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魔術学院を首席で卒業した俺が冒険者を始めるのはそんなにおかしいだろうか  作者: いかぽん
第三部/第二章

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第百十九話

 更衣室で体を拭き、着替えて外に出る。

 更衣室の前でしばらく待っていると、女性側の更衣室からサツキ、シリル、ミィの三人が出てきた。


 ほかの二人はそうでもなかったが、サツキはじっとうつむいていて、その表情を俺に見せようとはしなかった。

 またよく見ると、彼女はその手をぎゅっと強く握りしめているようだった。


 彼女が何を考えているのか、俺には分からない。

 あの赤髪の青年に事実上敗北し、手玉に取られたことが悔しいのだろうとは思うが……。


 こういうときはどうしたらいいのか。

 何かアプローチをかけるべきなのか、そっとしておくべきなのか。


 そんなことを考えていると──

 サツキがぽつりと、こんなことをつぶやいた。


「……なぁ、ウィル。あたし……なんでこんなに弱いんだろ……」


 その声は震えていた。

 今にも砕け散ってしまいそうな少女の声。


 以前に王都グレイスバーグの王城で、彼女がアイリーンに敗北したときを思い出す。

 だが今回の悩みは、あのときよりも深刻なようだった。


「あの野郎に腕っぷしで負けるだけならまだしもさ……だってあたし……ウィルに泣きついて慰めてもらいたいって……そんなあさましいこと考えてんだぜ……?」


 そう言ってサツキは顔を上げ、その表情を俺に見せた。

 その端正な顔立ちはぐしゃぐしゃに歪み、瞳にはいっぱいに涙をためていた。


「ホント自分が嫌になる……あたし、あたし……どうしてこんなに弱いんだよ……もうやだよ、こんなあたし……ひぐっ」


 悔しさとやるせなさと、自分の不甲斐なさ──

 そして、それを自分の胸のうちにしまっておくことすらできないほどに追い詰められたという少女の姿。


 俺は彼女に手を伸ばしそうになって、躊躇する。

 そうすることは果たして正しいのか、彼女のためになるのか。


 ふとシリルとミィを見る。

 するとその二人の少女は、俺の目を見てうなずいた。


「誰だって強くばかりはいられないわよ。あなたがいいなら、やってあげて」


「ですです。それはミィの仕事じゃないです。折角好きな男が目の前にいるです。そっちのほうがいいに決まってます」


 二人の言葉で後押しをされてというのも情けない話だが、俺はそれで決意した。

 俺自身がサツキに以前、泣きたいときには泣くことだ、胸ぐらいは貸す、と言ったことも思い出していた。


 そして──何が正しいか分からなければ、決断して、その結果を受け入れる。

 もし仮に、この俺の行動の結果として彼女が「もっと弱く」なってしまったとしても、それを俺の決断の結果として受け入れること──それが俺にできるすべてだ。


 まあ、サツキの落ち度ももちろんあるとは思う。

 だがそれは、今言うべきことではないと感じる。


 俺は泣きべそをかく着物姿の少女を、そっと抱き寄せた。

 それから彼女の背に腕を回し、ぎゅっと強く抱きしめた。


 するとサツキは俺にぎゅっと抱きつき返し、そして子供のように大泣きした。


「うわあああああっ! ウィル、ごめん……! あたし弱くてごめん! こんな弱っちいあたし嫌いだ! でも、でも……うぁああああああん!」


 俺はそのサツキの背中をポンポンと叩きつつ、彼女にかける言葉を探す。

 繊細な人間感情なんて意識して扱ったことがないから、どう言葉をかけていいものか悩んだが──


「……いや、サツキは頑張っている。自分を否定するべきではない。まずは今の自分を愛してやれ。あと……俺はサツキのことが好きだ」


「……っ! ──ぅっ、うわあああああああっ! ごめんっ、ごめんっ、ウィルっ! あたしウィルのこと大好き! あたしウィルのこと好きでよかった……!」


 そう大声で泣きじゃくりながら、サツキは俺に、さらに強く強く抱きついてきた。


 だが──そこには一つ、問題があった。


 オーラを含めて加減がないサツキの全力ハグは、はっきり言って殺人技だったのだ。

 サツキに抱きしめられた俺の背骨が、めきめきと悲鳴を上げはじめる。


「ま、待て、サツキ……ギブ、ギブアップだ……ぐふっ」


「ぐすっ……へっ……? ああっ、ウィルごめん! 口から泡吹いてるし! どうしようシリル、ミィ……!?」


 そんなサツキの悲鳴が聞こえてくる中、俺の意識はぽっくりと途切れたのだった。


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