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第百二十二話

「おっはよー、ウィルーっ! 朝だよー! 起きてーっ! 起きないと襲っちゃうぞーっ!」


「むっ……」


 翌朝。

 大きなガラス窓から、朝日が注ぎ込む早朝。

 布団の上から揺さぶられ、俺は目を覚ました。


 俺は朝にはそれなりに強い方だ。

 すぐに完全な覚醒状態になった俺は、早速彼女に突っ込みを入れる。


「サツキ、なぜキミがここにいる」


 ベッドにあおむけに横たわった俺の視界には、その俺に覆いかぶさるようにして揺さぶる着物姿の少女の姿があった。

 彼女はにへっと笑うと、その場にいたもう一人の少女を示す。


「ミィに鍵開けピッキングしてもらっちゃった☆」


 俺が上半身だけ起こして見ると、小さな獣人の少女がテーブル脇の椅子に座っていた。


「今回だけです。元気になったから今すぐウィリアムに会いたいって。今は脇役に徹してやります。感謝するですよサツキ」


 そう言ったミィは、存在感を主張しないようにか我関せずといったポーズをとっていた。


 俺は彼女と、そしてサツキの様子を見て苦笑する。


「いや、鍵のかかった部屋に侵入してくるのは、普通に犯罪なのだが……」


「まあまあ、細かいこと気にすんなよ。ウィリアムあたしの笑顔が見たいって言ってただろ。ほら、笑顔ー」


 にこーっと、俺に向かって満面のゆるい笑顔を見せてくるサツキ。

 あまりにも露骨過ぎたが、それでも俺は、少し微笑ましい気持ちになった。


「もう大丈夫か、サツキ?」


「ああ。昨日はごめんなウィル。あたしから明るいとこなくしたら、何も残んないっつーのにな」


 そう言ってたははっと笑うサツキ。

 どうやら明るさを振る舞えるぐらいにはメンタルは回復したらしい。

 問題は残っているように見えるが、これは昨日の俺の言い方も悪かったかもしれない。


「いや、そんなことはない。どんな振る舞いをしていてもサツキはサツキだし、否定されるべきものではない。昨日のあれは俺の勝手なわがままだった」


 だがその俺の言葉にも、サツキは首を横に振る。


「ううん。あたし、ウィルに好きになってもらいたいから。これはあたしの希望なんだ」


 そう言ってまた、にっこりと笑顔を見せてきた。

 なるほど、どうやら彼女なりに色々考えたようだ。


「そうか。……シリルは?」


「部屋でまだ寝てる。昨日のお返しに、寝込み襲っちまおうぜウィル」


 ふひひっと笑って、手を多足の虫のようにワキワキとさせるサツキ。

 昨日のお返しというのは、例の「荒療治」のことを言っているのだろう。

 俺は少し頭が痛くなった。


「……シリルもそうなのだが、できればそういうのは俺を巻き込まないでやってほしい。俺の理性も無限ではない」


「えーっ! ノリわりぃよウィル。一緒に寝てるシリルをくすぐってやろうぜー!」


「…………」


 ……そうか、そうだな。

 俺は一体何を想像していたのか。


 だが一方で、その様子を見ていたミィが首を横に振り、俺に同情するような視線を向けてきた。


「……ウィリアム、大丈夫です。今のはサツキが悪いです」


「へっ……? あたしが悪いって、何が?」


「サツキはビッチなのかお子様なのかどっちかにするです」


「えーっ! 何だよそれー!」


 そう不満そうに叫ぶサツキを見て、ミィもまた微笑んでいたのだった。


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