第42話「配達」
午前10時47分。
ピンポーン――
インターホンが鳴った。
凛の心臓が一瞬止まった。
そして――激しく鳴り始めた。
ドクンドクンドクンドクン――
脈拍が異常に速い。手が震える。
凛は深呼吸をした。落ち着け。ただの荷物。ただのVHSテープ。
だが、身体は嘘をつかない。これは「ただの荷物」ではない。
凛はインターホンのモニターを見た。
配達員が立っている。ヤマト運輸の制服。手には段ボール箱。小さな箱。
凛はドアを開けた。ドアチェーンを外す。「ガチャ」という金属音。
「佐々木様ですね」
配達員が言った。40代くらいの男性。普通の配達員。
だが――その顔が妙に無表情に見えた。笑顔がない。まるで機械のような。
「はい」
凛が答える。声が少し震えている。
「こちら、お届けものです」
配達員が段ボール箱を差し出した。
凛はそれを受け取った。
軽い。500グラムくらい。片手で持てる重さ。
だが――その軽さの中に、何か重いものが詰まっている気がした。
時間。記憶。意識。魂。
26年分の重さ。
「ありがとうございました」
配達員が会釈して去っていく。その足音が階段に響く。
凛はドアを閉めた。鍵をかける。「ガチャン」という音が、妙に大きく聞こえた。
そして――段ボール箱を見つめた。
茶色い段ボール。ガムテープで封がされている。表面には送り状が貼られている。
差出人:marie_1985
品名:雑貨
それだけ。
凛はその箱を机の上に置いた。「コトン」という音。
そして、じっと見つめた。
開けるべきか。それとも、このまま開けずに捨てるべきか。
美波の言葉が蘇る。
「見ない方がいい」 「危険かもしれない」
だが――凛はもう決めていた。
見る。必ず見る。
たとえ、何が起ころうとも。




