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異世界に行ったので手に職を持って生き延びます【コミックス一巻 4月28日発売予定】  作者: 白露 鶺鴒
第六章

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6-25.特訓


 宰相との話し合いが終わり、自由になり、ラズ様の屋敷から家へと戻った翌日。

 思わぬ来客があった。


「クレイン嬢、久しぶりだな」

「あ、お久しぶりです……シュトルツ様?」


 クヴェレ家の双子の弟、シュトルツ様だった。

 ラーナちゃんから来客と聞いて向かったら、当然のように門の前にいたので驚いた。


「えっと、どうされたんですか?」

「ラズから君の講師をしてほしいと頼まれたんだが、聞いていないのか?」


 いや、だって、昨日の今日で、急に来るとか聞いてない。

 それに講師って、そこまで大事に、しかも即日でシュトルツ様が来るとも考えていなかった。


「すみません、連絡の不備があったようで」

「いや、ちょうどキュアノエイデスにいたのでな。ラズから連絡をもらい、急いで駆け付けさせてもらった。数日くらいなら帰りが遅れても兄君も怒らないだろうから寄らせてもらった」


 爽やかに笑うシュトルツ様とその横にいる大きな白馬を連れている。

 たしかに、騎士としての戦い方を習うのはいいのかも。


 冒険者として強いことは知っているし、貴族なので騎士としての振る舞いも知っているだろう。



 中へ案内していると姿を見たルナさんは怯えていた。

 クヴェレ家でお世話になっていたけど、ルナさんは恐怖として残っているらしい。


「クレインさん、捨てないで~」


 がしっと腕に捕まって懇願するルナさんは涙目だった。

 よほど、クヴェレで過ごしたことはトラウマなのだろうか。まあ、地下牢で捕まってたしね。


「捨てないよ。ルナさんにはすごく感謝してるから。作物育てる傍ら、薬草も面倒見てもらって、すごく助かってる。ありがとう」

「それは別にいいの。昔から手伝わされてたし、大変ではあるけど、忙しい時はみんな手伝ってくれるし、危険な事も全然ないから」


 いや、ドラゴンに会いに行ってもらったりと、結構、危険なことも頼んでいるのだけど。とりあえず、落ち着かせて、今日明日はこっちにいることを説明する。


 そのついでに、王都に行くことになったことも伝えると心配された。一緒に来るかも聞いたけど、全力で断られて、離れていってしまった。



「彼女は随分と落ち着いたようだな」

「え? あれで?」


 シュトルツ様がぼそっと囁いたけど、結構、そそっかしいし、ばたばたと手を動かしていたりと落ち着いた要素は皆無だったと思うのだけど。


「家にいた時は、焦りと不安で会話も碌にできなかった。こちらも余裕はなかったしな」

「それは……まあ、ここでの暮らしで、衣食住には困らせないようにしてるので。それに、余裕に見えてましたよ?」

「父と弟から実権を取り戻す前だからな、彼女達を隠しておくのもぎりぎりではあった」


 あの時はシュトルツ様達も大変だった、のか?

 彼女は自分の未来を変えようと奮闘していたけど、地下牢に閉じ込めていたし、すぐに私に押し付けたイメージしかない。


「安心した。兄君にもつたえておこう」

「スペル様にも今度ご挨拶に行きますね」

「ああ、きっと喜ぶだろう」


 シュトルツ様に広い場所でと指定されたため、奥の広場のような場所に向かう。


 空き地だけど、放し飼いのペット達の日向ぼっこする憩いの場でもある。

 ちょっと模擬試合をするからと退いてもらったが、その場でこちらの様子を見ているシマオウやキャロ達。散る気はないらしい。


 ここを使うからと言っても、離れてくれない。

 邪魔をしないように頼んで、シュトルツ様に向き直る。


「では、始めるか」

「あの……ラズ様の頼みだからって、本当に大丈夫ですか? 忙しい時期ですよね?」

「母の命を救った恩人であり、クヴェレに膨大な富と名誉を与えた良き友だ。この程度、なんでもない」


 富? 一瞬わからなかったが、「春先の納品で」と言われて納得した。

 ヒュドールオピスの肝で作った錬金蜂蜜、かなり稼いだのか。


 材料の買い取りも、出来上がった素材の受け渡しも、全部王弟殿下に任せてしまったけど。しっかりとクヴェレ家にも還元されているらしい。


「それに、聞きたいこともあったのでな」


 聞きたいこと? 改まって、なんだろう?


「えっと? なんでしょう?」

「今は止めておこう。さっそくだが、武闘大会では、君は君らしく戦った方がいい。騎士として戦う必要はない」

「え? じゃあ、何をしに?」


 ぽかんと口を開けて、間抜け面をしてしまった。

 それなら、何でここに来たのだろうか?


「騎士の戦い方を知りたいのだろう?」

「あ、はい」

「それは知っておいた方がいい」


 シュトルツ様が言うには、戦い方を知った上で、それに合わせて戦う必要はないと言いたかったらしい。


「頼まれた通り、俺が騎士としての戦い方を見せる。そこから、自分はどう戦うかを考えればいい。君なら、自分で理解するはずだ」

「は、はい」

「まず、武闘大会について説明しよう。御前試合、全ての試合を王が観戦する」

「決勝だけとかではなく?」

「最初から、最後までだ。出場資格は貴族の推薦。よって、家門の名をかけた貴族の見栄のための大会でもある」


 うん。貴族の推薦……私の場合、ラズ様の推薦ではあるけど、基本的には王族の後見であるから、やっかみも当然あるのだろう。


「元々は、騎士のための大会だった。だが、そこで活躍することで、王の覚えが目出度くなり、貴族達からも注目される。王宮に採用されることもあるなど、道が開かれるため、名のある冒険者なども参加するようになった。同じく、研究畑ではない、実践向けの魔導士なども参加し、かなり戦闘の幅は広がった。そのため、割と何でもありの大会だと考えていい」

「魔法もOKで、馬などもOKでしたよね」

「そうだ。しかし、騎士の戦いだったからこそ、厄介な悪習がいくつか残っている。そう言う点で、しっかりと学んでおいた方がいいだろう」


 なるほど?

 元々は騎士のみだった。でも、悪習ってなんだ?


「悪習、ですか?」

「戦いにおいて、騎士道に則って戦う、これがルールだ。君はこう言われて、どんなルールか、わかるか?」

「はあ? えっと、ちょっと、わからないです」

「だろうな。騎士道は、武力だけでなく高い道徳心を持つ。勇気や名誉、忠誠心、礼儀、弱者の保護、寛大さ。実際にはそんな騎士などいないが、とにかく高潔であることが求められる。これに当てはめると、詠唱を始めた無防備な魔導士に横から攻撃してはいけない。こんなルールになる」

「え? なんで?」


 意味がわからない。

 詠唱を必要とするってことは、かなり高難度の威力が高い魔法を使うってことになる。詠唱が完成する前に止めないと、被害を受けることになるのに?


 なんでそうなる?


「王の御前で、いいところも見せられずに一撃でやられる魔導士。そんなものを観客が見たいと思うか?」

「あ、エンタメ的にはないですね」

「魔導士の立ち位置は攻撃をすれば吹っ飛ぶことが明白な弱者。よって、魔導士が詠唱をしたらその攻撃を避けるなり、耐えるなりをしないと自分は攻撃してはならない。攻撃をすれば、誇り高き騎士になれぬ卑怯者のそしりを受ける」

「……聞いておいてよかったです」


 そんな面倒な裏ルール、いらないだろうに……実力とは別のところで判断する基準があるとか。

 なんでそんなものが……いや、表向きに排除できない実力者を内部で処理しやすくできるのか。だって、ルールが曖昧だよね、騎士道って。


 いくらでも、あいつは騎士ではないと排除できる。


「あれ? ……それって、冒険者や異邦人を振るい落とすため?」

「その通りだ。騎士……いや、貴族の習いを知らぬ者をはじき、王家が必要とする存在を見極める。おそらく、そういう目的もあって、ルールがあるのだろう。今に始まった話ではなく、古くから騎士による、騎士のための大会として存在意義があることになっている」


 騎士道を理解しないなら、優勝してもお声がかからない。

 異邦人や、強いだけの冒険者は自動的に弾かれやすい構造。


 ラズ様、しっかりと説明しておいてほしい。講師頼まなかったら、私、騎士道精神に問題ありで1回戦勝てても駄目そう。


「君の場合、騎士道は理解した上で、騎士として振舞わない方がいい」

「なぜですか?」

「実力を出し切れなくなる。共闘したときの様子を見る限り、君は合理的で実戦向きだ。隙を見せずに簡単な魔法を使い牽制しながら、魔力を圧縮して止めを刺す。しっかりと己の戦いを見せる方が、今後現れる羽虫を減らせるはずだ」


 羽虫……私を狙う人を減らせるであって、いなくなるわけじゃないのか。


「暗黙のルールは教えていただけるんですよね」

「もちろんだ。そのためにここに来たのだから。魔導士との戦いは教えるまでもないだろう」

「えっと……相手が魔法を撃つまで待機?」

「魔導士同士の戦いでは、大技を撃ち合うのが観客の人気がある。だが、付き合って魔力を無駄に消費することも無い」

「最初だけ、同タイミングで撃って、その後は連続攻撃で撃てば終わりってことですね」


 再び、詠唱を始める前に倒せばいいという。それなら、簡単だ。

 高難度の魔法は使わないけど、魔法を使いながら剣を振るうとかいつものことだし、負けはしないだろう。


「君が気を付けるべきは騎士との戦いだろうな」

「騎士相手でも、暗黙のルールがあるんですか?」

「ある。基本的には、相手を殺すことは失格にあたる」

「はい。それは聞いてます」


 武闘大会であって、人を殺すためのものではない。それは知ってる。

 危険は少ない。ただ、試合中だけでなく、大会に勝ちあがってる間は回復魔法も薬も禁止だったはず。


「だが、騎士だけは、ランスチャージ(馬上突撃)により相手が死んだ場合は許される」

「え? なんで?」


 さっきから、もう、何で? という疑問符しか浮かばない。

 おかしいよね、実力に関係ないところで決められるルール。死んでもいいって、どうなの?


「騎士にとって、神聖な攻撃方法だからだ。それだけは不慮の事故が許される」

「えっと……どういう攻撃でしょうか?」

「騎士としての正装として、重鎧を身に付けることになる。全身だ。ただ、顔を売るために兜を付ける者は少ない」

「フルプレートってことですね?」


 重いし、結構可動域も限られたりするから、私は苦手だけど。ナーガ君とかはしっかり鎧なんだよね。


「鎧を身に付け、馬に乗って一気に駆けながら、槍を敵に突き刺す。……そうだな、装備を含め、おそらく君の2倍以上の体重をもつものが、10倍以上の重量の馬をつかい、槍を固定して、全速力で君を突き刺したとする」

「いや、死にますよね? 槍の先端が潰してあっても、その重さと速さが乗った一撃なんて、普通に耐えられるはずがないでしょう!?」

「そういうことだ。だから、この場合は当たれば大抵死ぬ。特に、君のような歩兵の場合は厳しい。上からの打ち下ろしになるからな」


 まあ、お互いに馬に乗ってれば、正面から攻撃になるからましかもしれないけど……それでも、私がやれば体重差で不利な気がする。やらないけど。


 それにしても……魔導士の詠唱を阻止しないのと同じで、騎士の攻撃も途中で中断は許さないのか。

 当たったら死ぬのも許すって、騎士を失格にさせないためにしか見えない。


「なお、この攻撃は一撃必殺ではあるが連続攻撃でもある。突進を躱しても、当たるまで、馬を旋回させて距離を取っては突撃が続く」

「えっと?」

「一度目の突撃中に魔法での阻止は騎士道に反するためできないが、それ以降は旋回中も突撃中も攻撃可能ではある……突撃中はあまり良しとされないがな」

「当たれば死ぬのに?」

「そうだ。盾で防御して、突撃を止めることも無粋と言われるため推奨しない。避けるのが基本だ」


 攻撃を盾で止めて、そこから反撃も駄目なの?

 騎乗突撃してきたら、選択肢は避けるだけ? 

 あれ、もしかしてだけど、レオニスさんが戦った場合、盾で突撃止めたらアウトだから? いや、でも、それだけではないよね、多分。


「……なぜ、そんなに優遇を?」

「騎士のための大会だと言ったはずだ。あとは単純に、騎士の戦い方としては強い。一人ではそう思わないだろうが、一糸乱れぬ突撃で蹂躙するというのは、戦争において一定の効果がある。過去の栄光ではなく、今なお、実戦で使われる戦術でもある。それができるものだと示すことも一つの意味があるんだ」

「なるほど?」


 騎士として採用して、その技できませんでは困るということか。

 練習するまでもなく、前提としてできないと騎士じゃないってことかな。


「観客はともかく、貴族、騎士にとって、誇りであり、王家への真っすぐな忠誠を象徴する攻撃……重い意味をもっている。自分は王家のために戦う技術があるというアピールでもある。馬を直接攻撃も禁止だ」


 理解できないけど、わかった。

 とにかく、そういうものなのだろう。


 騎士らしくなくても、その点を理解して戦うかどうか。

 それが……他に出場するだろう異邦人との違いにもなるかな。


「……ちなみに聞きますが、馬を走りにくくするように地面をぬかるみに変えたらダメですかね?」

「長期戦なら、有効だろう。戦いの中での創意工夫として馬の脚を止めるならな」

「なるほど……」


 避けながら、地形を変えていくのは戦術としていいのか。

 卑怯な戦い方は駄目というのがすごく面倒だ。


「では、実際に戦ってみるか」

「えっと……シュトルツ様は、もしかしなくても参加予定ですよね? 騎士として戦うんですか?」

「兄君のために、家の名を懸けて出場する。合理的な戦いではなくとも、名誉のためには必要なことだ」


 一時期、冒険者として名を馳せていたとしても、今大会では騎士として振舞うらしい。

 う~ん。制限もあるだろうけど、絶対に強いよね。事前に練習として戦えるのはすごく助かる。



 シュトルツ様はさっと、連れていた白馬に跨り、私の横に近寄ってくれた。


 思ったよりも、馬の背に乗るシュトルツ様の位置は高い。

 そもそもが、馬の背の高さが私よりもちょっと高いくらいの位置。


 剣での攻撃は届かない訳ではないけど、かなり制限されそう。


「一度、馬上突撃を見せておこう。あの木を攻撃してみせよう」


 穂先がない、訓練用の槍を脇に構える。

 馬の腹を軽く蹴ると、少し旋回して木に向かって突進する。


 ドシン


 大きな音が響いた。木の一部が大きくえぐれている。

 そして、そのまま馬を旋回させて反対側から2度目の攻撃が逆側から入った。


 やっぱり、この攻撃を受けたら死ぬ。連続して続くという意味も理解した。


 実戦で教えてくれるのはありがたいけど……勝ち筋が見えない。

 騎士との戦い方、これは課題だ。しっかりと対策を考えよう。




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― 新着の感想 ―
騎士の突撃と魔法使いの詠唱が同時に始まったらどうなるんだろうか。どっち優先?
ランスチャージを正面から受け止められる人財はどう考えても異邦人過ぎるしぼくたちのごせんぞがかんがえたさいきょうのせんぽうが正攻法で破られるのは見たくないので禁止!って事かい?
マンガみたいに槍の上に乗って顔面キックだな
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