第35話 おまけ ヘレフェールに撃墜王が生まれた日
ヘレフェール宙域を震撼させる報告が銀河を駆け巡った。
宇宙怪獣の中でも銀河喰らいの名を欲しいがままにうる最悪の獣リヴァイアサンの氾濫の発生。
それはその宙域が死滅することを意味していた。
「死守だ」
帝国軍大佐の階級章をつけた男がトーマたちの前でそう言った。
「我々はこの宙域にとどまり、リヴァイアサンを可能な限り足止めする」
それはつまるところ死ねという命令であった。
勘弁してくれよとトーマは天を仰ぎたくなるのを必死にこらえていた。
上官の前でそのようなことをしようものなら面倒なことになる。
「行け、帝国軍の誇りを見せるのだ!」
「はっ!」
不服だろうとも命令は命令。
やらなければならない。
「はぁ……」
「しけた面してんな」
「ああ、お嬢……」
この時のトーマはカレンのことをお嬢と呼んでいた。
理由は色々とあったが、とりあえず小隊長であったからというのが大きい。
「お嬢いうなっての! ったく。作戦前だぞ、もっと楽しそうにしろよ」
「できるか! 死ねって言われてんだぞ」
「大丈夫だって全部倒せばいいんだよ」
「おまえなぁ」
そう考えられるこの女は本当に軍が天職だよと納得するばかりである。
「ちゃんと準備しろよ! なに安心しろってヤバイ時は私が守ってやるからよ」
「やめろよ、縁起でもねえ」
そうして出撃してすぐにトーマはリヴァイアサンの突撃を受けてしまった。
カレンの機体を庇ってのことだ。
衝撃で気絶。
ほとんど数分という時間であったが、意識を失い気が付いた後、ボロボロのカレンが自分を守っていることを認識。
リヴァイアサンにも囲まれ絶体絶命。
ほとんど無意識にトーマは機体を動かした。
「このっ!」
カレンを狙うリヴァイアサンの横っ面に蹴りを叩き込んだ。
「トーマ!」
それで足がぶっ壊れた。
ビームを連射してリヴァイアサンを牽制しながら、そこら中に漂っている戦友だったものへと移動する。
機体はコックピットが食い荒らされているが、状態はよくその足を自分のウェアクローズに接続。
ついでにファブリケーターマテリアルも回収し、大威力砲を群れへと叩き込む、
焼け付いた端からその辺に落ちている武器に取り換えて撃ちまくる。
弾幕を途切れさせたら死ぬとでも言わんばかりに撃ちまくり、縦横無尽に飛び回る。
受けたダメージは都度、壊れた機体から拝借して修復。
ファブリケーターで常に武器弾薬を供給し続け、戦い続けた。
さらに壊れた機体から拝借した無事なエネルギーコアを武装に繋ぎ込み無理矢理威力を上げて放ったりとやりたい放題やり、武器が切れると殴る蹴るで戦い続けたのだ。
「んで、そんな感じで戦ってたら、いつの間にかリヴァイアサンの連中を全滅させてたんだよな。いやぁ、火事場の馬鹿力って奴だな」
「いや、ヤバすぎて気持ち悪いわ」
「えへえへ、同感」
「えぇ……あんたらが聞いてきたんだろうが、撃墜王ってなんだって」
「それでヘレフェール宙域に広がったリヴァイアサンを全滅させた話を実際に聞いたらこうなるわよ。なんで単騎でリヴァイアサンを相手にしてその群れを全滅までさせてるのよ」
それはトーマとて知りたいところである。
気がついたら病院で酷い大怪我。
そんな理由も覚えておらず戦闘記録を見て一番ドン引きしたのは何を隠そう自分。
あの時のことは頭から血が出ていて意識もうろうとしながらだったからほとんど覚えていない。
ただ、ものすごく無茶をやらかしていたということはよくわかっている。
「だってなあ、仲間が死にそうになってたんだ、必死にもなるだろ」
初っ端にやられてしまったわけだし、それを取り戻そうと頑張った結果が撃墜王だったというだけである。
「まあ、おかげで現行機の優秀さが良くわかったんだよなぁ」
またスカルフェイスのヤバさも同時に理解したわけであるが、とは言わなかった。
「とにかくそんなわけで俺は表彰やらなんやらされて、色々賞金とかもらったから軍を辞めてレーサーになったわけだ」
その後は台本無視でぱっとしなかった。
「まあ、これのおかげであんたらと出会えたのなら悪くなかったんじゃないかな」
「トーマ……流石にそれはないわ」
「良い風に閉めようとしたらなんて言いぐさだ」
「えへへ、あっしは良いと思いますぜ」
「はいはい、もう良いよ」
「あーもう、拗ねないの。次勝ったらボーナスあげるから」
「そんな余裕あるのかよ」
「作るのよ、レースに勝って」
まったく、とトーマは笑って格納庫へと向かうのだった。
そうしてレースが始まる。




