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第百六十五話

続けての連絡、失礼します。

本作『魔術学院を首席で卒業した俺が冒険者を始めるのはそんなにおかしいだろうか』の二巻が明後日、11月30日に発売予定です!

本当に素晴らしいカカオ・ランタン先生のイラストの数々(特にあれとあれとあれとあれは激ヤバ!)に加え、書き下ろしの短編も、冒険とハーレムコメディをテーマにした自信作です。

よろしければ是非是非、お手に取っていただければと思います。よろしくお願いします!

 アンドリューたちが街の中央広場に向かうと、そこには凄惨な光景が広がっていた。


 極獄の宝珠が破られたわけではない。

 だがその内部、魔王のほかに数体いた魔族たちはあらかたが食い散らかされ・・・・・・・、あちこちに肉片が飛び散り、緑色の体液が地面に広がっていた。


 魔王はというと、今は最後の一体の調理を開始しようというところだった。


 極獄の宝珠が作るエネルギーフィールドの端でおびえる魔族。

 そこに魔王が無造作に歩み寄る。


 魔王の体は、元々は筋肉質で体格に恵まれた人間といったぐらいの体型だったが、今はそれが怪物的に膨張し、オークにも似たぶくぶくとした肥満体が筋肉と氷鎧をまとったような姿になっていた。

 その体からは、漆黒のオーラが溢れ出るように発せられている。


 それを見たアンドリューは、極獄の宝珠の外にいながら、険しい表情で側近の宮廷魔術師長ジェームズ・グレンフォードへと声をかける。


「姿が変わっているな。ジェームズ、あれをどう見る」


「さて、前例は寡聞にして存じませんが、おそらくは共食いの結果かと」


「だろうな。食当たりを起こして自滅でもしてくれればいいが──ありゃあどちらかと言うとパワーアップしていそうな雰囲気だな」


「はい。少なくとも、そうであると想定して戦術を練り直すべきでしょう」


「半日かけた軍議の結果が白紙か。暇をさせてはくれんな」


 二人がそうして話している間にも、魔王は最後の雑魚魔族を襲っていた。


 もはやこれまでと魔王に反逆した魔族の胸を、魔王が放った手刀がひと突きで串刺しにする。

 そして魔王の手は、そこにあった魔族の心臓のような臓器を引っこ抜いた。


 ギャアギャアと悲鳴を上げてもがき苦しみ、地面をのたうち回る魔族。

 それを足で踏みつけにしつつ、魔王は臓器を口に運び、おもむろにかみちぎり、咀嚼そしゃくする。


 あとはもう、ただの残虐な殺戮劇だった。

 臓物を食べ終わった魔王は、次には魔族の腕を引きちぎって食べ、さらには脚を、尻尾を、それから胴体の肉に食らいついて、最後に頭部を噛み砕いていく。

 その途中で魔族は動かなくなり、殺戮劇は単なるグロテスクな食事風景へと変わった。


 そして全部の食事を終えると──どくん、と魔王の肉体が震えた。

 ついで、その肉体がさらに一段階もり上がり、その身にまとった漆黒のオーラが濃度を増す。


 やがて魔王は、アンドリューのほうへと視線を向けた。


 両者の間には、極獄の宝珠によるエネルギーフィールド。

 魔王はゆっくりと、エネルギーの壁へと歩み寄り、ついにはその障壁の前に立った。


 膨れ上がった巨体が、静かに腰を落とし、素手格闘技の達人を思わせる姿勢で腰だめに拳を構えた。

 その拳に、魔王の漆黒のオーラが集中していく。


「……ジェームズ。たしかあの極獄の宝珠がつくるエネルギーの牢は、力ずくでは絶対に壊せないという話だったと思うが」


「はい。現存するすべての関連史料を確認したはずですが、物理的・魔法的その他の力によって強制的に破壊されたという前例は、いかなる文献にも存在しません」


「そうか。ところでこれは俺の勘だが──その史料には、新たな一ページを加えなければいけなくなるぞ」


 アンドリューが、そう予言をした直後──


 ──ガゴォオオオオオオオン!!!


 城塞に破城槌を衝突させたときの何倍にも匹敵する衝撃音が、あたりに響き渡った。

 魔王の拳が、極獄の宝珠が作るエネルギー壁に打ち付けられていた。


 ──ヴ、ヴンッ……!

 エネルギーの牢が、ほんのわずかだが明滅した。

 それはすぐに元の形を取り戻したが、拳が打ち付けられる前と比べると、その様子はどこか心許ない。


 魔王は一度息を吐き、再び拳を構える。

 その場に集まっていた王国の最精鋭たちが、にわかにざわめき始めた。


 それらを確認したアンドリューは、部下たちに向かって素早く指示を出す。


「アイリーンに緊急連絡だ──事情が変わった、イルドーラとともにすぐに現地に飛んで来い、炎の魔剣は手に入ってなくても構わん。それからこの街にいる勇者たち全員に通達。臨戦態勢を整えてただちに広場に集合、先方のわがままでパーティの予定が早まったと伝えろ」


 アンドリューの指示を受け、伝令に走っていく部下たち。

 それを横目にしながら、アンドリューはもう一人の側近──王国騎士団長ディランへと声をかける。


「魔王というのがこれほどの相手だとは、正直に言って予想外だ。──この戦い、勝てると思うか?」


 対する騎士団長ディランは、三十路ごろの顔立ちになかば軽薄そうにも見える薄笑いを浮かべつつ、その糸のように細い目を光らせる。


「さあ、どうでしょうねぇ。しかし勝たねば事実上の国の滅亡でしょうから、勝つよりほかにありませんね。──それにしても陛下、もうあれ『魔王』とかいう次元ではないのでは?」


「ほう、そう見るか。では魔王でなければ何だ」


「そうですねぇ……魔王の格上なれば、『魔神』とでも呼びましょうか」


「安いネーミングセンスだな。だが気に入った。あれは『氷の魔神』として我が国の歴史に書き記すことにしよう」


 それを聞いた騎士団長ディランは、アンドリューに向かって肩をすくめてみせる。


「あれを打倒して、生きて帰れればの話ですね」


「なんだディラン、お前負ける気でいるのか?」


「実際にやってみないと何とも。ただ、私が本気を出せる相手──まして武王アンドリューと肩を並べてともに戦える相手など、今生で二度と出会えるかも分からない。存分に楽しませてもらいますよ」


「俺も最近、国の業務で忙しくてなまってるからなぁ……ま、やるだけやるか」


 話を終えると、その場で準備運動や柔軟体操を始める国王と騎士団長。


 その二人の様子を見て、宮廷魔術師団長ジェームズは、やれやれといった様子でため息をつくのだった。


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