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魔術学院を首席で卒業した俺が冒険者を始めるのはそんなにおかしいだろうか  作者: いかぽん
第四部/第四章

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第百七十二話

たびたび更新止まってすみません。

こんな百合コメディ(『辺境勤務の魔法少女 ~怪物すぎる新人と、おいしくたべられそうになる先輩~』 https://ncode.syosetu.com/n7885fi/)を書いたり、確定申告に苦戦したり、えちえち短編書いてノクタに投稿したりしていました。


なお『魔術学院~』の3巻の表紙イラストが公開許可出たので、活動報告のほうに貼ってあります。

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/449738/blogkey/2263389/

今回もカカオ先生のイラストは超美麗ですので、是非是非素晴らしいイラストをご覧くださいまし。

 巨敵を倒せば、あとは解散の流れだ。


 王国軍は後始末に奔走しているが、そこまでは俺たちの仕事ではない。

 宮廷魔術師団長ジェームズもまた、後始末に参加するべく俺の前から立ち去っていった。


 一方、服を着て身なりを整えた俺のもとには、この時を待っていたというようにサツキが駆け寄ってくる。


「ウィルぅ、会いたかったよぉ!」


「おわっ!」


 サツキは俺に向かって飛びつき、抱きついてきた。

 俺はその勢いに負け、押し倒されてしまう。


「ウィルぅ、ウィルぅ……!」


「お、おい、サツキ」


「えぐっ……怖かったよぉ。死ぬかと思ったよぉ……ひっく」


「……そうか」


 俺を押し倒したサツキはしかし、俺の胸の上で小さく嗚咽していた。

 それまで抑えていた感情が、抑える必要がない場所に来たから爆発したという様子だ。


 俺はそんなサツキが愛おしくなって、その髪を優しくなでる。


「大変だったんだな」


「……うん。ウィルがいないと、こんな大変なんだって」


「そういう問題ではないと思うが。しかし、よく頑張ったな」


「うん」


 俺が見ていなかった間、サツキの前で何が起こって、彼女が何を感じたのかは分からない。


 だが俺は、子供をあやすようにサツキの背中をぽんぽんと叩き、それから彼女を軽く抱き寄せる。

 そうすれば落ち着くなり、安心するなりするだろうと思った。


 外野から見れば男女の関係に見えるかもしれないとも思ったが、もうそれはいいかと割り切ることにする。


 すると、そこにシリルが歩み寄ってきて、倒れた俺たちを上から覗き込んだ。


「いいわね、サツキってこういうとき、そういうのが躊躇なくできて。羨ましい」


「なんならシリルも同じようにするか? 毒を喰らわば皿までだ」


「遠慮しておくわ。私には恥も外聞もあるもの」


「その言い回し、どこかで聞いた記憶があるな」


「私もどこかで言った記憶があるわ。いい加減、付き合いも短くないものね」


 言ってシリルはくすくすと笑う。

 俺もふっと笑いがもれた。


 それからシリルは、周囲を見回して聞いてくる。


「ところで、ミィはどうしたの?」


「ああ。彼女には悪いが、遺跡の前に置いてきた。ほかに手段がなかった」


「なるほど。じゃあ早く回収しに行かないと、今頃拗ねているかもね」


「そうだな」


 俺とシリルがそんなことを話していると、今度は国王アンドリューとアイリーンが並んで俺のほうへとやってきた。


 そろそろ落ちついたサツキも起こして立ち上がると、俺はアンドリュー王へと小さく一礼する。

 甲冑姿のアンドリューは、ニッと笑って語り掛けてきた。


「色男ぶりが一層増したようで何よりだな、ウィリアム。だがそれよりも、今は救国の英雄ウィリアムとして称えるべきか」


 アンドリュー王のいつもの口上手だ。

 俺は努めて冷静に返事をする。


「……いえ。俺は冒険者ですので、依頼されたクエストを果たしただけです。それにあの魔王を撃退できたのは、俺一人の力などでは到底ありません。それは陛下もよくご存知でしょう」


「そうだとしてもだ。お前がいなければおそらくこの国は滅びていたのだぞ。その仕事は誇れ。それに民衆は英雄を求めるものだ。俺はウィリアムという冒険者とその一行は、そう呼ばれるに相応しい偉業を成し遂げたと思っている」


「……もったいないお言葉です」


「そこでだ。ひいては後日、英雄ウィリアムとその仲間の美女冒険者たちを称える式典を催すことにした。今回のクエスト報酬も特例的にそこで渡す。主賓がいなくては式が台無しだから、是非参加してくれ」


「分かりました。では式典にてクエスト報酬を受け取り──えっ」


 ──待て。

 今、何かとんでもないことを言われた気がしたが。


 だがアンドリュー王は、俺の反応など無視して流れるように話を進めていく。


「場所は王都グレイスバーグの王城。日取りに関しては追って、交信コンタクトの呪文を使って伝えることにする。では、次は式典で会おう」


 アンドリュー王は言いたいことだけを言って踵を返し、さっさと向こうへ行ってしまった。

 俺としては唖然とするしかない。


 正式な式典で英雄として称えられるということの影響力は、計り知れない。


 だがアンドリュー王を追って話をしたところで、せっかくの厚意を断るだけの理由もない。

 どうしてこうなった……。


 だがそこで、俺はひとつ気付く。


 アンドリュー王は去っていったが、アイリーンはまだ俺の前に立っていたのだ。

 そして彼女は、儚げに笑みを浮かべると、俺に向かってこう言った。


「ねぇ、ウィル。──僕、キミに伝えたいことがあるんだ」



 ***



 しばらくの後。

 俺たちはイルドーラの背に乗り、大空を旅していた。


 向かう先は、ミィが待つ遺跡の前だ。

 国から受けたクエストを果たした俺たちは、あとはミィと合流して帰還するだけという状況である。


 だからイルドーラの背に乗っているのは、俺のほかには、サツキとシリルだけ──

 本来なら、そのはずだったのだが。


「アイリーン、王国軍と合流して帰らなくて良かったのか?」


「うん。お父さんには、ちゃんと言ってきたから」


 俺の後ろにぴったりとついたアイリーンは、俺の問いにそう答える。


 アイリーンは俺に話があると言って、俺たちのほうに一緒についてきたのだ。

 クエスト自体は完了しているのだから、依頼人である彼女がついてくる理由は、その点ではもうないというのに、だ。


 ちなみにだが、彼女はイルドーラの背に乗るときに、俺の真後ろの場所に座りたいと頑なに主張していた。


 それにはサツキが一度は口を尖らせたのだが、アイリーンが真剣なトーンで「お願い」と言うと、サツキも何かを察したのか、すんなりと自分の主張を取り下げた。


 そういうわけで今、俺の真後ろにはアイリーンがいる。

 何か大事な話があるということは、間違いないと思うのだが……。


「ねぇ、ウィル」


 アイリーンが、言葉少なに語り掛けてくる。

 それに俺も、最低限の相槌をうつ。


「なんだ」


「僕ね」


「ああ」


「ウィルのこと、好きなんだ」


「…………そうか」


 アイリーンの告白を受けた俺は、自分で想像していたよりも落ち着いていた。


 なんだ、やはりそうなのか、という感想だ。

 可能性としてはずっと想定していて、しかし、それ以上の認識は半ば意識的に避けてきたこと。


 だがさすがに、このシチュエーションでこんな言い方をされれば、ほかに解釈のしようもない。


 それでもアイリーンは、まだ不安なのか、言葉を重ねてくる。


「女と男の、恋愛的な意味でだよ?」


「分かっている」


「分かってるんだ」


「ああ」


「ずっと分かってたの?」


「いや。確信したのは今、キミの告白を受けてだ」


「……じゃあこれまでも、そうかもしれないと思ってた?」


「まぁ、可能性としてはな」


「ちぇっ、なんだよそれ。僕がバカみたいじゃん」


「すまない。騙すつもりはなかった」


「……うん。ウィルがそういう言い方をするとき、嘘はついてないんだってことを僕は知ってる。僕はウィル専用の嘘看破ディテクトライの魔法を使えるんだ」


「それは怖いな。俺はアイリーンには嘘をつけないのか」


「ふふっ、そうだよ。ウィルは僕に、嘘をつくのは禁止。──だから、だからさ。これを聞くのは、すごく怖いんだけど」


「ああ」


「本当は、僕の気持ちを伝えられればそれでいいって思ってたけど、でも、やっぱり、聞くね」


「ああ」


「……ウィルは僕のこと、どう思ってるの?」


 そのアイリーンの声は、うわずって、震えていた。

 怖くて怖くて仕方がない、そういう声だ。


 俺は少し考えて、ひとまず答えやすい部分だけを答える。


「嫌いではない、というのは間違いないな」


「うん、それは知ってる」


「知ってるのか」


「そりゃあそのぐらいのことは分かるよ。それは僕のことをバカにしすぎ。──でも、そうじゃなくて。僕が聞きたいのは、その先」


 アイリーンが不意に、背後から俺に抱きついてきた。

 そして俺の耳元で、ささやいてくる。


「……僕のことを、女の子として……恋愛の相手として、好きになってくれますか」


 最後の方は、弱々しくかすれて聞き取れないほど。


 俺の背中に密着したアイリーンの胸から、彼女の早鐘のような鼓動が伝わってくる。


 アイリーンが今、なけなしの勇気を振り絞って頑張ってくれているのだということが分かってしまう。


 不誠実な返事は、絶対にできない。


 俺は──


「……アイリーン」


「はい」


「最初に謝っておく。俺は俺の気持ちを、うまく説明できる自信があまりない」


「……うん。分かるよ。僕だって、僕の気持ちを持て余すもん」


「ああ。……その上で、どう言ったらいいのか分からないんだが……俺は多分、キミのことが好きだ」


「多分」


「ああ。キミのことは可愛いと思うし、愛おしくも思うし、素敵だと思う。ドレスを着たキミは美しかったし、普段のキミのことも好きだ。キミが俺の人生のパートナーなら、それは素晴らしいことだと思う」


「あ……あうぅ……。そ、そうなんだ……。え、えへへ……にゃはははっ……」


 背後で抱きついているアイリーンが、ぐでんぐでんに照れているのが分かった。

 それは微笑ましいし、俺も幸せな気持ちになる。


 だが問題は──


「でも、じゃあ、『多分』っていうのは何なの?」


「そ、それはだな……これは落ち着いて聞いてほしいのだが」


「う、うん」


 ごくり、とアイリーンが唾をのむ音が聞こえてくる。

 俺は意を決し、その言葉を放つ。


「どうも俺は、アイリーンだけでなく、サツキや、ミィや、シリルのことも好きなようなんだ」


「…………」


 アイリーンの言葉が止まった。


 今度は俺が審判を待つ番だった。


 要するに俺は、複数の女性のことを同時に好きになっている気がする、という告白をしたのだ。

 いわゆるところの「四股」というやつである。


 侮蔑のまなざしを浮かべたアイリーンの顔が、脳裏に思い浮かぶ。


 今アイリーンは、何を思っているのか。

 俺のような不埒者は死ねばいいとでも思っているだろうか。


 あの凄腕の剣術で、怒りのままに背中から真っ二つにされるかもしれない。

 いや、アイリーンに限ってそんなことはしないと思うが、そうされてもいいぐらいの覚悟は俺も持っていた。


 審判の時を待つ。


 次に発せられた、アイリーンの一言は──


「……えっと、それだけ?」


 拍子抜けしたというような、そんな声だった。


 ……ん?


「ああ。……ま、まあ、それだけだが」


「あー……つまり、そっか。ウィルは、僕のこともサツキちゃんのこともミィちゃんのこともシリルさんのことも全員愛しているような気がするから、それは一人一人を正しく愛していることなのか確信が持てないっていうこと?」


「……まあ、要約すると、そういうことになるか」


「ふぅん。──そっか。そっかそっか。そっかそっかそっか。えへへへー」


 アイリーンは何やら、嬉しそうな声を上げ始めた。


 どうしてそうなる。

 俺にはそろそろ理解不能だ。


「ちなみにさ、それってサツキちゃんたちは知ってるの? ウィルがサツキちゃんたち全員のことも愛しているって」


「いや、少なくとも俺の口からそれを伝えたことはないが……」


「えーっ。うわぁ、なんか思ってた以上に変な状況~。でもそっか、現状僕だけ知ってるんだ。そっかそっか、うひひひひ」


 ついにアイリーンが壊れ始めた。


 とりあえず、一刀両断の断罪は逃れられたようだが……。


「ねぇ、ウィル」


「な、なんだ、アイリーン?」


「僕、ウィルのことが大好きだよ。キミのことが好き。それはキミがサツキちゃんやミィちゃんやシリルさんのことまで好きでいたとしても、変わらない。キミのその気持ちが正しいとか正しくないとかは置いといて、僕はそんなキミが好きだよ」


「……そ、そうか」


 ……何だこれは。

 よく分からないが、丸く収まったのか?


 俺がひとり戦々恐々とする一方で、アイリーンは嬉しそうに、俺に抱きついているのだった。


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