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魔術学院を首席で卒業した俺が冒険者を始めるのはそんなにおかしいだろうか  作者: いかぽん
第三部/第一章

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第百九話

 鉱山都市ノーバンの、市長の屋敷の前。

 俺、サツキ、ミィ、シリルの四人は、使用人に案内されて屋敷の中へと入っていく。


 使用人に連れられ俺たちが通されたのは、会議室のような大部屋だった。

 コの字型に配置されたテーブルと椅子があり、俺たちはその片翼の席につくよう指示される。


 俺たちは指示通りに着席をする。

 その向かい側には、件の先輩冒険者たちがすでに席について待っていた。


 それから茶を出されて待つことしばらく。

 同席者たちと会話のひとつもしなければならないかと考え始めた頃に、部屋の入り口の扉が開いた。


「すまん、待たせたの」


 短い言葉とともに部屋に入ってきたのは、小柄でぽっちゃりとしたドワーフ女性だった。


 背丈はミィと同じぐらいか、それよりはやや大きいぐらい。

 仕立ての良さが分かる上等の衣服を身に着けた彼女は、とてとてと部屋の中を歩いて、コの字型のテーブルの主人の席へと向かう。


 ドワーフは一般にずんぐりむっくりとした体型だが、髭面でがっちりとした体格の男性ドワーフとは違い、女性のドワーフは人間の子どものような可愛らしい容姿をしていることが多い。

 顔立ちも実年齢と比べて幼く見える傾向にあり、表情の落ち着きである程度の年齢であることは分かるものの、それがなければ子供と勘違いしてしまうほどだ。


 この場に現れた彼女も、ともすれば十代前半の幼い少女にも見える容姿だったが、実際は少なくとも俺たちよりは年上なのだろう。

 それでも二十代後半から三十代が精々だと思うが、正直に言ってドワーフの女性の年齢は見た目ではよく分からない。


 なお、そのドワーフ女性の後ろには、魔術師のローブを纏って杖を手にした──つまり俺と同様の格好をした人間の壮年男性がついていた。

 市長に仕える側近の魔術師メイジといったところだろう。


 ドワーフ女性は、専用に設えられたと思しき高めの椅子に台を使ってよいしょと座ると、俺たちともう一組の冒険者たちを見渡した。


「ノーバンの市長イヴリアだ。よく来てくれた、冒険者の諸君。ロックワーム退治のクエストを引き受けて来てくれたのだと思うが、間違いはないな?」


 その容姿に見合った可愛らしい、しかし落ち着いた声色での確認の言葉だった。

 それに答えたのは、先輩冒険者のリーダーの野太い声だ。


「ああ。そっちのはEランクのヒヨッコ冒険者だが、俺たちは経験あるDランク冒険者だ。ピクニック気分のガキどもとは違う。安心してくれていいぜ。何ならあいつらは見なかったことにして、俺たちに倍額の報酬を払ってくれてもいい」


「──んだと!?」


 依頼人の前での早速の揶揄にサツキがいきり立って立ち上がろうとするが、俺は彼女を手で制して、依頼人──ドワーフのイヴリアへと言葉を向ける。


「確かに彼の言う通り、俺たちは冒険者としての経験はまだ浅いが、仕事はきちんと行う。そこは信頼してほしい。またロックワームに対する十分な知識も持っているし、それに対する必要十分な対応能力もあると自負している」


 その俺の言葉に、イヴリアは「ほう」とつぶやいて、興味を示すように眉を動かした。

 それから彼女は、Dランク冒険者のパーティに向かって質問をする。


「だ、そうだが。そちらはロックワームに関する知識は持っているのかな?」


 そう問われると、リーダーらしき戦士ファイター風の男は慌てた様子になり、「……おい、頼む」と仲間の魔術師メイジ風の男に説明を促した。

 催促された魔術師メイジらしき男は、しどろもどろの様子で答える。


「あっ、と……巨大なミミズみたいなやつで、洞窟とかに住んでて、結構強くて……あと、確か……何だったかな……」


「なるほど、分かった。──で、そちらは?」


 イヴリアは、今度は俺のほうを見て説明を要求してくる。

 俺はうなずいて、自らの脳内の知識をかみ砕き、舌へと乗せた。


「ロックワームは鉱山などの岩山を主な生息地とするモンスターで、その体長は成虫で五メートル程度、あるいはそれ以上にも及ぶ。ミミズは土を食べながら土中を進むが、ロックワームは遅速ながら岩場でもそれが可能だ。それは体内に岩をも融かす強酸を持っているからだが、やつらはその酸を口から吐き出して攻撃に使うこともある。また体表も岩のように硬く、生半可な刃物ではまともに傷をつけることすら困難だ。それらの総合的な能力を加味したモンスターランクはD、あるいは特に巨大な個体ならそれ以上──」


「分かった。そこまででいい」


 イヴリアはそう言うと、彼女の側近として控えた魔術師メイジへと視線を向けた。

 側近の魔術師メイジはそれに、しっかりとうなずく。

 俺の言ったことが正しいかどうかの確認だろう。


 それからイヴリアは、口元に笑みを浮かべてこう言った。


「実力を取りつくろっているのがどちらなのかは今のやり取りを聞くだけでも察しはつくが、いずれにせよ両者とも仕事はしっかりと行ってほしい。鉱夫たちの話によると、ロックワームはいくつかの坑道で発見されているらしい。つまり現在、このノーバニア鉱山の内部に、複数体が棲息している可能性が高いということだ。討伐数に応じて報酬を支払うのは、クエストの依頼書に提示しておいた通りだ。冒険者の看板に恥じない働きを期待する。以上」


 イヴリアはそれだけ宣言すると、解散を言い渡し、側近の魔術師メイジを連れて部屋を出ていった。

 次いで、顔を赤くした先輩冒険者たちが、


「ったく頼りにならねぇな! 依頼人の前で恥かいただろうが!」


「はぁ? 俺のせいか!? あんなのいきなり聞かれて答えられるかよ! お前が余計なこと言うから悪いんだろ!?」


 などと互いに罵り合いながら、逃げるように部屋から出ていった。


 そして残されたのは、俺たち四人。

 俺が立ちあがって早速仕事に取りかかろうとすると、サツキ、ミィ、シリルの三人がかたわらに寄ってきた。


「さすがウィル!」


「ですです。ウィリアムは頼りになります」


「そうね。連中のあの顔、正直胸がすいたわ」


 そう誉めそやされれば悪い気はしないが、別段俺のあの説明がクエスト達成に貢献するわけでもない。


 強いて言うなら、俺が提示した知識を先輩冒険者たちが活用し、生存に役立ててくれればいいとは思うが……あの様子では難しいか。

 まあお守りをするような間柄でもないし、彼らも冒険者である以上は、自分たちの生存には自らで責任を持つしかないだろう。


「そんなことより、俺たちも油断をしないことだ。ロックワームは遭遇状況によっては相当に危険なモンスターにもなりうる。十分に気を締めてかからないと、連中の餌になるぞ」


「あいよ。まあ言っても、エルフたちの手助けをしたときのオークほど手強い相手でもないだろ。大丈夫大丈夫」


 サツキがそう楽観的な見解を示してカラカラと笑うのはいつものことだ。

 しかし彼女のそれを見ると、逆に不安になるのは俺だけだろうか……。


 そう思ってシリルとミィを見れば、二人もため息をついていた。

 俺は彼女らと顔を見合わせてくすりと笑う。


「え、な、何だよ……? 三人して何笑ってんだよ」


 その様子を見たサツキ一人が、頭上に疑問符を浮かべていたのだった。


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