表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
117/179

第百十六話

 ──ズゥンッ!


 サツキの猛攻でロックワームは息絶え、その身を地面に横たえた。

 サツキは刀を腰に収めつつ、大きく息をつきながら俺たちのもとに戻ってくる。


「ふぅっ……これで三体目か。……なあ、さすがにちょっと数多くねぇ?」


 サツキのその率直な言葉は、おそらくは俺たち全員の想いを的確に表現していたのだと思う。

 ミィとシリルも、その表情に徐々に緊張の色を濃くしてきているように見えた。


 坑道の探索を続けていた俺たちは、すぐに別の一体のロックワームと出会い、これを撃退した。


 だがそれからほどなくして、また別の一体と遭遇。

 それをたった今、サツキが沈めたところだった。


「俺もサツキに同感だ。この短期間にこれだけ遭遇するのは、いくら何でもロックワームの大安売りが過ぎる」


「ねぇウィリアム、ロックワームって普通どのぐらい群棲するものなの?」


 シリルが少し不安そうな顔で質問してくる。

 俺は脳内に収めた知識を検索し、そこから答えを拾ってくる。


「俺が知る限り、ロックワームの群れの形成に関する研究を扱った論文はないが──一般論としては、ロックワームは単体、あるいは多くても二、三体が同一地点に棲息している程度のはずだ。……だが今回、この頻度で遭遇して、これで終わりとも思えん」


「ミィもそう思うです。──一度撤退するですか、ウィリアム?」


 ミィが俺を見上げながら聞いてくる。

 俺はその猫耳族ミャールの少女の頭に無意識に手を置こうとして──ギリギリでそのことに気付き、手を引っ込めた。


「……あ、ああ。俺もそれを考えていたところだ。クライアントに報告の必要もあるし、俺の魔素マナの残量もそろそろ心許ない。一度帰還したほうがいいだろうな」


「オッケー。ま、こんぐらい動けばあたしも満足だ。そろそろこの狭いところから出たいしな」


 そう言って、んっと小さく伸びをするサツキ。

 シリルのほうを見ると、彼女も同意するようにうなずいた。


「よし、では一度街に帰還しよう。……ん、どうしたミィ?」


 俺がきびすを返し、来た道を戻ろうとすると、その横でミィが何やら複雑そうな顔で突っ立っているのが見えた。

 だが彼女はふるふると首を横に振り、


「何でもないです。……ウィリアムはミィのこと、嫌いになったわけじゃないですよね?」


「ん……? あ、ああ、それはまあ、嫌いではないが」


「そうですか。ならいいです。気にしないでほしいです」


 そう言ってミィは俺の横をとてとてと通り過ぎ、帰り道を先行して歩き始めた。

 俺としてはよく意味が分からなかったのだが、気にするなと言われたので、ひとまずそうしておくことにした。



 ──そうして俺たちは、その日の坑道探索を終えた。


 入り口の縦穴に掛けられた梯子を上って外に出ると、外界はまもなく山間に日が沈む頃合いで、よく晴れた空が紫と朱色にわずかに染まりはじめていた。


「うっしゃー、外ーっ! ──温泉、温泉♪」


 井戸のような縦穴から飛び出したサツキは、小躍りするように街の人通りの多い方へとステップしていった。

 ミィやシリルは、そのサツキの姿にあきれた様子を見せつつも、彼女のあとをついていく。


 俺もそうした様子を微笑ましい気持ちで眺めながら、久々の外の空気を満喫したのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[一言] Bランク冒険者の件もあるしDランク冒険者の件もあるしで全体的に不穏だなぁ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ