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異世界に行ったので手に職を持って生き延びます【コミックス一巻 4月28日発売予定】  作者: 白露 鶺鴒
第六章

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6-35.武闘大会 二日目(2)


「よっ、お疲れ」

「ツルギさん。お疲れ様です」


 試合会場を出て控室に向かうと、ツルギさんが声を掛けてきた。


 ただ、私が入ってきたことにぎょっとしている人達が多い。

 なんだろうと首を傾げる。


「気にするな。君が勝って戻ってくると思わなかった連中だ。一応、対戦相手は優勝候補の一人だったそうだ」

「え?」

「気付いてなかったのか? 第一シードだから、普通に優勝候補でもおかしくないだろう」


 いや、気付いてないよ。

 言われてみれば、私の試合から順番に選手紹介していたのだから、一試合目だけど。


 そもそも対戦表見てないのが悪いのかもしれない。


「何か言われるようなら、会場が狭かったから実力が出せなかった。そういうことにしておくといい。ただ、注目は集めてるぞ」

「うん……まあ、次で負けるから大丈夫でしょ」

「なんだ? もう諦めてるのか?」

「うん。なんか、最初から三回戦勝てる気がしてないから。相手知らないけど」

「俺だぞ?」

「え?」


 にんまりと口の端を上げて笑うツルギさん。

 とても楽しそうにしているけど、ご期待にそえることはない。


 手合わせとか、いつもウキウキしているし、戦闘狂の一面があるのは知っているけど。

 この人は戦い中に手筋を読むのが得意というか、対人特化している。

 ステータスでは凌駕しているナーガ君すら勝てない。 


 私の負け確定だ。


「本気でやってくれよ?」

「いや、本気だろうが、負け確定なのに?」

「今までの二回。すべて飛ぶ斬撃で一撃だからな。つまらない」

「まあ、最初に一撃必殺が強いルールだよね。後手に回ると厳しい」


 大会ルールがそういうものだから仕方ないけれど。

 次の試合からは、会場が広くなる。


 二回戦は狭い会場だったこそ勝てたけど。

 ツルギさん相手だと、狭くても広くてもあまり関係はない。


「君ならそんなことにはならないからな。期待してるぞ」

「いや、それで終わった方が楽なんだけど」


 にこにこで笑っているけど、わざと負けるのは怒りそう。

 全力で戦うつもりだし、手を抜くつもりはないけど。


「はぁ……頑張るけどさ。シュトルツ様に期待したら?」

「ああ。それはそれだが、当たるのは決勝だからな」

「なるほど」


 今更だけどトーナメント表を確認をしてみると、確かにシュトルツ様とは当たらない。

 反対のブロックのシードだった。


「どう思う?」

「う~ん、特に気になる人はいないかな」


 名前を見たところで、何もわからないのだけど。

 ただ、怖いなとか、敵に回したくないって感じる人もいない。

 実力はあるのかもしれないけれど、シュトルツ様とツルギさんは頭一つ抜けていると思う。


「そうか。じゃあ、決勝は俺を応援するよな?」


 決勝か。

 じっとこちらを見てくるので、こくりと頷きを返しておく。


「絶対だぞ」

「いや、優勝するのはシュトルツ様かなって話だけで、応援しないとは言ってないよ?」

「俺が負けるとは思ってるのか」

「いや、なんとなく?」


 実力的には、どうだろう。

 多分、春頃の共闘した時に比べ、私達はレベルも上がっている。

 たいして、シュトルツ様はレベルはほぼ変わっていない気がする。


 実力差はそこまで大きい訳ではない。多分。

 それでもシュトルツ様が有利な気がするのは何でだろう。


 ただ、応援するかどうかが気になっていて、納得してくれたようなので、とりあえず頷いておく。


 お互いに次の試合までは時間があるので、適当に話をして過ごしたが、じろじろと遠巻きに見られていて落ち着かない。

 


 午後、三回戦目が始まる。


 相手はツルギさん。

 試合会場は今までの分割していた結界が払われたことでかなり広い。

 

 ただ、会場が広くなったからといって、すぐに距離を詰めてくるだろう。

 広さが有利になる戦い方ではない。


「相手がツルギさんだから、本気で……」


 遠距離戦なら魔法で、私の方が有利になるけど。

 それを許すとは思わない。


「試合開始!」

「氷の壁〈アイスウォール〉!」


 開始と同時にパリンっと音を立てて、氷の壁が破壊された。

 飛ぶ斬撃を止めることは出来たけれど、あっさりと防御用に張った壁が破壊される。


「ちっ……風斬り〈エアスラッシュ〉」


 こちらに向かって走ってきていたツルギさんが向きを変えて、風魔法を放ってきた。


 氷の破片に火球〈ファイアーボール〉を当てて、水蒸気爆発を考えていたけど、それは阻止された。


 やはり、二回戦の二番煎じでは駄目っぽい。

 しっかりと戦い方を見られていたらしい。


 放たれた風魔法を避けつつ、魔力を溜める。

 どうせ接近戦になったら厳しいのだから、距離を取れるうちに大技を繰り出させてもらおう。


「水の波!〈アクアウェイブ〉」


 大量の水による波状攻撃。

 素早く水が来ない方へ避けているけれど。こちらに攻撃をしてこないからチャンス。


 そのまま大量の水を会場に流し込む。

 水や泥で足元を悪くした方が勝ち目があるはず。


「はぁっ!!」


 水嵩を増やしていることに気付いたツルギさんにより、飛ぶ斬撃が繰り出され、水を止めて避けるしかなかった。

 

 ツルギさんがいた側は、水の波により数センチの水たまりができている。


 できればもう少しかさ増しして、足元の踏み込みを邪魔したかったけれど。


 会場全体を水浸しに出来ないのはしかたない。


「雷撃〈サンダーボルト〉」


 魔法による直接攻撃は避けられたけど、ツルギさんの足元は水たまりができている。

 そのまま、水たまりに電流を流した。


 ツルギさんの動きががくっと止まった。しっかりと電撃が入ったらしい。

 今のうちに追撃をと思った瞬間、地面を蹴って、一直線で近づいてきた。


「やってくれるじゃないか!」

「まだ、ここからだよ……水の矢〈ウォーターアロー〉」


 剣と剣がぶつかり、がきんと音が響く。

 ぐぐっと押し込まれそうになるのを横に受け流して、魔法で牽制して下がらせる。


 意外と善戦できてるのでは? と思ったのは、装備している武器が刀ではなく剣だったからか。

 いつも手合わせしていたときより力が乗っていない気がする。


 手加減……いや、多分、騎士として剣じゃないといけないかな。

 何だかんだと大会のルールに救われている部分もあるなよね。


「他の事じゃなくて、俺に集中してくれないか?」

「してるでしょ! 纏、帯電〈チャージリング〉」 


 SPを使って、防御力を上げるついでに、静電気のように電気を纏わせる。


「くっ……随分と器用に雷魔法を使うようになったな」

「重いっ……」


 じわじわと感電しているはずなのに、効果がない。

 カンカンっと振り下ろされる剣をなんとか盾で捌きつつ、後ろに下がるしかない。


 魔法攻撃で蓄積ダメージは与えているはずだけど、それだけでは攻撃の手が緩まることはない。


 一撃一撃が重いから、剣で止めると痺れて武器を落としそう。

 いや、盾でガードしても結構厳しいけれど。


 でも、ツルギさんも少しずつ、じわじわとダメージは受けているはず。

 剣で撃ち合いながら、魔力を溜める。


「風大嵐〈テンペスト〉!」


 自分とツルギさんの中心、お互い巻き込まれる場所に発生させる。


「ぐっ!」


 ツルギさんが足に力を入れ、その場に踏みとどまろうとしているのを見ながら、ふわっと風に流されるように空中へと浮かぶ。


 その場に留まったツルギさんにダメージが入るが、私は自分で発動させた上に、風に身を任せてその場を離れたのでノーダメージ。


 空中で回転して、無事に着地をする。


「くそっ、やってくれたな」


 しゅっと軽い斬撃が飛んできたのを、風魔法で相殺する。


 最初に比べると威力が落ちている。体勢を立て直すための一撃だろう。


「行けっ! 氷結〈フリージング〉」


 会場の水たまりを利用し、全体から槍のような氷の棘を生やす。

 滑るのと物理的にも邪魔になるので、足元を悪くして、戦いにくくすることが目的であるけど。


 いつの間にか下がって、しっかりと水たまりがない場所に陣取っている。


 直線上には氷の生垣を置こうとするが、ざっざっと邪魔になりそうな氷を一つ一つ破壊しながら距離を詰めてくる。


「全く、戦いにくくしてくれるな」

「ぐっ……何もしなかったら負けるでしょ」


 魔法の牽制もたいして役に立たないなら、せめて攻撃の手を弱めるために足元を崩す。


 水魔法でぬかるみや氷の生垣を作ったりしても、順応されるので厳しい。


「君、意外と負けず嫌いだよな」

「わざと負けたら怒るくせに! 氷の槍〈アイスランス〉」


 水たまりも無くなったため、直接地面から氷の槍を生やす。

 ツルギさんがすっと後ろに避けたので、さらに追撃するように三連続で氷の槍で追撃したけど、掠ることはなかった。


 決め手がない。


「火球〈ファイアーボール〉」


 少し出来た距離。

 すぐに発動できる魔法で一気に形勢を変えようと火球を撃つ。


「甘いなっ、〈縮地〉」


 氷の槍にぶつけて水蒸気爆発を起こそうとしたが、それを待っていたかのように、一気に距離を詰められた。


 超加速による突き。

 加速の勢いをそのまま乗せた剣を盾でガードしようとするが、勢いが止まらない。


 避けられない。


 盾で剣が体に刺さることは防いだが、そのままの勢いで体が吹き飛ぶ。


 背中に激しい衝撃と痛み。

 会場の後ろにある壁に激突した衝撃で盾が弾かれた。



「俺の勝ちだな」

「近いっ……」


 目の前10センチくらいに顔がある。

 壁ドン状態になっているけど、首筋に剣が当てられているので怖すぎる。

 動いたら首筋切れるし、逃げ場がないのに顔が近い。


 完全に負けた。

 いや、勝てるとは思っていなかったけど。


 それでも、悔しい。


「勝者、ツルギ・シュヴェルト!」


 審判から宣言されて、剣が引かれ、手を差し出される。


「負けた……」


 手を握って、握手をすると歓声が上がった。

 善戦はしたと思うけど、倒しきるにはあと一歩どころか三歩くらい足りないかな。


 うん。まあ、当初の目的は果たしたからいいか。


「ふぅ……じゃあ、引き続き頑張って。応援してる」

「おう。またな」


 敗者側の出口から出る。

 このまま、ラズ様達に合流するか……う~ん。疲れたから宿で休もう。


 昨日も今日も、スペル様とカイア様と一緒に行動しているのは見つけている。

 合流したら二人と一緒にいることになるので精神的に疲れそう。



 〈ラズ視点〉


 クレインが魔法で距離を取ろうと奮戦していたけれど、ツルギがしっかりと追い詰めていた。


「やっぱり、ツルギの勝ちだったね~。健闘はしたみたいだけど。本人の申告通りだね」

「いやぁ、ツルギもだいぶ厳しかったはずだ。HPの削れ具合は明らかにツルギのが上だ。半分以上を削られたんじゃ、きついだろ? あれ、明日までに回復するのか?」

「クレインは最後以外は致命的な攻撃は受けてないからね。体力は余裕がありそうだけど。逆に、ツルギは魔法攻撃は結構受けてたからね。大会中は基本的にはポーションとか傷薬による回復はさせてもらえないけど、どうだろうね」

「ふむ。何でもないように振舞ってるだけで、かなり削られておるのか」


 クレインの魔法攻撃って、実は国でも最高峰だからね。

 大きく直撃しなくても、じわじわと削られたツルギは明日は厳しいかもしれない。


「この大会では詠唱を始めたら攻撃できないのだがな。そういう動きは一切しなかったな」

「兄上。クレインはそういう戦い方しないと思うよ。自分の戦い方を崩すタイプじゃない」

「いやぁ……そもそも、詠唱して魔法使うところ見たこと無いんだがなぁ」


 あれ?

 確かに、最初にキノコの森に行った時から、詠唱時間稼いでって戦い方ではなかったような。


「基礎を知らんのか」

「クレイン。できるだろうって考えたら実践しちゃうからね」

「詠唱無しであっさりと上級風魔法を撃ち込んでるけどね~。あれ、魔導士としては他と一線を画すよね」


 たしかに。僕も得意とする上級風魔法ではあるけど、それなりに詠唱時間を確保してから撃っている身からすると、あれをあっさりと使われると釈然としない。


「風魔法は俺やツルギのが得意ではあるんだがなぁ。あの魔法を使うのは初めて見た」

「へぇ~。切り札だったのかな~? まあ、彼女はあれだけ戦えると示した。侮る連中も減るだろうしね~。でも、魔法の連発で疲れてるだろうし、この後狙われたら危ないかな?」

「いやぁ、まだ魔力は3分の2は残ってるから余裕だろ」

「昨日の件があるからフォルに言って、迎えにいかせてるよ、護衛して宿まで連れて帰るはず」


 昨日は兄上の方で動いてたのもあり、後手に回ってしまったけど。

 二日連続で狙ってくる可能性もあるので、今日はしっかりと手配はした。


 宿に戻って休めるはずだ。


「俺としては好きな女にあれだけ遠慮なく攻撃を仕掛ける方が不思議なのだが」

「兄上。そこは深く考えるだけ無駄だと思う」

「あいつは元から俺ら異邦人の中でも一番頭おかしい奴だしなぁ……本人達が気にしていないのだから、無駄に同意する」


 クレインが何を考えてるか。

 僕に理解できないのは今更だしね。


 そうでなくても本当に危険な場合には本人も気付いて、何かしら合図をするだろうから大丈夫だろうけどね。


 にまにまと楽しそうなスペルに頭を切り替え、次の戦いの様子を窺う。


 クレインとツルギの戦いに比べるとレベルが落ちる戦いだ。

 クレインもツルギやシュトルツと当たらなければもっと上まで行けたんだろうね。


 まあ、本人は目立ちたくないから、ここらで負けるのを良しとしていそうだけど。

 本当に。


 1年足らずで随分と強くなったよね。

 


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