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魔術学院を首席で卒業した俺が冒険者を始めるのはそんなにおかしいだろうか  作者: いかぽん
第四章

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第三十八話

 王城の中庭の一角。

 騎士たちが訓練に使う広場に、いまは二人の少女が向かい合って立っていた。


 片方は銀髪ショートカットの王子様的ルックスの少女。

 もう一方は黒髪ポニーテイルの着物姿の少女だ。


 ところで実にどうでもいいことだが、アイリーンを「姫騎士」などと呼称したサツキのセンスは、少々いかがなものかと思う。

 「姫」と「騎士」は両方とも身分を表す用語だという指摘をさて置くとしても、あれを姫騎士などと呼ぶのは幾分か何かを間違っている気がするのだが……まあ、やはりどうでもいいことか。


「はい、これ使って。真っすぐな形状の木剣しかないけど、使い慣れてない武器だから負けましたって言い訳にできていいでしょ」


 アイリーンは広場の脇まで歩き、そこに置いてあった木剣の束から二本を手に取ると、そのうちの一本をサツキに投げて渡した。

 それを片手ではしと受け取ったサツキは、憎々しげにアイリーンを睨みつける。


「はっ、泣かしてやるよお姫様。そっちこそ負けたときの言い訳をいまのうちに考えとけ」


 そう言ってサツキは、受け取った木剣を構えて立つ。

 背筋を伸ばし正眼に剣を構えたその姿は、やはり惚れ惚れするような美しさだった。


 そして一方のアイリーンも、サツキの正面へと戻ると剣を構えて立つ。

 サツキが木剣を両手で構えて真っすぐに立つのに対して、アイリーンは片手で剣を持ち、左半身を前にした半身で構えていた。

 アイリーンも普段は盾を使うのだろうから、実際のところ武装の不利はお互い様というところか。


 俺とミィ、シリルの三人は、その二人の様子を少し離れた横合いから見守っていた。

 俺の左右にミィ、シリルが立っている形である。


 するとミィが、俺のローブの裾をくいくいと引っ張りこう聞いてきた。


「わりとどーでもいい戦いではあるのですけど──ウィリアムはこの勝負、どっちが勝つと思うですか?」


 何だかんだと言ってミィもそれなりに興味があるようだった。

 俺はそれに対し、少し考えて答える。


「サツキには悪いが、勝負にならんだろうな」


「……お姫様、そんなに強いの?」


 ミィとは逆側にいるシリルが、俺を覗き込むようにして聞いてくる。

 それに対し俺は、対峙している二人の剣士から視線を外さずに答えた。


「ああ。──あれは王国きっての怪物だ」


 そして実際、結果はその通りになった。

 俺が合図を任され、「始め」の声を上げた、その次の瞬間のことだった。


「なっ……!」


 十歩分ほどあった距離を瞬く間に詰め、身を低くしてサツキの懐に潜り込んだアイリーンが放った、すくい上げるような一撃。

 サツキはそれに反応して、バランスを崩しつつ受け止めるのが精一杯だった。


 そして一拍の後には、サツキが手にした木剣は宙を舞っていた。


「反応したのは褒めるよ! でもさ!」


「──おわっ!?」


 アイリーンはさらに、剣を持っていない左手でサツキの右手の袖をつかむと、同時に足を引っかけてサツキをあおむけに倒した。

 そして自らも覆いかぶさるようにして倒れ込み、サツキを押し倒すようにして彼女の首筋に木剣を当てた。


「……っ!」


「ふふっ、僕の勝ちだね」


 一足遅れて、宙を舞っていたサツキの木剣がからからと音を立てて地面に落下する。

 あっという間の勝負だった。


 アイリーンは立ち上がると、自身の衣服についたホコリをはたく。


「──さて、それじゃあ今度こそ僕の部屋に案内するよ。ついてきて」


 そしてサツキの木剣も拾い上げて元の場所に戻すと、敗れたサツキを置き去りにして城館のほうへと歩いていった。


「……くそっ!」


 残されたサツキはその場に座り込むと、作った拳で悔しそうに地面を殴った。


 ──だが、強者は自分より上がいるのを知ることによってより高みを目指すようになることも多いものだ。

 いまはアイリーンに軍配が上がるが、サツキも傑物だ。一年後にはどうなっているか分からない。


「──サツキ、行こう」


「……ああ」


 俺が手を差し伸べると、サツキは声を震わせながらも俺の手を取った。

 その様子を見て、俺はこのサツキという少女がこれからまだまだ強くなるであろうことを確信していた。


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