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魔術学院を首席で卒業した俺が冒険者を始めるのはそんなにおかしいだろうか  作者: いかぽん
第四章

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第三十四話

 さて、社会戦にとって重要なのは、何よりも情報だ。

 まずはゴルダート伯爵に関する情報を集めることから始めるべきだ。


 俺は朝食を終えると、自室に戻る。

 そして荷物袋から大きめの手鏡を取り出して固定すると、魔術師の杖メイジスタッフを手にして呪文の詠唱を開始した。


 行使する呪文は、通信系呪文の交信コンタクトである。

 この呪文は専用の鏡同士を魔法で接続するもので、両者の映像と音声を伝達することができる。


 鏡にはそれぞれ、アクセスナンバーが定められている。

 俺は対象となる鏡の番号を思い浮かべながら、呪文を完成させた。


 すると台の上に固定した鏡に、その情景が映し出される。


 そこは魔術学院の研究室の一つだ。

 決して小さくない机の上には多数の本が無造作かつうず高く積まれていて、いまにも崩れて倒れそうだ。


 そして、その机の一角だけがどうにか片付けられていて、その前には一人の老人が座って何かに取り組んでいた。

 机の上に置いた紙に書き物をしては、頭をかき、書いたばかりの紙をくしゃくしゃに丸めて放り投げる。

 研究室の床には、そうして放り投げられた紙屑が、あちこちに落っこちていた。


 俺は一つため息をつき、鏡に向かって声を掛ける。


「教授、お久しぶりです。相変わらず整理整頓や片付けは不得手のようで」


「……ん? ──おおっ、ウィリアムか!」


 書き物に没頭していた老人は、顔を上げて鏡の向こうから俺のほうへと視線を向けた。

 いま研究室にある鏡には、俺と俺がいまいる部屋が写されているはずだ。


「はんっ、以前から言っておろう。ワシは片付けないのではない。これがベストの配置なのだ。こうして資料がすぐ手の届くところに置かれている環境こそが、研究者にとって最も望ましい状態なのだよ」


 そう言って老人は机の上に積み上げられた本を、ポンと手で叩く。

 すると──


「──うおぉっ!」


 ドサドサドサッ。

 机の上に積まれていた本の山が崩れ、一斉になだれ落ちた。


 もうもうとホコリが舞う。

 俺は相変わらずの教授の姿に苦笑した。


「ケホッ、ケホッ……そ、それで何の用じゃウィリアム。そろそろ冒険者に飽いて、仕事の口利きでもしてほしくなったか? ワシの助手の席ならいつでも空いておるが」


「いえ。飽きるも何も、まだ冒険者としては入り口に立ったばかりです。それよりも教授に一つお聞きしたいことが」


「何じゃ、言ってみい」


「はい。学院の出身者で、ゴルダート伯爵の元に宮廷魔術師として赴任した者がいれば、教えていただきたいのです」


 俺は教授にそう頼み事を持ちかける。


 なお宮廷魔術師という呼称は、狭義では国王の側近として仕える魔術師を指すものだが、広義では王侯貴族の側近として仕える魔術師を総称したものとなるため、こうした使い方も決して間違いではない。


「……ほう? ちょっと待っておれ」


 教授は部屋の脇にあった本棚の前まで行って、そこから一冊の分厚い書物を取り出して、持って戻ってくる。

 そしてペラペラとページをめくり、一つのページでその手を止めた。


「あったぞ。ちょうど三年前の卒業生に、ゴルダート伯爵のところに赴任した者が一人おる。名前はアリス・フラメリア──いや待て、こいつは確か……」


 教授は持ってきた本を机に置き、再び本棚へと向かう。

 そして別の一冊の本を持ってきて、またそれをめくり始める。


「あった! やはりそうじゃ。アリス・フラメリア──死霊魔術分野で卒業論文を提出した異端児じゃ。卒論のタイトルは『下級アンデッドの自然発生条件に関する考察』。だが学院で暗黙裡に禁忌とされている死霊魔術に関わるものゆえ、論文はまともに評価されずじまいだったと聞いておる。……っと、それでウィリアムよ、お主は何故そんなことを聞いてくる?」


 そこで我に返った教授が、俺に向かってそう聞いてきた。


 一方の俺も、少し驚いていた。

 ゴルダート伯爵に関する情報を得るために彼の宮廷魔術師に接触を図ろうと考えていたのだが、思わぬ情報が転がり込んできた。


 一気に事の全貌が見え始めた。

 これは思わぬ拾い物だ。


「いえ、少々看過しがたい問題に直面したので、その情報をと思ったのですが……教授のおかげで一気に事の全体像が見えてきたように思います」


「ほうほう。何だか知らんが、役に立ったのであれば何よりじゃ。今度酒の肴にでも構わん、その話、話せる段階になったらワシにも教えてくれ」


「はい。このお礼はいずれ。それでは教授、失礼します」


「うむ。頑張れよ」


 俺は精神集中を切り、通信コンタクトの呪文を終了させた。

 鏡が元通り、俺と俺の部屋を映し出すものへと変化する。


「……さて」


 これはどうしたものか。


 期待していた情報窓口そのものが、かなりの確率で黒であることが判明した。

 俺は想定していたロジックを組み替え、自身の次の行動について再検討をしてゆくことにした。


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