6-34.武闘大会 二日目
セルフィス女伯爵の横やりが入ったけれど。
無事に宿舎で休むことが出来た。
部屋の前には女性の騎士が控え、外部との接触を断っていたし、問題はなかった。
「今日は二試合……頑張らないとな」
大会二日目も第一試合からだった。
控え室に入った途端に、すぐに舞台袖に呼ばれてしまったため、トーナメント表は確認できなかった。
「騎馬、相手かぁ……」
会場に入ると、昨日と同じく会場が4つに分けられている。
目の前には、馬に乗った騎士。
銀色に輝くフルプレートの装備。顔はイケメン系で少し垂れ目。
登場と同時に女性の甲高い応援が響いたから有名な人かもしれない。
背負っている紋章も王家のもの。
ただ、ラズ様から教わった王弟殿下時代だった頃の紋章ではない。
元々の王家に仕える近衛とかなのかな。
ちらっと隣側を見ると、ツルギさんも一戦目から出場している。
あちらも、騎馬が相手のようだった。
視線に気づいたのか、軽く手を上げる辺り、余裕がありそう。
「やるしかないか」
大会では騎馬が多いとは聞いていた。
それに、騎馬の方が有利な戦い方になるから、勝ち残りも多いはず。
「「「「試合開始」」」」
審判の合図とともに、相手が騎馬突撃をしてくる。
まずは様子見で余裕をもって避ける。
シュトルツ様の攻撃に比べるとだいぶぬるい。
相手も小手調べというところかもしれない。
隣では一撃でツルギさんが勝利していた。
突撃する前に、飛ぶ斬撃。
そのまま相手を壁に激突させるって、斬撃の攻撃力どれだけあるんだろう。
「はぁっ!!」
「おっと……」
旋回から突撃に変わったので、再び、避ける。
「ぬるいというか……もしかして、馬が全力で走れない感じ?」
二度目の突撃も速度が乗り切っていない。
それでも、もし攻撃が当たれば衝撃は大きいため、危険ではある。
会場が4分割されているせいで、馬には狭いのかもしれない。
シュトルツ様との練習の時よりも、余裕をもって避けることができる。
「だけど、攻撃手段を考えると……」
避けやすいように中央で、相手の様子を窺う。
相手も今は様子を見ているのか、馬を走らせてはいない。
「どちらにしろ、突撃時はこちらは攻撃できないって痛いよね」
旋回中に攻撃をするとしたら……出来なくはないけど、馬の動きが読みにくい。
ツルギさんのように初手、読めるうちに攻撃が正しかったな。
「あ、でも、読めるように誘導すればいいのか」
よし、作戦は決まった。
三度目の突撃を少し引き付けた状態で、ぎりぎりで避けるようにして、地面に手をついて転がる。
「……マイクロカレント〈微弱電流〉」
地面に手をついた瞬間に魔法を発動する。
薄い雷の球体を半径25センチくらいの狭い範囲。
医療やマッサージに使われるくらいの弱い電流。
クロウが「肩がこる」と煩いから、マッサージ用に生み出した魔法。
微弱な電流を流しながら凝りを揉み解す、軽い魔法。
この程度なら、攻撃とみなされない……いや、みなされる可能性はあるけれど気付かれない程度に狭くしている。
馬が駈けていったせいで土埃が舞ってるので、魔法を発動したことに、審判も相手も気付かない。
ちょっとした違和感を感じることはあっても、馬が暴れだしたりはしないはず。
あとは私を餌にここに誘導するように馬に突撃してもらう。
旋回している馬を観察しながら、位置を少しずらして調整。
雷魔法が消えないように気を付けながら、次の魔法を瞬時に発動できるように右手と左手にそれぞれ魔力を溜める。
「次こそ決める! 行くぞ!!」
こちらが魔力を溜め始めたことに気付いたのか、騎士が大きな声で宣言をすると、会場からも応援するようにわぁっと声が響いた。
馬の速度を活かせない状態でも自信はあるっぽい。
予想通りの軌道で馬が突撃してきたのを躱す。
「ひひ~んっ!」
馬がマイクロカレント〈微弱電流〉を発動した場所を通った瞬間、大きくいななく。
馬がスピードを下げて、止まった。
よしっ!
予定通り。
視線だけ審判に向けるが、馬が止まったこと自体、気にしていない。
会場の盛り上がりで、声の大きさに馬が怯えた様にも見えるし、私はただ避けたと判断している。
「おいっ、何をしている! 走れ!」
騎士がぱしんっと馬に鞭を当て、馬が再び走り出した瞬間。
右手で魔法を発動させる。
「アイスランス〈氷の槍〉」
馬と騎乗している騎士の隙間を縫うように、斜め下から氷の槍を出現させる。
「なっ!!」
馬がそのまま走り抜ける中で、槍により体がつっかえて、そのまま馬から落とされる。
どさっと地面に落ちる大きな音が聞こえた瞬間に左手の魔力を解放する。
「火球〈ファイアーボール〉」
出現させた槍に魔力を収縮させた火の球をぶつける。
ヂヂヂっ、という耳障りな音の直後、大きな爆発音と視界を埋め尽くす白い熱気。
爆風は結界に阻まれて観客席には届かないけれど、大きな音と視界を埋め尽くす白により会場の喧騒を一瞬で飲み込んだ。
「よしっ……」
会場全体が白く染まった。
これで、魔力の残滓も会場全体に注いだから、マイクロカレント〈微弱電流〉を仕掛けた場所を探っても、馬に直接攻撃した証拠にはならない。
会場が何が起きたと戸惑っているうちに、私も動き出す。
ホワイトアウトにより、相手は見えにくいけれど、気配察知により居場所はわかる。
相手は水蒸気爆発と砕け散った氷の破片が鎧にささり、顔にもいくつかの傷が出来ている。いや、そもそも動ける状態には無さそう。
すぐそばに相手が持っていた槍が落ちていたので、それを拾って、そのまま首に槍の穂先を向ける。
ホワイトアウトしていた霧が晴れ、周囲も状況を確認する。
「参った……俺の負けだ」
「勝者、クレイン・メディシーア」
私の勝利を宣言した後、とことこと馬が近付いてきた。
「ごめんね、けがはない?」
「ぶっ」
馬がふんっと息を吐き、生ぬるい風を感じる。ぽんぽんと軽く叩いてみるが、怒っていない。
多分、馬は、怪我していないかな。
ただ、騎士の方は足が曲がってはいけない方向に曲がっている。
落とされた衝撃か、水蒸気爆発によるものかは判断できないけど。
立ち上がることも出来ないとなると目立つ。
自分の主人を心配するように馬は頬を男に近づけている。
「ハイヒール〈上回復〉」
「……ああ。…………助かった。ありがとう」
結構な重症。
ただ、ここで普通に退場してもらわないと私もやり過ぎだとか言われかねない。
回復魔法を唱え、手を差し出す。
魔法が発動し、痛みが引いたのか、私の手を握り、ゆっくりと立ち上がった。
「軽く治しただけなので、後ほど、しっかりと治療を受けてください」
「ああ、そうさせてもらう」
会場がしんっと静まり返っていたのが、男が立ち上がり、会場に手を振ったことでわっと歓声が上がった。
私もぺこりと頭を下げてから、その場を後にする。
二回戦、なんとか突破だ!
〈ラズ視点〉
クレインがお辞儀をして、会場から去った。
だけど、観客は未だに拍手を送っている。
優勝候補を、唯一勝ち上がった女子が倒すという大金星。
予想外の展開。賭けに大損した連中の怒号も混じっているが、概ね、好意的なものが多い。
「見事に勝利か。全く見えなかったが、何が起こったのだ?」
「氷をつっかえ棒にして、馬から落とすのはえげつないね~。あれ、あのタイミングで出現させるのは狙ってないと無理だよね」
「その前の馬が止まったところから、クレインの仕込みな気はするけどね」
兄上が戦いの詳細を求めるが、僕やスペルでもわかっているわけではない。
ただ、クレインが氷の棒で相手を落馬させた後、爆発が起こった。
氷魔法を展開した瞬間に、爆発を起こすほどの魔法を唱える余裕はないはずだから何か仕組みはあるのかもしれないけれど。
僕では判断がつかない。
「ラズもわからないんだ~。で、どうなの?」
「俺かぁ? だいたいわかるが……教えていいのか?」
クロウが僕に確認をしてきた。
クレインの戦いを詳細に伝えた場合、後々面倒が起きないのかという確認だろう。
「まあ、僕も気になるし。わかるなら教えてよ」
「はぁ……まず、馬の動きを止めるために、微弱の雷魔法を馬の通り道に仕掛けた。気付かれないようにわざと転がり、馬とクレインのせいで土埃が起きている場所にな」
「へぇ~気付けなかった。でも、そのせいで馬が止まった? 魔力探知してれば気付けたかな?」
「どうだろうな。手を……マイクロカレント〈微弱電流〉」
クロウがスペルが差し出した手を握り、握手した状態で魔法を唱える。
「ん? 今の何?」
「超微弱の雷魔法だ。静電気よりも痛みを感じない程度の一瞬のな」
「ああ、この程度だと審判すら気付かないよね~。攻撃とはいえない」
一瞬の発動で、魔力の動きも微弱。
ただ、馬は繊細な生き物だから、一瞬の違和感で駆けるのを止めたのか。
あとはクレインの計算通りだったのだろう。
「なるほど。一度止まった馬を走らせる場合、鞭を入れ、真っすぐに走らせるしかない。その瞬間、馬と騎士のわずかな隙間に、杭を打ち込むように氷の槍を出現させる。再加速の慣性がすべて逃げ場のない衝撃に変わり、騎士の体は面白いほど簡単に宙へ放り出されたということか」
「ああ。氷魔法は右手で寸分の狂いもなく撃ち込んでいる。さらに、落ちたのを確認した瞬間に、左手に込めていた魔力で火球を発動し、氷の槍にぶつける。当たった場所は氷から一気に水蒸気に変化し、爆発と霧を発生させ、氷の一部は解ける前に砕けて破片となり降り注いだ」
「あの子、たまにやることえげつないよね。全部計算してるんでしょ?」
「まあ、クレインだからね」
本人は割と日和見の平和主義だと言い張るけど、戦わせるとしっかりと容赦なく隙を突いて攻撃してくる。
しかも、状況判断に優れ、作戦も立てられる。指揮官のように振舞うことも出来なくはないんだよね。
やりたがらないし、僕が頼んだら逃げると思うけど。
その気になればやれない訳ではないから怖くもある。
「水蒸気爆発ね~。魔法でなくても、それ以上の効果を発生させられるってやばいね~」
「左右で違う属性魔法を発動させるのも大概だがなぁ……俺には無理だ」
「僕もかな。でも、彼……優勝候補だったのにね。勝つとはね」
「うむ。だが、問題はないだろう。圧倒的な勝ち方であったからな」
それは確かに。
文句を言おうにも落馬させたのも含め、クレインの作戦が見事に決まっている。
さらに、証拠がないから馬への攻撃だという非難もできない。
非難したところで、スペルの様子だと攻撃と判断は出来ない可能性もある。
あの騎士が気付いた可能性があっても、何も言わないだろう。
クレインが回復をしてくれたおかげで、無様にタンカで運ばれるような姿を見せず、騎士としての尊厳を守られた。
「次はツルギとか……どうなるんだろうね」
クレインのことだから、認識していたら、この試合に勝たない選択をしそうだ。
次の相手はまだ認識していないんだろう。
でも、こちらは高みの見物をさせてもらおうかな。
後書き失礼いたします。
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