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37話 Side傭兵

「イカれてやがる……」とバルロスは戦慄した。

何にって、目の前の女にだ。


正直、バルロスはシャロンの戦闘能力の高さを認めつつあった。

自身のスキルを掻い潜りながら灰壁の薄い箇所を狙う。そんな芸当をやってのける人間など今まで見たことがなかったからだ。


だがそれでも所詮は女の剣。持たざる者の悪足掻きに過ぎないと思っていた……先程までは。


目の前の女はさっきまでとまるで別人である。


黒灰域はバルロスの精神力に比例して強度が増すスキル。その灰で作られた壁はバルロス以上の覚悟を持ち得なければ突破出来ず、今までそれを超える人物は一人たりとも現れなかった。


故に此度も、灰壁はシャロンの攻撃を阻んでいた。だというのに、数秒の気絶から目覚めた途端、シャロンはハイテンションで灰壁を打ち破り始めたのだ。


これにはさしものバルロスも動揺を隠せない。気絶している間にいったい何があったというのか。詳しい事情をバルロスが知る術はないが、それでも明確なコトが一つ。眼前の女は今、バルロスを上回る程の何かを秘めているのだ。


(しかも今の攻撃……この女、敢えて灰壁の厚い面を狙いやがった……)


狂っているとバルロスは思った。


この状況で守りの厚い箇所を自ら攻める馬鹿がどこにいようか。結果的には灰壁を斬り捨ててみせたが、もし失敗していればカウンターは必至。そのまま殺されていた可能性だってある。


いやまぁ、突破出来るのなら最短最速の合理的判断かもしれないが。


(だとしても、死にかけの身体でやる博打じゃねぇだろ……)


バルロスは歴戦の傭兵。

時に魔物と、時に人間と、幾多の戦闘を経験してきた。鍛え抜かれた身体にはあらゆる強者達との実戦の記憶が刻まれており、その脳は今まで対峙したバトルスタイルをある程度分類している。経験値こそがバルロスの支柱、戦闘の要だ。


しかし、シャロンという少女はこの分類に一切当てはめられない異端である。


そもそも戦う女性であるというのが過去に例を見ないイレギュラーなのに加えて、彼女は純粋な魔力出力だけで他を圧倒する。スキルという魔法では再現不可能な絶技があるこの世界で、それを用いずに魔力と技術のみで戦う人物など他にいない。


しかもそいつが今まで破られなかった灰壁を突破したのだ。何もかもがバルロスの常識の範囲外である。


だが、不思議と悪い気はしない。

むしろバルロスの胸中は喜びに溢れ、身体が高揚で震え上がっていた。


なぜなら、バルロスにとっては生まれて初めて対峙した、対等な敵だからだ。生まれ故郷にも、傭兵仕事の場にも、バルロスと張り合えるような敵はいなかった。生まれながらの絶対的強者。乾いた心は仕事に没頭するコトでしか潤わない。その現状を変えたくて冒険者を志したのだ。そして今、その答えが眼前に立っている。


バルロスは女性が嫌いだった。

男性に守られるのは当然だという主張。自分達は命を賭して誇りを胸に戦っているというのに、なに食わぬ顔で平穏を享受する女性達に反吐が出た。そんな奴らは精神も腐っているに違いない。それがバルロスの考えである。だからシャロンのコトを知った時は心底腹が立った。自分の誇りを土足で踏み荒らされている気がしたからだ。


しかし、もはや性別など些末なコト。

バルロスは考えを改めた。現在沸き立っている心の高ぶりこそが何より優先すべき真実。目の前に立ち塞がるこの女は紛れもない強者であり、こちらも死力を尽くすべき相手だ。


コイツは守られるのが当然という考えなど微塵も持っていない。むしろ自ら道を切り開こうとしている狂人である。無鉄砲なだけの馬鹿である。


ならばバルロスの答えも決まった。

コイツに勝ちたい、コイツを倒したい。生まれて初めて抱いた感情にただ身を委ねるのみ。


女と傭兵、数奇な闘いのクライマックスが幕を開ける―――。


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