凪いでいく。
《……全行程が終了しました》
《あなたに遍く星々の加護があらんことを》
《称号『密偵』を獲得しました》
《スキル『索敵LV1』を習得しました》
《スキル『隠密LV1』を習得しました》
が、それはこのインフォが鳴り響いた途端に光と共にふっと消える去る。
「あ、終わちまった……って違う違う止まったからいいんだよ! そもそもそれが目的だったし」
でも、もう少しぐらい続いても良かった気も……ッ!
いやいや何考えてるん俺は、今はそれより大事なことあるだろう。
さらっととんでもないインフォが流れてたし拠点になる家を見繕わないといけない、イセットの容態も心配だ。
とにかく早くここから降りよう、そうしよう。
俺はどこか名残惜しい気持ちを抑えて祭壇を降りる。
近くにいるはずのイセットを探して、直ぐに見つかった……のだが様子がおかしい。
ぷるぷると小刻みに震えていてよく見たら何かの剥がれたような跡もみえる。
「イセット!?どうしたんだ一体!」
弾かれように傍まで駆け寄りイセットの丸い殻をよく見るとあっちこっち剥がれているだけでなくひび割れも無数にあり、それが今もそれは広がっていた。
も、もしかしてさっきの長い戦いにダメージ蓄積されて……とか悪い想像してしまったその時。
剥がれた隙間から、もぞっと蠢く何かが見えた……こ、これはもしや
「か、孵ろしてる!?」
え、仕様が不便だって……今更ですね。
WCOが過疎ってる最大の原因でもある




