6-31.武闘大会(1)
王城に呼び出されて、薬を納品した翌々日。
「本当に、ギリギリというか……今日到着だったら間に合ってないよね」
王都にある大きなコロシアム。
ここで武闘大会が開かれるため、早朝に集合させられ、対戦相手を決めるための籤を引いたのが一時間くらい前。
戴冠式の前夜祭に位置付けられている武闘大会。
開催宣言が始まっているのか、先程から会場側から大きな声が漏れ聞こえている。
何を言っているかまでは聞き取れない。
コロシアム内の選手の待機場所は、だいたい30人くらいいる。
実際の対戦表はない。
今、大至急、作っているのだと思われる。
ただ、この後すぐに1回戦が始まるらしい。
対戦相手の確認は全くできず、呼ばれたら試合会場に向かう。
総勢120人。
貴族の推薦を受けた人達による、トーナメント方式の武闘大会。
王の御前で行われる。7回勝てば優勝。
今日は1回戦の56試合が行われる。
明日は、二回戦と三回戦。明後日に四回戦と五回戦があり、明々後日が準決勝と決勝。
結構な過密スケジュールだけど、そもそも大会終了の翌日には戴冠式だからね。
他国からの国賓とかも来ているのに、こんなことをしていていいのかとは思う。
前王からサフィール王に実権はすでに移っている。対外アピールの場でもあるから、大会は示威行為なのかもしれないけど。
これは、貴族同士の沽券も関わってくるのは理解するけど。
「1試合、30分くらいで終わらせるのかな」
「いや、概ね正しいが、1回戦と2回戦は簡易結界が張られ、コロシアム内を4つに分けた状態で、同時に4試合が行われるそうだ」
「シュトルツ様? えっと、こっちの会場にいるってことは、当たる可能性ありですか?」
「いや、控えの場が分かれているのはエントリー順だから、あまり関係がないな。籤の結果は反映されるのは明日からだ」
どうやら、私もシュトルツ様もエントリーが遅かったらしい。
私は急に変わったので当然だけど、シュトルツ様は何があったのか。
「たいしたことではないが……派閥違いではあるからな。遠慮するつもりだった」
「え? あ、そういえばそうでしたっけ? ラズ様達と仲良かったので、てっきり……」
「派閥という点では、俺も兄君も家を離れていたため、今更ではあるのだがな。陛下から直々に出るようにと言われてはな」
側に人がいないことを確認して、小さな声で教えてくれた。
なるほど。実力者への声かけもしているらしい。宰相のせいで私も出場が決まったし、ある程度は出来レースなのかもしれない。
救国の英雄的な立場でもあるクヴェレ家は大会に出た方が盛り上がるしね。
「私はもうすぐ呼ばれるみたいですけど、シュトルツ様と当たらないならよかったです」
「元より、俺はシードを貰っているので、1回戦で当たることはないんだが。伝え忘れていたか?」
「……聞いてないですね」
シード権が8名分あったらしい。
シュトルツ様は、今日は試合無し。
ただ、相手の試合を見ることができると戦闘で有利となってしまうため、選手はここで待機らしい。
「戦い方を見たところで、実力差があるとどうにもならないような……」
「表向きにはこの大会での賭け事が禁止されている。だが、掻い潜って賭けをする者が必ずいる。公平性を保つため、選手は基本的には外部との接触を断つことになっている」
う~ん。八百長することの無いようにってことかな。
王の御前試合で、八百長するとまずいのはわかるけど。
対策となっているのかというと、微妙だよね。
そういえば、負けるまでは宿舎に泊まるって言っていた。
「クレイン・メディシーア。出番だ」
「あ、はい! じゃあ、シュトルツ様、失礼しますね」
「ああ、健闘を祈る」
門が開かれ、選手が入場する。
大きなサッカースタジアムのような広さだった。
楕円形ではなく、円形だけど、直径100メートルくらいはありそう。
だけど、目に見える形で直線二つ引いて4つに区切られている。
一つの区域が90度角の扇状に区切られていて、私と対戦相手以外にもちょうど入場しているところだった。
「う~ん。魔導士が相手……というか、う~ん」
推薦者が気になるところだけど、異邦人かな。
支援を受けて参加するなら、武器や防具も何とかしてもらえばいいのに。
量産型の杖の先には赤い魔石が付いている。
そもそも、この世界って杖が無くても魔法使えるけど……これぞ魔導士みたいな恰好をしているから、違和感がある。
他で戦ってる6人は、貴族の紋章を背負っているしね。
見る人が見れば、身バレする。
「まあ、私が気にすることじゃないか」
相手は多分、レベルは30過ぎたくらいかな。
魔導士だし、実力的に、負ける要素は無さそう。
ミスリルの短剣を構える。
一応、腰に小さな丸盾を下げているけど、今回は使わないでいい。
魔法戦になるなら、剣も使わない可能性もあるけど、一応、周りの対戦では武器を構えているので、合わせておく。
「「「「試合、開始」」」」
4か所同時に試合が開始される。
結界が張られているけど、透明で少しぼやけるけど向こう側の試合も見える。
他の人達の様子が見えるけど……まあ、戦いの最中に様子を見ることも難しいか。
開始という宣言と同時に対戦相手が詠唱を始めた。
こうなると、暗黙のルール上はこちらからは攻撃できない。
火の魔法が相手の頭上で大きな塊ができていく。魔力の広がりを感じる。
杖に付いている魔石も赤いから、火魔法が得意なのだろうけど……なんだろう?
「膨張してるだけで、収縮してない?」
魔導士専門の人は知り合いに少ない。よって、基準は自分かクロウか、ラズ様になるのだけど。
魔力が膨張するだけで、固まらずに漏れてる感じがする。
「使い慣れてない高火力の魔法……かな?」
一応、火魔法は中級魔法は使えるのだけど、使い勝手がいいのは初級魔法なんだよね。
他の属性もだけど……上級魔法って扱いが難しい。
目の前の相手もそうだけど、しっかりと魔力を収縮できないと威力が下がってしまう。MPを大量消費して、中級とたいして変わらない威力って、普通にあり得る。
結果、簡単な魔法に魔力を溜めた方が扱いやすい。
「……火球〈ファイアーボール〉」
初級の火魔法を唱え、4つの手のひらサイズの火球に魔力を溜めていく。
少しずつ火球が大きく白くなっていく。
私の方はハンドボールくらいの大きさになるが――目の前の相手は、1メートルはありそうな大きな火の球を作り出している。
「う~ん、あれ、詠唱を聞き取れないけど……詠唱が長すぎないかな」
この大会のルール、やっぱり普通じゃないなと実感する。
こんなに長い詠唱をしてたら、私でも隙だらけの相手を制圧できる。
ちらっと周囲を確認すれば、すでに相手の奥の試合は剣と大斧で斬り合った結果、大斧の戦士が勝っている。
「早く、終わらないかな……」
こちらも魔力を溜めて、火球の用意はしているけど……相手の頭上にある火炎はすでに2メートルの大きさに達している。
ついでに、マグマのようにふつふつと燃え滾っている。こっちも熱さでは負けていないけれど。
「熱い……」
近くにいるだけで汗をかいてしまう。
開始3分は経過していると思うのだけど、攻撃を仕掛ける訳にもいかないのが辛い。
「いけっ、地獄の火炎〈インフェルノ〉!」
「あ、やっとか……」
漸く、詠唱が終わったらしい。こちらに向かってマグマのような強大な火炎が放たれた。
ただ、遅い……普通に避けられる。
まあ、そのまま地面に当ててしまうと会場の整備に時間かかりそうなので、対抗させてもらうけど。
馬を使っていた騎士風の人も勝ち上がった。
そちらの会場は土魔法で、でこぼこを処理したり整備している様子が見える。
円滑に次の試合を進めるためには、あの火炎攻撃はさくっと処理するに限る。
「いけっ」
大きな火炎の中心に向かって、超スピードの火球を高速回転させながら撃ち込むと、相手の火炎が凹む。こちらに向かっていた軌道も止まった。
そこに続けるように二球目、三球を飛ばすとあっさりと中心を突き破る。
「予想通り、ただの大きい的かな」
魔力をしっかりと収縮できていない。
豪速球のハンドボールを投げただけで、あっさりと突き破れた。
「じゃあ、止めで」
火炎の中心にぽっかり空いた穴。そこに最後の4球目を通して、ただ、回転させず火の温度も下げて、死なないように相手にぶつける。
「へぶっ……」
しっかりと相手に直撃して倒れた。
反撃が来ると思っていなかったらしく、クリーンヒット。
相手の火炎は私に突き破られた上に、術者が倒れたせいで魔力を留められない。
そのまま、威力も中途半端に、互いの真ん中あたりで爆発して熱風が巻き起こる程度だった。
「……勝者、クレイン・メディシーア」
審判により、勝利宣言となった。
他の3試合に比べ、なんだかなぁという結果だろう。
大きな魔法に心躍らせていた観客も、あっさりと術者がやられて魔法が不発。
これほど見ごたえのない試合もないだろう。
先に試合を終えていた会場では次の選手が入場して、試合が始まりそうだし、他の試合でもちょうど勝負が決まったため、歓声があがった。
1戦目、しょっぱい試合になってしまったけど、取り合えず、勝てた。
籤運に恵まれたので楽な戦いだった。次もこうだといいんだけどね。




