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魔術学院を首席で卒業した俺が冒険者を始めるのはそんなにおかしいだろうか  作者: いかぽん
第五章

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第五十九話

 都市ゴルディアのすぐ近く、街道脇から森に入って道なき道を十五分ほど登ったところに、一軒の木造の小屋がある。

 ウィリアムたちが向かっている先にあるその小屋には、現在一人の女魔術師がいた。


 アリス・フラメリア。

 三年前に魔術学院を卒業した、導師ウィザードの称号を持つ魔術師である。


 長くウェーブした赤髪が特徴的で、その容姿は美しく、彼女にその気があれば浮いた話の一つや二つには事欠かなかったであろうことは明白だ。


 実際にも、彼女は学院時代に何人かの男と付き合い、体を重ね、そして──その男を「行方不明」にした。


 彼女の親は極めて有力な商家であり、彼女の夢を支援する後援者パトロンであり、金の力を使って彼女の罪事を隠蔽した。


 彼女は学院でアンデッドについて学んでから、その存在に魅入られていた。

 学院での一般的な勉強の傍ら、彼女は研究者としてアンデッド研究に没頭した。


 だがその研究には、どうしても必要で、なおかつ不足しているものがあった。

 何かといえば「死体」である。

 それも彼女の仮説を検証するに足る条件での死体となれば、ほぼ皆無に等しい。


 ゆえに彼女は、自らの手で「死体を作り出す」必要があった。


 最初は動物の死体で満足していたアリスも、やがて禁断の領域に踏み入ることになる。

 人の死体による実験。

 最初は隠蔽工作に加担していた彼女の親も、徐々にエスカレートしていく彼女の行動に、ついには匙を投げるようになった。


 そうして後援者を失ったアリスが次に目を付けたのが、自らが宮廷魔術師として赴任した相手であるゴルダート伯爵だった。


 伯爵は無類の女好きで、なおかつ小者ながらにして野心家だった。

 アリスは自らの体を求め迫ってくる俗物の貴族に対し、その体を売り、さらには彼の野心を焚きつけることで研究のための新たな後援者を得た。


 彼女にとってアンデッド研究は、ほかの何よりも大事な彼女の生き甲斐であった。


 アリスが現在いる小屋も、彼女が伯爵に頼んで作らせたものだ。

 机と椅子、筆記具ぐらいしか置かれていない奇妙に殺風景な小さな小屋の中で、彼女は紙に向かって書き物をしていた。


 だがその手が、ピタリと止まる。


「……警戒アラートに反応? それも一、二、三……四人」


 アリスはペンを置いて立ち上がり、近くの壁に立てかけてあった魔術師の杖を手に取る。


「一人なら鼠が迷い込んだだけとも思えるけど、四人だと偶然とは……つけられた? でもそんなはずは……いえ、それよりもどうするか……」


 小屋の中のアリスは一人、イライラとするようにその手指の爪を噛む。


 それから思い立ったように小屋の入り口の扉の前まで行くと、扉を少しだけ開き、魔法の目ウィザードアイの呪文を唱えた。

 そして生み出した透明な目を扉の隙間から出し、再び扉を閉める。


 アリスはそのまま精神を集中し、不可視の「目」を動かしてゆく。

 小屋のある中腹から木々の間を下るようにして、警戒アラートの反応があった方角へと「目」を移動させてゆく。


 しばらく進んで行くと、やがて「目」は冒険者らしき一団を発見する。

 バリエーション豊かな格好をしたその四人は、一人は男、三人が女のようだった。

 いずれもアリスより若い、若年の冒険者であるように見える。


 中でもアリスを注目させたのは、そのうちの男の冒険者だった。


「──魔術師メイジがいるわね。……でも冒険者の魔術師メイジなんて、所詮は学院の落第者」


 そう思ってアリスは冒険者たちの監視を継続しようとした。

 だが──


「なっ……!?」


 アリスは小屋の中で驚きの声を上げていた。

 もはや彼女の視界に「目」が移していた景色は見えず、彼女の視野は狭い小屋の中の風景のみを映していた。


 冒険者の中の魔術師が、魔法の矢マジックミサイルの呪文によってアリスが作り出した「目」を撃ち落としたのだ。


魔力感知センスマジックを使っていた……!? 小賢しい真似を……!」


 アリスは再び、親指の爪を噛む。


 魔力感知センスマジック魔法の矢マジックミサイルともに、初級の魔術師でも行使が可能な呪文だ。

 それでアリスが行使した高位の呪文である魔法の目ウィザードアイが迎撃されたことに、彼女は少なからぬ苛立ちを感じていた。


「さて、どう料理してやろうかしら……」


 アリスは次の手に関して、思考を巡らせる。

 初級冒険者の一団ぐらいなら、自分一人で何とでもなるはずだが──


「──そうだ、いい機会だから『あれ』を試すとしましょうか」


 ふと、アリスはいいことに気付いてほくそ笑む。

 自らのこれまでの研究の集大成を実験するときが来たのだと、彼女はそう考えていた。


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