表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術学院を首席で卒業した俺が冒険者を始めるのはそんなにおかしいだろうか  作者: いかぽん
第三部/第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

124/179

第百二十三話

 シリルを普通に起こして四人で朝食をとる。

 それから俺たちは宿を出て、クエストの依頼人であるノーバンの女市長、ドワーフのイヴリアの居館へと向かった。


 なお、昨日の探索を終えた後すぐに、短時間に三体ものロックワームに遭遇した件は報告してある。

 その際には討伐証明を確認してもらった上で、三体討伐分の報酬として金貨百二十枚を受け取っていた。


 ちなみに、昨晩俺たちが宿泊した「白鳥の翼亭」の宿泊費は、高級宿だけあって一泊二食付きで一人あたり金貨五枚とかなりの高額だった。

 普段の安宿なら二十泊できる宿泊費である。


 さすがに相当な金額だが、昨日の討伐による報酬はそれを支払ったうえでたっぷりとおつりが来るものだ。

 また、すでにクエスト達成条件も満たしている。

 ゆえに俺たちはこれ以上この件には深入りせずに、ここでクエスト終了を決めてアトラティアへと帰還しても良い立場ではあった。


 だが俺たちの報告を受けたイヴリアは、翌日また来てほしいと言った。

 一晩かけて検討し、対策を考えるとのことだった。


 なお報告の場に一緒にいた先輩冒険者たちは、ボロボロになりながらもどうにか一体のロックワームを撃退してきたらしい。

 一方で彼らは、三体撃破したという俺たちの報告に全員あんぐりと口を開け、これ以上は自分たちには無理だと翌日の来訪は断った。

 今頃は都市アトラティアへ向け帰還の途についている頃かもしれない。


 そういったわけで、今日の市長への訪問は俺たち四人だけ──そう思っていたのだが。


「よう、待ってたぜ」


 市長の館へと続く階段を上った先、館の門の前には、一組の男女がいた。


 一人は赤髪の体格の良い青年で、黒衣と漆黒の鎧に身を包み、背には大剣を負っており。

 もう一人は銀髪ロングヘアーの女性で、黒のローブを身にまとい、手には魔術師の杖を持っていた。


 その二人の──特に赤髪の青年の姿を見て、サツキたち三人がその身に緊張を走らせる。

 それは昨晩に宿の浴場で出会った、あの不愉快な青年だった。


「……なぜキミたちがここにいる」


 俺は赤髪の青年に問いかける。

 彼我の距離はおよそ十歩ほど。

 青年はその長身から、無造作に俺を見下してくる。


「なぜってそりゃあ、俺たちもクエストを受けてこの街まで来たからだろ。何だっけ、虫退治だとか何とか──なぁ、セシリア?」


「恐れながらグレン様、ロックワーム退治です」


「ああそれだ。まあ何でもいいさ」


 かたわらに控えた銀髪の女性から助言を受けつつ、グレンと呼ばれた青年はそう答えてくる。


 よく見ると、その青年と女性の首元にはそれぞれ銀の冒険者証が輝いていた。


「う、そ……Bランク……!?」


 シリルが驚きと怯えを含んだ声をあげる。

 俺たちが持っている青銅製の冒険者証がEランクを示すものであるなら、彼らが身につけている銀製の冒険者証はBランク冒険者の証だった。


 Bランクというのは極めて優秀な、超一流の冒険者のみが持つ格付けと言える。

 一人前と見なされる冒険者でもたいていはDランクか、有能な者たちでもCランクであることがほとんどだ。


 俺たちが拠点としている都市アトラティアの冒険者ギルドでは、Bランクに到達している冒険者は二人のみと聞いていたが──

 つまり、彼らがその二人ということなのだろう。

 まさかこのような場で会うとは思ってもいなかったが。


 一方で青年は、先のシリルのつぶやきを聞きとがめたようだ。


「Bランク? ──ああ、この冒険者証か。だが冒険者ランクなんてのは飾りだろ。だいたいお前ら自身、Eランクって柄でもねぇ。そっちの女──確か東方の国のサムライっつったか? あの風呂で見せた力、なかなか大したもんだったと思うぜ?」


「チッ……!」


 青年の言葉に、サツキが苛立たしげに舌打ちをする。

 褒められたというより、バカにされたと感じたのだろう。

 俺はその肩に手を置き、彼女をたしなめる。


「落ち着け、サツキ」


「……ああ、分かってる、分かってるよ……」


 しぼり出すようなサツキの声。

 彼女は衝動的に刀に手をかけそうになるのを、必死に抑えている様子だった。


 一方の青年は、そんなサツキをあざ笑うかのように、こんなことを言ってくる。


「ハハッ、そんなに睨むなよ女。なにも今すぐお前らを取って食おうってわけじゃねぇ。無理やりってのも悪くねぇが、犯罪者呼ばわりされんのもいろいろと面倒だ。それにな、俺たちゃこれから仲間同士なんだ。ほどほどに仲良くやろうぜ?」


「……仲間? どういう意味です? ミィはお前の仲間になるつもりなんてさらさらないです」


 ミィがそう聞き返すと、青年はくっくっと笑う。


「こりゃあ随分と嫌われちまったみたいだな。まぁいい、そのほうが面白い。──なぁに安心しろよ猫。仲間ってのは、同じ虫退治をする冒険者同士ってことだ。一緒のパーティで仲良しこよししようってわけじゃねぇ」


「……話はいまいち見えないですけど、それは確かに安心です。お前とパーティを組むとか、ミィはクソ喰らえです」


 ミィは吐き捨てるように言う。


 だがミィの言う通り、いまいちはっきりと話が見えない部分がある。

 彼らも俺たちと同様に、ロックワームを退治して回るということのように聞こえるが──


「まぁこんなところで立ち話してても何だ。お前らもさっさと依頼人から話聞いてこいよ。こっちの話はその後だ」


 そう言って青年は、市長の屋敷の門を示した。

 言われずともそのつもりだった俺たちは、彼ら二人を横目にしつつ、市長の館を訪問した。



 ***



「つまり、この件は当初想定していたよりも遥かに由々しき事態である可能性がある──ということでの」


 昨日と同じ応接室。

 ドワーフの市長イヴリアは、少女のような顔立ちにやや憔悴しょうすいの色を見せつつそう言ってきた。

 昨晩はずっと街のことを考えていて、ろくに眠れなかったのだという。


 彼女がそうなったのは、無論、昨日俺たちが報告したロックワームの件が原因であった。


 彼女の副官が資料をひっくり返したところ、とあるマイナーな引退冒険者が書いた冒険譚の記述の一つに、今回のケースと似た事例を発見したのだという。

 俺もその冒険譚は読んだことがなかったから、話を聞いて驚いた。


「その『マザーロックワーム』というモンスター、本当に実在するのでしょうか?」


 シリルがそう聞くと、市長の隣に立っていた副官の導師ウィザードは、首を横に振る。


「それは分からない。件の冒険譚を記述した作家の創作である可能性も捨てきれない。だが現にこのノーバンの坑道でイレギュラーと呼べる数のロックワームと遭遇している以上は、実在の可能性を無視するわけにもいかないな」


「そうですよね……」


 シリルが思案顔でうなずく。

 なお俺も、市長の副官の意見には賛成だった。


 副官が探し出してきたその冒険譚には、ロックワームを生み出す母体、マザーロックワームというモンスターの存在が記されていた。


 冒険譚の主人公──すなわち筆者が、仲間たちとともにとある遺跡を探索していると、そこで立て続けにロックワームに遭遇する。

 冒険者たちがそうしたロックワームからの逃走を繰り返していると、やがて一つの大広間に出る。

 そこにはうじゃうじゃと大量の小型ロックワームがいて、その中心には、何体ものロックワームを束ねたような形状の怪物がいた──という、若干ホラーテイストの話であった。


 市長のイヴリアは、苦しげな面持ちで言葉をしぼり出してくる。


「もしそんな生き物がこのノーバンの鉱山内に棲みついているのだとしたら……このノーバンという都市そのものの存亡にも関わりかねない一大事だ。本来はお主らのような駆け出しの冒険者に依頼するような件ではないのだが……何とか引き受けてもらえぬか? 当然、それに見合った報酬は払わせてもらう」


 俺たちが現在イヴリアから依頼されているのは、その実は昨日のクエストとほとんど変わらない。

 坑道を調査し、ロックワームを見つけ出して退治してほしいというものだ。

 一応、その際に何らかの情報を得たらそれを伝達することも依頼内容に含まれているが、こちらとしては実質やることは変わらない。


 だが昨日の段階と違うのは、想定される危険度が大きく異なるという点だ。

 一体でも冒険者パーティの一団を苦しめるロックワームだが、場合によっては、とんでもない数のそれと遭遇するかもしれないのだ。


 それに加えて、そのロックワームの群れには親玉が存在する可能性があり、その戦闘力は未知数──


 それはもはや、普通に考えればDランクのクエストなどでは到底なく、最低でもBランクの評価が適当なクエスト内容と言えるだろう。

 本来ならば、俺たちのようなEランク冒険者が受けるようなクエストではない。


 だが一方で、そのロックワームの脅威はいつこのノーバン市内を襲ってもおかしくない状態だ。

 事は一刻を争う可能性もある。


 それに対し、あらためてBランク以上のクエストとして近隣の都市の冒険者ギルドに発注しても、それを引き受ける冒険者パーティがいつ到着するかも分からない──


 そうした状況ゆえに、ちょうど今この場にいる俺たちに探索・調査依頼をし、せめて情報だけでも補強しておきたいというイヴリアの気持ちは分かるところだった。


 それらを踏まえた上で、俺はあらためてイヴリアに問う。


「表の門の前で二人のBランク冒険者に遭遇したのですが、彼らには?」


「もちろん依頼したとも。だがこのノーバンにある坑道の数を考えれば、彼らだけに任せるのも心許ないのだ」


 この彼女の考えも、適切な判断と思えた。

 確かに迅速な情報収集の必要性から、探索の手数は多い方がいいだろう。


 となれば、あとは俺たちが受けるかどうかだが──


「サツキ、ミィ、シリル──どうする? この臨時クエスト、引き受けるか?」


「ウィリアムはどう思うですか?」


 俺が仲間たちに問うと、逆にミィから質問を返された。

 俺は少し考えてから、答える。


「俺の見立てでは、問題はないと思う。要は昨日と同じで、探索と撃退を繰り返す作業だ。無理な深入りをせずに慎重に事に当たることを心掛ければ、俺たちが命を落とす危険はほぼないと思える」


 それが素直な俺の見解だった。

 すると、それを聞いた仲間たちは、


「だったら引き受けるでいいだろ。報酬もウマいみたいだし」


「そうね。ウィリアムがそう言うなら、私も賛成」


「ミィもです。ウィリアムの見立ては信頼できるです」


 と、いずれも二つ返事の賛成をしてきた。

 俺はそれを受けて、イヴリアに返事をする。


「ではそのクエスト、引き受けさせてもらいたい」


「そうか、助かる。よろしく頼む」


 そう言って頭を下げるイヴリアに、俺はしっかりとうなずいてみせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ