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魔術学院を首席で卒業した俺が冒険者を始めるのはそんなにおかしいだろうか  作者: いかぽん
第二部/第四章

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第九十四話

 俺は大鷲の姿で、大空を飛んでいた。

 偵察役のエルフの報告を聞いて、俺も変身メタモルフォーゼの呪文を使って自ら偵察に出たのである。


 静謐な朝の空。

 雨雲はすでに彼方へと過ぎ去り、天候は一転しての快晴だ。


 しかしそれは、難事がすべて過ぎ去り、前途がまったく明るいことを示すものでない。

 天候とは反して、俺たちの前にはいまだ大きな障害が立ちふさがっている。


 その障害はいま、飛行する俺の眼下であるところの森林地帯を行軍している。

 緑色の巨躯を持った亜人種──オークの群れであった。

 ふてぶてしく邁進するその亜人の数は、パッと見の目測で三十を超え、四十に及ぶかどうかといったところだ。


(一個小隊分の戦力を投入してきたか……。意外に手堅い手を打ってくる)


 俺は眼下のオークの群れを見下ろしながら、敵方の戦術をそのように評価する。


 その数は、オークの全戦力の三分の一ほどと目される大戦力だ。

 分隊規模の戦力が帰ってこなかった結果、その三倍に相当する戦力を送り込もうというのは、面白みはないが順当な戦術であると言えよう。


 そのオークの群れは、フィノーラたちが暮らしていたエルフ集落から出立し、現在の俺たちの臨時拠点がある方角へと向かっていた。


 どういった根拠であれだけの大戦力をその方向に向けたのかは分からないが、おそらくはその方面に向けた部隊が帰ってこなかったからだろうか。

 いずれにせよ、結果としてかなり的確な動きではある。


(さて、どうするか……)


 拠点の防御をおろそかにして全軍出撃などしてくれれば、拠点強襲で捕虜を救い出すこともできたのだが、さすがにそう易々とはやらせてもらえないようだ。


 順当な手を打ってくる敵というのは、順当ゆえの厄介さがある。

 奇策が王道を破るのはあくまでも例外的事態であり、戦術の王道はやはり、大戦力による物量作戦である。


 だがそれならば逆に、こちらも王道で立ち向かうという手はある。


(一個小隊程度が相手ならば、いっそ正面衝突が最もリスクが低いかもしれんな)


 俺はそう考え、翼を傾けて旋回、方向転換をする。

 向かうは現在フィノーラたちがいる臨時拠点だ。


 そこには現在、エルフの戦士が三十人ほどまで集結している。

 まだ完全に揃ってはいないが、周辺の集落への応援要請が功を奏し、昨日の段階よりもかなり多くの戦力を確保していた。


(かと言ってバカ正直な正面衝突をする理由もない。課題は──可能な限り戦力の損耗を抑えつつ勝利することだな。それに──)


 俺が敵の立場であれば、あのオークの群れには必ず「ある指示」を与える。

 それを加味して作戦を立てる必要がある。


 その「ある指示」とは何かといえば、「敵対勢力が自分たちの手に余るようであれば、速やかに撤退しそれを報告すること」だ。


 おそらくオークどもは、こちらの正確な戦力情報や位置情報は持ち合わせていないだろう。

 それはこちらにとっては大きなアドバンテージになる。


 敵が人間並みの知能を持っていようとも、正確かつ十分な情報なしに的確な行動を取ることは不可能だ。

 それは盤上遊戯チェルトを相手の駒が見えない状態でプレイするようなもの。

 情報面での優位を譲らなければ、その分だけ戦局での優位も確保される。


 だからオークどもにしてみれば、敵対勢力が予想以上に強大であった場合、戦力の消耗を可能な限り抑え、同時に敵の情報を持ち帰ることが肝要になる。


 そしてこちらにとっては、それを阻止することが重要なミッションの一つとなるわけだ。


(三十体以上からなるオークの群れを誘導して包囲、一体たりとも逃さないように殲滅、こちらの損害はゼロが望ましい、か──課題に不足はないな)


 俺は風に乗りながら、そのための具体的な方法に思考を巡らせる。


 自分の能力、敵味方の戦力差と特性などを材料としてロジカルに思考を組み立ててゆくと、方針はすぐに固まった。

 色恋事とは大違いだ。


(やはり人間には向き不向きというものがあるな……)


 俺は心の中でそう苦笑しながら、大空を羽ばたいていった。


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