第百十五話
~side:ウィリアムパーティ~
坑道の少し広まった場所で待ち構えている、俺とサツキ、ミィ、シリルの四人。
ロックワームが地中から姿を現したのは、その俺たちがいる地点から五メートルほど離れた場所だった。
──ギュォオオオオオオオッ!
大口を開き、雄たけびを上げて坑道に現れた岩蟲は、すぐさまその巨体を這わせて突進してくる。
だがその出現は、透視の効果で分かり切っていたことだ。
「──雷撃!」
俺は詠唱していた呪文の最後の一節とともに杖の先を前方へと向け、そこから魔法の稲妻を放った。
轟音とともに放出された稲妻は、坑道上に現れたばかりのロックワームを一直線に撃ち貫く。
ロックワームはその体が前後に長い形状だから、直線貫通の雷撃の呪文は覿面の効果を発揮した。
全長五メートルほどもある巨大な岩蟲は、その表皮と内部の肉が前から後ろまでぶすぶすと焼け焦げた匂いを発し、さらには帯電してびくびくとのたうっていた。
だが俺も、強大な生命力を持つロックワームがその一撃で倒せるとはさすがに思っていない。
事実、一時的にのたうって動きを止めていたその巨大モンスターは、またずずっとその身を揺らして前進の気配を見せ始めていた。
それを見て、俺はサツキへと呼びかける。
「サツキ、あとはやれるか?」
「お、おう。……いやでも、アレもうほとんど瀕死じゃね?」
「そうとも言うが、暴れられると厄介なのも事実だ。弱っているうちにさっさと始末したい」
「な、なるほど、そっか」
納得してくれたサツキは、軽く地面を蹴って一瞬にしてロックワームへと接敵すると、刀をパパパッと振るって巨大岩蟲の頭部を滅多切りにしていった。
サツキの刀にはあらかじめ魔力武器の呪文の効果を付与してある。
彼女自身の高い攻撃力とも相まって、岩のように硬いロックワームの表皮をさほど苦もなく斬り裂いていた。
そうしてロックワームは反撃に転じる間もなく、あっさりとその生命力のすべてを失った。
苦痛にのたうっていた後部胴体も大人しくなって、坑道の地面に横たわる。
それを確認して、サツキが刀を収めて戻ってきた。
「えっと……このクエスト、ひょっとしてこれで終わり?」
サツキは首を傾げていた。
どうにも納得がいかないという様子だった。
俺は彼女に説明する。
「確かに一体でも倒せば、『ロックワーム退治』というこのDランククエストの達成に必要な最低限の成果は満たしたことにはなるな。あとはそれ以上の戦果を求めるかどうかだが」
「ロックワームは複数いるらしいっていう話だものね」
シリルによる横からの補足に、俺はうなずく。
そして複数体のロックワームを退治すれば、その分だけ追加報酬がもらえることになる。
「ああ、まだ余力も十分に残っているし、追加報酬にチャレンジしてみてもいいだろう」
「だな。これじゃクエストやった気になりゃしねぇし。ちゃんとひと仕事終えてからじゃないと、温泉も気持ちよくないしな」
サツキはそう言って、まだまだ動き足りないというようにストレッチをしていた。
ちなみにノーバンに観光客用の温泉施設があることは、サツキの強い要望によりすでに確認済みだった。
その一方ではミィが、俺のもとに寄りつつこんなことを聞いてくる。
「でもウィリアム、ロックワームはそんなにたくさんいるですか? こいつがあっちこっちの坑道に出没していたっていう可能性はないです?」
このミィの見解はもっともなものだ。
ロックワームが地中を移動する能力を持っていることを考慮すれば、今倒したこの個体が複数の坑道に出没していた可能性はある。
「ああ、ミィの言う可能性は否定できない。が、そうでない可能性もあるし、このノーバンの人々の安全を考えれば、確認のためにももう少し探索してみるべきだろうと思うが、どうだろう?」
俺が何とはなしにミィの頭をなでながらそう問うと、三人の少女はみな賛成の意を示した。
ちなみにミィはいつも通り、猫のように気持ちよさそうに俺になでられながらの意思表明だった。
実は俺は、その段に至って初めて自らの手が彼女をなでていることを意識するのだが……。
相変わらず恐るべき魅力だった。
つい無意識的に頭をなでている。
「ミィ、キミのそれは、猫耳族に伝わる何らかの秘術だったりするのか?」
「……? 何の話ですか、ウィリアム?」
「いや……何でもない」
我ながらバカなことを聞いたと思った。
そんなのは俺の気の迷いに違いないのに、ミィのせいにしてしまうなどと……。
俺はそんなことを恥じ入りつつ、再び坑道の探索を開始したのだった。