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第六十一話

「じゃあ開けんぞ──せーのっ!」


 俺たちはサツキを先頭にして、小屋の扉を開いた。


 しかしてその中は──


「……もぬけの殻、ですね」


 ミィがそうつぶやく通り、そこに人の姿はなかった。

 それどころか生活感すらなく、小屋の中には家具として机と椅子が置かれているばかりだ。


 だがその狭い小屋の中には、一つ大きな異常があった。


「……地下室への入り口かしら」


「みたいだな。誘われてるってことか」


 そう言うシリルとサツキの視線の先、小屋の隅の床の一角には跳ね上げ式の扉があり、それが開かれていた。

 ぽっかりと開いた竪穴には、下に下りるための梯子がかけられている。


 俺はそれを見て思考を巡らせる。


 これはひょっとすると、俺の一計が功を奏し、こちらを侮ってくれているのかもしれない。


 あの先が袋小路になっているのであれば、そこでの待ち伏せは向こうにとってもリスクが高い。

 例えば内部構造によっては、俺があそこから下に向かって火球ファイアボールの呪文を撃ち込めば、相手は逃げ場所一つなく爆炎に晒されることにもなりかねない。


 あるいはあの先が脱出口に繋がっていて、逃げだしたという可能性もあるが……。


 いやそれ以前に、そもそもアリスがあの下に下りたというのはフェイクで、まだこの小屋の周辺にいるということも考えられる。


「ミィ、確認するが、この小屋の周囲に人の気配はなかったんだな」


「はいです。妙な魔法を使っていない限り、素人が隠れていたらミィなら気付くはずです」


 ミィがはっきりとそう答える。

 その点に関しては自信があるのだろう。


 ミィの言うように魔法を使って隠れているパターンはありうるが、その場合は俺の視野に入ったときに魔力感知センスマジックに引っかかる可能性が高い。

 あるいは魔力隠蔽シールマジックを使われていたらその限りではないが──


 ──いや、ここは考えを絞るべきだ。

 あらゆる可能性を考慮に入れるべき状況ではない。それは思考を放棄することに等しい。

 低い可能性に関しては切り捨てろ。


 魔力隠蔽シールマジックはまずないだろう。

 あれは導師級の術者でも、使える者はかなり限られる高位の呪文だ。

 彼女がそのレベルにあるなら、ゴルダート伯爵に仕えるのではなく王都やもっと大きな力を持つ貴族の宮廷魔術師として仕えている可能性が高い。


 となれば、それと同レベルの呪文である透視シースルーも向こうの手札にはないと考える。

 いまのこちらの状況が「見られている」ということはないだろう。


 ……いま得られる情報はそれだけか?

 考えろ、もっと考えろ。


 ──いや、待て。

 そもそもこの小屋は何のためにある?


 アリスが毎日のように足しげく通っていると考えられるこの場所。

 彼女は何のためにここに通っているのか。

 このような人目につかない場所で、彼女は毎日のように何をやっているのか。


 決まっている。

 彼女が入れ込んでいるアンデッド研究を、ここで行っている違いない。


 だがなぜこのような場所で?

 書物を使った研究をするなら、ゴルダート伯爵の屋敷で行っても問題はないはずだ。


 その答えも、決まっている。

 ここが彼女のための「実験場」だからだ。


 つまり、あの竪穴を下りた先にあるものは──


 俺は自らの仮説を確定させるため、透視シースルーの呪文を唱える。

 魔素の消費は重いが、俺の考えが正しければ、この一手にはそれに相応しい価値がある。


 そして呪文が完成すると、俺は「足元の床を透過して」、その先を見た。


 その一方で、サツキたち三人は竪穴の前で考え込んでいた。


「それにしてもこの穴どうやって下りる? 梯子下りてるところ狙われて攻撃されたら、ひとたまりもねぇだろ」


「暗くて底が見えないです。飛び降りて大丈夫な高さなのかも分からないです」


「まいったわね……。たいまつに火をつけて落としてみるっていうのは?」


「それ下でアリスが待ち伏せしてたら、いまから下りていきますって教えるようなもんだろ」


「「「うーん……」」」


 三人は穴の前で立ち往生をしていた。

 俺は彼女らに声を掛ける。


「ミィ、悪いがたいまつを用意してくれ。そろそろ魔素の残量が本格的に厳しい」


「あ、はいです。……ウィリアム、何か分かったですか?」


「ああ。ひとまずその穴は普通に下りて大丈夫だ。十メートルほど下りた先が枯れ井戸の底のように狭い空間になっていて、その横に扉がある。その扉をくぐるまで危険はないと思われる」


「……相変わらず、ウィルのそれほとんど反則だよな……」


 あきれるサツキと肩をすくめるシリルの横で、ミィはそそくさとたいまつに点ける火を準備し始めた。


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