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第七十七話

 俺たちは長老の家に集まり、昨日の宴を催した広間で車座になっていた。


 その場にいるのは俺たち四人と、レファニア、その母親であるフィノーラ、その他長老を含めた里のエルフの代表者十人ほどだ。

 その場の全員で、フィノーラが持ってきたオーク軍団による襲撃話に関して会議をしていた。


 ちなみにレファニアの母親であるフィノーラが滞在していた集落は、この近隣のエルフ集落の中でも最も規模の大きなものの一つで、人口規模は現在俺たちがいるこのエルフ集落の四倍ほど──すなわち三百人を越えるという。

 そしてフィノーラは、その集落のエルフ戦士の中でも最も優秀な戦士であり、剣の腕、魔法の腕ともにレファニアを遥かに凌ぐ腕前であるという。


 なお、この件に関して俺たちは当事者という立場にはなく、一歩引いた立ち位置になる。

 話に混ざっているのは、先方の要望と十分な報酬の提示があれば傭兵として戦いに加わるのもやぶさかではないと考えてのことだ。


 だがそれを分かっているのかいないのか、サツキはエルフたちの話し合いに積極的に参加していた。


「でもさ、オーク百体ぐらいならウィルなら何とかできるんじゃねぇ? 火球ファイアボールとか雷撃ライトニングボルトだっけ? あの辺の魔法でどかーんってまとめてぶっ飛ばしちまえば」


 サツキのその発言で、エルフたちの視線が俺に集まった。


 さてどう答えたものか。

 自分たちを傭兵として高く売るためには必要以上の謙遜をするべきではないが、かと言って過大な期待を相手に与えるべきでもない。


 ……まあ、俺自身の見解を素直に示すのがベストか。


 そう考え、俺は本件に関して自身が持っている視野をエルフたちに向けて説明してゆくことにした。


「俺の魔法で百体を超えるオークを一網打尽にできるか、という話だが──相手の出方次第の部分はあるが、相手がオークエンペラー率いる統率された軍団であることを考えれば、まずそう簡単にはいかないと見ておくべきだろうな。敵はバカではないと考えて行動すべきと考える」


 俺がそう答えると、その場がどよめいた。

 レファニアが驚きの表情とともに俺に質問してくる。


「……っていうことは、逆に言えば、相手の出方によってはあなた一人で一網打尽にすることも可能だっていうことよね?」


「そうだな。日数をかけての分断及び各個撃破戦術に対し相手が対抗戦術を打ってこなければ、実現は不可能ではないかもしれん。だがあまり現実的な話ではないし、その場合は敵の『数』よりも『質』のほうが問題になってくる可能性が高い」


 俺はレファニアにそう答えつつ、傍らの荷物から紙とペン、それにインクを取り出す。

 そして取り出した紙を板張りの床の上に置くと、そこに大きくピラミッド状の正三角形を描いて、車座の全員に見えるように提示した。


「まずオークエンペラー率いる軍勢の一般的構成を説明しておく。これはとある信頼性の高いモンスター研究論文に記述されている内容だが、エンペラー級に率いられた亜人種デミヒューマン型モンスターの軍勢は、通常ピラミッド状の軍団構成になると言われている。今回のオークの軍勢だと、まず一番上に位置するのがオークエンペラー。これが一体だ」


 俺はそう言って、正三角形の最上部に小さくスペースを取り、オークエンペラー、一体、と記述する。

 それからその下のスペースに、オークロード、三体、と記述を加える。


「エンペラー級の下には、通常三体程度のロード級が付き従っている。そしてその下にはジェネラル級が九体程度、その下にリーダー級やメイジ級が合わせて二十七体程度、そして最下部に一般種のオークが八十一体程度存在するというのが一般的な軍団構成だとされている。要するに、下に行くにつれて三倍、三倍の倍々ゲームで数が増えていくわけだ」


 俺はピラミッド構造を横線で区切りながら、残りの部分を記入してゆく。

 そして最下部の一般オークの横に、「F」というランクを記入する。


「モンスターランクで言うと、一般種のオークがFランクだ。そしてここから階層が一つ上がるごとに、モンスターランクが一段階上がると考えてもらえばいい。すなわち、オークメイジやオークリーダーがEランク、オークジェネラルがDランク、オークロードがCランク、そしてオークエンペラーが──Bランクだ」


 俺は順繰りモンスターランクを記入していって、最後にオークエンペラーのランクを「B」と記入した。

 そしてペンを一段階分だけ下に下げ、オークロードの横の「C」に丸を付け、サツキやレファニアへと視線を向ける。


「レファニアにはサツキの実力を見る機会があったかと思うが、現在のサツキの実力がおそらく、このオークロードとほぼ互角という位置になる。つまり、敵にはサツキ級が三体程度いて──」


 俺はそこからペンを一段階上へと動かし、再びオークエンペラーを指し示す。

 そしてオークエンペラーの強さについて、サツキ、ミィ、シリルの三人にしか伝わらない表現をしてみせる。


「このオークエンペラーが、おそらくはアイリーンと互角程度の強さになる。そして当然ながら魔法に対する耐性も生命力も高いから、俺の魔法で一撃必殺というわけには到底いかん」


「うそ……だろ……? オークって、そんなに強いのかよ……。──じゃ、じゃあ、この間ウィルが雷撃ライトニングボルトだっけ? あの呪文で倒したのはどれ? あれ確か上位種だったって話だろ」


 サツキにそう聞かれて、俺はピラミッドの下から二番目の階層をペンで指す。


「あれはオークメイジとオークリーダーだと思われる。ちなみにあれを雷撃ライトニングボルトの一撃でともに撃破できたのは、運が良かったと言うべきだろうな。おそらく俺のいまの魔力だと、三回に一回は討ち漏らす。そしてあの手の攻撃呪文が届くほどの距離で討ち漏らしをすれば、次の呪文が間に合うまでの間に俺のほうが物言わぬ肉塊に変えられている可能性は十分にある」


「マジかよ……」


 サツキが苦渋の言葉を漏らす。


 もちろん、物言わぬ肉塊云々は俺一人だったらの話で、サツキなどが間に立ちふさがってくれれば、もう幾ばくかの呪文行使の猶予は得られるだろう。

 だがそのサツキですら互角、あるいはそれ以上の敵の存在がほぼ確定で見えている以上、その点に関しても楽観視はできない。


 場の空気が、重苦しい雰囲気に包まれる。


 その沈黙を破ったのは、シリルの発言だった。


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