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異世界に行ったので手に職を持って生き延びます【コミックス一巻 4月28日発売予定】  作者: 白露 鶺鴒
第六章

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6-32.武闘大会の裏側(ラズ視点)


 父上の即位にあたり、開かれる武闘大会。

 武闘大会自体は数年に一度行われるし、即位に合わせるのも恒例だ。


 国内外への武力をアピールする場であり、新人でもレベル50を超える有能な者達ばかり。

 ただ、今回はだいぶ趣が異なる。


 国が召し抱えている騎士と魔導士、どちらもが春先から王権移譲までの出来事により失職者多数。再編成に時間がかかっている。


 増強を図る必要があるからこそ、軍事に強い貴族や、異邦人という新しい戦力を召し抱えた新興勢力による見せ場でもある。


 僕も参加するようにと指示があった時点で、レオに打診をしていた。ただ、宰相により、急遽クレインの参加に変わった。


 これは宰相だけでなく、兄や父の意向でもあったし、クレインも嫌がっていないため、任せることにした。


 クレインに頼まれ、大会中はクロウを連れながら、会場に用意された僕の席に向かう。すでにカイ兄上とスペルが座っていた。


「ラズ。きみは誰が優勝すると思う? 賭けようよ」

「いいけど、僕はシュトルツに賭けさせてもらうよ?」

「おや、そうなのかい? 賭けにならないね。じゃあ、そっちは?」

「俺かぁ? ツルギ、かねぇ……他に知ってる奴もいないしな」

「俺も自分の騎士を信じるとしよう」


 クロウがツルギの名を出し、兄上もそれに乗った。

 優勝候補はシュトルツ以外にも名が上がっているが、ツルギの名はない。


 もし、ツルギが優勝すれば配当が高くなる。逆にシュトルツはたいして配当は良くないけれど、1回戦が始まる前から賭けるなら少しは戻ってくるくらいかな。


 そもそも、まだ対戦表も発表はされていないけどね。


「一応、賭けは成立するけど、だれもあの子にかけないのかい?」

「本人が三回戦で負ける気満々だからなぁ……ああやって言い切るときは、大抵当たる」

「クレインだからね。僕もそう思うよ」

「対戦相手まだ決まってないのに、3回戦負けに賭けちゃっていいの? 弟の話だともっと上位まで行けるって聞いてるよ」

「逆だ。おそらく、3回戦で本命と当たるとみた」


 クロウの断言に僕も頷きを返す。

 そもそも、実力は確かだけど、それでも対人戦では実力差がない限り、負けるだろう。命が掛かっている状態でもなければ、あの子は勝ちにいくタイプではない。


「対戦表が出たな。なるほど、確かに、3回戦負けになるな」

「え~、見せて見せて」


 兄上が賭け金を払って、半券を購入するついでに、先程決まった対戦表を貰ってきた。

 兄上とスペルが見終わった後、確認させてもらった。


 しっかりと宰相の懸念事項はクリアしつつ、3回戦で負けるというクレインの想定に呆れる。


「あははっ、しっかりと三回戦でツルギと当たってるね。勝てそうな気もするけどね」

「ツルギに勝つ気はないと思うよ。クレインだからね……でも、この対戦相手で、2回勝つのも意外かも」

「相手を知っているのかぁ?」

「一回戦は、異邦人の中でも魔法の才があると言われている者だな。特に火魔法のレベルが10、超級魔法を操る魔導士だ。王都に集められた後、早々に軍事に強い貴族に引き取られておる。超級の魔法を教えられる者は国でも限られておるからな」

「二回戦は僕も知ってるかな~。近衛の有望株だよ。まあ、王家が変わっても変わらない忠誠って逆にどうかと思うけど」


 異邦人は、特化した能力者の方が多い。

 特にクレインの一回戦の相手は、火魔法に特化した魔導士として異邦人の中でも注目されていた。ただ、ユニークスキルは天運で特別感はない。


 そして、超級の魔法を扱えるから、実力が伴うかは別の話ではある。

 扱いにくい魔法だからこそ、実際の戦闘に持ち込むのは難しい。


「魔法特化なんて、カモでしかないだろうなぁ」

「ふ~ん? どうしてそう思う?」


 クロウのボヤキにスペルがニヤニヤしながら問う。


「本人に自覚ないが、魔法制御能力は桁外れだろう? 対魔法使いについては、魔力の流れが掴める分、戦士よりも敵に回すと厄介だと思うがなぁ……俺は魔法勝負をして、勝てる気がしない」

「まあ、僕ももう勝てないかな。クレインって、錬金と付与で培ったせいか、魔力操作が緻密なんだよね。一点突破させる溜めと制御力と多種多様の魔法使うことができる器用さ。正直、破壊力だけの魔法なんて蹴散らせるだろうね」


 兄上やスペルも注目しているのはクレインだった。

 シュトルツは一回戦は免除だし、ツルギはクレインに当たるまで負けることはあり得ない相手だ。


 一回戦の開始と同時に入場してきたクレイン。

相手が、超級の火魔法、地獄の火炎〈インフェルノ〉を詠唱し始めたのに、焦ることなくけろりとしている。


 一応、火球〈ファイアーボール〉を4つほど出現させているが、超級魔法相手に初級魔法で対応しようとするのはクレインくらいだろう。


 白く光る火の球。あまり火の魔法を使うイメージはなかったが、威力が申し分ないことはこの距離からでもわかる。


「ほんとだ。あれ、厄介だね~。あそこまで高魔力を凝縮した火球だと、流石に斬れないかな」

「ほう……スペル、お前が駄目ならシュトルツもか?」

「多分ね~。ただ、弟も僕も、あんな無防備に時間を与えるようなことはしないよ」

「スペル、相手のほうはどう?」

「あっちは簡単かな。すぱすぱっと斬れるよ。たいして圧縮されてないからね。まあ、それでも多少は余波を受けるけどね」


 クレインも最初に火球に魔力を込めた後はじっと見ているだけで、火球を増やそうとする気配もない。

 あれで十分という判断なのだろう。


「ふむ。クロウ、お主ならどう戦う?」

「どうと言われてもなぁ。ぐ、ツルギやシュトルツと戦うだけむだ。開始3秒でやられる未来しかない」


 その点には僕も納得する。

 実戦において、魔導士は魔力を込めている間は無防備すぎて、話にならない。


 今の戦いも、火魔法を扱う魔導士は3分経ちそうだが未だに詠唱をしている。隙だらけすぎる。


 たいして、クレインが火球を用意したのは、20秒と少し。それだけでも驚異的ではあるけれど。


 ツルギやシュトルツ、スペルを相手取るなら、3秒以内で魔法を撃ち続けないと厳しい。

 クレインの場合、多少は近接でも戦えるから20秒で何とかなる可能性もあるかな。



「うむ。あの魔導士とだ。化け物どもと戦えとは言わぬ」


 化け物の中にツルギは入ってそうだけど、クレインはどっちだろう。


「ああ、あれとか? 風魔法を防御に展開して耐えるしかないだろうなぁ……MPの総量を考えれば耐えるのは不可能じゃない。あの超級の魔法を打ち破るほどの攻撃手段は俺にはないなぁ。耐えた後に、次の詠唱させる前に攻撃魔法を発動するかねぇ」

「僕は雷魔法で溜めて、お互いの撃ち合いかな。詠唱長い割に、魔力を留めておく基本ができてないから、僕でも勝ち目はあるかな」


 今は魔力の扱いが未熟なだけで、今後、改善すれば僕では厳しい。


「ふむ……実力はあるのか? おれにはさっぱりわからんが」

「カイアは戦えないからでしょ。僕から見たら、それなり? あれくらいの魔導士はいくらでもいる。持っていた資質を伸ばさずにレベルだけ上げた感じだね」

「異邦人を引き取っただけで、強くする気はなかったんだろうね。超級を使えるだけで、他の技術は拙く、ステータスもそこまで高くはない。何より魔法の扱いをしっかりと教えていないから自己流なんだろうね」


 まあ、クレインも魔法の扱い方を誰かに倣った様子はなかったけどね。

 僕とダンジョン行った中で扱い方を覚えたのか、あっさりと使い熟していた。レオニスが多少アドバイスをしていたとしても、あれはクレインの才能だろう。


「ラズが変わり者なだけだと思うな~。異邦人なんて扱いに困る存在が強くなることを許す。初めてあったときのグラノスやナーガ、彼女の実力には驚いたよ」

「あれは勝手に強くなっただけだよ。情報があってもなくても、クレインだと関係なかった。グラノスとナーガはユニークも強かったしね」

「普通はそれを許さないよ」


 異邦人が扱いにくいのはその通りではある。

 ちらっとクロウに視線を送ると困ったように笑った。


 クレインに保護されたクロウ達は実力的にはナーガ、ツルギには劣る。本人達も自覚はあるのだろうけど。

 彼らも同じように化け物並みに強くなっていたら、流石に僕も動いたとは思う。ただ、今のところは彼らは強くはあるけれど、対処可能な強さに留まっている。


「こちらに協力的なのに、無理に型に押し込めたら離反されるでしょ」

「それもそっか。それにしても、超級魔法を初級魔法で打ち破るって、発想があの子らしいよね。価値がはっきりとわかる」

「そういうものか?」

「だって、その程度で十分ってことだからね。誰から見ても脅威なのはあの子だよ。詠唱時間がたいしていらない魔導士と戦うのは大変だからね」


 彼も一回戦で、クレインでない魔導士に当たれば、可能性はあったかもしれない。

 この大会のルール上、あの攻撃に耐えてから攻撃となると戦士や騎士は結構きつい。


 だけど、クレインが余裕で対峙しているのが、全てだろう。

 あっさりと火球3発を撃ち込んで超級魔法を突き破り、直接攻撃をして倒してしまった。


 しかも、余裕があるため、攻撃の時には手加減をして当てている。


「無事に勝ったようで、何よりだ」


 クレインの勝利を確認し、兄上が立ち上がった。


「あれ、カイア? 見ていかないの? 君の騎士はこれから出番でしょ?」

「すまんな。少々やり残した仕事があってな。だが、あやつが負けることはあるまい」

「ふ~ん? いいけど、あんまり負担かけないようにね」

「わかっておる」


 兄上が出ていった後、ツルギが会場に出てきた。

 相手は馬に乗った騎士だった。開始二秒の決着だった。


「一瞬かぁ」

「まあ、正しいんじゃない? この大会の特殊ルールを考えれば、開始と同時に遠距離攻撃が一番確実だからね~」


 持っていた剣にSPを纏わせておいて、開始の宣言で振り抜いて斬撃を飛ばす。

 馬に当てることなく、騎士に直撃させ、相手に何もさせることなく一撃。


 そして、一瞬こちらに向かって放たれた殺気。


「可愛げないよね~」

「あいつに可愛げがあったら気持ち悪くないかぁ?」

「それもそうだね……こっちに気付いて手を上げてるよ。カイアがいないことバレてるけど、大丈夫かな~」

「やっぱり、兄上、何か企んでる?」


 先ほどの兄上の不自然な退席。

 僕に向かって殺気を飛ばしたツルギ。


 つまるところ、クレインに何かあるのだろう。

 何かあったら許さないということをわざわざ知らせてきた。


「彼女の勝利を確認して、ここからいなくなるってことはそれなりに計画があるんだろうね」

「はぁ……言ってくれればいいのに。今、気付いてもここからどう動くべきか」

「巻き込まれるなぁ……何とかなるんだろうが」


 クレインがその身を狙われる可能性は本人も僕も把握しているけど。

 おそらく、兄上はそれ以上に知っている。そして、その対応のために席を外した。


「まあ、ラズが動くと目立つでしょ。カイアの方が、ちょっと気分が悪くなったって言うだけで目立たないんじゃない?」

「いや、治ってるだろ、あのお人は」

「それはそれだよ。だって、人って見たいものしか見ないから。ラズがあの子を守ることは想定しても、カイアが動くって考えないだろうね」


 スペルが見えないように僕の服を掴んで、動けないようにしている。

 席を立つなと言うことだろう。


「大人しくしてなよ。心配なのはわかるけどね」

「……知ってたの?」

「う~ん。まあ、カイアが立ち上がったときね。なんかあるんだろうなって。状況から、あの子のためなんだろうって推測して、ツルギの態度で確信したってとこかな」


 クレインもツルギも1回戦は勝利した。

 明日の二回戦に進む。その前に、クレインが厄介事に巻き込まれるのは確定か。


 しかも、シュトルツがいないからか、暇なスペルが宿までついてきた。

 実力はあるので、こちらは助かるけれど。


 あとで、カイ兄上からも話を聞くようにしないとだ。




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 おっクレインに負けたことに逆恨みして報復か?
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